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姫の行方とアギラステア3

◆今回も長めのお話となっております。

 そこは待ち合わせに使った坑道と同じ鉱山にあるまた別の地下道(・・・)

 入念に隠蔽工作が施された入り口をくぐり、まるでどこぞの地下街のごとく、迷路のようになっている通路を進んだ先にあったのは巨大な地下の大空間。

 ぼんやりと光る天井に照らし出された建物にどこか既視感を感じるそこは、廃坑道を脱出後、魔王軍の幹部であるレニさんに教えられた秘密の場所である。

 なんでも魔王城にあった転移ゲートから移動した先が、この鉱山の中に作られた遺跡だったのだという。


 明らかに人の手が入っていると思われる、入り組んだ通路を抜けて遺跡に辿り着いたフレアさんに声がかかる。


『止まれ人間、何者であるか?』


 金属質の響きを伴ったその声は、山の中の大空間、コンクリートのような素材で作られた遺跡の入り口に立つ巨大な鎧から発せられたものだった。


 自分の身の丈二倍はあろうかという鎧から発せられたその声に、フレアさんはあらかじめ決められていた合図を送り、レニさんからのメッセージを再生する魔法窓(ウィンドウ)と両手を掲げるようにしながら近づいてゆく。


『四従魔の一人、レニからの紹介だ。これを見て欲しい』


『レニ殿が? 嘘をつくなよ人間』


 だが、証拠を見せると魔法窓(ウィンドウ)を指し示すフレアさんの言葉を巨大な鎧――、いや、リビングメイルは信じない。

 レニさんは人に会いに行くことを仲間に伝えていたハズだ。

 それなのに数時間後、帰ってきたのがその本人ではなく、敵対する人間側のメッセンジャーだとしたら、彼の警戒も当然だろう。


 しかし、そんな一悶着は天井からその鎧の肩に舞い降りた一匹のフクロウによって収められる。


『待つのだリーヒル。この男は嘘を言っていないのかもしれぬ』


 声をかけられ、途端に矛を収めるリーヒルと呼ばれたリビングメイル。

 その態度からして、あのフクロウこそがレニさんの言っていた魔王軍の最高戦力、賢者梟のエドガーなのだと思われる。


 そう、僕達はここに来る前にレニさんから魔王軍の情報をいくつか聞き出していたのだ。

 さすがに魔王や姫の安全上、その全てを教えてくれるようなことは無かったのだが、隠れ家である遺跡とそこにいる人物、ある程度の警備体制は教えられていた。

 それによると、現在、魔王の側にいる人員は本当に最低限のものだという。


 しかし、山の中に作られた遺跡の警備とはいえ、衛兵がたった二人だけとは……。


 そう、見えている限り、遺跡の入り口を守っているのは目の前のリビングメイルと一羽のフクロウだけ。

 別れ際、レニさんから聞かされた話によると、魔王軍と呼ばれている魔獣の殆どは、実は野生の魔獣がほとんどで、この隠れ家代わりに使っている遺跡にいるのは、四従魔と呼ばれている幹部と魔王が呼び出した召喚魔獣だけなのだという話だったが、まさかここまでの少人数だったとは……。


 まあ、魔王と呼ばれる人物の実力を持ってすればそれなりの数の召喚獣を使役できるだろう。

 だから、この見た目が全ての戦力であるとはいえないのだが、それでも魔王軍という幻想を見ているルベリオン側からすると、この状況は予想外の事実となるだろう。


 しかし、そもそも魔王軍そのものが、実はルベリオン側というか人間が、勝手に勢力化したものらしく。

 魔王はただ、魔人となり、同じく迫害された仲間と一緒に人里離れた場所で魔法などの研究をしていただけだったそうだ。

 だが、ある時、魔王がしたちょっとしたおせっかいにより、彼の力が人間側に伝わったことによって、何人かの斥候が送られてきて、それを撃退していたところ、いつしか周辺諸国から魔王認定されてしまい。指名手配を受けた魔王は、このままでは自分達の身が危ういと仲間を引き連れて魔素濃度の高い魔獣の領域に逃げ込んだそうだ。

 そして、自分を守る為にそこに住まう魔獣を管理して敵を追い払っていたのだが、どうもその魔獣達が――ではなく、その周辺の魔獣が周辺に被害を与えることによって、いつしか、魔王が管理していた森の魔獣達そのものが魔王軍と呼ばれ恐れるようになったという。

 だから、魔王となったその魔人が従えているのは基本的に四従魔と呼ばれるその四体だけで、人間側がいう魔王軍うんぬんの話は完全なる誤解であって、

 それ故に、逆に城から逃げ出すのも、それほど難しくなかったそうだ。


 まあ、考えてもみると、魔王の軍勢が雲隠れしたとしても、ふつうに思い描くような魔王軍のすべてが、小さくないとはいえ鉱山街の中に隠れ仰せていることが不自然ななのだ。

 それぞれバラバラに隠れていたとしても、そんな大集団で隠れていたら、誰かしらが暴走するなりなんなりしてすぐに見つかってしまうだろう。


 と、ようやく明らかになった魔王軍の本当の姿を目の当たりに、僕がレニさんから聞かされた事前情報を思い返していたところ、フレアさんと賢者梟のエドガーさんとの間で話がまとまったみたいだ。


 エドガーさんが音もなく遺跡の奥の方へと飛んでいき、僕達が――というか、フレアさんがまるで世紀末覇者と言わんばかりの威圧感を放つリーヒルさんの監視を受けながら、その場で待機することしばらく――、

 通常サイズのリビングメイル達に守られるように、白いグリフォンに乗った金髪の女性と、もう一人、ひょろ長いと言ったら失礼か、長身の男性がやってくる。


『ようこそ来てくれましたね。冒険者フレア』


 どうやら、いま挨拶をくれた彼女が、フレアさんが恋い焦がれていたルベリオンの姫君、その人みたいだ。

 ややタレ目がちながら整った顔立ちに艷やかな金髪、全体の優しそうな雰囲気とフレアさんのような純朴青年が好きそうな女性である。


 しかし、フレアさんには面識が殆どないと聞いていたけど、彼女の方はフレアさんのことをきちんと認識していたみたいだ。柔らかな笑顔を浮かべてフレアさんに話しかけている。


 一方、フレアさんは激しく動揺していた。

 ただ、その原因は姫自らが声をかけてくれたことではなくて、


『ロ、ロゼッタ様、そのお腹は?』


『ああコレ? 実は私、妊娠しているの』


 フレアさんの問いかけに、場面が場面ならブリザードが吹き荒れそうなことを言い出すロゼッタ姫。


 そうなのだ。グリフォンに乗ってやってきたロゼッタ姫のお腹は、ゆったりとしたそのドレスの上からでもわかるくらいに膨らんでいて、スラリと伸びた手足、スッキリとした顔の肉付きとの対比から、そのお腹の中に子供がいることが明白だったのだ。


 憧れの女性に再会したと思ったら、その女性が妊娠していたというこのシチュエーションにフレアさんは何を思うのか。

 僕が他人事のようにそんなことを考える一方、フレアさんは絶句していた。


 しかし、その沈黙があまりに長くなってしまうとなると放ってはおけない。

 話しかけても反応が無いフレアさんに、ロゼッタ姫が『あれ、私、なにかやっちゃった?』とばかりにオロオロとし始めてしまったのを見て、僕が耳元で小さくフレアさんに呼びかけると、フレアさんは『あ、ああ、そうだな。こんなことをしている場合じゃなかったな』と微かに震える声でそう応えながらも、自分を落ち着かせるように呟いて深呼吸――を、しようとしたようとして失敗、咳き込んでしまい。

 しかし、フレアさんはそれを誤魔化すことなく、大丈夫だとばかりに手の平を前に突き出して、ゆっくりと呼吸を整えた上で、心配するロゼッタ姫に『失礼』と謝りを入れて、んんんと喉の調子を整えると、改めて真面目な顔を作って、この場合、ロゼッタ姫ではなく、まずはこの集団のリーダーであるこの方に挨拶をするべきだと考えたのだろう。


『お――、アナタが魔王パキート殿だな』


『はい、この度はご迷惑をおかけしています』


 ふむ、この世界――というか、この地域の魔王様はパキートって言うのか。

 今更ながら名前が判明した魔王様がフレアさんの声掛けに、やや不格好に腰を折る。


 しかし、なんて言うか、この魔王様は本当に普通の人だな。

 紫がかった黒髪が特徴的だが、それ以外はふつうの人間とあまり変わらない。

 やや浅黒い肌を除けばお役所仕事が似合いそうな、丸メガネをかけた細身の中年男性。そんな印象の人物だった。


 元春あたり言わせるのなら『あんな冴えない親父がゆるふわウェーブの金髪巨乳を孕ませるだと。こんな理不尽があってたまるか』と、そんな評価が下りそうな人物である。


 と、ここにいない友人が言いそうなことを想像するのはどうでもいいとして、


『いや、すべては姫様を思ってのこと、アナタが気にする必要はない』


 さっきまでの動揺はどこへやら、意外と冷静なフレアさんだ。

 いや、これはもしかすると、一周回って、嫉妬とか余計なことを考えられるくらいの余裕がないのかもしれないな。

 僕としてはそれはそれで困るのだが、もしなにか変なことを言い出したなら、その都度フォローに入ればいいだろう。


 一見すると、大丈夫そうで大丈夫じゃない。そんなフレアさんの様子に、僕がそんな決意を固めていたところ、いつの間にか、フレアさんと魔王パキートとの間で『いやいや』『いやいや』とお互いが謙遜しあって話が進まないというパターンに入ってしまっていたみたいだ。


 かたや、いろいろと衝撃の事実が判明して混乱必至のフレアさん。かたや、どう見ても腰の低そうな魔王様ということで、こうなってしまうのは分からないでもないのだが、しかし、これでは話が前に進まない。


 ここはいきなりではあるのだが、僕が二人の間に入るべきタイミングか。


 一向に譲り合ってばかりで話を進めようとしない二人に僕がそんなことを考えていたところ、この人(?)もいいかげん収集がつかなくなってしまったこの事態を憂いていたのだろう。賢者梟のエドガーさんが『ホロロ』と喉を鳴らして割って入る。


『それで、レニからのメッセージでは、我々を見つけださんとする勢力がいまここに迫っているとのことでしたが、これは真実ととっていいのですかな』


『あ、ああ、そ、そうだな。そうだ。エドガー殿の言う通り、これを伝えるのが俺の役目だったな』


 指摘され、ようやく自分の役目を思い出したのか、フレアさんは頭上に浮かんでいたレニさんからのメッセージをエンドレスで流し続けている魔法窓(ウィンドウ)を自分の手前に持ってくる。


『これはエドガー殿にも見てもらったものだが、いま魔を察知する魔法剣を持っている人物がこの近くまで来ている』


 と、レニさんからのメッセージを見せながらするフレアさんの簡単過ぎる説明に、ロゼッタ姫が困ったように頬に手を当てながらも、レニさんからのメッセージには既に注目していたのだろう。そちらからの情報を頼りに。


『……魔を探知する魔法剣ですか――、

 てっきり追われているのは私の方かと思っていましたのに』


『そうだね。特に条件もなく標的を定めて探知するなんて魔法は聞いたことがないのだけれど、アーティファクトかな?』


 ふむ、彼等としては、ルベリオンの王族であるロゼッタ姫の居場所が何らかの方法で相手側に把握され、この状況に陥っているのだと思っていたみたいだ。


 因みに、アーティファクトというと、普通に翻訳すると人工の遺物となるが、この場合、ゲームなんかにありがちなレアアイテムみたいな感じで使われているようだ。

 もしかしたら、翻訳の魔導器であるバベルが僕に分かりやすいようにそうしてくれているのかもしれない。


『その、アーティファクトというのは俺にはわからないが、

 ともかく、その剣はヴリトラの牙を削り出して作った剣だぞ――、いや、です。

 ですので、姫が知らないのも無理はないかと――』


 姫の前だからだろう。フレアさんがたどたどしくも丁寧な言葉で補足を入れる。


『ヴリトラというと例の黒雲龍ですか、それにしては宿る力とその性質あまり噛み合っていないような気も致しますが』


『そうだね。僕も召喚獣の目を借りてかの龍を見てみたけど、あの龍を素材にしてそんな効果が出るような知性は存在ではなかったような気がするよ』


 そんなフレアさんからの声に賢者梟のエドガーがアギラステアの力を訝しみ、魔王パキートが同意する。

 どうやら魔王パキートは召喚獣を目を透してヴリトラを見ていたみたいだ。


 そして、彼等が言っている疑問は僕も感じたことでもある。


 とは言っても、僕も封印を解除される前のヴリトラ――、

 もっと言うなら封印される前のヴリトラを知らないので確実は事はいえないんだけど――、


『しかし、この者が持ってきた話が本当ならば、これは由々しき事態ですぞ』


『うん。彼の報告が正しいのなら、ここもすぐに見つかっちゃうだろうね。

 でも、この状況でロゼを連れて逃げるのは――』


 ただ逃げるだけなら問題ない。

 だが、それが身重のロゼッタ姫を連れてとなると一気に難しくなる。

 そう、彼等が転移ゲートまで使って魔王城から逃げたのに、そこから動かなかったのは身重のロゼッタ姫がいたからなのだろう。

 おそらくは彼女が安全に移動できるようにいろいろと手を回していたところで、ヒースからの情報なのか、いや、それともまた別のところからの情報か、この鉱山付近にルベリオンの兵が集まってきて迂闊に動けなくなってしまったと、そんな状況だったのだろう。


『ただ、それに関してなのだが、おそらくは今なら比較的安全に移動が可能だと思う』


『……それはどういうことかなのかと聞いてもよろしいですかな』


 賢者梟エドガーからの鋭い質問にフレアさんが『実は――』と答えたのは、坑道から脱出しながらレニさんと話した交換条件の内容。

 そして、レニさんの考えを聞かされた魔王パキートは『なんてことを――』と呻くように呟き、ロゼッタ姫がそれは本当のことなのかとフレアさんに詰め寄る。


 だが、これは純然たる事実であり、レニさんの決意をもって下した決断だ。


『だから、私がここに来たのは、可能な限りすぐに、この場所から移動してもらえるようにお願いする為なのです』


『そんな、じゃあ、レニはやっぱり――』


 魔王パキートとロゼッタ姫にその決意を伝え、フレアさんも改めてレニさんのその決意の意味に気付いたのだろう。

 さっきまでの動揺はどこへやら、生まれてくる子供の為にとったレニさんの行動に、フレアさんの悪い癖――、いや、本来のフレアさんが戻って来たみたいだ。


『大丈夫です。彼女のことは俺にお任せを、必ずアナタ達の前に彼女を帰してみせます』


 そう言って魔王パキートではなく、ロゼッタ姫の前に跪く。

 そんな、フレアさんがさらりとやってのけたそのキザな行動に、


『フム、レニ殿も水臭い。そのような大事なことを自分だけで決めてしまうとは』


『そうだね。その魔剣が僕達を探知するものならレニ様一人に任せておけないよ』


 触発される形で盛り上がる四従魔の二人。


 だが、そんな二人を諌める人がいる。

 賢者梟のエドガーさんだ。


『しかし、王と姫様を直接守るものも必要だろう』


 なんていうか、見た目的にはエドガーさんが四獣魔の中で一番ふつうに見えるのだが、やはり本物の(・・・)森の賢者はだてではないということなのだろう。通信越しにも貫禄を感じる声でこの場を支配する。


 すると、そんなエドガーの発言を受けて、たしかグリフォンのキングさんだったかな、彼がそのつぶらな瞳でエドガーを見て、


『それなら、エドガーがついていくべきだね』


『そうであるな。レニ殿でないとすれば主についていくのはエドガー殿しかおらぬだろう』


 かたやグリフォン、かたや巨大なリビングメイルと、残る四従魔の内、人間の暮らす領域での護衛を務められるのは、ただのフクロウにしか見えないエドガーに以外にいないだろう。

 しかし、テキパキと撤退の話し合いを進める四従魔達を見て、魔王パキートがか細い声で、


『みんな、なんでそんな勝手に――』


『諦めてくださいパキート様、すでに賽は投げられているのです』


『だけど――』


 勝手に話を進めていく部下たちに文句をつけようとする魔王パキート。

 だが――、


『全てはお二人――、いえ、お三人の為なのです。

 それにです。なにも二人は死ぬつもりはないでしょう』


 ロゼッタ姫のお腹に宿る新しい命を盾に取られてしまえばその反論も封じられてしまう。

 そもそも魔王パキートは今生の別れのような雰囲気を醸し出しているのだが、リーヒルとキング、二人の主な目的は時間稼ぎなのだ。

 吸血姫と呼ばれているレニさんだけでも準備さえ整えば一軍に匹敵するという戦力なのなら、それと同等の力を持つであろう二人なら適当にあしらって逃げるくらいはできるだろう。


『私達は貴方様自慢の従僕なのです。それを信じてくださいませ』


 そして、三人に真剣な目で詰め寄られてしまえば魔王パキートもそれを許すしかない。

 諦めたように首を左右に振って、


『わかった。わかったよ。

 でも、死んだら駄目なんだからね』


『是非も無し』


『まあ、リーヒルを殺そうと思っても難しいからね』


 どこかツンデレ少女っぽくそう言いながらも、突き出した両方の手の平から魔力を放出、手近な地面に複雑な魔法陣を地面に描き出す魔王パキート。

 すると、そこから次々と人間大のリビングメイルを呼び出して、


『彼等をつけるから上手く使ってね』


『ハッ』


 魔王パキートの前に跪くリーヒル。

 そして、そんな光景を目にしたフレアさんがポツリと。


『姫様がどうして彼と一緒に城を抜け出したのか、それが少しわかったような気がするな』


「そうですね」


 仲間の安全を考え、部下からこれだけ慕われているのだ。魔王パキートは一廉の人格者なのは間違いないのだろう。


『しかし、こうなりますとのんびりもしてられませんな。すぐにでも移動を始めませんと』


『えっ、でも――、まだ、リーヒルコピーを呼び出してる途中だよ』


『パキート様、我々がこうしている間にもレニは我々の為に動いてくれているのです』


『そうだね。先にレニ様が動いてるとなると僕達がのんびりしているわけにもいかないからね』


 数十体のリビングメイルを召喚しながら、まだ、その途中だと言うパキート。

 しかし、レニさんからのメッセージを見た以上、エドガー達としてはすぐに動かなければという使命感のようなものがあるのだろう。


 だが、それとはまた別に――、


『行くあてはあるのか』


『残念ながら、それを探している最中に彼等が近くの街に押し寄せてきて――』


 ふむ、やはり今まさに次の逃亡先を探していたところだったんだね。


「でしたら、ここから西に逃げるのがいいのかと」


『何奴?』


 だったらここは僕の出番かなと会話に入っていったところ、リーヒルさんの鋭い声が割って入る。

 とはいえ、このシチュエーションは先程レニさんでやったばかり。

 リーヒルさんの誰何にフレアさんが懐に忍ばせていた黒い金属製のカードを前に出して、


『俺の仲間だ』


「申し遅れました。間宮虎助と申します。通信越しにご挨拶する無礼をお許しください」


『こんなに小さい通信用の魔導器が!?』


 一応相手は初対面の元姫様に魔王様、わざとらしくも丁寧な挨拶をする僕に魔王パキートが驚きの声を上げる。


「いえいえ、これも渡すことができればよかったのですが残念ながら予備がなくてすみません」


 まあ、簡単に受け取っているとは思えないけど、一応社交辞令として言ってみる。

 すると、エドガーさんが横から。


『それで西に逃げるというのはどういうことですかな?』


「実はここから西に山を越えたところに迷いの森がありまして、その中に拠点を作れば、敵の目を誤魔化せるのではと――」


『迷いの森ですか――、

 そのような場所があるとは聞いたことが無いのですが』


 当然だ。現時点ではそんな森は存在しないだろうから。

 だが、これからソニアに頼んで魔王城の周辺を調査しているリス型の調査ゴーレムを操ってもらい、出来るだけ魔素濃度が高い森に魔王様の森に仕掛けたような結界装置を設置してやれば、人工的にそういう空間を作ることも可能だろう。


「もともと魔法使いが住んでいたのか、森そのものに結界が施されているようですから、念入りに調査しないと見つからないでしょうね」


 僕は事実を隠しながらも、適当にそれらしき理由を説明。

 すると、エドガーは静かに目を閉じて、


『ふむ、候補の一つとして考えておきましょう』


『そんな言い方はあんまりです』


 喋るフクロウのエドガーさんの言い方にロゼッタ姫から非難の声をあげる。


『しかし、姫様。相手はルベリオン側の人間です。慎重なくらいでないとなりません』


 正確に言うのなら、僕はルベリオン王国と全く関係ないのだが、エドガーの言い分はもっともな話である。

 だから、


「分かっています。

 ただ、レニさんとの合流はおそらくそこになりますので憶えておいてくれると助かります」


『承知した』


 さて、ここからどう動くのかは彼等次第だが、囮になる他の四従魔の隠れ場所にも使えるだろうし、用意しても損はないだろう。

◆バックストーリーというか、おそらく本編では語られないであろうネタバレ


 魔王パキートとロゼッタ姫には古代遺跡の研究という共通に趣味(?)があります。

 そして、パキートは魔王(魔人)となる前まで、とあるアカデミーにその研究報告などをしていたのですが、実は魔王と呼ばれるようになってからもパキートは、偽名で調べた遺跡(魔王城)の研究報告をしていて、その報告された研究論文を読んだロゼッタ姫がパキートの興味を持ち、いろいろと手を尽くしたところ文通する仲に(伝書梟エドガー経由)。

 そうして二人は仲を深めていき、ある時、思い余った姫が直接お目にかかりたいとアプローチ。

 王都近くで小規模な遺跡が発見されたのをきっかけに、どうにかお会いできないかと何度も手紙を送った結果、パキートの方が折れて二人は対面することに。(もちろんこの時点で遺跡の調査は王都の冒険者や研究者されていて、当面の安全性は確認され、パキートは魔王とバレないように変装している)

 その後、二人は何度か合同で遺跡の調査をするのだが、ある時、姫自らの発見によって遺跡の防衛機能?が発動、護衛とは分断、姫を助けようとしたパキートの正体が姫の知るところとなり、パキートは姫の前から去ろうとするのだが、この時、すでに姫はパキートに惹かれていて、これ以上、一緒にいるのはよくないというパキートに、悲しげな表情を作るロゼッタ姫、そして、最後に思い出をということになるのだが、それが一撃必中となって、結果、駆け落ちに進んでいくという流れがあったりします。


◆魔王パキートが仮の拠点としている古代遺跡について


 今回、登場した遺跡のイメージは、大都市にあるような地下鉄の駅+地下街がそのまま長い年月放置されて遺跡として発見されたというイメージとなっております。

 ちなみに、ここに魔王パキートが訪れるまで遺跡の存在は住人に知られていませんでした。

 坑道を掘る際に硬い地盤。地下施設の壁に度々ぶつかった為に放置された鉱山という設定になっております。

 フレアが入った坑道は魔王パキートがその召喚魔法を使って掘った坑道だったりします。

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