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聖女のぼやきと機関銃

◆新章開始。今章は『あの人は今?』とか、日常系のエピソードが中心となる予定です。(あくまで予定)


『簡単に強くなる方法って無いんでしょうかね』


 魔法窓(ウィンドウ)越しにどこかの誰かさんが口にしそうなことを言うのは、その世界において【ルベリオンの聖女】として敬われ、現在はとある鉱山街の近くにある遺跡でロゼッタ姫を追う一団の動きを探るポーリさん。


 魔王パキートと共に逃避行していたロゼッタ姫を探す過程で、立ち塞がったヒース=ハイパなるルベリオン王国の近衛兵長を撃退し、その際に魔剣化していることが発覚したアギラステアのコピーを作るべく、メルさんが遺跡を出発して数日――、

 そろそろメルさんがアヴァロン=エラへと到着する頃だということで、定期連絡と遺跡での監視がどうなったかの報告、そしてメルさんの無事を確認する為の連絡をくれたポーリさんが、メルさんにいろいろと補給物資を頼んだのだが、それ以外にも必要な物資ができたと追加注文をする最中、話が陽だまりの剣のメンテナンスやメルさんのスクナカードに話が及んだところでそんな弱音のようなことを漏らしたのだ。


 しかし、聖女であるポーリさんがこんなことを言い出すなんて、意外なような気もするけど、どうもポーリさんはフレアさん達との合流後、自分一人がアヴァロン=エラでの修行を受けておらず、戦力的に置いていかれているのではと気にしているみたいなのだ。


 そもそも、仲間内でのポーリさんの役割を考えると、戦闘的な能力が低いことはあまり考えなくてもいいと思うんだけど……、


 しかし、ポーリさんのような美女が困っているとなれば黙っていられないのがこの男である。

 通信越しであることをいいことに、『アレ、絶対わざとやってるでしょ』とティマさんが評するパッツンパッツンの胸元にエッチな視線を落としながらも、美女に恩を売ることに余念がない元春が言ってくる。


「おいおい虎助よ。むっちんぷりんのおねーさんが頭を下げて頼んでんだぞ、なんとかしてやるのが男ってもんだろ」


 いや、むっちんぷりんって――、

 その言葉が付かなければいい話だったのかもしれないけど、それを言ったところでもうアウトだからね。

 今日はマリィさんがいないからいいものの、発言には気をつけてもらいたいものである。


 しかし、そんな元春の戯言をまともに受けるわけじゃないけれど、お客様のリクエストというなら、適当に流してしまう訳にもいかないだろう。


 僕は「ふむ」と考えて――、


「簡単な強化となると、やっぱり装備の更新ですかね」


 すぐにその人を強化するとなると一番てっとり速いのが装備の更新だ。

 僕がそう言うとポーリさんもそれは心得ているのだろう。魔法窓(ウィンドウ)の向こうで『そうですね』とポーリさんが頷く一方、カウンター奥の和室でいちごのロールケーキをお上品に食べながら、ハクスラ系RPGをプレイする魔王様の後ろ姿を見ていたユリス様がボソリと言うのは、


「装備といえば私も作ってもらう約束がありましたね」


 このところのイベントですっかり後回しになっていたけど、ユリス様とは鎧を作る約束をしていた。

 これは後でご要望を聞いておいた方がいいのかな。

 僕がユリス様からさり気なく差し込まれた言葉をそう受け取る一方で、ポーリさんはユリス様が言った装備という言葉を武器と取ったのだろう。こう言ってくる。


『しかし、新しい装備と言われても、私が扱えるようなものにそこまで強力なものがあるのでしょうか』


 ポーリさんの役割は基本的にヒーラー(回復役)。多少の装備更新では強化に繋がらないのではないかという心配はご尤もだけど。


「そうですね。援護射撃できる武器を一つ持つのはどうでしょう」


 言って僕が取り出したのは、以前ルデロック王との一悶着があった時に使ったアサルトライフルタイプの魔法銃。

 すると、これにまず興味を示したのはポーリさんではなくユリス様の方で、


「それはトワ達が持っている武器でしたね。かなり強力な武器と聞いておりますが」


「強力と言いますか、制圧力に特化した魔導器といった感じですかね」


 性能は現実(地球)のアサルトライフルとほぼ同等で、

 ただ、その銃口から発射される弾丸は各種状態異常を引き起こす魔弾だと、簡単に説明したところ、ポーリさんは通信越しに『ほぅ』と感心するような声をこぼし。


『一秒間に十発以上の魔弾をですか、それは凄まじいですね』


「その分、大量の魔力を消費してしまいますけどね」


 前にポーリさんに見せてもらったステイタスだと、十数秒の連続で全ての魔力を吐き出してしまう計算になるだろう。


「因みに、それはお幾らくらいのものになるのですか」


「ええと、店に出しているものじゃありませんから、これと決まった値段はありませんが、

 そうですね……、お二方に売り渡すとしたら金貨十枚でかまいませんよ」


 店売りの魔法銃がちょうどその値段だ。

 まあ、この連射タイプの魔法銃はアサルトライフルをそのまま魔法銃に加工したようなものであり、そこに使われる素材の量を考えると、もっと高い値段をつけてもいいのだが、金貨十枚でも原価割れしないことを考えると、この値段で構わないだろう。


 すると、そんな魔法銃の値段を聞いた、ユリス様とポーリさん、そして元春との間で反応が真っ二つに分かれる。


「やっぱたっけーなあ」

『安いですね』

「ええ、お手頃です」


 金貨十枚といえば地球側でいうところの百万前後、高校生としての金銭感覚を基準にするのなら、元春の意見が尤もなものになるのだが、それが強力な魔導器となると変わってくる。

 因みに、実銃の値段としては百万というと相当高い部類に入ってくる。

 しかし、それも無くも無い値段だそうで、僕はそんなうんちくを元春に語りながらも。


「取り敢えず、前にトワさん達に渡したものと、あと、魔王様と一緒に作った魔法銃もあったりしますけど、それも試してみますか?」


「そうですね。お願いいたします」


『私もどのようなものか見てみたいです』


 ということで、商品を用意した上でやってきました工房側の訓練場。

 このタイプの魔法銃は一般販売はしない予定なので、他の誰かに見られたら面倒になると、普段お客様が立ち入らない工房側の訓練場で試射をすることになったのだ。


 因みに試し打ちをするのはユリス様。

 すでに買う気満々のようではあるのだが、実際にその使い心地を試してみたいのだそうだ。

 ドレス姿にはいささか似合わない無骨なアサルトライフルを構えていた。

 すると、そんなユリス様の堂々とした立ち姿を見て、元春が、心配そうに――、ではなく下心丸出しで「これって俺等が支えたほうがいいんじゃね」と言うのだが、


「別に大丈夫だと思うよ。ああ見えてあのライフル、あんまり重くないし、反動が小さいからね」


 魔法銃とは純粋に魔法の力を撃ち出すものである。撃ち出す魔法の種類によっては大きな反動もあるにはあるけど、今回ユリス様が使おうとしている魔弾は対象に軽いノックバックを与えるだけの衝撃の魔弾なので発射の際の反動はほぼゼロで、『それは実際に魔法銃を使ったことがある元春も知っているでしょ』と魂胆が見え見えの戯言を却下。

 ユリス様には簡単なライフルの構え方を教えて、


 ダララララララ――、


 マットブラックの銃口から無数の魔弾が放たれる。

 その魔弾は予め用意しておいたペーパーゴーレムに着弾。

 小さな衝撃波をばら撒き、その体を削っていくのだが、


 ……………………………………あの、長くないですか?


 そんなツッコミを入れていいものだろうかと思うくらい、長い時間、連射を続けるユリス様。


 僕がどのタイミングで声をかけようかと迷っているうちに、他の魔法銃の試射も考えて頑丈に作ってあったペーパーゴーレムが耐久限界を越えてしまったようだ。

 的であるペーパーゴーレムが破れて消えてしまったところでユリス様は銃撃をストップ。

 アヴァロン=エラの魔素の濃さにあかせて合計数百発は放ったと思われるその魔法銃を掲げるように振り返り、『快っ感――』とでも言い出しそうなうっとりとした表情を浮かべたユリス様が言うのは、


「購入させていただきますわ」


「また即決ですね」


「だって気持ちいいんですもの」


 花が舞い散るような素敵な笑顔で答えてくれるユリス様。

 そりゃあれだけ撃ったのだから爽快だろう。


「でも、魔力の回復量が低いルデルック王国だとこんな連射はできないと思いますよ。

 もしも、そういう運用をするのならマガジンをたくさん用意しないとならなくなりますけど、それでもよろしいでしょうか?」


「マガジン、ですか?」


「はい、ドロップといって魔石に近い性質を持った属性魔力の結晶のようなものです。

 これを持ち手のところにセットすることで、それに対応した魔弾を撃つことが可能になるんです」


 僕はユリス様からアサルトライフル型の魔法銃を受け取って、あらかじめ持ってきておいたドロップを組み込んだマガジンをセット。

 訓練場の片隅に備え付けられているアダマンタイト製の的を狙って魔弾を放つと、カカカカカ――ンと甲高い音が辺りに響いて、


「お見事です。

 しかし、それほどまでに消耗が激しい武器なのですか」


「はい。これだけの数の魔弾を放つ武器ですからね」


 魔力残量に気をつけながら運用すれば魔力消費もそれほど問題にはならないのだが、パニックなんかに陥るとついつい連射してしまいがちなのがこういう武器で陥りがちな失敗である。

 まあそれも、実銃と同じく、スイッチを三点バーストに入れておけばそんな事態も防げるのだが、戦闘に熱中している状況で冷静に判断して撃ちわけるのにはそれなりの訓練が必要だ。

 だとしたらポーリさんにはこのアサルトライフル型の魔法銃よりも――と、ふと思いつき、僕がポーリさんの役割を考えて取り出したのは片手で扱えるソードオフショットガン。


「中近距離の運用になってしまいますけど魔力消費を抑えた魔法銃もありますよ」


「使ってみても?」


 ユリス様は魔法銃の扱いにすっかりハマってしまったみたいだ。

 取り出したショットガンをすかさず反応。奪い取るように手を伸ばすと、新しいペーパーゴーレム(まと)の召喚をおねだり(要求)

 嬉々として試射を始める。


「因みにその武器は魔力をチャージして魔弾の威力を強化することもできますよ」


 このソードオフショットガンタイプの魔法銃のハンドグリップにはミスリルの部品が仕込まれており、そこから魔力を注入することによって弾の威力が高められるのだ。

 他にも、発射する魔弾のタイプをスラッグショット(一粒弾)からラットショット(非常に細かい散弾)まで、手元のスイッチ一つで変えられるようになっていたりと、ユリス様は一通りのギミックを試してみて、それを見ていたポーリさんはアサルトライフルよりもこちらの方を気に入ったみたいだ。


『私はこちらの方が向いていそうですね』


 結局、ポーリさんはソードオフショットガンタイプの魔法銃をご注文。

 ユリス様も当然のごとくお買い上げになるようで、僕は二人分のショットガンの製造をエレイン君に注文して、


「デザインなどはどうします?」


『デザインですか』


「ええ、ある程度、好みに合わせて改造(いじ)ることが出来ますけど」


 もちろん、いかにもなショットガンといった定番の無骨なデザインもいいのだが、ポーリさんのようなおっとり美女にはあまり似合いそうにない。

 元春に言わせると「巨乳修道女がショットガンで敵をバンバン片付ける。そういうギャップがいいんじゃねーかよ」とのことではあるが、それを決めるのは本人だ。


『それは変えてしまってもいいものなのでしょうか?』


「銃という基本の形を変えなければ、わりと自由に改造(イジ)れますよ」


 銃とは照準がしやすいなど意味があってあの形になっている。その基本さえ変えなければ、たとえ銃口が無かったとしても魔法銃ならばなんら問題が無いのである。


『あの、私、そういうことは苦手なのですが』


「でしたら、適当にそれらしい映像をそちらに送りますので、好みのものがあったものを選ぶというのはいかがでしょう」


「俺のおすすめはガーターベルトとデリンジャーっす。

 修道服なんかに合わせると男もイチコロっすよ」


「いや、作るのはショットガンだからね」


 でも、魔弾の種類とか、あるていど機能を削ぎ落としてやればデリンジャーサイズでもできないことはないかな。

 僕が元春の発言にツッコミを入れながらも、そんなことを考えていると魔法窓(ウィンドウ)越しのポーリさんは真剣な顔つきで、


『成程、それでしたら少し頑張ってみましょうか』


 一言、元春から送られてきたデリンジャーとガーターベルトの画像に釘付けのご様子だ。たぶんフレアさんに見せようかとかそういうことを考えているのだろう。


「それで、ユリス様はどうしますか?

 ユリス様もデザインの方、変えますか?」


「ええ、もちろん私も変えさせていただきますわ」


「ユリス様には鎧の仕様も決めてもらわないといけませんからね。

 そちらの方も考えておいてくださるとありがたいです」


「わかりましたわ」


 さすがは親子というべきか、ユリス様もこういうことには凝るタイプみたいだ。


 因みに、この後、ユリス様が城の方でそのデザインをしていたところ、マリィさんやメイドさんに見つかったらしく、メイドさん達からオリジナルデザインの魔法銃が欲しいという依頼が幾つか舞い込むことになるのだが、それはまた別の話。

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