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●幕間・とある特殊部隊の初任務・表

◆久々に登場の特殊部隊のみなさんです。

 日本南海に浮かぶ名も無き無人島――、

 いま、その無人島に数十名の武装した男女が上陸しようとしていた。


「しっかし、地図に乗ってねぇ島なんてマジであったんだな」


「しかも鬼が住む島ってオマケ付きでだ」


「まあ、そこに住んでんのが吸血鬼じゃないだけマシだろ」


 近くに停泊する護衛艦から、島へと上陸する為に使ったボートを、その乗員ごと(・・・・・・)己が腕力で引っ張り、どこか説明口調風の会話を交わすのは、こちらもいまだ名前の決まらない特殊部隊に所属する八尾、梅田、新野の三人組。

 そんな三人組が引っ張るボートの上で、「上陸したらまずは索敵から始めるんだ」と隊員の幾人かに指示を出しているのは、この部隊を預かる川西だ。

 そして、ボートが完全に陸に上がったタイミングで、幾人かの隊員がいち早く下船。

 目を瞑り、魔力・音・熱感知と、それぞれが得意な索敵魔法を発動させていき。


「ヘリを飛ばしてくれりゃ楽なんだろうにな」


 そんな隊員達を横目に一仕事終えた八尾がボヤき。

 八尾のボヤきに数少ない女性隊員の一人である春日井がよいしょっと、とあるルートから一つだけ手に入れたマジックバッグの中から、各種装備や物資を砂浜に並べながら。


「それなんですけど、この島を覆っている霧の所為で計器が狂わされるらしいですよ」


「そういう訳だ。面倒で悪いのだが、少し待ってくれるか」


 春日井がそう答え、それをフォローするように隊長の川西がそう続ける。

 と、そんな川西達の一方で、索敵に集中していた隊員の数名が目を開き、それぞれが得た情報を確認し合うようにした上で、その中の一人が代表して川西に駆け寄ると、


「隊長、見つけました」


「どの方角だ」


「それが、どうも向こうから近付いてきているようで――」


 川西からの確認に索敵をしていた隊員がそう答えるのが早いか轟く咆哮。

 そして、その咆哮に負けじと川西が「総員、戦闘準備」と声を張り上げて、それぞれの隊員が自分に合った武器を手に取っていく。


 そうして戦闘準備を整えた隊員たちがいざ声が聞こえてきた方向に警戒を向けたところ。

 しばらくして、大柄というには大きすぎる人影が、島を包むように広がる霧を掻き分けるように飛び出してくる。


 それは、身の丈五メートル以上はあるだろう鬼だった。

 肌は浅黒く、額からはねじれた角が生えていた大鬼だ。


 しかし、隊員達はそんな巨人を前にしても慌てることなく。


「思ったよりも小せぇな」


「ま、スカルドラゴンと比べたらな」


 呑気にもそんな会話を交わしながらも武器を構え直し。


「お前達、これは実戦だ。死んだら終わりだということを忘れるなよ」


「分かってますよ」


「油断して死んだりしたら教官に殺されてしまいますからね」


 普通ならする必要のない注意。

 しかし、ディストピアという通常ではありえない世界で戦闘訓練を受けていた隊員達には、改めて言っておかなければならない。

 そんな川西の注意に当然とばかりの言葉を返す隊員達。

 そして川西は、自分達と襲いかかってる大鬼、その距離感を図るように両者を視界に収めるようにして、


「銃撃、放て」


 裂帛の気合をもって出される号令。

 その号令を受けて十数名の隊員が構えるライフルから銃弾が吐き出される。


 そうしてマガジン一本分、たっぷりとばら撒かれた銃弾によって鬼の突進を抑え込んだところで、数人の隊員がそれぞれ好みの武装を手に黒い大鬼へと突撃を敢行する。


「デケェ相手はまず足を狙うんだったっけか?」


「多少なりとも普通の弾丸が効くなら、頭をふっとばした方が早いだろ」


 いの一番に斬り込んでいったのは、自分の体よりも大きな剣を担いだ八尾と部隊のムードメーカーである新野だ。


「「〈一点強化(ポイントブースト)〉っ!!」」


 身体強化の魔法を発動。

 八尾が大鬼の膝をから下を斬り落としてやろうと水平斬りを放ったのに合わせて、新野が背負った大太刀を額から伸びた角を目掛けて振り下ろす。


()って――」


 しかし、膝を狙った八尾の攻撃は分厚いゴムのような鬼の表皮に阻まれ、頭を狙った新野の攻撃も鬼の額を軽く割っただけで弾かれてしまう。

 だが、そこで止まる二人ではない。


「「もういっちょ」」


 まだ〈一点強化(ポイントブースト)〉は効果を発揮している。

 八尾が表皮を数センチ斬り裂いただけで止まってしまった巨大な刃を撫でるように振り回してジャイアントスイング。もう片方の膝に深く大剣を食い込ませると、新野も負けじと弾かれた勢いを利用しての回転斬りで鬼の首を狙っていく。


 しかし、ここで大鬼の反撃が差し込まれる。

 首を狙った新野の攻撃を弾きながら、その新野に迫る大鬼の豪腕。

 けれど、あわや新野がその一撃を食らわんとしたその時だった。

 大盾を持った梅田が両者の間に割り込みをかける。


 ゴイン。空気を震わせる重音を残して防がれる大鬼の巨拳。


 すると、その隙を狙って、三人から少し遅れるように槍を持った数名の隊員が大鬼の懐に飛び込み、比較的弱いと思われる脇腹を狙った鋭い突きを放つ。


「グオォォォォォォオオッッッッッ」


 と、浅くではあるが脇腹に突き刺さった槍に怒り狂ったような叫びを上げる大鬼。

 そして、動物が濡れた体の水気を払うように体をブルブルと左右に振って、突き刺さった槍ごと数名の隊員を払い飛ばすと、それでも怒りが収まらないのか、自分の攻撃を防ぎきった梅田、そして八尾と新野を巻き込むように大きく腕を振り払う。


「ぐはぁ――」


 大鬼が放ったビンタのような横薙ぎは、盾持ちの梅田が前に出たことで直撃こそもらうことはなかったが、怒りに任せた一撃の威力は凄まじく、三人はまるでピンボールのように大きく弾かれ、砂浜を転がるように吹き飛んでゆく。


「大丈夫か。皆――」


「な、なんとか」


「梅田、助かったぜ」


 張り上げられた川西からの心配の声。

 その声に八尾たち三人はフラフラと立ち上がりながらも大丈夫だと武器をかかげる。

 と、そんな三人の様子を見て、川西は『この調子なら大丈夫そうだな』と安心しながらも、先に吹き飛ばされた隊員達の状態も合わせて、前衛陣のすぐの復帰は難しいと判断。


「第二射行くぞ。マガジン交換のタイミングをずらし、弾幕が途切れないようにしろ」


 マガジンの交換を終えた後衛に八尾達が復帰するまで時間を稼ぐ指示を出す。

 と、放たれる無数の弾丸。

 そんな銃弾の嵐に完全防御を取らざるを得ない大鬼。

 川西はそんな大鬼の様子をじっと見つめ。


「やはり、相手がこれほど大きな相手となると実弾では効きが悪いか」


「そうですね。虎助君からの情報によると、万屋なら銃弾の強化も可能とのことですが、それならば魔法銃を使った方が威力的にもコスト的にもお得だということですし、次の相手には最初から支給された魔法銃を使うべきでしょう」


 副官の女性と分析するような声を交わすと、隊員達の位置取りや大鬼が繰り出してくる攻撃に気を配り、前進と交代の陣形変更やマガジンの交換タイミングの指示出しを行ってゆく。

 そうしてしばらく、八尾達が復帰してきたのに合わせて、初級ではあるが攻撃魔法の習得に成功した、春日井以下、数名の隊員を投入。ここで一気に勝負を決めにかかる。

 長物による攻撃に魔法攻撃、そして銃による援護射撃を波状攻撃のように繰り出していく川西たち特殊部隊。

 すると、さしもの大鬼もこの絶え間ない攻撃には対応できなかったか、徐々にその対応が遅れていき。

 その隙を狙って、八尾や新野、そして春日井などが大ダメージを狙える攻撃を与えていったところ、ついに力尽きてしまったのか、十数分に渡る長い戦闘の末、全身に大小様々な傷を作った大鬼は血だるまとなって砂の地面に倒れ伏す。


 本来ならここで勝鬨を上げるというところなのだが、アヴァロン=エラという世界で、いや、地球においても、間宮イズナという稀有の指導者の教育を受けた川西達に油断はない。

 圧倒的な実力差で仕留めたというのならまだしも、絶え間ない攻撃を浴びせることによって、ようやく削り切ったというこの勝利では、完全に殺した(・・・)という手応えが得られなかった。

 だから、本当に大鬼が死んだのかを確かめようと、数名の隊員が銃弾を撃ち込みながら、大鬼に接近して、その上で八尾に心臓を突かせ、ようやく目標の撃破を確認。


「はぁ……、ようやく一匹かよ」


「総力戦でしたからね。これで複数同時となったらちょっと厳しいですか……」


 ため息を吐くような八尾の言葉に、大剣が刺さった大鬼を脈を確認しながら呟く副官の女性。


「でも、これ、ちょっとグロいですよね。

 もっときれいに倒さないと精神上よくなさそうです」


 そして、春日井が呟くのは大鬼の亡骸を見た感想だ。


 たしかに死んだ大鬼の状態は部位欠損などはしていないもののまさになぶり殺し、そんな有様で、見ていて気持ちいいものではない。


 しかし、口では気持ち悪いと言いながらも春日井は――、


「そういう割には平気そうだな」


 事実、隊員の数名は大鬼の惨状に嘔吐(えず)いていたりするものもいるのだが、春日井は表向き気持ち悪いと文句を言いながらも、その表情は実にさっぱりしたものだった。


 そんな八尾のツッコミに春日井が言うのは――、


「人間の形をしてるといっても、これだけ大きいと完全にモンスターですから。

 それにこの手のグロは最近のゲームだと定番ですから」


 春日井にとっては五メートル以上の巨体を持つ鬼は人の姿をしていてもモンスター。

 最近のゲームのグロテスク表現を考えると、たしかに見ていて気持ちのいいものではないのだが、この程度のグロテスク度なら許容範囲内なのだと主張する。


 しかし、八尾としては、いま足元に転がる大鬼は、欠損している部分はないにしろ、ゲームでもなかなか見ないような状態にあるように思える。

 それを普通だと言い切ってしまうのはいかがなものか。

 さも当然とばかりにそう言ってのける春日井にじっとりとした視線を向けて、


「定番って――、

 お前、普段どんなゲームしてんだよ」


「ふ、普通のゲームですよ~」


 八尾の指摘に棒読みで返す春日井。


「普通ってなぁ。こういうのなんていうだっけ?

 ゲーム脳ってヤツか」


 すると、 すると、そんな二人の会話を後ろで聞いていた新野が冗談交じりにそう言って、


「へ、偏見ですよ新野さん」


 しかし、そんな新野の発言が春日井にとっては許せない。

 二次元と三次元が区別がつかないなんて小言のようなコメントはよく聞くが、そんな特異な人間がそうそう生まれるものではない。

 一部のお馬鹿さんが口にした言い訳を真に受けて、いかにもといった知識人がひけらかす色眼鏡を介したコメントに不快感を感じる春日井が新野を睨むと、新野はそんな春日井の過剰な反応に気圧されたように「お、おおう。そりゃ悪かったな」と素直に謝り。

 これ以上、この話題を続けるのは面倒だと、


「で、コイツは売れる素材になるのか?」


 あからさまな誤魔化しにかかる新野の言葉は春日井にとって不満なものであったのだが、しかし、ここで厳しい追求をしてもオタクと引かれてお終いだ。世間が自分たちの意見に厳しいことをよく知っている春日井は、新野に恨みがましい視線をぶつけながらも、存分に不機嫌をにじませた声でその質問への答えを返す。


「さて、どうなんでしょうね。

 私達が狩れるような魔獣――、じゃなくて、こういうのは魔人って言うんでしたっけ?

 まあ、どっちでもいいですけど、その程度の魔獣が売れるようなものなんでしょうか」


 かの世界、アヴァロン=エラの常識に染まっている人間としたら、多勢に無勢とはいえ、ちょっとだけ魔獣との戦闘をかじったくらいの自分達が倒せる相手なんて、あまりいい素材にはならないだろう。なにより素材の状態が最悪なのだ。そんなもの売れる訳がないと、若干の皮肉を込めて言うのだが、それはあくまで魔法など別側面の世界を知っている人間の意見である。

 この場合、取り引き相手になるのは、魔法や魔獣(モンスター)など、ファンタジーな存在が実在するとは全く知らない人達だ。

 彼等からしてみると、それはおそろしく貴重なサンプルであって、


「ああ、それらは確保しておいてくれと上からお達しがきている。動けるものでいい救護班は素材の採取をしてくれないか」


 春日井と八尾、新野達の会話に入ってきた川西、その声を受けて、その背後に控えていた隊員達が動き出す。

 だが、その中には明らかに調子の悪そうな者もいて、さすがにそんな人間に無理はさせられないと川西もそう思ったのだろう。


「無理そうな者はもう少し休んでいるといい。敵はまだいるのだからな」


 そう、この島に巣食う鬼はこの個体だけではない。

 ここで無理をして動けなくなってしまわれては困ってしまう。

 だからと、川島の判断で数名の隊員が解体から離脱して回復を図るその一方、その役目を続行する隊員達も、このように巨大な――、なおかつ人型を相手にした解体作業は始めてだ。

 むせ返るような血の匂いに苦しみながらも、どうにかこうにか解体を進めていき、それぞれの部位を大小様々なクーラーボックスに確保すると、一部の隊員が上陸に使ったボートの一つを使って、この島の近くに停泊している護衛艦にその素材の輸送を始める。


 そして、現地に残った川西達は、


「では、探索班は改めて敵の発見を、一班二班はその護衛、三班はこの砂浜に拠点の設営だ。相手は鬼ということで突然襲われるなんてことはないだろうが各自気をつけて任務に励むように。以上」


『了解』


 新たな獲物を求めて歩き出すのだった。

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