姫の行方とアギラステア2
◆今回も長めのお話となっております。
『フレア――』
落盤現場に響くティマさんの声。
そして、岩の向こうに消えたフレアさんを助けようと、ティマさんがヒースが呼び込んだ魔法使い達と戦う為に呼び出していたロックゴーレムに岩の除去を命じるのだが。
「待ってください」
『なによ、フレアが埋まっちゃったのよ。放っておけないじゃない』
愛しのフレアさんが落盤事故に巻き込まれたのだ。ティマさんの焦る気持ちもわかるけど、今の落盤で唐辛子爆弾の煙がほぼ吹き飛ばされてしまった。
加えて面倒なことに、落盤に巻き込まれながらも近衛兵長のヒースがこちら側に残ってしまった。
今はまだ唐辛子爆弾の効果が残っているのと落盤によって発生した土煙で事なきを得ているが、ヒースの視力が完全に回復した場合、いま残っている三人で相手できるとは思えない。
だから、
「フレアさんはわざわざ巻き込まれながらも〈メモリーカード〉を残してくれたんですよ。それを無視するんですか? あれくらいのことでフレアさんがどうにかなるとティマさんは思っているんですか」
最初からこう言えば良かったのかもしれない。
まずはここから逃げるのが最優先だと、僕がフレアさんの名前を出した途端、ロックゴーレムに命令を飛ばすティマさんの声が止まる。
しかし、それでも、フレアさんを置いて逃げるのに躊躇いがあるのだろう。
ティマさんは落盤現場とその周囲に視線を巡らせて『うー』と低く唸るようにして、
だが、最終的に自分が捕まったらフレアさんの迷惑になってしまうとそう判断してくれたみたいだ。
『――仕方ないわね。ここは逃げてあげる。
でも、その代わり、アンタはフレアを探しておいてよ。
そのくらいのことはできるんでしょう』
「勿論です」
ティマさんに言われるまでもなく、すでに手は打ってある。
『だったら、さっさとフレアの無事を確認して』
これでティマさんの方は大丈夫そうだ。
僕はメルさんとポーリさんを連れられるように、何度も落盤現場の方を振り返りながらも、その場から離れるティマさん確認して、その魔法窓をスライド。新しく呼び出していた魔法窓を手元に戻し、「これでフレアさんがすぐに出てくれると助るんだけど……」独り言を零しながらも、念話通信を飛ばす。
すると、その様子を後ろで黙ってみていたマリィさんが「はぁ」と、どことなく艶っぽい溜息を吐き出したので、フレアさんへの呼び出しを連打する傍ら、マリィさんに「どうしたんですか?」と訊ねると。
「相変わらず、虎助は冷静だと思いましてね」
「『落ち着いている――』といわれても、僕はフレアさんがそうしろと言ったことをただしているだけですよ」
「目の前で知人が危機におかれている状況でその普通がなかなかできないものですよ」
この手の対応は主に場数がものをいうのものである。子供の頃から母さんに鍛えられた僕としては、このくらいの状況なんて、さして切迫する事態でもないということなのだ。
そもそも、フレアさんが装備している防具は万屋謹製のワイバーンメイル。たとえフレアさんのこだわりで頭部防具がサークレットだったとしても、あの程度の落盤で死ぬような防具には仕上げていない。
だから、別に慌てる必要はないんですよ――と僕が苦笑しながらそう答えると、マリィさんも、言われてみれば――と納得してくれたようで、僕も改めてフレアさんが持っている予備の〈メモリーカード〉の一つに念話通信を飛ばす。
そして――、
フレアさんもあれで魔導器オンチなところがあるけど、ちゃんと出てくれるかなと、そんなことを思いながらも応答を待っていると、意外にもすぐに連絡が取れたみたいだ。
しかし、念話通信越しのフレアさんは相当焦っているみたいで、
『虎助か――、良かった、助けてくれ。彼女の傷が治らないんだ』
「ええと、そちらはどういう状況ですか?」
いきなり、助けてくれと言われてもよくわからない。
状況を教えてくださいと言う僕に、フレアさんがしてくれた説明によると、どうやらヒースの攻撃をきっかけとして起こった落盤から逃れる際に、落ちてきた岩がレニさんの頭部を直撃してしまったらしい。
そこで、フレアさんはレニさんを担ぐように落盤現場から脱出した後、すぐにレニさんを目覚めさせようとしたのだが、どんなに呼びかけてもレニさんの反応が全く無く、慌てたフレアさんは僕とどうにか連絡を取ろうとしていたらしい。
そんな折に手持ちの〈メモリーカード〉から僕の声が聞こえて、現在に至るということだそうだ。
成程、今の説明でおおよその状況は掴めたけど。
「ポーションはどうしたんですか? フレアさんのマジックバッグにも、それなりの量のポーションが入っていたと思うんですけど」
異世界宇宙人であるアカボーさん提供の技術を解析、試作品として作ったマジックバッグを持っているのはティマさんだけではない。
フレアさん達メンバーのそれぞれに渡し、今回の冒険に必要そうな道具を詰め込んで渡しておいた。
その中には当然のように怪我を直したりするポーションも入れてある。
それを使えば、完全に回復するまでには至らないまでも、この危機的状況を脱出する手助けにくらいはなるのではないか。
僕はそう指摘するのだが、フレアさんは少し言い辛そうにしながらも。
『ああ、それは分かっているのだが、落盤に巻き込まれている内に壊れてしまったようでな。カバンの中身が全部なくなっているんだ。
虎助がくれたこのカードは魔法窓と音が聞こえたから岩の中に埋まっているのを見つけられることが出来たのだが』
つまり、いま手元にある〈メモリーカード〉以外は岩の下で絶望的と。
まあ、この他にもフレアさんのマジックバッグには〈メモリーカード〉が入っていた。それを頼りに近くに埋まっているポーションなんかを見つけ出せる可能性もあるにはあるが、それを掘り出すまでレニさんが無事とは限らないし、なによりすでにポーションの瓶が割れてしまっているという可能性が高いか。
しかし、フレアさんに渡したポーチはそれなりに丈夫な素材を使っていたハズ。
それが、たかが落盤に巻き込まれたくらいで壊れてしまうものだろうか。
いや、あのマジックバッグはあくまで試作品、もしかすると最初からなにか不具合があって、それが落盤に巻き込まれたショックで表に出てきてしまっただけなのかもしれないな。
となると――、
「ここはポーリさんをそちらに向かってもらいたいところなんですけど、ティマさん達もいまは逃げ回っている状態ですから、そんな余裕はないですか」
『逃げ回っている? それはどういうことだ虎助』
フレアさんの説明から思案の海に漂いながら零した言葉に過剰に反応するフレアさん。
「いえ、崩落で分断した際に近衛兵長のヒースがティマさん達がいる側で無事だったみたいで、
でも、唐辛子爆弾の効果がまだ残っている間に、その場から逃れることができましたから、今のところは無事ですよ」
『そうか、ならば俺は彼女を治療しつつもティマ達と合流しなければということだな』
あくまで今のところであるのだが、ティマさん達が無事だと聞いてフレアさんもちょっと安心できたみたいだ。
『となると、ここは彼女を抱えて下山、街へ向かうのが一番か――』
続けてレニさんを治療するべく街まで連れていけばいいんじゃないかというアイデアを出すのだが、
そもそも吸血姫と言われる魔王軍の幹部が人間の街に入れるのか。
最悪、そのまま捕まって処刑されてしまうなんてことにもなりかねないのでは?
僕が連想ゲームのようにそう考えて止めようかとしたところ、フレアさんとしてはレニさんを早く治療しないといけないという想いに駆られているのだろう。
思い立ったら即実行とばかりにレニさんを抱え上げ移動を開始してしまう。
僕はあまりに短絡的、あまりにせっかちなフレアさんの行動に『もう、本当にこの人は――』心の中で悪態を吐きながらも、こうなってしまったらフレアさんはなかなか人の話を聞いてくれまい。取り敢えずでもいいから、なにかフレアさんを引き止めるいいアイデアは無いものかと、その方法を捻り出そうと頭を回転させたところ、マリィさんも同じようなことを考えてくれていたようだ。
「虎助、陽だまりの剣を使ってみてはどうしょう?
かの剣なら回復魔法が使えると思うのですが」
おお、さすがはマリィさん。
というか、これは僕が馬鹿だったな。
そうだ。本格的に使ったことがなくてすっかり忘れていたけど、フレアさんが持つ陽だまりの剣には回復や付与魔法に特化した原始精霊が宿っている。
だから、その効果を使えば、たしかに彼女を治すことも出来るかもしれない。
僕がさっそくこのことをフレアさん伝えると。
『内容は理解したが、どのようにすればその力を使うことが出来るのだ?』
例の元春の思いつきから始まった試練をやっている間、ずっと陽だまりの剣を使っていたにも関わらず、フレアさん本人がその性能をきちんと把握していなかったみたいだ。
まあ、聖剣の使い方なんてものは、聖剣自身からその使い方を教えてもらわなければ、なかなか把握できるものなので、フレアさんがそれを知らなかったのもわからないでもないが、
しかし、幸いにもソニアが作った人工聖剣には、簡易的に精霊とコニュニケーションが取れる機能も搭載されている。
だから、
「語りかけるんです。陽だまりの剣に、彼女を助けたいと、その力を貸してくれと」
本来なら、この対話にもそれなりの時間が必要となるのだが、ことが緊急事態ともなれば、優しい性格をしていると言われる陽だまりの精霊のことだ。なんとかしてくれるのではないか。
そんな僕の期待は間違っていなかったみたいだ。
フレアさんが『我が聖剣に宿る精霊よ。眼の前の美女の傷を直し給え』と、ちょっと大袈裟な物言いで念じ始めてすぐに、陽だまりの剣から柔らかな光が溢れ出し、その光がレニさんを覆ったのだ。
ただ魔法窓越しに光に包まれるレニさんを見て、ふと『吸血姫とかいう字名を持っているらしいレニさんに、光の魔法が弱点にならないのかな』という懸念が僕の脳裏に過るのだが、どうやらそれは杞憂だったみたいだ。
しばらくして、レニさんの全身を覆い隠していた光が頭部に集中、そこから体の内部に入り込むようにして、ざっくりと裂けるように出来ていた傷口を綺麗に消し去ってくれたのだ。
『虎助、これでどうだ?』
「ええ、これで一応の回復は出来たかと」
レニさんの気を失っている主な原因がアギラステアから受けた毒だとしたら油断は出来ないが、原始的とはいえ精霊が宿った剣と、シンボルでもなんでもないヴリトラの牙、その製作者の腕前の違いを考えると、陽だまりの剣ならそのダメージすらも打ち消すことができるんじゃないだろうか。
『ならば、ティマ達との合流だな。彼女をポーリに見てもらわなければならないだろう。虎助、ティマ達がどこにいるのか分かるか』
傷そのものは塞がりはしたが、それはあくまで素人の応急処置。
万が一のことを考えると回復の専門家であるポーリさんに見てもらう必要がある。
しかし、このまま彼女を連れてティマさんのところへ向かうのはどうなんだろうか。
ヒースが言っていたアギラステアの力を思うと逆に面倒なことになりそうなのだが。
いや、ちょっと待て――、
アギラステアには魔人を追跡するみたいな力が備わっているんだよな。そうすると今のこの状況はどういうことなんだ?
すぐにでもティマさんと合流しようとするフレアさんに、僕はティマさん達の現在の状況を確認し、ふと感じた違和感をまとめようとしていたところ。
そのタイミングでレニさんの小さな唇から呻くような声が零れる。
レニさんが意識を取り戻したみたいだ。
『ん――、あ、私は――、
……これはどういうことですか?』
目を開き、血のような赤い瞳を覗かせるレニさん。
そして、すぐに自分がフレアさんに横抱きにされていることを認識したみたいだ。レニさんが極寒の空気をまといそう声を発するが、フレアさんは動じない。
『憶えていないのか? 君は落盤に巻き込まれたんだ』
それは主人公キャラが持つような鈍感スキルのようなものか。フレアさんはレニさんからの冷えた視線を華麗に受け流し、ここに至った経緯を簡単に説明する。
すると、レニさんの方も自分の記憶を辿って思い出したみたいだ。
納得するように一つ頷くと、フレアさんの手を押しのけるように立ち上がり、メイド服についたホコリを軽く払いって綺麗にお辞儀。
『それはどうもありがとうございます。
しかし、どうして私を?
私は魔王軍の幹部、人類の敵となっていると思うのですが』
『俺は勇者――、
いや、違うな。人として当然のことをしたまでだ。
それ以上でもそれ以下でもない』
不思議そうに首をかしげるレニさんにフレアさん当然とばかりにらしい答えを返す。
すると、そんなフレアさんの返答にレニさんは「フム」と何やら視線も鋭くフレアさんを見ると小さな声で、
『姫様から聞かされていた通りの人間のようですね』
その口振りからすると、お姫様がフレアさんのことをよく知っているように聞こえるけど、フレアさんの話だと、フレアさんとそのお姫様の間にはちゃんとした接触はなかったような。
この認識の違いはどうなんだろう。僕がレニさんの言葉に若干の違和感を感じていたところ。
『取り敢えず、今回のことはお礼を言っておきます。
しかし、現状、やや逼迫した状況のようですので、これで――』
おそらくはヒースが持っていたアギラステアの力を早く魔王に伝えなくてはと、レニさんは焦っているのだろう。有無を言わさぬ勢いで謝辞からのまとめ踵を返すが、ヒースの言い分が確かなら、このまま彼女を帰してしまうのはちょっと不味い。
「ちょっと待ってください」
僕がレニさんを引き止めると、レニさんはその場で油断なく身構えて、
『今の声は?』
おっと、そういえば僕のことはまだレニさんに知られていなかったんだった。
アギラステアのことから、つい声をかけてしまったのだがどう説明したらいいものやら。
自分が何者かを説明の言葉を探し、僕がつい黙り込んでしまうと、そこにフレアさんがまるでなんでもないことのような声をあげる。
『ん、ああ、この声は虎助だが、それがどうしたのだ?』
『虎助?』
『俺の仲間だ。遠いところからコレでいろいろと助言をしてくれている』
うん。こういう時、天然の人っていうのは得だよね。
〈メモリーカード〉を差し出し説明するフレアさんに、レニさん覗き込むようにしながらも『こんな小さなもので』と呟く。
しかし、レニさんは〈メモリーカード〉への興味よりも呼び止められた理由の方が気になったみたいだ。すぐについ前のめりになってしまった上体を起こして、
『それで、『待って下さい』とはどういうことです』
「いえ、アナタがこのまま戻ってしまうと、彼等を魔王の下にまで案内することになるかもしれませんから」
戦いやら落盤事故があったりしてレニさんは忘れてしまっているのかもしれないが、ヒースが持つアギラステアには魔人を探知する力があるという。
これはあくまでヒースの自己申告によるものなのだが、そんな魔導器が近くに存在する状況で、レニさんが魔王の下へと帰ってしまったら、魔王達の隠れ家がルベリオンの側に伝わってしまうのではと、僕がそんな懸念を口にすると、レニさんは少し考えるように瞑目して、
『言われてみれば、あの男がそんなことを言ってましたね。
たしかにアナタ様の懸念は尤もなものです』
そう言って、チロリ。フレアさんへと視線を送り。
『勇者、アナタ様は言いましたね。我々の助けになりたいと』
『ああ』
『ならば、アナタ様に一つお願いがございます』
『お願い?』
オウム返しに聞くフレアさんに、レニさんはしっかりとフレアさんの方へと体を向けて佇まいを直し、頭を垂れて、
『私の代わって、例の剣の情報を主に伝えてくださいませんか』
『それは俺に魔王の下まで行けということか?』
訊ねるフレアさんにレニさんが下げたままだった頭を上げる。
『そうですね。少なくとも主を守る三人にはこのことを伝えてもらいたいものです』
『だが、それは俺が行っていい場所なのか?』
この情報を魔王に伝えるということは、フレアさんが直接魔王が隠れるアジトに向かうことになる。そんな重要な情報を自分に渡してもいいのかと訊ねるフレアさんに、レニさんは微かに苦笑を浮かべて、
『そうですね。慎重を期すなら、ここでアナタ様に主が隠れる場所を知られることはあまりいいことではないでしょう。しかし、現状、そして我々が抱える問題を鑑みると、これ以上、主達がこの場所に留まることはあまりいいこととは思えませんので』
たしかにヒースというジョーカーが足元まで迫っているこの状況で、たとえフレアさんにその場所が判明したとしてもあまり変わらないという彼女の言い分は分からないでもない。
『成程、君の考えはよくわかった』
『ならば――』
『しかし、君の主がそうであるように、俺の仲間にも危機が迫っている。
ティマ達と合流した上で向かうというのでは駄目なのか?』
フレアさんとしては、ティマさん達とルベリオンのお姫様――、どちらも救いたい相手である。
だから、両方助けようと、先ずは危険度が高そうなティマさん達を救ってから、その後、お姫様と合流をしたいのだろう。
しかし、
『駄目というわけではありませんが、事態は我々が思っているよりも逼迫しているようですので』
先の接触でレニさんがヒースに目撃されている。加えてアギラステアの力がこちらの予想以上のものだったとしたら、すぐにでも魔王の居場所が知られてしまうのかもしれない。
そうでなくとも、先の戦いでこの鉱山で何かが起こっていることは、ついさっきの落盤で周辺に展開する兵士たちに伝わっているだろう。
そんな中でアギラステアを持つヒースが動き出せば、一気に魔王の下に兵士が押し寄せるなんてことになりかねない。
だとするなら、ここは時間をかけてはいけないというレニさんの話は尤もな話なのだ。
だから問題なのは、どのようにして二人の立場に折り合いをつけるかだが――、
「だったら、こういうのはどうでしょう。レニさんの言った通り、フレアさんがこの情報をレニさんのお仲間に伝えるんです」
『だが、そうするとティマ達は――』
僕が最後まで言い切る前に言葉を差し込んでくるフレアさん。
しかし、僕はそんなフレアさんを「話は最後まで聞いて下さい」と押し留め。
「だから、レニさんにはティマさんの救援に向かって欲しいんです』
『つまり、交換条件ということしょうか』
「ええ、それに、レニさんがティマさん達の救出に向かうことで、坑道内の兵の動きを誘導することも出来るかもしれませんから」
『成程、そう考えると、私は陽動に動いた方がいいのかもしれませんね』
確かに、レニさんが動くことで、ヒースの――というよりもアギラステアの感知をレニさんに向けられるのかもしれない。
そうすれば、魔王側の逃亡の助けになるだろう。
『だが、いいのか。それは君が危険の中に飛び込むことになるのだが』
『構いません。私の動きで主達が無事にこの危機を乗り越えられるのなら、それほど喜ばしいことはありません』
そう言ったレニさんの目は真剣そのもの。
それだけ、魔王が、その周囲にいる人が大事なのだろう。
『わかった。君がそれほどまでに言うのなら俺は君を信じるまでだ』
「そうですね。これは僕が言い出したこともありますので、きっちりフォローしますよ」
と、何気ない提案から見せつけられたレニさんの決意に、僕とフレアさんが協力を約束。
『しかし、アナタ様がこのまま我らの拠点に向かったところで入り口で弾かれるだけでしょう』
たしかに警戒している魔王達の下へフレアさんが出向いたとしても、ちゃんと話を聞いてくれない可能性の方が高い。
『なにか書くものは持っていませんか。アナタが門前払いされないように一筆かきたいと思うのですが』
『すまない。生憎、その手の物は俺は持っていないのだ』
まあ、フレアさんが筆記用具の類を持っている訳がないよね。
たぶん、マジックバッグが無事だったとしてもそれは変わらないだろう。
「でしたら、魔法窓を使うのはどうでしょう。あれならメモ書きもついていますし、なんでしたらレニさんのメッセージをそのまま録画してもいいんですから」
『うぃんどう? それはどういうものなのです』
まあ、わかりませんよね。どうせ説明しても簡単には理解できないだろうと、僕は実際に見てもらった方が早いと新たに遠隔操舵で魔法窓を展開、一枚スクリーンショットを撮影すると、それを見せて、
「このようにメモリーダストのような事ができる魔法みたいなものです」
『これは使えそうですね』
それからすぐに、レニさんのメッセージの録画を頼むことに決まったのだが、フレアさんには使い方がわからないということで、僕の主導でレニさんからのメッセージを記録。
少し時間がかかってしまったが、こうしてフレアさんとレニさんは、逃げ惑うティマさんを助けるため、いまどこかに隠れ潜む魔王とその仲間たちを救うため、動き出すのだった。
◆聖剣ソルレイト……正式名称は陽だまりの剣。エクスカリバーの協力によって、オリハルコン合金の剣に陽だまりの原始精霊が宿り聖剣となった一振り。見た目はメタリックオレンジのオリハルコン合金というなんとも派手な片手剣。しかし、デザインそのものはシンプルで、刀身と柄に施されている目には見えない魔法式によって、宿す精霊の力を存分に引き出すようになっている。現在のところ解放されている機能は〈照明〉と〈治癒〉の二種類。今後、機能が拡張されるのかはフレア次第で、フレア自身はわずかな癒やし効果を持つ光る機能が気に入っている。つまりブォンと光る例のセーバーである。