幕間・夏はやっぱりかき氷
◆お盆休みの特別編を緊急投稿。
作中時間があまりに季節外れ(二月)だということで、気分転換に書いてみたSSです。
ちょっとした暇潰しに読んでいただけるとありがたいです。
それはある暑い夏の日のことだった。
元春と正則君がよいせよいせと店に運び込むのは無骨なシンプルな鋼鉄の機械。
どこか拷問器具にも見える運び込まれたそれを見て、マリィさんがたぷり腕組み、顎に手を添えて言うのは、
「これはなんですの?」
「かき氷機ですね」
「かき氷といいますと虎助がたまに買ってくる。あのカップのアイスのことですね」
次郎君の返答にマリィさんがイメージしたのは昔懐かしいカップのかき氷アイスのことだろう。
しかし、そのイメージは微妙に間違っている。
「おっとマリィちゃん。このマシンを舐めてもらっちゃ困るぜ」
「どういうことですの?」
「マリィさんがおっしゃっているのはあくまでアイスのかき氷。このプロ仕様のかき氷機で作ったかき氷は一味違うんです」
次郎君のその説明に、マリィさんとしてはどうも納得が行かないという様子なのだが、まあ、こればっかりは実際に食べてもらわないとわからない。
なんていうか、プロが削ったそれは、もう、フワッフワのまるで雲を食べているような気分すら味わえるものなのだ。
とはいえ、それはあくまでプロが削った氷であって、
「まあ、僕達が削ってそこまでうまくいくとは限りませんけどね」
「いや、お前ならできると思うぞ」
そんな無茶な。サムズアップする正則君に僕は微妙な視線を向けるも。
どうも、正則君を始めとした地球組の期待が異世界常連組にも伝染してしまったみたいだ。
「よくわかりませんが楽しみにしてますわよ」
「……ん、楽しみ」
「俺としちゃあ、そこまで期待するのはどうかと思うんだが」
「あら、私は楽しみよ。虎助達の世界のデザートは美味しいから、ねぇアニマ」
「そうですね」
「ま、頑張って作ってくれたまえ」
「はいはい」
と、どうやら僕の味方は賢者様だけみたいだ。
ちなみに、今回使う氷はかき氷機が手に入ると聞いてから作り始めている特別なもの。
これは以前、テレビかなにかで見た話だが、どうも氷をゆっくり作ることで、かき氷に適した不純物や気泡の少ない氷が作れるそうなのだ。
まあ、不純物や気泡なんてものは、魔法やアクアに手伝ってもらえばどうとでもなることではあるのだが、
せっかく工房に冷蔵施設なんてものがあるんだからと、その機能を使って、ゆっくりと氷を作ってみたのである。
と、そんな氷をエレイン君に運んできてもらってマシンにセット。いざ削りの作業に入る。
シャッシャッシャッと軽快な音を立てて削れていく氷。
ちなみに、削っているブレードは僕が研ぎ直したものをソニアに調整してもらったもので、ソニアによると、最適の角度にセットされているとのことである。
そして、一つ二つと氷の山ができたところで、
「さて、なにをかけますか?」
僕が聞くと、
「俺はやっぱブルーハワイだな」
「俺も俺も」
「僕はスイでお願いします」
「私は宇治金時をお願いしますの」
「……チョコミルク」
「俺はこの酒をぶっかけたヤツで頼むわ」
「じゃあ、私は万屋のさくらんぼのジャムを使ったものをお願いしようかしら」
「ホリル様と同じものでお願いします」
元春に正則君、次郎君、マリィさん、魔王様、賢者様、ホリルさん、アニマさんの順番でご注文が飛んできて、僕はかき氷マシンの一部と化したベル君に手伝ってもらいながらも、そのすべてのご注文に答えていき。
「「あったま痛っ!!」」
「二人共、落ち着いて食べてくださいよ」
「これは、予想以上の美味しさですわね」
「……ん」
「たまにはこういうのもいいもんだな」
「そうね」
「はい。マスター」
と、それぞれに自分のかき氷を楽しんでくれているみんなを笑顔で見ながら。
さて、僕は何を食べようか――、
そう思い、ベル君に削ってもらった氷を片手に並べたシロップに手を彷徨わせた。