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ぼくがかんがえたひっさつわざ

◆今日はちょっと早めの投稿です。

 フレアさんとメルさんがバンダースナッチのディストピアに、ホリルさんとアニマさんがスケルトンアデプトのディストピアにと、それぞれがそれぞれのディストピアに(こも)った翌日、改めて万屋で対面したフレアさんとホリルさん。


「さて、バンダースナッチと戦ってみて、自分に足りないものを理解できたかしら」


「ああ、ホリル殿の言う通りだった。俺はまだまだ未熟だったようだ。バンダースナッチの相手も、途中までは出来ていたのだが、ある数を境に手も足も出なくなってしまった」


 僕も暇を見てはディストピア内部の様子を見ていたから知っているけど、十、二十の数が相手なら、フレアさんとメルさんも有利に戦いを進めていた。

 しかし、そこからバンダースナッチがその数を増やしていくと、徐々にフレアさん達は劣勢になって、最終的には、二人が同時に死亡判定されてディストピアの内部がリセットされるまで攻撃を回避するのがやっとになってしまっていたのだ。


 まあ、普通に考えて、数十もの魔獣を二人だけで対応するのが無茶というものだが、そこは魔法も存在するファンタジーな世界。ある程度、敵の攻撃を持ち堪えられる方法があって、その間に大技を発動させることができさえすれば一発逆転の目だってある。


 つまり――、


「単純に必殺技とか、得意技とかそういうのはないのかしら?」


「得意技というならホリル殿との戦いに使用した初撃がそれになるのだが――」


 それは風の魔法を体に受けて放つ突進技。名前は確かフレアスラッシュといったかな。なんかどこかで聞いたような微妙な名前の必殺技なのだが、ホリルさんの評価は次のようなものだった。


「名前以外はなんか地味ね。攻撃範囲もそんなに広くないでしょう」


 さすがはホリルさんバッサリです。

 しかし、攻撃範囲の事を言うのなら、


「魔法剣に範囲攻撃みたいなものはないんですか?」


 フレアさんの実績には【魔法剣士】という実績がある。

 あれはエルブンナイツの守護精霊ディタナンとの戦いだったハズだ。魔法剣とは少し違うものの、マリィさんが剣を媒介にした炎の範囲魔法を使っていた。まあ、【ウルデガルダの五指】なんて呼ばれていたりするマリィさんレベルの遠距離魔法攻撃はともかくとして、アクションゲームにありがちな回転斬りとか、広範囲に影響を及ぼす魔法剣とか、フレアさんもそんな技を使ったのならバンダースナッチの猛攻をも耐えるのことができたのではないか。僕はそう聞くのだが、


「いや、魔法剣というのなら、ホリル殿に使ったフレアスラッシュがその魔法剣を駆使した技なのだが」


「えっ!?」


 どうやらフレアさんが初手に好んで使うあの突進技(フレアスラッシュ)こそが魔法剣だったみたいだ。

 詳しく聞いてみると、フレアスラッシュには〈追い風(フォローウィンド)〉という風の移動魔法と剣速が上がる効果がある風の魔法剣が使われているそうだ。

 技の仕組みとしては、風の魔法と風の魔法剣によって移動速度と剣速をアップさせての薙ぎ払い、それがフレアスラッシュの全容なのだという。

 なんていうか、フレアスラッシュというよりも、ウィンドスラッシュとかそんな名前が似合いそうな技なんだけど。


「でも、そういうことでしたら、風の魔法剣でかまいたちを飛ばすとか、むしろ魔法特性にあった高威力の魔法剣を使った方がいいのでは?」


「いや、そうはいうが、俺は魔法を遠くに飛ばすのが苦手なのだ。それは魔法剣も同じことでな」


 そういえば、フレアさんはホリルさんに負けず劣らずのフィジカリスト(のうきん)でしたね。

 最近は水の散弾もだいぶ扱えるようになってきたけど、結局それだけで、魔法剣にそれを応用できるような器用さはまだないといったところかな。


「あと、俺が得意な属性魔法は水だからな。純粋に威力を出すという点においてはあまり適正がないのだ」


 聖槍の時もそうだったけど、フレアさんの概念には水を剣にまとっても意味がないと、炎の魔獣に特化したものだという認識があるようだ。

 まあ、フレアさんの言う通り、ただ剣に水をまとっただけじゃ意味は無いというのは分かるけど。


「例えば、水の初級魔法の一つ〈水棘(ウォーターニードル)〉の応用で剣に棘を生やして攻撃範囲を広げるとか、〈水縛(ウォーターバインド)〉魔法の応用で行動阻害に特化した魔法剣にしてしまうとか、それに範囲攻撃を考えるのなら、〈間欠泉(ウォーターゲイザー)〉などの魔法を応用した魔法剣にしてみたら飛びかかる敵くらいには対応できるのでは?」


 パッと思いつくだけでも三種類、僕が水の魔法剣に関するアイデアを披露したところ、唖然とした顔が二つ。


「どうかしましたか?」


「よくもまあそんなアイデアがポンポンと出てくるわね」


 ホリルさんはそう言って呆れたような顔をするのだが、こういった魔法運用というものはアニメやゲームにありがちな技だったりする。

 まあ、いかにもな剣と魔法の世界に生きるフレアさんは当然として、ホリルさんの世界も例の神秘教会が幅を利かせている世界だから、そういう娯楽作品が少ないだろうからと、各々の世界の文化事情は横においておくとして、


「それで、今のアイデアは出来ませんか?」


 聞くと、フレアさんは「ふむ、やってみよう」と即実践することに。

 訓練場に移動して、巻藁相手に僕が出したアイデアに沿って魔法剣を試していくのだが、


「ニードルはイメージの問題かしら、剣のリーチが伸びるような変化は見られないわね。

 あと、棘を生やす方向が悪いのかしら、斬った時に動きが引っかかる感じがあまり良くないわね。

 次にバインドの魔法剣なんだけど、こっちは普通に使えそうではあるんだけど、魔法使いとしてのレベルが低いからよね。拘束時間が短か過ぎるわ。

 最後のゲイザーは水柱が小さすぎるわね。これだとちょっとした目隠しにしかならないわ」


「つまり、俺の必殺の剣であるフレアスラッシュには届かないと」


「…………そうね。魔力の扱いを鍛えれば威力も上がるでしょうけど、今のところはあっちの方が技としてのランクは上ね」


 なんでそんなに自慢げなんだろう。それぞれの技の評価を聞いた上でのフレアさんの結論に、ホリルさんが残念なものを見るような目をフレアさんに向けながらもそう纏める。


 しかし、ホリルさんがそうしたくなる気持ちは分かりますけど、そこで諦めてしまってはフレアさんの成長に繋がらない――ということで、


「とはいっても、まだ始めたばっかりですしね。これから練習していけば、こっちが主力になっていくのでは?」


「何事にも近道は無いということだな」


 ここは考え方を変えてもらわないと、僕が入れたフォローに対し、はてさて本当に理解しているのだろうか、フレアさんが鷹揚に頷いて、


「でも、ちょっと思ったんだけど、魔法剣って他の人の魔法とかは剣に乗せられないのかしら?」


「どういうことだ?」


 僕の言葉を受けてだろうか。

 いや、単純に思いついたから言ってみただけかな?

 残念そうなジト目から一転、ため息混じりのホリルさんのちょっと思いついたとばかりの発言に、フレアさんが純粋に疑問符を浮かべる。


「もしかして、一人ではダメなことも二人ならって感じですか?」


「そうね」


「つまり、魔法剣を付与魔法のように捉えるということなのだな」


 というよりも魔法剣そのものが付与魔法の原型か派生なのでは?

 フレアさんの問い掛けに、ふとそんな考えも思い浮かんだのだが、そこを掘り下げるとまた長くなりそうなので、その辺は後でソニアに聞いてみようと、取り敢えずその疑問は棚上げにして、


「まずは出来るかどうか試してみませんか」


「そうだな。ならばメルに――」


「いや、ここは僕がやりますよ。メルさんの魔法は強力ですから」


 メルさんが使う攻撃魔法はほぼ全てが毒の魔法だ。使う相手がフレアさんだということを考えると、メルさんが魔法を誤射するなんてことはないと思うのだが、もしも魔法剣が上手く発動しなかった場合、フレアさんが毒の餌食になってしまう可能性もある。

 そうなったらそうなったで万屋(ウチ)のポーションを使えばすぐに治ると思うのだが、余計な出費を使うなら僕が相手を務めますよと付与役に立候補。

 少し恨めしそうなメルさんの視線に晒されながらも、フレアさんに少し離れてもらい。


「そういえば、アナタが魔法を使っているところをあまり見たことがなかったかもしれないわね」


「まだまだ初級レベルですからね。このアヴァロン=エラでの実戦で使うとなるとディロックの方が即効性もあって威力が高いですから」


「たしかにね。私もまだ精霊魔法は実戦投入はできてないからね」


 最近になって精霊魔法を使えるようになってきたホリルさん。

 だが、それは未だに精霊の数が多く、魔素濃いこのアヴァロン=エラくらいでしか使い物にならない魔法であって、まだまだ実践での武器として組み込むようなレベルに達していないのだ。


 と、ホリルさんのふとした呟きから、僕がホリルさんとそんな会話を交わしている間にもフレアさんの準備が整ったみたいだ。


「では、いきますよ」


「うむ。いつでもいいぞ」


 バッチコイと言わんばかりに剣を構えるフレアさん。

 僕はその足元付近を狙って魔法を放つ。


「〈氷筍(アイスゲイザー)〉」


 魔法名を唱えると地面から飛び出す氷の槍。

 だが、それは、すぐに魔力の粒となって陽だまりの剣にまとわり付き、淡くオレンジに輝く刀身を凍りつかせる。


「できたな」


 そう言って、大剣と見紛う氷の刃をまとわりつかせた陽だまりの剣を掲げるフレアさん。

 しかし、今更だけど陽だまりの剣に氷の魔法って、相反する力なんじゃないかな?

 僕は今更ながらにそんなことを思いながらも。


「意外といい感じね。

 でも、虎助は氷の魔法の使い手だったのね。ちょっと意外かも」


「いえ、僕本来の魔法特性は〈誘引〉という属性ですよ。

 でも、それだと魔法剣として少し分かり難いかなと思いまして、次に使い慣れている氷の魔法(こっち)にしてみました」


 本来、魔法特性のアレコレはあまり明かさない方がいいのだが、ホリルさんにはお世話になっているし、フレアさん達に関しては今更だ。

 それに、この二人に関して言うのなら修行やらなんやらに付き合う関係でいずれバレることである。だから特に隠すことでもないとばかりにホリルさんからの声にそう答えると。


「誘引なんて、また珍しい魔法を使うのね。

 いえ、だからここんなところでお店を開けてるのね」


 意味深にそう言うホリルさん。


「ああ、それんですけど。ウチのオーナーにも似たようなことを言われて勧誘されましたね」


 僕はそんなホリルさんの言葉に『そんなこともあったなあ』と、その時のことを思い出しながらも、フレアさんには全く興味がない話だったみたいだ。


「しかし、こうなると逆に悩ましいな」


「悩ましいというのは?」


「虎助は知っていると思うのだが、俺の仲間には本格的な攻撃魔法の使い手がいなくてな。せっかくこういう方法が見つかっても、それを利用することが難しいと思ってな」


 確かに、フレアさんのパーティには、魔法使いとしてベーシックな四大属性などの魔法をメインに使っている人はいない。

 まあ、それは覚えようと思えば今からでも覚えることが出来る魔法ではあるが、いまここで求められるのは即効性。

 それだったらフレアさんが新しい魔法剣を覚えた方が早いのではという結論になってしまうのだ。


 しかし、即効性というのなら――、


「ディロックを使うのはどうでしょう?」


「ディロックとは虎助がよく使っている魔法石のことだな。

 虎助はあの魔法を魔法剣に取り込めないかと考えたのか」


「はい、ディロックを使えば、誰にでも強力な魔法が使えますから」


 これならロクな魔法が使えないフレアさんでも、簡単に魔法剣を発動させることが出来る。

 そんな僕の代替案に、フレアさんは剣に纏った氷を一時解除、陽だまりの剣を鞘に収めて「それはどうなんだろうな」と考え込むような仕草を見せるが、最終的にやってみなければどうにもならないということで実験をしてみることに。


 因みに、今回は安全面とフレアさんの魔法特性を考慮して水のディロックで実験してみることにした。


「では、行くぞ」


 ディロックを受け取ったフレアさんが陽だまりの剣を片手にディロックを発動させる。

 そして、まるでテニスのサーブをするようにディロックを空中に放り投げて一刀両断。

 魔法そのものを剣に宿そうとするのだが、


 バッシャ――ン。


 ディロックの切断と同時に盛大に水柱が立ち上がり、その中心にいたフレアさんは空中に舞い上げられてしまう。


「フ、フレア様――!?」


「失敗ね」


「ですか――」


 慌てるメルさんを他所に僕とホリルさんが空高く舞い上がるフレアさんを目で追って、残念そうに言葉を交わす。

 しかし、失敗と判断するのは早計だったみたいである。


「いや、魔法剣は完成しているぞ」


 頭上からフレアさんの声が降ってくる。

 どうやら、ディロックの魔法は喰らったものの魔法剣の発動はきちんと行えたみたいだ。

 しゅたっと華麗に着地を決めたフレアさんが、陽だまりの剣を掲げ、きちんと魔法剣が完成していることを教えてくれる。


「ええと、これはどういうことかしら?」


「もしかすると、それぞれの技量によって魔法剣で受け止められる限界があるのではないでしょうか?

 そもそもディロックの魔法は魔法剣を前提として使われるものではありませんから、その辺も関係しているのかもしれませんね」


 魔法剣もディロックも発動するという結果にホリルさんが疑問符を浮かべ、僕が手を顎に推理する。


「確かに、魔法剣で敵の攻撃を受けたりすることはできるという話を聞いたことがないわ。

 まあ、私の世界にそういう達人がいないだけなのかもしれないけれど」


 はたして、達人とはいえど魔法剣でそんな芸当が出来るのか。

 それは実際に魔法剣を極めてみた人でないかぎり分からないことではあるが、基本的に魔法剣というものは自分の発動させた魔法を剣に乗せる技術である。

 だから、自分の――もしくは自分に協力してくれる誰かの強力なくして、それは使うことはかなり困難を極めることなのではないのか。

 僕はこの実験結果からそう結論し。


「しかし、ある程度のものならば吸収できるのではないか」


「そうですね」


 しかし、フレアさんとしては魔法の全部は無理でも一部ならば魔法剣として吸収できるだけでも有用だと、少々乱暴な使い方であるのだが、本人が納得しているならそれでいいと僕が頷いて、


「それで、このディロックはアイテムとして店で売り出しているのだな?」


「はい。ありますよ」


 とはいえ、あまり危険なディロックを売り渡してしまったらメルさんはもとより、他の二人も心配してしまうだろう。


 そうなると、ここは僕達の出番かな?


 僕はすぐにディロックを売ってくれと言ってくるフレアさんに『取り敢えずこれを――』と店売りの雷のディロックを幾つか渡し、それと同時にソニアへと魔法剣を前提としたディロックが作れないかと打診してみる。


 とはいえ、それも確実にとは行かないだろうし、ソニアにも都合というものがある。

 取り敢えず、さっき嫉妬の目線を向けてきたメルさんに、幾つか魔法剣と相性が良さそうな魔法を発動させることができる魔具を作ってあげるべきだろうか。

◆フレアが使う魔法剣に関する簡単な解説。


 フレアが使う魔法剣は、剣そのものに魔力を流すことによって、魔法を吸着させる技術となります。

 ちょっと強引な説明になりますが、フレアが魔力を流すことによって、剣そのものが魔法を吸い付ける磁石のような状態になり、魔法剣という現象を起こしているといった感じでしょうか。

 そして、その吸着には魔力的な相性があって、フレアと長く過ごしている人ほど、吸着がしやすくなっています。

 故に、敵からの攻撃や、決められた法則にしたがって魔法を放出するディロックとの相性は最悪です。

 ディロックの魔法の一部を吸着できたのは、術者の意思が介在せず、どんな魔法なのか事前にきちんと説明されていたからです。

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