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異世界通信の仕様

 それはとある昼休みのこと、

 僕が元春と二人、ちょっとした用事から利用していた写真部の部室でお弁当を食べていると、元春が何気なく思い出したという風に聞いてくる。


「そういやよ。勇者達ってどうなったん? あれから何の音沙汰ないけど」


「いま、ポーリさんがいる王都に向かってるところじゃないかな」


 フレアさん達がアヴァロン=エラを旅立って一週間、

 未だ魔王城につかないのかと聞いてくる元春に僕が卵焼きをつまみながら答えていく。


 フレアさんは銀星騎士団から得た情報を補完する為に、聖女という立場から王都で足止めを食らっているポーリさんと合流しようと、現在王都へと向かって旅を続けているところなのだ。


「でもよ。勇者ってペガサスだったっけかを持ってるんじゃなかったか、前にそんなことを聞いたことがあったような気がすんだけどよ。そいつを使えば、結構な距離でもすぐに移動できるんじゃないん?」


「ああ、あれね。実はあのペガサスは王国から借り受けていたものらしいから、例の事件でいいのかな。魔王城への乗り込んだ後、回収されちゃったみたいなんだよ」


 元春の言う通り、フレアさんはペガサスを持っていた。

 しかし、それは姫の救出の依頼を受けるその対価として王国から借り受けていたということでしかなく、表向き姫を救出する必要がなくなったとなった今、王国へ返却しなければならなかったのだ。


「はぁ、役立たなくなったらすぐポイ捨てとか、どこの世界も世知辛いね」


「いや、役に立たないって――」


 わざとらしくため息を吐きながら僕のお弁当箱にブロッコリーをパスしてくる元春。

 それはさすがに言い過ぎだと思うんだけど。姫の救出を期待した国から借りてるんだから、役目が終わったとなればいつまでも借りられるものでもないだろう。


 最大の脅威である魔王、いつ攻め込んでくるのかもわからない最強の敵を近場に抱え、少しでもそれに対抗する戦力を確保しようと、ルベリオン王国は国内で活動する名のある冒険者や探索者、傭兵などに、いろいろな餌を目の前にぶら下げて、一大戦力としていたのだ。


 だが、魔王という脅威(?)も去り、救出するべき姫もいなくなってしまった現状、いつまでもその対策にと雇った人間をそのままにしておけないというのは、民から税金を集める国として当然の選択なのかもしれない。


「でもよ。ペガサスが取り上げられたっつっても、魔法の箒とかあんじゃんか、あれを使えば同じくらい早く移動できんじゃね?」


 おっと、これは元春にしては鋭いご指摘である。

 しかし、そのアイデアも残念ながらちょっと難しい。

 僕は、数個のブロッコリーの代わりに、タコさんウインナーを一つ、強奪していった元春にジト目をむけながらも。


「魔素濃度の高いアヴァロン=エラならいいけれど、他の世界だと魔力の回復が遅いからね。魔石やドロップを使い潰すのは勿体無いし、もしもの時に魔力切れ――なんてことになっても怖いから、魔法の箒での長距離移動はきちんとした飛行計画みたいなものを立てやるんだよ」


「な~る。けどよ。もしもの時にって、空を飛んでんなら魔獣とかに襲われるなんてのは少ねーんじゃねーの」


「いや、敵は魔獣だけじゃないからね。元春はあの時いなかったから仕方がないけど、なんか向こうの貴族がゴタゴタしてるみたいだから、フレアさんも狙われるかもしれないから」


 そう考えると、フレアさんはよくも茫然自失のままで万屋で辿り着けたものである。

 まあ、鎧の壊れ具合からして、道中いろいろとトラブルに巻き込まれていたのかもしれないが、それも無意識に退けてきたのだろう。


 しかし、それでも大きな損害なくアヴァロン=エラまで無事に辿り着けたということは、無我の境地というか、あの状態のフレアさんの方がむしろ強かったのではないかという疑念が生まれてしまうのだが、

 まあ、それはそれとして――、


「はぁ、ちょっと前まで勇者ってもてはやされてても、目立ち過ぎたから斬り捨てられるとか、ヤダね~」


 と、そう言いながら元春は僕から奪ったタコさんウインナーを口の中に放り込む。


「あっちでもフレアさんがここにいる時の調子なら、悪代官みたいな人にとっては気に食わない人になるだろうからね。その関連でもフレアさんは危険人物ってみなされてるんじゃないかな」


「けどよ。勇者のあのピュアさなら、ふつうに便利な手駒として囲ってもよかったんじゃねーの」


 うん。普段のフレアさんの猪突猛進っぷりを考えると、元春の言う通り、適当におだてて自分の味方にしてしまうって手もない訳ではないんだけど。


「フレアさんにはティマさん達がいるからね。その辺は彼女達が頑張って警戒してたんじゃないかな」


「ああ、たしかにそうかもな」


 たとえフレアさんを籠絡したとしても、脇を固める彼女達を全員騙すことはできないだろう。


「しっかし、そう聞くと、いま勇者達が自分の国に帰るってのはヤバくね」


「うーん、どうなんだろ。一応、メルさんが探査系の魔法を持ってるし、新作のドローン型のゴーレムも貸し出して、連絡も取れるようにしたから、なんか危険なことがあったら連絡が来ると思うよ」


 目的が目的だ。どうせ面倒事に巻き込まれるだろうと、これを機会に細々と開発していた新しい魔導器や魔動機を実験台――もとい、支援品として出発の際にいろいろ持たせてみたのである。


 と、それを聞いた元春は「そうなんか」と菜飯になっているご飯を口いっぱいに搔き込んで、モムモムと咀嚼。そして、ここに来る途中、購買で買ってきたカフェオレで口の中のものを流し込み。


「そういやよ。魔法窓(ウィンドウ)を使った念話通信はどこまでも届くんか?」


「術式や専用のインベントリを設置しないとダメだけど。それさえきちんとしててくれたらどこからでも通信は届くよ。というか、賢者様の世界でも念話通信でやり取りしてたよね」


「そういやそだったな」


 携帯の基地局と同じように一定距離ごとに中継機を設置する必要があるのだが、それさえ守れば相手がどこにいても通信は可能である。

 まあ、次元の歪みが閉じちゃうとさすがにやり取りはできなくなるんのだけどね。


「だけどよ、あの〈インベントリ〉も、あれはあれで貴重なアイテムなんじゃねーの。そんなのどこにかは知んねーけど、適当なとこに設置したらやばくね?」


 貴重か貴重でないかと言ったら〈インベントリ〉は貴重な部類に入る魔導器だ。

 しかし、それは作成の手間とか技術とかいった意味での貴重さで、作ることができる人がいるなら、それほど貴重な素材を使わなくても作ることができるものだったりする。


 そもそも、オリジナルの〈インベントリ〉が賢者様の世界で市販されていることからして察して欲しい。


 それにだ。


「〈インベントリ〉自体に認識阻害や偽装の魔法がかけてあるからね。普通に設置してあるだけだとしても、たぶん石碑とか、そんな風にしか見えなくなってから滅多なことで盗まれることは無いと思うよ」


 持ち去られたところで使い方を知らなければ無用の長物、それにプラスして人の信仰心に浸け込んだ幻影魔法を仕込んであれば、そうそう持ち去ろうと考えるような人は出てこないのだ。

 弁当を食べ終わった僕がお弁当箱の蓋をパチンと閉めながらそう言うと。


「てゆーかさ。それってこっち側にも〈インベントリ〉を設置できねーの?

 そうすっとこっちでも魔法窓(ウィンドウ)が100%使えんだろ。かなり便利そうなんだけど」


「ん? 普通に設置してあるよ」


 当然ではあるが僕が一番長くいる世界は地球である。業務連絡なんかのことも考えると設置しない訳がないだろう。


「あれ、つーことはこっちでも魔法窓(ウィンドウ)からインターネットとか使えるようになってんの?」


「うん。それ以外にも念話通信とか使えるようになってるよ。

 まあ、〈インベントリ〉が設置されている線で結んだ一部地域ってことになってるんだけど、魔女の皆さんとか特殊部隊の皆さんとか、僕と――っていうか万屋と連絡を取るのに便利だからって、いろんな場所に設置してくれたんだよ」


 関係各位の自宅や仕事場、公共施設の一角に魔女さん達が管理する森など、アヴァロン=エラの存在を知っている人や組織の関係先にさり気なく置いてもらっているのだ。


「マジかよ。聞いてねーぞ」


 そういえば、こっち側だと基本的に携帯を使ってるから元春には伝え忘れていたかもしれない。


「ちょっと待て、だとしたらインターネットとかどうなってんだ。そっちの方がお得じゃね」


 箸先をこっちに向けながらちょっとヒートアップしてきた元春に僕は苦笑しながらも。


「本格的なサーバーを作ってたりするから、通信速度も早くなってるしね」


「おいおいマジかよ」


「ソニアがインターネットそのもの(・・・・)を使っていろいろと調べたみたいでね。〈インベントリ〉とか錬金術なんかを駆使してサーバーをでっち上げたらしくて、プロバイダの真似事みたいなことをしてるんだよ」


 とはいっても、インターネットの詳しい仕組みなんか、僕でも全く分かってないから、詳しいところまでは説明できないけどね。


「なあそれってよ。もう、携帯電話とか必要なくね」


「けど、元春の携帯って使いたい放題とかそういう契約になってなかったっけ?

 だったら別にどっちを使っても関係なくない?」


 もともと使い放題の携帯を持っているならそっちの方がこっちの世界(地球)では使いやすい。


「でもよ。個人的に見てー動画とか大画面で見てーじゃんかよ。大迫力で楽しみてーじゃんかよ」


 はてさて、その個人的に楽しみたい動画とはどんな動画なのか、詳しくは聞かないけど、たしかに動画などを見る時は画面の大きさが調節できる魔法窓(ウィンドウ)が便利であることは間違いない。


 しかし、魔法窓(ウィンドウ)はあくまで魔法技術を使ってでっち上げたもの、だから、簡単ではあるけど身分保障が必要なページなどなど、場合によってはアクセスはできても使いづらいページもあったりするのだ。


「なんか、よくわかんねーんだけどよ」


「う~ん。取り敢えず、こっち(地球)側では自分の端末があった方が便利だよって憶えておけばいいと思うよ」


 僕だって詳しいところまではよくわからないのだから、そういうものとして理解するしかないのだ。


「そうなんか――、

 はぁ、エロ見放題だと思ったんだけどなあ」


 ああ、あえてそこには触れていなかったのに、わざわざ自分から自爆していくのは元春のお家芸だろう。


 まあ、ここにはマリィさんはいないからお仕置きされないから元春にとっては物足りないかもしれないけどね。


「全く、変なページに繋げてウィルスに感染しないように気をつけてね」


 たしかあれは中学生に入って少しした頃のことだったかな。元春が変なページにアクセスして、消しても消してもウィンドウが次々にポップするなんて緊急メッセージを夜中に連打してきたことがある。

 その時にはパソコンに詳しい友人の一人のアドバイスによってどうにかなったのだが、さすがに魔法窓(ウィンドウ)のことまでその友人に解決してもらう訳にもいかないだろう。


「そういやよ。セキュリティといえば、魔法窓(ウィンドウ)のセキュリティはどうなってんだ。

 俺、そんなこと気にしないで向こうで使ってたんだけどよ」


 たぶん、アヴァロン=エラで賢者様と一緒に怪しいサイトめぐりとかをしてたんだろう。今更ながらにそう心配する元春だけど。


魔法窓(ウィンドウ)の方はオーナー(ソニア)がインターネット用に組んだ〈虫喰い(バグイーター)〉の魔法と、秋頃のヴァージョンアップで追加した電子精霊の防御で物理的にシャットアウトしてるからね。滅多なことじゃウィルスに引っかかることはないよ」


「電子精霊?」


「ネットの中にエレイン君が存在するって考えればいいかな」


「なんかもう未来の世界になってね」


 うん。僕もそう思うよ。


「つかよ。それならむしろ一枚一枚の〈メモリーカード〉にスクナみてーな原始精霊を搭載して管理させた方がいいんじゃね」


「ああ、それは面白いかもしれないね」


 それがうまくいけば、アニメやゲームの設定みたいに一人一人の携帯に精霊がナビゲートとしてついてくれるなんてシステムも夢じゃないのかもしれないね。

 元春にしてはナイスアイデアだから、これはソニアに相談しておくとしよう。

 僕は珍しくいいアイデアを出してくれた元春に『ウィンナーを奪われた件はこれでチャラにしてあげるよ』と密かに思いながらも、残るお弁当を片付ける元春を横に秘匿モードで魔法窓(ウィンドウ)を展開、元春のアイデアをメールにしたためソニアに送信しておくのだった。

◆個人的にはお弁当とカフェオレの組み合わせはないと思っています。

 しかし、ご飯が主食のお弁当でもパックなんかのカフェオレって人は意外といるんですよね。

 友人に言わせると「ポテチとコーラのようなもんだ」ってことなんですが、たぶんそれは間違ってると思います。

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