対決勇者
今回で連載前に用意しておいたストックを全部使い果たしてしまいます。
ということで今回は6話投稿ということで、フライング気味に1話投稿しておきました。
続きはチェックして翌日投稿となっております。
※因みに来週からは週1・2本のペースで更新していきたいと思っております。どうぞご容赦の程をお願いします。
「俺と勝負をしてくれないか?」
事の始まりはこんな一言だった。
それは夕方になって訪れた偶のお客様への対応を済ませた後の事、一息つこうと僕が定位置である上がり框に腰を下ろそうとしていると、フレアがこんなことを言い出したのだ。
「えと、勝負ってどういうことでしょう?」
「虎助、君は強い。それが先日の一件で分かった。認めなくてはいけないようだ」
訳も分からず訊ねる僕に、自己演出過剰なフレアさんが独白するように呟いた先日の一件とは、オーナーが起こしたポルターガイスト騒動のことだろう。
個人的にあれはオーナーの誤爆のようなもので、強さとかそういうものとは全く関係無いと思うのだが、フレアさんの目にはまた違った風に映ったのだろう。
だが、そこに横槍が入る。
「単純に精神力が足りないだけなのではなくて」
情けないとばかりに言葉を割り込ませたのはマリィさんだ。
だが、彼女も例の幽霊騒動以降、オーナーの存在に恐怖を抱いているらしく、僕か魔王様、そのどちらもいない場合はゲートの付近で待っていたりもするのだが、それは言わない方が身の為だろう。
しかし、一言多い人間というのはどこにでも居るもので、
「君も人のことは言えないのではないのか、知っているぞ。君はあの日以来、一人で来店することを避けているだろう。本当に情けないのはどちらだろうな」
「お黙りなさい!」
鬼の首でも取ったかのようなフレアさんの指摘に小さな火球が撃ち込まれる。
どうやらこの三日ほど顔を見せていない間に、マリィさんはマリィさんで魔法の技術を高めていたようだ。魔法式に頼らずノータイムで、しかも威力を控えて撃てる室内戦用の魔法を覚えたみたいだ。
その動機となるのがオーナーの悪戯対策なのだとしたら、また一波乱ありそうでもあるのだが、心配の種が増えるだけなので深く考えるのはよしておこう。
ため息を吐いた僕は、炎上する頭髪を必死の形相で鎮火させようとしているフレアさんに、棚から持ち出したポーションを振りかけて、鎮火と火傷の手当の一挙両得を狙う。
と、その手際にマリィさんから賞賛の拍手が送られる一方で、すっくと立ち上がったフレアさんは服についたホコリを払うと、まるで何事もなかったかのように会話を続ける。
「それに虎助は聖剣を扱えるからな。君に勝てたその時、俺にも聖剣が使えるようになるのではと考えたのだよ」
哀れにも見えてしまう変わり身の速さに、不憫と形容できる視線が二組突き刺さるのだが、彼は怯まない。
否――気付いていないのか。
そして、またマントをひらめかせ、
「さあ、俺と剣を交えてくれないか」
「いや、だからですね。僕の場合は整備をするって目的があるから持てるんだと思う訳でしてね――」
「謙遜はいらないぞ。さあ、勝負といこうじゃないか」
「えと……人の話を聞いています?」
これぞまさに人の話を聞かない人の典型というやつか、無茶苦茶な理論で勝負を挑んでくるフレアさんに、僕がたじろぐしかないでいると、
「お待ちなさい」
しゅぱっと手刀。マリィさんが割り込んでくる。
そして、助け舟を出してくれるのかと思いきや、こんな事を言い出すのだ。
「挑む側が勝負方法を決めるなど理不尽でなくて」
「あのあの、そういうことじゃありませんよね」
「どういうことだ?」
僕のツッコミを遮るようにフレアさんが続きを促す。
「決闘方法は挑まれた側の虎助が決め、その圧倒的に不利な条件を貴方が覆す。それでこそ試練となのだと私は思いますけど貴方どう思いますの?」
確かに――顎に手を添えたフレアさんの納得を見たマリィさんは満足気に頷くと、止めてくれるんじゃなかったんですか?そう言わんばかりに眉をへの字にする僕にえっへんとその豊満な胸を突き出す。
これはもう反対意見など言い出せる雰囲気じゃないな。
当事者の意見を全く聞かずに決められた決定に、ほとぼりが覚めるまで逃げまわるのが得策か。戦術的撤退を考え始めた僕が、この間、魔王様が使っていた隠し通路を使わせて貰おうと休憩室へ目を向けるのだが、
しかし、まわりこまれてしまった。
どういう素早さをしているのか、振り返れば奴がいた。一見爽やかに見える青年が暑苦しい手で両肩を掴み、夏の盛りの蝉を思わせる声をかけてくる。
「さあ、勝負方法を教えてくれ」
そのやる気に満ち満ちた瞳に『これは逃れられない運命なんらろうなあ』覚悟を決めるけど、これだけは言っておかないという前提条件が一つあった。
「ですが、どんな勝負にしたって、実践形式だったらフレアさんに敵う訳がないと思いますよ」
勝負にはいろいろな方法がある。しかし、フレアさんの求める勝負というのは純粋なる戦闘だろう。
それ以外の方法で、例えば彼の苦手な頭を使う勝負で挑んで勝利を得たとしても、もう一戦だと言われてしまうのがオチではないか。
よって、フレアさんを満足させるとなると、最低でも実力行使が伴うものでなければならないのだろうが、そもそも自称勇者を名乗る剣士を相手に、一介の高校生でしかない僕が真っ向勝負を挑んで無事でいられるか。
答えは否だ。
そう考える僕だけど、マリィさんはこう言って反論する。
「こんな場所にあるお店を任されているくらいですから、虎助だってかなりの力は持ってる筈ですの。実際、ベヒーモの相手をする虎助の動きは素晴らしいものでしたし、かの魔獣を倒したことによって【巨獣殺し】の実績も得たのでしょう」
確かにマリィさんの言うことにも一理ある。来訪者によっては危険地帯ともなりうるこのアヴァロン=エラで働く限り、ある程度の危険回避術を持ってなければ務まらないからだ。
調べてはいないが、ベヒーモを倒した後、何らかの恩恵を受けている事は感じている。
とはいえ、それでも、魔王打倒を掲げて剣の鍛錬をするような人と真っ向勝負で張り合おうというのは、いささか力不足だと僕は思う。
それに、まかり間違って勝利を得たとして、僕の戦い方にフレアさんが満足するかといえば、ノーと言わざるを得ない。
何故そう思うかといえば、主に僕が取る戦法が逃げの一手だからだ。
距離を取りつつじわじわと相手の力を削り、確実なチャンスが訪れた瞬間に仕留める。
それは、度々このアヴァロン=エラに訪れる強力な魔獣に対する基本戦術であり、子供の頃から母に仕込まれた戦い方でもある。
真っ向勝負を期待するフレアさんに、そんなな手段を用いて勝ったとしても、もう一勝負。なんて言い出しかねないと、彼の性格を加味すれば簡単に予想がつくというものだ。
「それでもやっぱり実戦となったらフレアさんには敵いっこありませんよ。
それにほら、ここにはベル君とかもいますから、僕が戦わなくても大抵の相手は鎮圧できるでしょう。実戦経験の差が違い過ぎます」
だからこそ僕は、往生際悪くも勝負そのものを回避できないものかと弁解を重ねるのだが、
マリィさんとしては、どうにもこの鬱陶しい青年をヘコませたいのだろう。なかなか自分が思った通りにならない展開に、あからさまに不貞腐れた声で言い放つ。
「ならば、これで勝負するなどよろしいのではありませんの。模擬戦闘ができるのでしょう。虎助は魔王様とも渡り合えるくらいに強いのではなくて」
逆ギレ気味にマリィさんが言い捨てた台詞に嘘は無い。
何故ならマリィさんが指差していたのがゲーム機だったからだ。
ゲームの中でなら僕だって魔王と同格以上に戦える。
正直、僕としてはテレビゲームで手打ちにしてくれるのならありがたいのだが、さすがにゲームで勝負というのは無いだろう。
そう思っていたのだが……、
マリィさんが最後に添えた言葉が、こと魔王を敵視する青年にとって、この上ない煽り文句になってしまったようだ。
「魔王とも渡り合える……だと、それはどういう事なんだ?」
青天の霹靂とばかりにショックを受けるフレアさんに、マリィさんは手の平を返したかのように機嫌を持ち直す。
油断をすれば零してしまいそうになる醜悪な笑みを、コホン。と咳払いを挟むことによって誤魔化して、
「勘違いしてもらっては困りますの。私、模擬戦闘と言いましたのよ。この機械で魔王との戦いを疑似体験が出来るという話ですの」
マリィさんの発言の中に嘘は無い。
というか、むしろそれが目的のゲームがかなりの数を占めるのだが、ゲームと現実を混同してはいけない。
しかし、その情報は打倒魔王を掲げるフレアさんとして無視できないものだったのだろう。
「このピコピコは魔王との決戦までも体験可能だというのか!?」
古めかしい言い回しで驚きを表現したフレアさんは、戦慄の表情で黄色く日焼けしたハードを見下ろし、ゴクリと喉を鳴らす。
その様子に、これはイケる――と確信したのか。マリィさんは煽る言葉を更にレイズする。
「因みにになりますが、虎助はこの機械にて異世界の魔王様と数々の死闘を繰り広げ、こと模擬戦闘を扱ったゲームでは全戦全勝ですのよ」
それも事実である。おそらくマリィさんの言った異世界の魔王様というのは、魔王様ことマオ様のことだろう。
普段から対戦ゲームで魔王様の相手をする僕は、初心者としてはズバ抜けた腕を持つ魔王様を経験によって圧倒していたのだ。
しかし、その事実はフレアさんにとって殊更衝撃的な情報だったらしい。
「なん、だと……」
軋むように細い声を零したフレアさんは、揺れる瞳で僕を捉え、魔王討伐者という幻覚の圧力を自ら生み出してしまったのか、一歩後退ってしまうが。
ここで逃げてしまってはエクスカリバーへの道が遠退いてしまうとでも思ったのだろう。どうにかその場に踏み止まると、
ルーティーン効果なんてのはたまに聞くけれど、その行為にはそういう意味でもあるのだろうか。ふぁさと無意味にマントをひらめかせたフレアさんが、ビシっと指差し、こう告げてくる。
「いいだろう。そこまでの自信があるのなら、そのピコピコで相手をしてやろう」
「いえ、戦いと言ってもこれは違ってですね――というか、本当にやるんですか?」
「勿論です。普段から周りの迷惑を顧みないこの男は少し痛い目を見た方がいいと思いますの」
それをあなたが言いますか。
私情にまみれたマリィさんの言い分に駄目出しの一つも入れたいところだが、今回の事だけでなく、日頃から無神経な言動を繰り返すフレアさんにお灸をすえるという名目があるのなら、たびたび被害を被る一人として反対の声も出し辛い。
結局、何も言えないまま約八畳程の広さを持つ休憩室に、ただの高校生と自称勇者が隣並んで座り、亡国のお姫様が仕切るゲーム勝負の開幕となってしまう。
改めて考えるとこの状況はなんなんだろう。そう思ってしまうが、それは今更か。
つい零れてしまいそうになる溜息を飲み込み、僕がソフトを選ぼうと四つん這いになってモニター脇の籐籠に手を伸ばそうとしたところ。
「それでソフトはどれにしますの?」
ズイっと近づけられた長い睫毛を伴った大きな瞳に思わず心臓が飛び跳ねる。
普段の残念な言動からつい忘れてしまいがちになってしまうが、マリィさんは【亡国の姫君】という肩書に恥じないルックスの持ち主なのだ。
僕は息がかかりそうな距離にある美貌と、ハイハイの動きに合わせてたゆんと揺れる破壊力抜群な胸元の脅威から逃れるように目を逸らす。
もし、この場に困った友人――もしくは、煩悩の権化ともいうべき大賢者様がいたのなら、確実に誂われる場面だろう。
しかし、幸いにも今この場にいるのは、下心は下心でも、純粋(?)に一人の女性に対しての下心しか持ち合わせていないと思われる青年が一人いるだけだ。
僕はマリィさんという凶悪な存在に揺り動かされた不埒な考えを深呼吸と一緒に排出。跳ね上がった鼓動を無理やり押さえつけて気を引き締め直す。
とはいえ、これは意外と厄介だぞ。
フレアさんの求める勝負というのは戦闘。つまりジャンルはおのずと対戦格闘の類になるのだろうが、そもそも対戦格闘というものは、日頃の研鑽が如実に現れるゲームである。
いくらフレアが戦闘のプロとはいえ、ゲームに関してはまた別問題。下手なゲームを選んでしまってはプレイすらもままならず、話がまた本来の戦いへと戻ってしまう可能性もあるだろう。
重要なのは、フレアさんもよく戦えたと思わせて、僅差で勝ったと装えるという事である。
と、僕が、フレアさんを気遣い、悩みながらも選びとったタイトルは対戦格闘の黎明期に発売された武器による攻撃を主体とした対戦格闘。現在となっては素人が迂闊に立ち入れないほど複雑化してしまったコンボの概念はほぼ皆無。タイミングによっては通常技だけでも大逆転も狙えるという初心者には最適なソフトだった。
しかし、ソフトが入っていた色褪せた外箱を見てフレアさんが不敵に笑う。
「フッ、剣士であるこの俺を相手に武器を使ったものを選ぶとはな」
「虎助の配慮ではないのかしら?」
「なんだと、それは本当か虎助!?」
本当かと訊ねられてしまえばイエスと答えるしかないのだが、それは明らかな失言なので笑って誤魔化しておくしかないだろう。
マリィさんからの指摘にフレアさんから胡乱な視線を向けられるが、選択権は僕に一任されている。スイッチを入れてしまえば、後はどんな理由があったとしてもそのゲームで勝負を行うというのがルールだ。
剣をコントローラーに持ち替えたフレアさんが、渡された説明書を読みながらキャラクター選択する。
選んだのは流麗な剣技を主体に戦う孤高の剣士。見た目の印象だけはフレアさんと重なり合う眉目秀麗な男性キャラクターだ。
対する僕が選んだのは、変わり身や分身攻撃を駆使しトリッキーなバトルスタイルを見せる黒衣の忍者。
各々のキャラも決まり「いざ尋常に勝負――」といきたいところだけど、
「ちょっと練習してみましょうか?」
操作が簡単だとはいえ、ぶっつけ本番は気の毒な結果にしかならないだろう。
そう思い、ゲーム開始と同時にポーズ、練習を提案するのだが、
フレアさんは渡された説明書を見ながらボタンを押していき、連動する動きを確かめた上で、
「動きの型が決められているのなら、いくら練習したところで代わらないだろう。情けは無用だ。初めてくれ」
剣士らしい分析を口に、プロゲーマーすら気圧されるだろう気迫をまとわせて勝負を急かす。
「本人がこう言っているのですから遠慮はいりませんの。虎助、このお馬鹿に現実というものを見せておやりなさい」
マリィさんはマリィさんでオーナーの一件を指摘された事を未だに引き摺っているのか、ちょっと前のめり気味なのが気にはなるが、真の対立軸である二人がこう言っているのだから、巻き込まれた側の僕としては従う他ない。ポーズを解いて勝負再開する。
すると開幕早々、ジャンプからの強攻撃が飛んでくる。おもいっきりのいいフレアさんらしい攻めだが、ここは当然きっちりガードで対応。
そして、
「接近状態で投げが使えますから」
相手の動きを伺いながらアドバイスを飛ばす僕に、フレアさんは「知っている」と言いながら投げを繰り出す。手心は無用と暗に示しているのか。
しかし、初心者にコマンド技は難しかったのだろう。必殺技を使ってくる気配は無い。
僕がフレアさんの操るキャラクターを観察し、大凡の技量を読み取っていると、
「どうしたんだ。防御一辺倒じゃないか」
ジャンプで切り込み、隙あらば投げを打つ。フレアさんの操るキャラクターが初心者らしい大胆な動きでもってガンガン攻めてくる。
その圧力に僕のキャラクターはあっという間に画面端へと追いつめられ、それを見たマリィさんから悲鳴じみた叱咤がかけられる。
「何をやっていますの虎助!」
そんなお叱りの声に押されるように反撃を試みるが、対人における反射神経とタイミングなどの読み合いは、フレアさんの方が上のようだ。
こんなテクニックも使えたのか。キャラクターごとに設けられたリーチの差を活かしたドット数個分のカウンターによって、僕のキャラクターが大きく体力ゲージを減らす。
対処法としては飛び道具などの必殺技を織り交ぜた攻撃なのだが、初心者相手にこの戦法は卑怯かな。
僕が迷っていると、
「もう虎助ったら、遠慮していないで必殺技を出しなさい」
予想外の展開に焦れたのだろう。マリィさんがその豊満な胸を押し付けながらアドバイスを飛ばしてくる。
しかし、それは僕にとって応援やアドバイスではなく、精神的な妨害以外のなにものでもなかった。
「あの――、マリィさん――、ちょっと近いです!」
そして、押し付けられる柔らかな凶器に僕が気を取らていたその隙に、偶然なのか。それとも狙ったものなのか。突如として飛び出した攻撃が中段の攻撃となり、しゃがみ状態だった僕の操るキャラクターの防御を突破。続けてのけぞるキャラに強攻撃がヒット。ピヨリ状態に持っていかれ、止めとばかりに入れられた斬撃によってやられてしまう。
「フッ、自信があるようだったが、俺にかかればこんなものだ」
「もう、何をやっていますの虎助。必殺技を使いなさいと言っているでしょう。必殺技を」
「んん?必殺技か、使えはいいではないか。俺はハンデとして使わないでやろう。手加減無用だぞ虎助よ」
使わないんじゃなくて、ただ使えないだけなのでは?
一本取って気を良くしたフレアさんから繰り出される挑発的言動に、マリィさんからの柔圧の凶悪さが増す。
しかし、このままでは代理戦争が本当の喧嘩に発展してしまうかもしれない。そして、何より自分の理性が持たない。
そう結論した僕は、まず敗戦の原因を取り除くべく「あんまり伸し掛かられると操作し難いですから」とマリィさんを引き剥がし、しょうがないですね。そう小さく息を吐き出すと、
フレアさんが言うならと二戦目は必殺技を開放。
必殺技を交えた慎重かつ堅実な試合運びであっさり勝利をもぎ取ると、
最終戦は緩急を織り交ぜた飛び道具で画面端に追い込むやいなや、後は機械的に必殺技を放ち続け、ノーダメージのまま防御の上から削り倒してしまうという圧倒的な試合運びを見せつけてしまう。
剣士であるフレアならその辺りの駆け引きはお手の物、強弱を打ち分けるこちらの思考を読み切って飛び込んでくるのではないか。そんな予想も立てていたのだが、やはり実戦とゲームとでは勝手が違う部分があるようだ。
あっさりとかつ圧倒的な勝利に、ちょっとやり過ぎちゃたかな。と僕が心配するすぐ背後で、マリィさんがサディスティックな喜びを爆発させる。
「大口を叩いた割に情けないですの。やはり自称勇者は自称勇者ですの。剣士の名が泣きますの」
「もう一戦、今のは初めてだったからだ。もう覚えた。もう一戦だけ」
「あら情けない。けれど、人にものを頼む姿勢としては少々間違っていませんの」
まるで自分が勝利したかのように昂ぶるマリィさんに、フレアさんはすがるような懇願を向ける。
しかしマリィさんはそれを一蹴。
僕としては、マリィさんが言っちゃいます?とツッコみたいところなのだが、その言葉にはそれなりの説得力があったのだろう。フレアさんはクッと顔を歪ませて立ち上がり、言われた通り素直に頭を下げる。
「お、ねがいします。もう一度、俺と勝負をして下さい」
最早、勝負の前の自信はどこへやら。不憫にすら思えてきたフレアさんの姿に、「あの――」と助け起こそうとした僕を、マリィさんはギラリ視線で射殺して、いつも以上に胸を強調、傲岸不遜に言い放つ。
「知っていますかしら?虎助の国には土下座と呼ばれる最上級の謝罪方法がありますのよ」
「土下座?」
フレアさんの掠れるような声を受け、マリィさんが愉悦を帯びた視線を畳の上に落とす。
「そう。床に手に手をつき額をこするようにして誠意を示す究極の謝罪法ですの」
確かに最初に挑発――というか、天然をやらかしたのはフレアさんの方ですけれど、さすがにそれはやり過ぎなのではないか。僕が二人の仲裁に入る。
「さすがにそれはやり過ぎですよ。土下座なんてしなくてもいいですから。ねえ、マリィさん」
と、そんな静止の声に、マリィさんは僅かに沈黙。
「……ふぅ、虎助が言うのなら仕方がありませんわね。いいでしょう。気の済むまで打ちのめしておやりなさい」
息を吐きだしたマリィさんは言い放ち、口端に残る微量のワクワク感を隠すことなくこたつの中へ足を入れる。
そんなマリィさんに対し、「えっと、プレイするのは僕なんですけど……」なとど反論できる気力はもう僕には残っていなかった。
結局、フレアさんから求められるままに、その日は遅くまでレトロな格闘ゲームに興じることになってしまうのだった。
虎助とフレアの二人がプレイしたゲームは、強すぎる弱攻撃でお馴染みのキリシタンな隠しキャラが存在する初代剣戟格闘ゲームです。
因みにですが今回フレアが使った見切りは本来のゲームでは不可能だと思いますw




