魔王様の新装備
くれなずむ空の下、万屋の裏に広がる工房の一角で、僕と魔王様が周囲に大量の魔法窓を浮かべ作業をしていると、家に帰る前に挨拶でもしに来てくれたのか、元春がやって来きて、
「いつの間にか居なくなってるのかと思ったら、こんなところで何やってるん?」
「ああ、ちょっとね。魔王様の装備を作ってるんだよ」
そう言って僕が見せるのは魔王様の立ち姿が映る魔法窓。
黒い指ぬきのグローブを装備してファイティングポーズを取っている魔王様だ。
「ああ、勇者との修行に使うグローブか?」
「それなんだけど、魔王様はガン=カタがやりたいみたいでね」
「……ん」
頷きながらも魔王様は近くに浮かぶ魔法窓を魔王様が映る魔法窓にドロップ。魔法銃の装備を追加して、ズイと元春の間の前にその魔法窓を持っていく。
「な~る。こりゃ浪漫だよな」
因みに魔王様がイメージするガン=カタは、本家である映画の方ではなく、某有名スタイリッシュアクションゲームの主人公がするようなガンアクションだ。
僕はそんな魔王様の要望を元春に説明しながらも、現実に存在する銃やゲームなどで描かれるデザインに拘った銃、様々な銃器が表示された魔法窓を元春の手元に飛ばす。
すると、それにぱっと目を通した元春は数枚の魔法窓を魔王様の立ち姿が表示される魔法窓にドロップし直し。
「だったらベーシックに穴開きグローブとハンドガンの組み合わせの一択じゃね」
まあ、普通にガン=カタをやるならそうなるよね。
「でも、ここは魔法がある世界だから、例えば僕の〈誘引〉を使って、自分が持っているマジックバッグの中からどんどんと新しい武器を取り出して、換装していくみたいな戦い方もできたりするんだよ」
「おおう。それ、ちょっちカッコいいな」
うん。大量の銃をどこからともなく手元に引き寄せて、飽和攻撃で敵を圧殺する。元中二病患者である元春が好きそうなシチュエーションだ。
「とはいっても、それにも色々な選択肢があってね。それ以前に使う装備を決めておかないとこんがらがっちゃうから、ハンドガンにショットガン、小さめのアサルトライフルとか、いろいろ作って試してるんだよ」
僕が適当に店から持ってきた魔法銃と急遽作ったアサルトライフル型の魔法銃、そして、自前のマジックバッグと〈誘引〉の魔法を使って実演してみせたところ。
「でもよ。そんなに作って金の方は大丈夫なんかよ。店に置いてある銃でも普通に金貨何枚とかそんな感じの値段だろ」
店売りの最低品質の魔法銃でも十万は軽く越えてくる。それを大量に用意するとなると、それこそ大量の資金が必要になってしまう。
だから、元春の指摘は尤もなんだけど。
「正直言うと店売りの銃なんかは、単にあんまり武器が流通しないようにってわざと高くしてあるからね」
「ああ、ここの武器で他の世界で迷惑かけるのが申し訳ないってアレか」
「だね。基本的に店頭に出してる武器の場合、殺傷力がなかったり、大きいリスクがあるものばかりだから――、
とはいっても、そもそも使い方によってはどんなものでも武器になるから、そこまで厳しく制限している訳じゃないけどね」
そう、自分の売り出したものが犯罪に使われてしまったら――なんて話はあくまで分かりやすい武器に対する制限だ。例えば僕達が暮らす日本でも場合によっては手に入れられるナイフや打撃武器、防犯グッズを強化したようなディロックや威力を抑えた魔法銃なんかはそれに当て嵌らないと、万屋でも普通に売っていたりする。
しかし、それも使いようによっては強力な武器になるもので、それを抑制する為に特に麻痺弾など、対人戦でも強力な威力を発揮する魔法銃なんかは高めの価格に設定しているのだ。
だが、それはあくまで一般のお客様に限ったことであり、魔王様やマリィさんなど、常連客の皆さんには、原価からちゃんと計算した価格で売り渡していたりするのだが、それだけではなくて、
「因みにだけど、元春が言ってた資金面の問題は別に大丈夫だよ。魔王様はミストさん達、アラクネさんが作る服とか、リドラさんの涙とかも買い取ってるからね」
「……みんな頑張ってる」
とはいえ、豊富な資金力にあぐらをかいて、変なものばかり作っても申し訳ない。
だから、先ずは試作品としてミスリルや魔鉄鋼といった、このアヴァロン=エラですぐに手に入る魔法金属をベースにしたもので揃えるつもりだ。
まあ、銃といえば黒というイメージがあるし、そこを魔法金属として名高いミスリルをメインにすることで錆止めの塗装や黒錆でコーティングする手間を省き、コストダウンに繋げようと考えている。
「それで、魔法銃に組み込む魔弾はどうしましょうか」
魔法銃という武器において、なにより大事なのはそこに込められる魔法式。
つまり、どんな魔弾が撃てるかだ。
それをどうするのかを訊ねると、魔王様は、
「……虎助が使ってる麻痺の魔弾がいい」
魔王様の性格を考えると肉体的なダメージが出るような魔弾は選ばないのは当然か。
しかし、麻痺の魔弾一辺倒では耐性を持った相手が出て来た場合に困ってしまう。
だから、物理的な拘束効果を持った魔弾とか、麻酔弾みたいなものもあるといいのではないかと聞いてみると。
「……ん、それは虎助にお任せで」
魔王様としては魔弾はすべて僕にお任せで、自分は受け取った魔法銃を上手く操る方に時間をついやしたいみたいだ。
ということで、僕は「了解しました」と、取り敢えず、素体となる魔法銃の設定を決めてしまおうと、魔法窓を開くのだが、元春がさっきからずっと入り込む隙を伺っていたのだろう。ここぞとばかりに手を上げて、
「後よ。グレネードでふっとばすとか良さげじゃね」
成程、ノックバックに特化した魔法銃か。
たしかにそれはあった方が便利なのかもしれないな。
風系の魔法とか、データベースにある魔法式の組み合わせで割と簡単に作れるだろうし、なんならソニアに新しい魔法を作ってもらってもいい。
でも、それを込める魔法銃がグレネードとかになると、既にガン=カタでもなんでもないような気がするんだけど……。
いや、大群相手とかには必要になるかな?
魔王様の場合、ご自分の世界でも使うだろうし、対魔獣用にきちんと攻撃力を持った魔弾を用意しておくのもいいのかも。
しかし、二丁のグレネードを構えて絨毯爆撃とか、小柄な魔王様にはあまり似合わないような気がするけど。
というか、ノックバック武器として使うならショットガンの方が使いやすいんじゃないかな。
まあ、その辺りは実際に作って使った後でないと確実なことは言えないか。
「あとよ。ガン=カタもいいけどよ。そういうアクションがやりたいなら日本刀も忘れちゃ駄目だろ」
「たしかに、日本刀はそういうアクションで定番だよね。
あとクレイモアとかみたいな大きい剣とかですかね」
僕がそう水を向けると魔王様がコクコクと頭を揺らして、元春が剣を肩に担ぐようなポーズをとり。
「背中に担ぐヤツな」
「でも、そういう武器は扱いが難しいから、普通に作っても魔王様に扱えるかが問題だよね」
ものがものだけにただ振り回すだけでも大惨事。
魔王様に限って言えば下手な場面でそれを使うなんてことは無いと思うけど、万が一の可能性も無きにしも非ず。
どうしようかな。
他に格好良くかつ安全な武器はないだろうかと、僕がある意味で武器という道具を完全に否定するようなことを考えていると、元春がいいこと思いついたとばかりに。
「そうだ。空切みてーな。相手を怪我させねー武器は作れねーのか」
「あれは僕専用に作られている武器だから、他の人にはなかなかね」
空切はある意味で僕専用というか、たぶん母さんにも装備できると思うんだけど、使い手にちょっとした条件を求める聖剣みたいな特徴がある。
だから、魔王様でも扱いに困る武器になってしまうだろうと、そんな話をしたところ、元春は「う~ん」と腕を組み。
「だったらよ。俺の如意棒みたいな感じで作ればいいんじゃね」
その手があったか。
日本刀に比べると見た目がイマイチだけど、実用面なら打撃武器の方が使いやすい。
それに、如意棒のギミックを組み込めば数種類の形の武器を一纏めにするのも出来るだろうし、よりスタイリッシュな戦い方が出来るようになるんじゃないだろうか。
素材を厳選してやれば、見た目だけを格好良くて、打撃に特化した武器も作れなくないと思うし。
しかし、こうなるともう、いっその事、僕の空切みたいに殺傷能力を完全に捨てて、魔法の付与効果に特化した武器を作ってみるっていうのはどうなんだろう。
例えば、ただ衝撃を発生させる魔法を付与したノックバック専用クレイモアとか、頭部への蓄積ダメージで確実に気絶状態に持っているける効果を持ったピコピコハンマーとか、武器そのものに役割を持たせてやれば、同時に使う魔法銃と合わせていろいろ面白いことが出来るのではないだろうか。
ん? だったら、魔法銃も変形式の方が用意する数も減るのでは?
いや、こっちは数種類の魔弾の魔法式を刻み込まないといけないだろうし、魔法獣としてのギミックも仕込まないといけないしで難しいのかな。
元春の何気ない一言をきっかけに、いろいろなアイデアを思い浮かべる僕。
だが、最終的には使う本人の要望を聞くのが一番だと思い。
「魔王様はどんな武器があったら面白いと思います」
「……ガントンファーも欲しい。銃と打撃でカッコいいから」
訊ねる僕に「むふー」とややテンションを上げる魔王様。
そして、元春がニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべ。
「お、マオっち、渋いところ攻めてくるね~」
渋いところって、どっちかっていうとイロモノっていう印象だけど。
まあ、トンファー自体はかなり有用な武器として警察も使っていたりした武器だから、元春の言うこともあながち間違いではないのかもしれないけど。
僕は若干考えを脱線させながらも、結局、その後、元春が『晩御飯はいらないの?』と家から呼び出しを食らうまで、使用上の安全性を第一に考えながらもガントンファーをベースにして武器のアイデアを煮詰めていって――、
翌日、フレアさんとの訓練で実戦投入してもらうのだが。
「ちょっとやり過ぎちゃいましたか?」
「いや、これはちょっとなんてレベルじゃねーだろ。勇者がボコボコじゃん」
「あの、二人共、これはどういうことですの。こんな武器があるというのは、私、聞いていませんの」
そして、魔王様の新装備を目の当たりにしたマリィさんに昨日のことを問い詰められ、「なぜそんな楽しそうなことに誘ってくれませんでしたの」と怒られ「それならば私にも試してみたい案がありますの」と、魔王様の装備が更にパワーアップしてしまうことになるのだが、それはまた別の話。
◆ちょっとした補足
魔法窓による着せ替えシステムはゲームにありがちな装備画面を思い浮かべてください。魔法のアプリによってメイン画面を設定、そこに装備品に設定した写真を重ねると自動で装備舌状態を表示するという結構高度な魔法式となります。




