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シュトラと遊ぼう

 それは、あるうららかな午後のこと、

 僕と魔王様と妖精さん達が、お昼ご飯にと空カツオの缶詰を使ったおろしスパを食べた少し後、他にお客様もいなかったということで、食休みにと定番のパズルゲームを皆で楽しんでいると、工房にいるソニアから『例のものが完成した』という報告が届いて、僕はいったん工房へ。

 そして、小一時間ほど、ソニアと話した後に万屋に戻ってくると、そこにはマリィさんが来店していて、僕はいつものように「いらっしゃいませ」と挨拶をしながらも、魔王様になんの変哲もない〈メモリーカード〉を差し出して、


「魔王様完成しましたよ」


 言うと、いつものように頭の上にシュトラを乗せた魔王様が嬉しそうに駆け寄ってきて、


「……ありがと」


 ぽそりと感謝の言葉を呟き、とある魔法式(プログラム)が記録された〈メモリーカード〉を受け取った。


 すると、それを見ていたマリィさんが、


「虎助、マオが受け取ったその〈メモリーカード〉には何が入っていますの?」


 ものが白紙の魔導書代わりに使える〈メモリーカード〉なだけに、その中身が気になったのだろう。魔王様の手元を覗き込みながら訊ねてくるマリィさんに、僕は「ええとですね」と、曖昧な言葉を挟みながらも魔王様に視線を送り、説明してもいいものか確認した上で、その〈メモリーカード〉に込められている魔法式(プログラム)の説明を始める。


「実は、少し前のことになるんですけど、魔王様からシュトラとも一緒に遊べるようなゲームがないかと相談されまして、いろいろ調べてみたんですけど、シュトラがちゃんと遊べるよようなゲームが見当たらなかったので、ウチのオーナーに前に作った音楽ゲームを改造してもらったんですよ」


 最近では、体を動かすゲームもだいぶ増えてきたとはいえ、それでも、子猫ならぬ子虎のシュトラがプレイできるようなゲームは見つからなかった。

 そのことを、日々開発や研究をしながらもインターネットサーフィンを欠かさないソニアに相談したところ、それなら以前作った魔法式を利用した音楽ゲームをそれらしく改造すればいいんじゃないかという提案をされて、実際に作ってもらったのだ。


「それは興味がありますわね」


「そう言えばマリィさんのところのメイドさんも、あのゲームをやっていたんでしたっけ?」


 僕はマリィさんの声に思い出すようにそう返すと、マリィさんはニッコリと頷いて、


「ええ、私もそうですが、特にトワやスノーリズがよく遊んでいますわよ」


「へぇ、トワさんにスノーリズさんですか、意外ですね」


 どちらかと言うとこの手のゲームにハマるのは、ルクスちゃんやフォルカスちゃんといった年少メイドだと思っていたんだけど、なにか理由でもあるのかな。

 聞いてみると。


「あれは剣など近接格闘戦でのステップの強化に繋がるそうですから。

 しかし、決められたステップを踏まなければならないというのがルクスやフォルカスには向いていないみたいでして」


 成程、そういうことなら自由奔放なルクスちゃんと指示通り動くゲームは相性が悪いのかもしれないな。

 逆に大人しくルールをきちんと守るフォルカスちゃんには向いているような気もするけど、ルクスちゃんに気を使ってるのかな?


「でも、だったら逆にこのゲームは向いているのかもしれませんね」


「どういうことですの?」


「えとですね。このゲームは弾幕シューティングみたいな――って言ってもマリィさんにはわかりませんよね」


 普段からゲームをしている魔王様なら、弾幕系のゲームと一言いえば、おおよそのゲーム内容は伝わるだろうが、そこまでゲームを詳しくないマリィさんにはそれは難しい。

 そうなると――、

 僕は少し考えて、


「そういえばマリィさんは前にスパイ映画とか見てましたよね」


「はい。特にハリウッドですか、派手なアクションが見られる映画は参考になりますわね」


 そう、爆発シーンが多く、近接戦闘の参考資料になりそうなアクションシーンが多いハリウッド映画はマリィさんの感性にピッタリフィットしたみたいなのだ。


「この間、見ていたスパイ映画に赤いレーザー光線を避けて移動するってシーンがありましたよね」


「ええ」


「このゲームはそれを疑似体験できるようなゲームなんです」


「まあ、それは面白そうなゲームですわね。(わたくし)も購入することができますの」


「ええ、でも、これはお遊びでつくったようなものですから、お金とかはいりませんよ。

 いいですよね。魔王様」


「……ん」


 これは魔王様からの依頼を受けて、ソニアがノリノリで作った趣味のゲームである。

 著作権的にも怪しいものもあったりして、これで商売しようなんて気はさらさらなく、単に欲しい知人がいれば譲り渡す、インターネットなどで拾えるフリーゲームのようなものだ。


「でも、その前にプレイしてみましょうか。リクエストによってはコピーする数も変わってきますので」


「そうですわね」


「……ん」


 ということで、僕達は新たに開発された魔法ゲームアプリをプレイしてみるべく、工房と世界樹農園に挟まれる形で存在するだだっ広い荒野に移動することに。

 なぜわざわざこんな遠くまで移動してきたのかというと、このゲームがそれなりに広い場所を使ってプレイをすることが推奨されるゲームで、さっきも触れた通り、万屋として売り出すつもりがないものだからだ。

 そして、現場に到着、僕がそのアプリを起動させながらも、


「それでどうしましょう。一人一人でもできますが、せっかくなので三人一緒にプレイしますか?」


 僕が訊ねると、魔王様が元春とは比べ物にならないくらいに可愛らしく小首を傾げて。


「……みんなで一緒にできるの?」


「シュトラと一緒に遊びたいとのリクエストでしたので」


 音楽ゲームと言えば個人プレイが殆どで、一緒にプレイするというのは対戦になることが殆どの場合なのだが、今回は魔王様からシュトラと一緒に遊べるゲームとのリクエストなので、複数人でも楽しめるような作りになっている。広い場所に移動したのにはそれに対応するという理由もあったのだ。


「……だったら皆でやりたい」


「それは、ここにいるマリィさんとシュトラ、三人でってことですか?」


「……アーサーとファフナーも」


 と、マリィさんのスクナも含めて、全員でプレイしたいという魔王様の声を受け、僕がマリィさんに視線を向けると。


「アーサー、ファフナー。頑張りますの」


 魔王様のリクエストに応じ、ご自分のスクナを召喚したマリィさんは、ファフナーに騎乗したアーサーと視線を合わせて、その豊満な胸の前で両拳を握り込む。


「にゃう」


 そして、シュトラが虎らしからぬ鳴き声で気合を入れながらも魔王様の頭の上から飛び降りて、


 うん。みんなやる気満々みたいだね。

 だったらと、僕の「いきますよ」という声に合わせて、二人と一匹に周囲に巨大で立体的な魔法窓(ウィンドウ)を呼び出してみせる。

 これはプレイヤーに擬似的な攻撃を見せるための3Dスクリーン。


「最初ですから、とりあえず一番簡単な曲を試してみましょうか」


 続けて僕が三人に声をかけながら手元の魔法窓(ウィンドウ)を操作、展開した3Dスクリーンにゲームを投影させる。

 すると、三秒前から始まるカウントダウンが表示され、リアル世代じゃなくても大体の人が知っている某世紀末アニメのクリスタルな名曲が流れ出す。


 印象的な前奏に合わせるように現れるのは光のリング

 それが、二人と一匹を取り囲み、本来の歌い手ではなくアクアによるシャウトに乗せて小さくなって――、

 『GAME OVER』。


「ええと?」


 戸惑うような声がマリィさんからこぼれる。

 因みにゲームオーバーの原因はマリィさんではなくシュトラ。

 どうしてそんなことになってしまったというと、迫るリングにシュトラが飛びかかってしまったのが原因だ。

 シュトラは黒猫――もとい、黒虎の姿をしたスクナである。中身が原始精霊だとしても、そういう姿をとっている以上、その声質も元となる生物に引っ張られているのかもしれない。

 そう、興味を引くものが目の前に飛び込んできたら一も二もなく飛びかかる。それはネコ科動物の宿命なのかもしれない。


「これは――、失敗でしたかね」


 あんまりにもあんまりなこの結果に、僕は『攻撃を迎撃できるようにするべきだったか』と苦笑するように呟くのだが、魔王様は諦めない。


「……大丈夫。シュトラは賢い子。

 ちゃんと教えてあげればおぼえるから」


 魔王様がそう言うならと僕は、どこか誇らしげに見えるシュトラの前にしゃがみ込み、ゲームの趣旨を懇切丁寧に説明する魔王様の小さな後ろ姿を見ながらもゲームをリセット。

 すると、どうだろうシュトラは愕然としたような反応を見せて、徐々に落ち込むようにうなだれてしまい。


 しかし、あらかたの説明が終わったのだろう。

 魔王様からの視線を受けて、改めてゲームをスタートすると。


 先ほどと同じように伴奏に合わせて現れる光のリング。

 だが、今度は全員がそれを回避。

 シュトラにもきちんとゲームの趣旨が伝わったらしい。

 しかし、ここで安心してはいけない。ゲームはまだ始まったばかりなのだ。

 曲の歌詞に合わせて頭上からレーザーの雨が降り注ぐ。

 だがそこは魔王様、ゲーマーとしての経験値というべきか、すぐに頭上に浮かぶ魔法陣のような文様に気付き、「上」と一言、マリィさんとシュトラの視線を誘導して、全員がレーザーの雨を交わすことに貢献する。

 そして、再びの光のリング。

 二度目のシャウトでそれが収縮、再びの頭上からの攻撃の頭上からの攻撃は同じパターンということで、なんなく二度の攻撃をかわしたところで曲の流れが変わる。

 不規則に跳ねる幾つもの光の玉が現れ、三人と二匹に襲いかかる。

 跳ね回る光の玉に思わず体が反応しそうになるシュトラ。

 だが、二度と同じ過ちはしないと本能を抑えて立ち回り、跳ね回る光の玉をやり過ごすと再びのシャウト。

 すると、今度は頭上からのレーザー光線はなく、地面から爆発するように広がる光の半球が現れるが、これに関しても事前に魔法陣が浮かび上がる仕様なので避けるのは簡単だ。

 そして、不規則に拡大する光の半球を全て躱した後に現れたのは人型の敵。

 体のサイズはマリィさんとほぼ同じ、銀色のマネキン人形のような敵が曲に合わせてゆっくりと歩いてくる。

 だが、曲調が変わるやいなや、いきなり移動スピードをトップギアに変えてきて突撃。

 けれど、その速度は狼や鳥系の魔獣の突進よりも遅く、近接戦闘にそれほど慣れていない魔王様とマリィさんでもらくらく躱せる動きである。

 実際に襲われたマリィさんは軽く半歩体を引くだけで銀色のマネキンの攻撃を回避してみせる。

 だが、ホッとしてもいられない。

 攻撃を躱された銀色のマネキンが四体に分裂して三人と二匹に襲いかかってくるのだ。

 演舞のような動きで三人と二匹に攻撃を仕掛けてくる小さなマネキン。

 しかし、そのリーチの短さから攻撃の脅威度は低く、体の小さなシュトラとアーサー&ファフナーはともかく、魔王様とマリィさんにはほぼ攻撃が届かない。

 そうして暫く、小さなマネキンの攻撃を躱していると、ここで曲が佳境に入る。

 印象的な演奏に合わせて一つにまとまる銀色のマネキン人形。

 しかし、そのサイズは、当初マリィさんと同じだった時の数倍に膨張し、雰囲気のある重厚な音に合わせてどんどん大きく、そして、まさに巨人と呼べるサイズにまで大きくなり。

 叩き降ろされるスレッジハンマー。

 だが、そのモーションはとても隙だらけで、魔王様達はなんなくそれを躱して――『GAME CLEAR』。

 魔王様達は、多少息が弾んでいるものの、まだまだ余裕はあるみたいだ。


「どうでした?」


「……面白かった」


「ですが、少々物足りませんわね」


「……ん、もっと難しくてもいい」


 僕の問い掛けに難易度が低いと言う二人。

 マリィさんはともかく、魔王様なら多分そう言うだろうと思っていたから。


「一応、もっと難しいステージも作ってありますけど、そちらは本当に難しいですよ」


 そもそもこのゲームそのものが、とある同人プロジェクトをモデルに作り上げたものなのだ。

 しかし、あまりに難度が高くなってしまったことから、ゲームにしやすいアニメ音源などを引っ張ってきて、作り上げたのが今プレイしてもらった楽曲で、本来の難易度に挑戦してもらうとなると――、


「残機が増やせますけど、どうします?」


「残機といいますと、何度か光に当たっても大丈夫になるということですの」


「はい」


「どうします。マオ」


「……最初は同じで」


「そうですわね。やる前から簡単にしても意味ありませんものね」


 それはゲーマーとしての矜持だろうか。

 いや、マリィさんのやる気を考えると、ただ難しければ難しいほど燃えるのだろう。

 結局、設定はそのままで高難易度モードに突入することになった魔王様とマリィさん、そしてシュトラにアーサー&ファフナーなのだが、そのステージを言い表すならまさに弾幕、残機を増やすように進言したことを実際にしらしめるようなステージで、開始十秒と待たずにマリィさんが撃沈。この弾幕モードのプレイに伴い、一部、専用の防御魔法(ボム)の使用も解禁ということで魔王様とシュトラはそれなりに頑張ったのだが一分も持たずに被弾して、空を飛べることから意外にも粘ったアーサー&ファフナーも最終的には捕まってしまい『GAME OVER(ガメオベラ)』。


「こ、虎助、これは急に難しくなり過ぎではありませんの」


「そうですね。だからこそ、一部魔法(ボム)の解禁もあった訳ですし、残基を増やしてやれば一応クリアできるんですけどね」


 まさに弾幕ゲームの最上級。どうしてそれが避けられるのかレベルのものばかりになってしまい、テストプレイした僕もついぞノーミスクリアはできなかったのだ。


「因みに虎助はどれくらいのミスで先ほどの曲をクリアしましたの」


「ええと、さっきの曲は高難易度でも割と簡単な方なんですけど、それでも何回も何回も練習して、ようやくノーミスでクリアできるレベルでしょうか」


(わたくし)、十回あたってもいいと言われてもクリアできるとは思えませんの。

 しかも、これの更に上があるだなんて――、

 これは、(わたくし)が攻略できるようなゲームではありませんね」


 まあ、マリィさんの場合、飛んだり跳ねたりにハンデがあるからそのままでは難しいだろうけど。


「月数を装備すればなんとかなると思いますよ」


 軽気功のような力を使うことができる月数を装備した状態のマリィさんならあるいは――、

 僕がそう言うと、マリィさんがハッと気付いたように口を押さえ。


「もしやそれを見越して虎助はこのゲームを作りましたの」


 実はそこまで考えて作ったゲームじゃないんですけど。ここは月数に出番を与える為にも、あえて自信満々に言うべきだろう。


「そうですね。月数を装備すれば、かなり動きも軽くなりますから、マリィさんでもクリアは可能なのかもしれなません」


 と、僕の声を聞いてマリィさんとその従者であるアーサー&ファスナーが急いで自分の城へと走る一方、魔王様はゲーマーとして、シュトラは愛しのご主人様と遊ぶ為、闘志を燃やして再びゲームに挑んでゆくのだが、ただ、その日、実際にそのステージをクリアしたのは、魔王様を応援していた風妖精のフルフルさんだったりしたのはどんな皮肉だろうか。

◆ちょっとした補足・新魔法アプリ編


 今回登場した新魔法アプリは著名なシューティングゲームをモデルとした弾幕ゲームです。

 ソニアが同ゲームをプレイをして気に入っていたこともあり、同じようなゲームを3Dで作れないかと試行錯誤して、先に作ってあった音楽ゲームと魔法窓(ウィンドウ)を連動、三次元的な魔法窓(ウィンドウ)を形成し、その中に音に合わせた弾幕が生み出す魔法式(プログラム)を合体させたことで生まれたゲームです。(現実のゲームもこれくらい簡単に作れたらいいんですがw)

 入れる音楽や動画、その他、詳細情報によって弾幕が変化する仕様になっていて、元となったゲームの詳細をそのままぶち込んだところ、虎助ですらノーミスクリアが出来ない仕上がりになり、今回登場した愛を取り戻す的なアニメ曲とその情報を入れて、ノーマルステージを作った感じです。

 因みに、フルフルがクリアできたのは、空を自在に飛べることと、体が小さいのが有利に働いたためです。

 おそらくはアーサー&ファフナーもわりと簡単にクリアできるようになるんじゃないでしょうか。

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