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ティマ、課金する※

 さて、フレアさんに水属性の魔弾を詰め込んだ魔法銃を渡したところで、僕達は万屋へと戻ってきていた。ティマさんが〈スクナカード〉に興味を持ったからだ。

 因みにフレアさんはここ数日の廃人プレイ(?)で落ちていた体力を取り戻す為に、奥の和室でマールさんの生命の果実をメインにしたミックスジュースを飲んでいる。

 ティマさんはそんな元気にジュースを飲むフレアさん様子に目を細めながらも、僕がカウンターの上に並べられた〈スクナカード〉を手にとって。


「ふぅん。一言に〈スクナカード〉って言ってもいろいろあるのね」


「はい。使ってる金属がいろいろありまして、その素材によって随分と値段が違いますから気をつけてくださいね」


 自分が手する〈スクナカード〉にカウンターの上の〈スクナカード〉。それらに視線を滑らせるティマさんは、僕が〈スクナカード〉の料金表(ウィンドウ)を提示すると、それを流し見て、「ん?」と首をひねって訊ねてくるのは――、


「高いのと安いので随分違うけど、これはどういうこと?」


「もともと金属の価値が違うことが大きいのですが、上位魔法金属製のカードは、オーナー自らが一枚一枚魔法式を刻み込んだりしていますから、その手間賃ですかね」


 このやり取りはもう何度も繰り返してきたことだ。ティマさんの質問に僕が簡単にではあるが〈スクナカード〉の料金設定に冠する説明をする。

 すると、ティマさんはまた「ふぅん」と料金表に目を落として、オリハルコン製のカードとミスリル製のカード、そのどちらを買うのか迷うように手の平の上でもて遊び、取り敢えずミスリル製のカードを買って様子を見ることにしたみたいだ。

 すぐにお会計をして、さっそくスクナを生み出そうとする一方で、


「メルさんはどうしますか?」


「私も一枚もらう」


 僕がティマさんの傍ら〈スクナカード〉の料金表を見るメルさんに訊ねると、メルさんは迷うことなくミスリルのカードを選択する。

 さすがに魔法職でないメルさんとしては、金貨五十枚にもなる高級カードは最初から選択肢に入らないみたいだ。

 しかし、体力の回復をと和室に引っ込んだフレアさんについて行かなかったことからして〈スクナカード〉に興味があったのだろう。

 心なしかそわそわしているご様子のメルさんはミスリルの〈スクナカード〉を受け取って、ティマさんに習うようにカードに魔力を流す。


 すると、そのタイミングでティマさんの〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉が完了したみたいだ。黄色みがかった魔力光が店内に迸り、その光の中から小鳥型のスクナが飛び出してくる。


「おお、鳥だな。つか、なんて名前だっけかこの鳥」


「ハチドリですわね。どんな特技を持っていますの」


「特技? それってどうやって確認すればいいの」


 元春の疑問に答えるマリィさん。

 その声を耳にしてだろう。ハチドリ型のスクナを指先にとめたティマさんが聞いてくる。


「〈ステイタスカード〉とそんなに変わりませんよ。口頭かスクナのステイタスが見たいと念じるだけで手元にウィンドウが出てくると思うんですけど」


 ティマさんに浮かべてもらった小さな魔法窓(ウィンドウ)に表示されたのは、〈無音飛行〉と〈エコーロケーション〉、そして〈視覚同調〉という特技だった。


 〈無音飛行〉というのは意外とうるさいというハチドリの羽音を消す為かな。

 〈エコーロケーション〉は、たしかクジラなどが超音波を発し、仲間とのコミュニケーションや周囲の状況を把握する能力だったような気がする。

 〈視覚同調〉はその言葉通り、このハチドリが見る景色が主たるティマさんにも見えるといったものなのだろう。


「完全に索敵特化のスクナにですわね」


「そうみたいですね」


「ふぅん。私としては攻撃役の子が入ると良かったんだけど、こればっかりは運命かしら、メルの方はどうなったの?」


 ハチドリ型のスクナの特技をすべて見た上でマリィさんが言った意見に僕は同意する。

 それを聞いたティマさんは嬉しいような困ったような顔を浮かべる。

 どうやら、このスクナは偵察要因としてはかなり優秀な特技を持ってはいるようだが、ティマさんとしては攻撃的なスクナが欲しかったみたいだ。

 懐いてくるハチドリ型のスクナに苦笑しながらもメルさんに水を向ける。

 すると、声をかけられたメルさんの顔の横にはプカプカと浮かぶ黒いニョロニョロ。


「私のは蛇だった」


 それは、一見すると小さな蛇のようにも見えるのだが、


「それって龍なんじゃないんですか」


「龍?」


「ああ、東洋龍な。シェン○ンみたいなヤツだな」


「だね。メルさんの実績なんかを考えますと、ヴリトラの分見とかそういう感じのスクナじゃないんでしょうか」


 メルさんは以前ヴリトラに憑依されたことがあり、その影響から【龍の巫女】という実績を持っている。

 もしかすると、メルさんがスクナとして契約した精霊は、そんなメルさんの経験を読み取ってこのような姿に変化しているのではないか。


 まあ、ヴリトラによって不幸な目にあったメルさんからすると、精霊の選択は逆効果なような気もするけど……、


 いや、メルさんにはそんなこだわりはないのかな。

 ニョロリと指に絡みついてくるスクナを特に嫌がることなくあやしている。

 それだったら、メルさんにヴリトラに――というか、龍に対する隔意のようなものが無いのではないのかもしれない。

 考えてみるとメルさんがヴリトラに憑依されていた時は殆ど眠っている状態だったから、その前の、自分の世界でヴリトラを呼び出そうとする儀式に巻き込まれたことは不幸以外のなにものでもなかった訳だが、逆にそのことがヴリトラに対する苦手意識のようなものを緩和しているのかもしれないな。


 と、そんなメルさんをちょっと羨ましげに見つめるティマさんがいる。

 やっぱりドラゴンを従えるというのはどんな人にも特別なことなんだろうな。

 しかし、メルさんのスクナは気になるけど、それはそれ。


「とりあえず、どれくらい動けるのか試してみたいんだけど」


「それなら、そこの練習場を使ってください。

 あ、でも、その前に名前をつけてあげた方がいいですよ」


 取り敢えず自分のスクナの能力を確かめたいとティマさんに、僕は一般のお客様も使っている、店内からそのまま移動できる練習場をおすすめしながらも、

 まずは原始精霊が宿ってくれたスクナに名前をつけてあげないと――、

 僕が待ちぼうけをくらっているお二人のスクナを見てそう伝えると、ティマさんとメルさんはそれぞれのスクナと目を合わせて、「そうね。どんな名前がいいかしら」と黙考。


「うん。私はピルクにするわ」


「……私は、ヴ――、ビートにする」


 ティマさんは鳴き声からかな。

 メルさんはそのままヴリトラとつけようとして、やっぱりそれは気が引けたのだろう。翻訳の魔動機(バベル)ごしの言葉なので確実とは言えないが、ヴリトラの音を絡めた名前にしたようだ。


 そして、改めて練習場へ続く扉の中に入ってしばらく――、

 スクナの特技の確認を終えて帰ってきたティマさんはやや興奮気味だった。


「凄いわねこのカード。事前準備がなんにもなくてもあんなゴーレムが呼び出せるんだもの」


「まあ、最初の契約が大掛かりな事前準備みたいなものですからね」


「けど、こうなると、やっぱり攻撃役のスクナが欲しくなるわね」


「ということはもう一枚ですか? 種類はどうします?」


 そして、もう一枚と言い出したので、どの魔法金属を使った〈スクナカード〉がいいのかと聞いてみると、ティマさんは最初から気にしていたオリハルコンのカードをご所望のようだ。

 真剣な眼差しで「これをお願いするわ」と魔法窓(ウィンドウ)の一番上を指さしてくるので――、


「あの、オリハルコンの〈スクナカード〉は金貨五十枚するんですけど、大丈夫なんですか?」


「ええ、つい最近、ヴリトラを倒した報奨金を貰ったばかりだからね。一枚くらいなら問題ないわ」


 金貨五十枚というとかなり大きな買い物だ。そんな軽く購入を決めていいのかと確認すると、ティマさんはヴリトラの牙を持ち帰って得たお金があるから問題は無いと一枚のオリハルコンの〈スクナカード〉をご購入。


 そして、再び意識を集中、今度は慎重にイメージを固める為なのだろう。ブツブツとなにやら呪文のような言葉を呟いて〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉。

 黄金のカードからひときわ大きな光が発せられ。

 次の瞬間、ズシンと万屋のタイル床の上に降り立ったのは、これぞゴーレムと言わんばかりにずんぐりむっくりとした岩の――ではなくオリハルコンのゴーレム。

 なにかモデルでもあるのだろうか。その体には古代遺跡にありそうな文様が刻まれていた。


 ティマさんはすぐに生み出したスクナをチェック。

 すると、そこに記されていた特技は〈怪力〉という特技が一つ。

 これを見たティマさんはややがっかりしたような声で、


「このサイズで動きも鈍そうだし、特技が一つって――、

 たしかに攻撃役のスクナが欲しいと願いはしたんだけど、これは今ひとつな結果なのかしら」


 ティマさんが落ち込むような空気を醸し出す中、それよりもどんよりしているのはティマさんが契約した純ゴーレム型のスクナだ。

 僕は彼(?)のリアクションから、彼に宿る原始精霊の心情を汲み取って、


「そうでもないと思いますよ。特技が一つというのなら、それに特化した個体かもしれませんし、成長次第では化けるかもしれませんよ」


 特技が一つしかないとなると一見して弱いように思えるけれど、逆に言うとその特技にすべてのリソースを注ぎ込んでいることになる。

 だから、この典型的なロックゴーレムのようなスクナが持つ〈怪力〉という特技は有用なものではないのか。そうフォローを入れるのだが、ティマさんのガッカリ感は払拭されないみたいだ。


 ふむ、それだったら――、


 イマイチ納得していないティマさんに、僕が取り出したのは〈スクナカード〉とはまた違ったミスリル製のカード。


「あの、これは新商品なんですけど。もしかしたら、このスクナにぴったりかもしれませんよ」


「なにこれ〈スクナカード〉とは違うの?」


「虎助、これは?」


「はい。こちらはスクナの装備を作る〈SEカード〉ですね。今度、テストをしてから発売しようとしていたカードです」


 すると、これにティマさんよりもマリィさんの方が食いついてきた。

 そして、これがスクナの装備を作るカードだと知ると元春がエロ装備を作れると大興奮。

 因みに、今のところ〈SEカード〉のラインナップは剣のマークが目印の武器カードと盾のマークが目印の防具カードの二種類しかなく、カードから召喚できる武器はスクナと同じく使用者のイメージによって様々な装備品が作れるものとなっている。

 とはいえそれは、あくまでスクナ用の小さな装備品であって、魔法で形成しているだけということから、イメージによって付随される特殊能力以外はただ素材に準じた頑丈なだけのものとなる。


「それでどうします?」


「取り敢えず剣のカードを一枚。あともう一枚、オリハルコンの〈スクナカード〉をちょうだい」


 訊ねる僕にティマさんは迷うこと無くそう注文。


(わたくし)はミスリル製の〈SEカード〉を剣と盾――二枚づつくださいの」


「お、俺は盾のブルーを十枚くれ」


 マリィさんに元春と競い合うように〈SEカード〉を買い求めるのだが、


「マリィさんはいいとして、元春とティマさんは予算オーバーじゃないんですか?」


 安価なブルー製のカードを大量購入する元春はともかくとして、ティマさんのオリハルコンのカードの二枚目というのは少し豪遊が過ぎるのではないのか、そんな心配をする僕にティマさんは、


「大丈夫よ。国で預かってもらってる金貨を持ってくれば宿泊費はちゃんと払えるわ」


 いや、宿泊費とか――、それってもう生活費に手を出すって言っちゃってるようなものですよね。

 僕は心の中でティマさんにツッコミを入れる。

 しかし、お客様が買えるというのなら、商売者としては売らざるを得ない。


 ということで、僕は全員注文通りにカードを渡すことに――、


 そして始まるクリエイト合戦。

 因みにその〈スクナカード〉でティマさんが生み出したスクナは小さな飛竜のスクナだった。

 しかし、遠距離攻撃は持っておらず、またティマさんが微妙な顔になってしまったのにはいうまでのないだろう。

 物欲センサーという都市伝説は異世界においても猛威を振るうみたいだ。

 ◆今回登場したスクナのステイタス※


 ピルク(ティマのスクナ・ハチドリ)……〈無音飛行〉〈エコーロケーション〉〈視覚同調〉

 ガーランド(ティマが二番目に生み出したスクナ・オリハルコンゴーレム)……〈怪力〉

 ファリオン(ティマが三番目に生み出したスクナ・ミニ飛竜)……〈竜翼〉〈マテリアルバイト〉

 ビート(メルのスクナ・東洋龍)……〈浮揚〉〈黒雲〉


 ◆因みに〈SEカード〉はSUKUNA(スクナ) equipment(装備) cardの略です。

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