表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

248/836

姫の行方とアギラステア6

◆視点は再び虎助に戻って、「」がアヴァロン=エラ(虎助)サイド、『』がルベリオン(フレア)サイドの台詞となっております。


『ア゛ァァァァァア゛アァァァァァアア――』


 ポーリさんが作り出した結界の中で喉が張り裂けんばかりの悲鳴を放ち藻掻き苦しむヒース。

 その体には黒靄が変化した小さな蛇のようなものが無数に絡みつき、今まさにヒース自身を飲み込まんとしていた。


『なによ、これ』


『虎助、これはどういうことになっているのだ?』


 龍牙の剣アギラステアから吹き出した黒靄の侵食を受けるヒースを目に、呆然と聞いてくるフレアさん達。


「おそらく、呪い――、それに連なる現象だと思うんですけど」


「呪い? 呪いということは、アギラステアは魔剣化していたということになりますの?」


 工房の秘密施設の中、周囲に浮かぶ魔法窓(ウィンドウ)越しに見て、そう推察する僕の声に後ろで呟くのはマリィさんだ。


 すると、その思案げな声を聞きつけたのだろう。ヒースから少し離れた位置で見紛えていたレニさんが『魔剣?』と短く疑問を発し、続けざまにティマさんが『でも、なんでそれが魔剣なんかになっちゃってるのよ?』と聞いてくる。


「さあ、それはちょっとわかりかねます。

 ですが例の牙はきちんと浄化して渡しましたから、剣に加工した人物がなにかしたのでは?」


 やや突き放すような言い方になってしまったが、ヴリトラは肉体を失い、封印されてもなお、復活して各国を暴れまわったという厄介なドラゴンだった。

 だから、その素材は解体時にキッチリと浄化処理をしていた。

 それが、いまこの状態になっているということは、アギラステアへと加工する段階でなにかあったとしか思えない。


 僕がそう答えたところ、ティマさん達が『むむっ』と何か考えるような素振りを見せ、その一方で、フレアさんだけはアギラステアよりも、そこから発生した黒靄の蛇に飲み込まれんとするヒースを見据えていて、


『虎助、どうしたらいいと思う?』


「原因が魔剣というのなら、剣を取り上げることができれば、その効果の大部分は無効化できるかと」


 単刀直入にそう聞いてくるフレアさんに、僕は当たり前であるが原因がわかっているならそれを取り除けないと答える。

 だが、ヒースはその発生源であるアギラステア由来の黒靄に全身の殆どを覆い尽くされんとしている状態で、ティマさんはそんなヒースを指差し。


『剣を取り上げろって、あの状態じゃあ無理なんじゃない』


 たしかに、黒靄の蛇によってアギラステアとヒース絡みついているようなあの状態からアギラステアだけを奪おうとするのは容易ではない。


「しかし、あれがヴリトラが吐き出すものと同じならば〈浄化(リフレッシュ)〉や聖水が効くのでは?」


 ヴリトラが放った黒い腐食霧にはそうやって対処した。

 だから、あの黒靄にも聖水や〈浄化(リフレッシュ)〉が効くのではないかという僕の発言に、ヴリトラとの戦いを思い出したのだろう。あの時、ヴリトラと戦ったメンバーの視線がポーリさんに注がれる。

 そう、聖水といえば聖女と呼ばれとある教会の幹部を務めていたポーリさんの出番だからだ。


 一方、ポーリさんは皆の視線が集まる中、素早く自分のマジックバッグの中から聖水を取り出して、黒いリザードマンのような姿に変貌してしまったヒースへと投げつける。

 だが、聖水の効果は限定的なものにしかならなかった。

 聖水がかかった部分は確かに黒靄が消えていた。しかし、聖水の浄化効果よりもアギラステアから吹き出す黒靄の勢いの方が強かったようだ。黒靄の蛇の消失も一時的なもので、すぐに次から次から溢れ出す黒靄に覆い尽くされてしまったのだ。


 これは、アギラステア本体をどうにかしないとキリがないだろう。

 そうなると、ここは――、


「彼の手ごとアギラステアを切り離すしかないでしょうね」


 僕の言葉にフレアさんが声を詰まらせる。

 フレアさんにとっては、アギラステアに取り込まれんとするヒースもまた助けるべき存在になっているのかもしれない。

 だが、そんな助けるべき存在を傷つけてしまっては本末転倒ではないのか、

 基本的に人のいいフレアさんはそう考えているのだろうが、


『迷っている時間はないようですよ』


 二律背反の状況に動きを止めるフレアさんにそう言ったのはレニさんだ。

 彼女が向ける視線の先ではアギラステアの侵食が進み、黒靄の蛇に全身を飲み込まれてしまったヒースがいる。フレアさんが迷っているこの時にも、ヒースを覆う黒靄の蛇はその侵食を強めているのだ。


 ヒースを飲み込んだ黒靄の蛇がまるで溶け合うように重なる。

 その体躯を大きく変化していき、うねうねと蠢いていた黒靄の蛇がひとかたまりになったいく。

 そして形作られるのは黒いリザードマンとでも呼ぶべき龍人。


「これは――、完全に飲まれてしまったみたいですね」


 黒いリザードマンに変貌したヒースが、空に向けて人間離れした咆哮を放つ。

 その咆哮によってポーリさんが作り出した魔法障壁は崩壊する。


 ガラスのような破砕音を響かせ周囲に飛び散る魔法障壁の欠片。

 キラキラと魔法障壁の欠片が舞い散る中、ゆらりと腕と同化した剣を構えるヒース。

 これは元となったヒースの本来の構えか、隙のない構えを取るヒースにフレアさんが『やるしかないのか』小さく呟く。


 と、次の瞬間、ヒースがドンと豪快に地面を蹴りつけ、フレアさん達に襲いかかる。


 しかし、魔法の檻を破壊したヒースが真っ先に向かったのは陽だまりの剣を構えるフレアさんではなかった。

 ヒースが狙ったのはその背後で身構えていたメルさんだった。


 なぜ自分が狙われるのか? メルさんは滅多にない驚きの表情を浮かべながらも、ヒースを迎撃するため、素早く〈毒弾(ポイズンバレット)〉を発動する。

 しかし、ヒースの全身を覆う黒い外皮はヴリトラ由来の黒靄、おそらくは毒に対する高い体勢を備えているのだろう。メルさんの毒弾をなんの抵抗もなく飲み込んで、そのままメルさんに肉薄すると大剣と一体化した腕を振り下ろす。


 対するメルさんは装備するナイフを構え、ヒースの一撃を受け止める。

 しかし、もともと体格がいいヒースがアギラステアの侵食を受け変化したその体で繰り出したその一撃を、小柄なメルさんが受け止めきれる訳もなく、加えてその斬撃はヴリトラ由来の黒靄をまとったものだ。振り下ろされた黒の一撃はメルさんが構えるナイフを腐食させ、そのままメルさんまでも斬り飛ばす。


『きゃっ!!』


『『『メル(さん)!!』』』


 メルさんの短い悲鳴にフレアさん達が口を揃えてその名を叫ぶ。

 しかし、そんな反応も一時のこと。


『くっ、俺が相手だ』


 フレアさんが自ら囮を買って出るように攻撃を仕掛け、ティマさんとポーリさんがメルさんを助けようと彼女の下へと駆け寄る。

 そして、斬り飛ばされたメルさんの怪我の状況を確認するのだが。


『斬られては――ないみたいね』


『ええ、さすがは()の龍の素材を使い作った戦闘服です。体の傷よりも頭を打ったダメージの方が大きいようですね』


 メルさんが着ている戦闘装束はヴリトラの革を使ったもので作られたものだ。

 さすがに牙と革となると、牙に軍配が上がったようなのだが、それでもただの一撃で致命的な怪我を負うような防御力ではなかったみたいだ。

 二人は大きく吹っ飛ばされたメルさんの状態を見て、改めて彼女がなにを素材に作られた防具を装備しているのかを思い出したのだろう。安心して気の抜けたような顔を浮かべるのだが、


『済まないティマ、急いでくれないか、コイツが君達を狙っているみたいなんだ』


『もう、なんでこっちを狙ってくるのよ』


 焦りを滲ませたフレアさんの声に状況は一転、すぐにメルさんを移動させなければならなくなる。

 しかし、いざ逃げようにも、周囲にはキングさんの雷撃を受け倒れる兵士の姿がチラホラと倒れていて、ティマさんはそんな状況に『チッ』と舌打ち、倒れている兵士がヒースとの戦いに巻き込めないと思ったのだろう。


『アンタたち邪魔よ。死にたくなかったらどきなさい』


 意識を失い、その大半は声も聞こえていないだろうに、さっさと逃げるように促すティマさん。

 そして、自らが呼び出したロックゴーレムにメルさんを担がせ、倒れている兵士が少ない鉱山とも街とも離れる方向へと走り出す。


 一方、フレアさんと戦っていたヒースもその動きに敏感に反応、フレアさんを払いのけ、ティマさん達を追いかけようとするのだが、


『行かせるか』


 ヒースの横薙ぎに弾き飛ばされながらも、すぐに体勢を立て直すフレアさん。

 風の魔法の補助を発動させてヒースを進行方向に回り込み、今度は自分の番だと〈間欠泉(ウォーターゲイザー)〉をまとわせた魔法剣をお見舞いする。


 フレアさんが放った水の一撃がヒースの腕を大きく跳ね上げる。

 攻撃そのものはヒースにダメージを与えるものではない。

 だが、剣から吹き出すように放たれた水の散弾がヒースの進撃を押し留めたみたいだ。

 出来た時間でティマさん達は戦線から逃れることに成功したようだ。


 しかし、ヒースは諦めない。

 眼の前のフレアさんも、黒靄に取り込まれる前に狙っていたレニさんも無視して、ティマさん達を追いかける。


 と、そんなヒースの異常な行動を通信越しに見た僕は――、


「あの、思ったんですけど、あの剣が探知しているのってメルさんなんじゃないですか」


『どういうこと?』


「アギラステアはヴリトラの牙から削り出された剣ですよね。それが魔人とかそういう人を感知するのはおかしいと思っていたんですよ」


『でも、なんでメルなのよ』


「それは、メルさんが【龍の巫女】だからとか――、なんじゃないでしょうか」


 アギラステアに何かを感知する力があるとしたら、それは龍に関係するものではないか。

 そして、この場で龍に関係があるのは、一度はヴリトラの生贄として捧げられ、ヴリトラをその身に宿しながらも撃退、【龍の巫女】という実績を獲得したメルさんだ。


 僕は当初からずっと感じていた違和感をここで再認識、もしかしたらとしながらも、その可能性に言及してみる。


 すると、そんな僕の推論を聞いてポーリさんが、


『待ってください。それでは彼はなぜあの待ち合わせ現場に来ることができたんです』


「それは、単なる偶然かと――」


 おそらくヒースはメルさんの反応を魔人の反応と勘違いして追いかけていて、そんなところに魔王の居場所を示す他の情報が舞い込んで、最終的にあの坑道でレニさんと対面するフレアさん達に出会したのではないのか。

 だから、この街に魔王がいると見つけ出した魔導器はまた別にあって、フレアさん達が話し合っている最中に彼が乱入してきたのは全くの偶然なのではないか。


 ただ、もしそれが本当だとしたら、レニさんがヒースと戦う理由がなくなってしまうのかもしれない。

 僕は自分の考えの果てに、ふとそう思いつき、このことを言うべきだろうかとしたところ、レニさんも微かながらもフレアさんの通信越しに僕の話を聞いていたのだろう。


『安心して下さい。私の役目はパキート様とロゼッタ様の危険を排除することです。あのような人間が姫を狙っているとなれば排除するのはまた当然のことかと』


 ヒースを抑えるフレアさんの魔法窓(ウィンドウ)越しに淡々と答えるレニさん。

 アギラステアに探知能力はあろうがなかろうが、ヒースのような人間がロゼッタ姫を狙っているということはレニさんにとっては看過できないことであるらしい。

 可能ならここで排除できるならそうしておきたいというのがレニさんの考えみたいだ。


 まあ、黒いリザードマンみたいな姿になる前のヒースの言動を考えると、レニさんの選択もまた当然なのかもしれない。


『しかし、問題はどのようにして彼からあの大剣を切り離すかですね』


 相手はヴリトラの黒靄(ブレス)をまとう近衛兵長。

 陽だまりの剣があるフレアさんはいいのだが、それ以外ではそれ以外の人は近付くことさえままならない。

 逃げるティマさん達にヒースを抑えるフレアさん。レニさん程の実力を持ってしても、錬金術だろうか、地面から生み出す赤く染まった武器による援護攻撃しか対処する手段がないこの状況を考えると、彼をあまり傷つけないようにそれを成すのは難しい。


『そもそも、アナタ方はどのようにして、あの黒雲龍を倒したのです』


 少しでも隙みせれば猛毒の攻撃が飛んでくる。そんな相手にどうやって勝ったのか。

 ジリジリと後退しながらも次々と生み出す赤いナイフをヒースに投げつけ、それが不思議だと訊ねてくるレニさんにフレアさんは言葉を返せない。


 そう、あれはフレアさんが倒したものではなく、僕達が――、正確には、モルドレッドのサポートにエクスカリバーさんの乱入があってようやく倒した相手である。

 だから、いまここにいるメンバーで当時と同じことをしろと言われても無理だろう。

 しかし、それはあくまで本物のヴリトラを討伐した時の話であって、

 ただの牙一本、人間ベースの相手なら、フレアさんが本来の力を発揮したらやってやれないことはない。

 実際、メルさんに取り付いていたヴリトラは僕とフレアさんだけでもなんとか戦えていたのだ。


「やはり、ここは先程も言った通り――」


『龍を倒すにはやはり聖剣しかないということか』


「それが全てだとは言いませんが、すぐに可能な方法はそれくらいかと――」


 僕の言葉にフレアさんはヴリトラを倒した時のことを思い出しでもしたのだろう。ヒースの攻撃を捌きつつも、また黙り込んでしまう。

 だが、他にこれ以上の方法が思いつかなかったみたいだ。


『……わかった。

 だが、できるだけヒース殿の体を傷付けたくないな』


 重い声でそう言ったフレアさんは、再び陽だまりの剣に〈間欠泉(ウォーターゲイザー)〉をまとわせ彼我の距離を大きく開けると、ここからどう斬り込むべきかとヒースを見据える。


 すると、レニさんがその横から、よろよろと立ち上がろうとするヒース目掛けて、魔法で作り出した赤い刺股のようなものを投擲、一時的にではあるが地面に縫い付けて、


『ここは私の出番でしょうか』


「なにか方法が?」


『多少時間が必要になりますが、設置型の魔法陣を使いたいと思います』


 そういえば、彼女は魔王城でフレアさん達と対峙した時に、魔法的な罠を操っていたと聞く。

 おそらくはそれと同じく魔法陣を使った相手を封じる魔法があるのだろう。


『ただ問題は、敵の目の前でそれを設置して、上手く引っかかってくれるかですが』


 戦っているすぐ側に設置した罠に引っ掛けるのは、本当に知能の低い相手にしか効かない手だ。

 相手が本能的に戦っているとはいえ、いや、むしろ本能的に戦っているからこそ難しい部分もあるだろう。


 だとするなら、ヒースに引っかかってもらうのはかなり難度が高いのでは?

 そう言うレニさんに、ここで手を上げた人がいる。


『それなら私が囮になる。

 アイツ、私を狙っているん、でしょ』


 ヒースの攻撃を受けて気絶していたレニさんだ。

 今までの話はおぼろげながらその耳に届いていたみたいだ。

 よろめきながらも担がれていたロックゴーレムの上に立ち上がり、囮役を買って出る。


 一方、フレアさんは回復したばかりのメルさんが心配なようだ。

 しかし、レニさんの赤い槍の攻撃を喰らいながらも立ち上がってくるヒースに対応しなくてはならない。


 そして、フレアさんがヒースと戦うのなら自分達も、その思いはティマさんもポーリさんも同じこと。

 ティマさんとポーリさんにはメルさんの固い決意が分かるのだろう。

 『仕方がないわね』『ですね』と言葉を交わし。


『わかったわ。だったら私達がフォローしてあげる』


 自分の〈メモリーカード〉をレニさんに投げ渡すと『アンタ、裏切ったら許さないわよ』と声をかけ、

 レニさんはレニさん、人差し指と中指の二つの指で〈メモリーカード〉をキャッチ。

 『そうですね。時間は五分ほどいただきますよ』と言って走り出す。


 結局、一人だけヒースの相手をしていて話に入ることができなかったフレアさんのフォローに、ティマさん、ポーリさん、メルさんの三人がなし崩し的に合流。

 そして、ヒースの注意を引きつけるメルさんを中心とした防戦一方の戦いが繰り広げられ、約束の五分が過ぎる。


「皆さん準備が整ったみたいです。そこから矢印の方向に向かってヒースを誘導して貰えますか?」


 レニさんからの連絡を受けて飛ばしたメッセージに、フレアさんとメルさんが向かってくるヒースの攻撃に注意しながら移動を開始する。

 やや遅れるようにして、ティマさんとポーリさんが、ゴーレムによる援護や補助魔法を飛ばしながら先行する三人を追う。

 そして、僕がメッセージを飛ばすと同時に全員に送った簡易マップ。そこに表示されたドクロマークに達ようとしたその時――、


『参ります。巻き込まれないようにご注意下さい』


 レニさんのよく通る声が響き、フレアさんとメルさんが左右に退避。

 次瞬、地面から突き出した赤い棘付きの鎖が黒いリザードマンと化したヒースに絡みつく。

 黒靄の腐食効果を使い、どうにか鎖の束縛から逃げようとするヒース。

 しかし、その鎖には弱いながらも再生効果があるようで、


『長くは持ちません。やって下さい』


『分かっている』


 レニさんの声にフレアさんが放つのは必殺のフレアスラッシュ。

 風の魔法の重ねがけにより、スピードが大幅に引き上げられた斬撃が剣と一体化したヒースの右手を斬り飛ばす。


 すると、ヒースを飲み込んでいた黒い煙が一気に霧散。生まれたままの姿になってその場に倒れる。


 一方、斬られた腕の方は絡みついた鎖と共にガシャンと地面に落下。

 だが、触手のように伸びた黒靄を手足のように操り、まだレニさんを求めるような動きを見せる。


 しかし、逸早くその動きを察知したレニさんが『しぶといですね』と地面に手を付き、呼び出した赤い針で剣つき触手つきの黒い右手を昆虫標本のように串刺しに。


「ポーリさん。聖水を――」


 僕の咄嗟の声を聞きつけたポーリさんが、自分の持っていたマジックバッグから取り出した小瓶を投げつける。


 だが、聖水一本では浄化しきれないようだ。

 そこで、ティマさんが『私も手伝うわ』とポーリさんマジックバッグに手を突っ込んで、ありったけの聖水を投げつけたところ、黒靄に取り込まれたヒースの右手はまるで殺虫剤をかけられた虫のように藻掻き苦しみ、立ち上る一筋の黒煙。


『終わったの?』


「いえ、まだ仕上げが残っています」


 黒靄も消え、ピクリとも動かなくなったヒースの右手に警戒するティマさん。

 そんなティマさんに僕がまだ残っていることがあると言うと、ティマさんは『仕上げ?』とオウム返しに首を傾げ。


「はい、これだけ綺麗な切断面なら手持ちのポーションでなんとか出来るのでは思いまして」


『ああ、そうだな』


◆今週はもう一話、短めのまとめ回を投稿する予定です。

◆次回は水曜日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ