闇夜の襲撃者
ちょっと長めです。
アヴァロンエラには小さな太陽が存在する。
正確にいうとそれは太陽ではなく魔素の固まりらしいのだが、見た目は太陽そのものである。
直視すると目を痛めるし、どういう原理になっているのか、ポカポカと暖かな光も放ってくれる。
そして、その太陽はこのアヴァロン=エラを周回することによって昼夜を作り出し、何の因果か僕やマリィさんが暮らす地域と時刻や季節がリンクしていたりするだが、それが偶然なのか必然なのかはこの世界の主たる少女にも分からないのだという。
午後八時。すっかり暗くなったこの世界に来客を告げる光の柱が立ち上がる。
何度見ても綺麗なものだな。まるで巨大なクリスマスツリーのような光の柱に思わず見惚れてしまう僕だけど、ただそれだけ。
ゲート付近には、来訪者をチェックや漂流物の回収をするエレイン君がずっと張り付いていて、特に害意が無いと判断されたお客様なら、五分と待たずしてこの店にやってくるだろうから、特に出迎えたりする必要はないのだ。
と、そんな風にのんびり構えていたところ、店の外から「ギャア――」と野太い悲鳴が聞こえてくる。
「何事ですの!?」
緊急事態を知らせる悲鳴に飛び起きたのはマリィさんだ。ほっぺたが赤くなっているのを見るに、こたつにもたれかかってうたた寝でもしていたのだろう。
「見てきますからマリィさんはここにいてください」
「私も行きますの」
寝起きでなくともお客様の手は煩わせられない。そう言って止める僕に、マリィさんは立ち上がることでその意志を示す。
正直、ベル君を通じての救援要請が無い以上、まだエレイン君達も事態を把握する前だろう。
危険の有無がまだチェック前であることを考えると、マリィさんにはここに居て欲しいのだが、そんな説得で引き下がるようなマリィさんではない。
「離れないで下さいよ」
「虎助こそ私の手の届く範囲にいてくださいまし、でないと助けられませんから」
それに、そもそも戦闘力に限っていえばマリィさんは僕よりも上なのだ。それを指摘されては仕方がない。
男子としてはちょっと情けないかな。なんて思いはするものの、もっと凄い女性を知ってるから今更か。僕は心の中でそう呟いて、ベル君に万屋の警備をお願いして店を出て、
悲鳴が聞こえたのはゲートの方だったよな?と、いざ走り出そうとしたその時、懐中電灯を忘れた事に気付く僕だったが、
「問題ありませんの」
マリィさん詠唱も魔法名も声にすることなく、何もない空中に大きな火の玉を呼び出してみせる。
さすがはマリィさん。
と、ちょっとした篝火くらいある明かりに照らされて進むこと五十メートル程、店とゲートのちょうど中間地点辺りで、二体のエレイン君とその傍らに倒れる一人の人物を発見する。
エレイン君達も悲鳴を聞いて駆け付けてくれたのだろう。片方が実況見分の為の〈調査〉を、片方が常備しているポーションを青年の背中に開いた二つの傷口にポーションを振りかけていた。
その傷口から察するに、この青年が受けた攻撃は、おそらく剣や槍のように尖った何かによる刺突。
だが、幸いにも着ていた鉄のブレストアーマーがきちんと仕事をしてくれたようで、命に別状は無いみたいだが、重症には変わりない。
と、簡単な実況見分をしながらの治療で背中の傷が塞がれていく。
後は失った血を補う為に経口摂取でポーションを飲ませればと、エレイン君達にひっくり返してもらったその人は、良い世界人らしく、くすんだ青い髪が特徴的な細面の男性だった。
ブレストアーマーに短剣という装備から、冒険者か探索者、ハンターと呼ばれる人であることが見て取れる。
ともあれ、彼から話を聞く為にもまずは目を覚ましてもらうのが先決だ。
僕は腰のポーチからポーションを取り出して、青髪の彼に無理やり飲ませると、顔色が徐々に回復していく様を確認。刺されたショックからか、まだ目覚めそうになさそうということで、エレイン君達に頼んで万屋まで運んでもらう。
そして、僕とマリィさんは、口から組み立て式の担架を取り出し、青年を運んでいくエレイン君達の後ろを警戒しながらついていくのだが、
その道すがら、
「何かに襲われた――ということでよろしいのですよね」
「ええ……でも、ちょっと気になることが」
「気になること?」
「ええ、彼がここに来た時、立ち上がった光の柱は一本でしたよね。彼を襲った相手はどこから来たのかなと、そう思いまして」
その時、マリィさんはまどろみの中で見てはいないだろうが、嘘や冗談で僕がこんなことを言わないだろうと知っているマリィさんは、周囲への警戒をそのままに少し考えるような間を置いて、
「同時にこの世界にやって来たのではなくて?」
その可能性は高い――というよりも、それしかあり得ないのだが、
「だとすると、何でここまで襲われなかったかという話になりませんか?」
月が存在しないアヴァロン=エラでこの時間ともなると周囲は真っ暗だ。
しかし、ゲート付近にはきちんと街灯も用意してあるし、ゲートからここに至るまでの間には、魔法処理によるイルミネーションが施された大巨人モルドレッドも設置してある。それにだ。遮るものが殆ど無いこの荒野では、万屋の光もかなり遠くまで届く。
「同時にこの世界にやって来たのなら、ワープと同時に襲った相手と鉢合わせ――なんて状況になると思うんですよ」
だとすると、現場はゲートの付近になる筈だ。
と、その可能性は一理あると、マリィさんも頷いてくれるのだが、少し考えて、
「既に潜んでいたという可能性はありませんの?」
もしかして、一緒にこの世界にやってきていないとしたら。マリィさんはいうのだが、残念ながらそれはあり得ない。
「ゲートの出入りはエレイン君達によって監視されていますから。ゲートの正面にある万屋に顔を出さず、こんな時間までウロウロしているような不審人物がいたら、エレイン君が報告してくれる筈ですよ。それにあの傷、たぶん人間につけられた傷じゃなくて魔獣がつけたものですよね。もし魔獣が入り込んでいたら即刻処理されるのが普通ですし、エレイン君だけじゃ対処できない相手なら、それこそベル君に応援要請が来る筈です」
以上のことから考えて、エレイン君達が運んでいるこの男性を襲った相手は、彼と一緒にこの世界にやって来たものである可能性が一番高い。
「でも、そうなりますと、少々厄介な相手なのかもしれませんわね」
そう、敵は青髪の青年と一緒にこの世界に訪れた。しかし、彼は自分が襲われるまで敵の存在に気付かなかった。その可能性が大きいとなると、敵は『非常に隠匿能力に長けた魔獣、もしくはそれに準じた何か』という想像が浮かんでくるのだ。
そして、問題はそれがどのような技術によって行われたのかだが、
魔法を使ったものなら〈探査〉の魔法式が内蔵されているエレイン君達が見逃す筈が無い。
そうなると、敵は魔法意外の特性でこの暗闇に潜んでいることになる。
まあ、全ては可能性の範疇ではあるが、決して低い可能性ではないだろう。
と、そんな会話と思案の間にも僕達は万屋に辿り着く。
エレイン君達が青髪の彼を万屋に運び込み、その間は僕達がと周囲に巡らせた視線が、ふと違和感を捉える。
そして、その違和感の正体を探るように、違和感を感じた地点に全感覚を集中させようとするのだが、
一歩遅かったみたいだ。
僕がソレを認識した時にはもうソレが動き出していた。
何もないように見える暗い地面が奇妙に盛り上がり、高速の何かが飛び出してきたのだ。
「危ない!!」
僕は咄嗟にその飛び出した何かの進路上にいたマリィさんを突き飛ばす。
と、同時に魔力を放出。
瞬間、腕に鋭い痛みが奔る。
どうやらマリィさんを突き飛ばした僕の腕に黒い槍状の何かが突き刺さったみたいだ。
と、そんな僕の一方で、
「えっ!?」
突然突き飛ばされて、訳が分からないながら何か文句を言おうとでもしたのか、振り向いたマリィさんが呆けた声を出す。
だが直ぐに――、
「虎助っ!!」
振り向き見た光景がどういう状況なのかを理解したのだろう。僕の名前を叫ぶ。
「大丈夫です。これだけ鋭い攻撃ならポーションで綺麗に回復できますから」
対して僕は、自分でも少しズレていると自覚する言葉を口にしながらも、腰のナイフで腕を貫通する黒い槍状の何かを切断。ナイフを抜くと同じくして腰のポーチからつまみ出していた万屋特製ポーションで煽り飲み、内部からの回復を図ると共に突き刺さったままの黒い何かを抜き捨てる。
その上で、切断した黒い槍に視線を這わせ、攻撃を放った敵の正体を確認するのだが、その視線の先に居たのは、闇の中、這いつくばるようにのたうつ影だけの存在だった。
「これは、影――の魔物ですか?」
「え、ええ、シャドートーカー影に潜み、人の生き血をすする。陰湿な魔物ですの」
痛みに耐えながらも僕がかけた問い掛けに、心配からだろう。マリィさんは一瞬躊躇うも、すぐにそんな場合じゃないと思い直してくれたか、答えをくれる。
しかし、こんなゲームにありがちな影の魔物が実在するなんて、
今更ながらにファンタジー世界のデタラメさを思い知らされるが、今ここで重要なのは敵の正体ではなく――、
「マリィさん。この魔獣って、どうやって倒すのかとか知っていますか?」
あくまでゲームという括りでの話だが、こういうモンスターは物理攻撃が無効だったりと、厄介な特性を備えている事が多い。
だが、そんな僕の問いに対する回答は、シンプルで分かりやすいものだった。
「普通の魔獣と変わりませんの。物理でも魔法でもどちらでもいいのですが、相手が死ぬまで攻撃を与えることです」
影という形を取っているものの、その他は普通の魔物と何ら違いは無いんだだな。
シャドートーカーそのものが問題なく倒せると判明したのは良かったのだが、質問を終えた頃には既にシャドートーカーは影の中に溶け込んでいて、
本当に厄介な相手だな。
とはいえだ。手傷を負わせた獲物を目の前に、わざわざ影に紛れるということは逆にシャドウトーカーそのものの戦闘力はそれ程強くないといえるかもしれない。
大凡の情報が出揃い「うん」と一言、その始末に向けて思考を加速させる僕の一方、マリィさんはマリィさんで気になる事があったらしい。
「虎助はどうやって敵の攻撃を察知したのです?」
「何となく違和感があって、いま思えば、闇の中の微妙な影の濃淡があったんだと思います」
「こんな暗い中で影の濃淡が分かりますの!?」
マリィさんはそう言って驚いてくれるけど、母さんに連れられて、年に四回ほど、山の中でキャンプという名の何かを行わされる僕にとっては割りと必須の技能だったりする。
「まあ、そうですね……」
「なにか事情がありますのね……虎助はこの敵をどう思います?」
疲れたような僕の反応から、あまり聞かれたくない話なんだろうと受け取ったのか、それとも自重してくれたのか、詳しい追求を諦めてくれたマリィさんから意見を求められる。
「たぶん姿の方はある程度自由が効いても、体色はほぼ変えられないのではないでしょうか。自在に体色が変えられるのなら、もっと他にやりようがあったでしょうからね」
姿形が変えられるというのは、槍状に伸ばした体の一部から、そして体色が変えられないというのは、シャドートーカーが攻撃の後、すぐに闇に溶けたのをみてそう考えてみたのだ。
つまり、このシャドウトーカーという魔物は、タコのような何体生物でありながら、体色変化の力は持っておらず、ナナフシように、自分が生まれ持った体色を利用して暗闇に溶け込んでいるに過ぎない。
と、そんな僕の推論を聞いたマリィさんは真剣そうな顔をして、
「これは、朝になるまで待つしかなさそうですね」
「一応、万屋には寝袋なんかも売ってますし、エレイン君達もいますから、僕はそれでも構いませんが、マリィさんは戻らない訳にはいかないでしょう」
言うが、僕はその意見をちょっと遠回しに却下する。
何しろマリィさんは自宅(城)軟禁中だとはいえ一国の姫君だった人だ。そんな人を無断外泊させるというのは、色々な意味で問題になるのではないか?
僕の気遣いを別の意味に受け取ったのだろう。マリィさんが聞いてくる。
「何か策がありますの?」
「簡単です。真っ暗なこの状態が不利なら、昼のように明るくしてしまえばいいんですよ」
所謂、パンがなければお菓子を食べればいいじゃない理論だ。
そもそもこのアヴァロン=エラに浮かぶ太陽は魔素の力によって輝きや熱を生み出している。
そうだ。魔法の力を使えば、本物の昼とまではいかないものの、その準じた環境を一時的にも生み出すことが出来るのだ。
僕はマリィさんが襲われないようにと、青髪を運び込んだエレイン君達に変わって、僕達のフォローに出てきてくれたベル君に、マリィさんの警護を任せて万屋の中へ、持ってきたのは何の変哲もないゴーグルだ。
だが、万屋で売っているゴーグルがただのゴーグルである筈がない。
そう、このゴーグルには魔獣が放つガスや熱風、その他諸々の特殊効果を防げるような処理が施されている魔法のゴーグルなのだ。
そんな機能の中には当然、強い光への対策も含まれていて、
僕はそんな魔法のゴーグルと共に、これから仕掛ける作戦をマリィさんに伝えて、サングラスモードを発動してもらう。
そして「準備はいいですね」と作戦開始へのカウントダウン。
3……2……と身構える時間をとって、カウントが0になった瞬間、闇に覆われていた周囲が一転、強い光で包まれる。
その光は、ゲートを見守り佇んでいる赤銅色の大巨人〈モルドレッド〉から発せられたものだった。
日々蓄えられる魔力を、組み込まれたイルミネーション用の魔法式に乗せて発動することで強烈な光を生み出したのだ。
と、昼夜が反転してしまったような光の中でマリィさんが叫ぶ。
「虎助。いましたの!!」
指差す先の何もない地面には黒い人影が不自然に張り付いていた。
と、マリィさんは敵の姿を確認するやいなや伸ばした腕を覆うオペラグローブに魔力を充填。幾何学模様を描くバーコードのようなラインを浮かばせる。
そして、
「穿け〈炎の投げ槍〉」
一つの単語に魔法の性質を集約した短文詠唱からの魔法名によって魔法が発動。
炎の槍が放たれ、突然の大光量に慌てて逃げようとするシャドウトーカーを串刺しにする。
まるで生きたまま標本にされた虫のように、ジタバタと針金のような手足を振り回すシャドウトーカー。
だが、その力は並の魔獣より劣るようで、マリィさんの生み出した炎の槍から逃れることができないようだ。
しかし、油断は禁物だ。
何故なら相手は不定形な影の魔物。本気で逃げ出そうと思えばその形を変えればいいし、薄く細く伸ばすようにすれば僕の腕を貫いた銛のような触手による反撃も可能だろう。
と、予想の通り、
「危ないです」
これが本当の影縫い――なんて、
僕は隙をついてマリィさんに攻撃しようとする針金のような腕を、腰のポーチに常備してある針状の飛び道具で一刺し、直ぐ側の地面に縫い止める。
だが、相手は極太の炎の槍を受けても反撃するくらいの敵だ。これもすぐに抜けられるかもしれない。
「あら、その針は以前、サラマンダーの時に使っていたものですわね」
「ええ、千枚通しっていう――、一応、文房具になりますかね。ちょっと特殊な式が書き込んでありますけど」
「ええと……それ、文房具ですの?虎助って本当に何者なのです?――と、まあ、それは後で聞かせてもらうとして、別に助けてくれなくてもよろしかったのに」
マリィさんはピストルを撃つように炎弾を飛ばして縫いとめられた影の触手を爆散させる。
マリィさんの拗ねるようなセリフは、別に照れているとかツンデレ的な強がりではなく、単に助けなど必要ないという意味だった。
「以前フレアさんに使っていた〈炎弾〉の亜種ですよね」
「ええ、万屋で売っている魔法銃をモデルに構築してみましたの」
魔法というのはイメージによって構築される事象だという。
呪文というものは、そのイメージを補う為の詩であり、魔法式は現象を具象化したプログラムのようなものらしい。
逆に特定の魔法に関する明確なイメージが頭の中に存在するのなら、呪文も、魔法式も、魔法名も、そこに威力などの差異はあれど、魔力以外のなにも必要とせずに魔法を発動できるのだ。
マリィさんは万屋で売っている魔法銃を参考にこの魔法を完成させたのだという。
普通ならそれも数年、数十年とかけて行う新魔法を開発なのだというのだが、それを数日でやってしまうところが某大陸屈指と言われる魔法使いの所以なのだろう。
「しかし、さすが影――という名前を冠するだけあってふざけた生命力ですのね。通常の魔獣なら、私の炎の槍を受けた時点で終わりでしょうに」
確かに、魔獣と呼ばれる獣から変化した魔物なら、炎の槍で胸を貫かれたところで死んでいる。
しかし、この影が付喪神のように変化した魔物であるシャドートーカーは、その成り立ちからして相当にタフな体を持っているようだ。
「生命力が強いのはここアヴァロン=エラだからでしょうか。えっと――、ああ、そういうことですか。どうやら一応精霊の部類にはいるみたいですよ」
「虎助。貴方また――、まあ、それも後の話ですわね」
思案するようなセリフの途中、虚空に向かって話しかけるようにする僕に、マリィさんは諦めたように首を振る。
「では、倒したところで存在そのものは消えないと」
「そこは部類ということですから、きちんと死んでくれるみたいですよ」
「虎助も随分とこちらの世界に染まってきていますのね」
あっさりと死という言葉を使う僕にマリィさんからの指摘が入る。
「まあ、魔獣に巨獣に強盗と――、いろいろと対処してきましたからね。それにコイツはマリィさんを傷付けようとしたんですよ。それなりの罰があるでしょう」
マリィさんの技量や彼女にかけられている加護を考えると、万が一にも死ぬことはなかっただろうが、大怪我を負っていたかもしれない。そんな大それたことをしでかしかけた相手を許しておいては、この世界を管理する側の人間として、そして、マリィさんの帰りを待つ彼女の使用人さん達にも申し訳が立たない。
「こ、虎助の心遣い、感謝いたしますの」
「フフ、お気になららず。それよりもそろそろ楽にしてあげましょう」
その紆余曲折の末の立場上、純粋な心配を他人からかけられた経験があまり無いのだろう。どもるマリィさんを新鮮に思いながらもした声掛けに、夜の世界を昼に変えてしまった光すらも焦がさんとする灼熱の炎が生まれ、【亡国の姫】を害そうとした不敬な魔物に逃れ得ぬ罰がもたらされる。
「さて、後の処理は僕達でやっておきますから、マリィさんは自分の世界へ。あまり遅いと使用人さん達も心配するでしょうから」
「で、ですわね」
燃え盛る炎の中、うねうねと蠢くソレが嫌悪感を掻き立てるのだろう。ぎこちなくそう挨拶したマリィさんが、やや挙動不審にもゲートに向かい歩き出す。
僕はそんな金色の後ろ姿を見送って、
「さて、家に帰る前にさっさと片付けちゃいますか」
素材の確保と遺骸の処理をする為にベル君を伴って、動かなくなりつつあるシャドートーカーの下に向かうのだった。
◆簡単解説
呪文……魔法に発動の前段階。イメージを高めるための言葉。自由度が高い。無詠唱可能。
魔法名……魔法発動に必要なキーワード。固定。無詠唱が可能だが意識的に引き金を引く必要あり。
魔法の構成……呪文or魔法式etc.+魔法名(無詠唱の場合は心のトリガー)
因みに『魔獣』と『魔物』の明確な区分はありません。形式的に動物由来の『魔物』を『魔獣』と呼んでいて、物質由来の存在を『魔物』と呼んでいるだけです。そして、物質由来の魔物は数が少なくて……そんな理由から一般的に『魔物』という言葉が多く使われているという訳なのです。




