勇者に課す試練・虎助の場合
◆今回は長めのお話です。
マリィさんとティマさんの熱い戦いの結果、フレアさんが復活した。
なんていうかライバルである二人が河原で殴り合いをしていたら、たまたま河原で黄昏れていた青年が二人の友情物語に感動して勝手に復活したとか、そんな感じかな。
うん。フレアさんが完全にモブキャラなんだよ。
そして、フレアさんは今、ティマさんとメルさんの二人に慰められていた。
「二人共、俺が不甲斐ないばっかりに迷惑をかけた」
「いいのよ。あれは仕方がないわ」
「そう、フレアは悪くない」
そして、かけがえのない仲間の大切さに気付かされたフレアさんは「ああ、自分はいい仲間に恵まれてた」と、こんな時でもずっと傍にいてくれた二人に感謝してパッピーエンドになるかと思いきや、それを許さない男がここにいた。
「ちょ待てよ。
勇者、お前はそれでいいのか?」
二人と抱き合わんとばかりの勢いのフレアさんに、わざとらしくもいい声を出して話しかけるのはもちろん元春である。
「「は?」」
「元春よ。それでいいのかとはどういうことなのだ?」
また唐突に妙なことを言い出した元春にフレアさんが真剣味を帯びた声音で聞き返す。
そして、メルさんやティマさんから『いったいこの男は何を言い出すんだ』『まったく空気が読めないんだから、そんなことだからモテないのよ――』これはあくまで僕の想像に過ぎないのだが、そんなセリフでも聞こえてきそうな視線が注がれる中、元春は口元にニヒルな笑みを浮かべこう続ける。
「仲間がいる。それはいいさ。
でもよ、その優しさに甘えているばかりじゃ、お前はいまのまま成長できねーんじゃねーのか。なあ、勇者よ」
ビシリ、無駄にかっこいいポーズを決める元春。
そして、そんな元春の言葉に愕然とするフレアさん。まるで雷でも受けたかのような表情である。
でも、騙されちゃ駄目ですよフレアさん。
ぱっと聞くと元春のそれは、いいことを言っているように聞こえるのかもしれないが、実はそうではない。
元春はただ嫉妬しているだけなのだ。失恋して落ち込んでいたフレアさんには慰めてくれる女の子が二人もいる。なのに自分はどうだ。女子にアタックしてもただただ蔑まれるだけで誰一人優しい言葉をかけてくれない。
なんでこんなにも違うのか、同じ男なのに――、顔か、やっぱり顔がすべてなのか?
と、あまりに違いすぎる自分とフレアさんの待遇に昏くヘドロのような感情を抱いているだけなのだ。
そして、それはフレアさんを慕うティマさん達からしてみても、鬱陶しいやっかみ以外のなにものでもなく。
「ちょっとアンタ、急になに言っちゃってんのよ。
余計なこと言ってフレアを惑わさないで」
鬼のように目を吊り上げたティマさんが元春に文句をつける。
しかし、怒るティマさんに対しても元春は怯まない。
いや、目を合わせてしまえばヘタれてしまうからと、格好だけよく見せたポーズを利用して、目を合わせないように気をつけた上で、舌先三寸、ティマさんを惑わす言葉を紡ぎ出す。
「アンタもアンタだよ。甘やかすだけでいいのか」
「え?」
「甘やかすだけが愛かって聞いてるんだよ。
時には勇者を思って厳しくするのが愛ってもんじゃねーのか」
よくもまあ、そんなセリフを恥ずかしげもなく吐けるものだ。
普段の元春を知る僕からすると、そのセリフは鳥肌モノ以外のなにものでもないのだが、相手は無駄に乙女なティマさんだ。
「な、なにを言ってるのよ。そんなのフレアが可哀想じゃない」
愛だのなんだのと言われて顔を真っ赤にするティマさん。
あからさまに動揺してますね。
「そうか――、
見ろよ、あの勇者のやる気の目を――、
あれが少しくらいの困難でへこたれるようなタマかよ」
ええと、その人、つい今しがたまで失恋のショックで廃人みたいになっていたんですけど……。
しかし、これがティマさんの心には強く響いてしまったみたいなのだ。
「くっ、なんてこと、もしかしてこのバカの方が私よりもフレアを理解してるってことなの。私はどうすればいいの」
はい、チョロインです。
元春の胡散臭い口車に騙されて、ぶつぶつと呟き出すティマさん。
だが、ここでそんな元春をも上回る主張を繰り出す人物が現れる。
メルさんだ。
「それでもいい。私はフレアを甘やかす」
フレアさんによってヴリトラから助け出され、崇拝にも近い思いを抱いている彼女は別の意味で強い。
けれど、それはあくまでメルさん一人の意思であって、
「待ってくれメル。俺はそれでは駄目だと思う……。
そうだ……、そうだな。
元春の言う通り、俺は過去の自分を乗り越えるために今こそ困難に立ち向かわなければならないのだ」
そう、フレアさんがそんな事を許す訳がないのだ。
落ち込んで憔悴しきっている時ならまだしも、マリィさんとティマさんの戦いに当てられて、いつもの暑苦しさが戻ってきたフレアさんには、元春のもっともらしい戯言がジャストフィットしてしまったのだ。
そして、フレアさんがこうなってしまってはメルさんも引き下がらざるを得ない。
むぅと不満げに元春を睨みながらも一歩後ろに下がり、そんなメルさんに変わって前に出てきたフレアさんが元春の肩に手をかける。
「具体的にはどうしたらいい?
俺はどんな困難に――、いや、どんな試練に立ち向かえばいいのだ」
「そ、そうだな――」
ともすれば背景にバラが咲き乱れそうな勢いで、無駄に熱く迫られた元春が言い淀む。
うん。これって絶対なにも考えてなかったよね。
モテるフレアさんへの嫉妬から、色々と適当なことを言ってみたものの、まさかこんな展開になってしまうとは思ってもみなかったのだろう。
しかし、フレアさんにそんなモテない男の裏事情など理解できるハズもなく。
「元春!? 俺はどうすればいいのだ?」
まさにがぶり寄り。
天然で急かしてくるフレアさんに、キョロキョロと、もう挙動不審を通り越してわざとやっているしか思えないほどに目を泳がせる元春。
偉そうに言ってみた手前、何か言わなければと考えてはいるようだが何も思いつかないのだろう。
というか、その後ろに控えるティマさんとメルさんが怖いんだと思う。
ここで『実は適当に言ってました』なんて言える訳もないし、何か言わないと非常に不味い。
真っ直ぐなフレアさん。そして、ともすれば呪いにもなりうるかもしれないプレッシャーをかけてくる二人から制裁を受けないようにと必死に頭を働かせるのだが、もともとあまり働きのない頭脳をどうにかこねくり回したところですぐに素晴らしいアイデアが浮かぶハズがない。
これはもうティマさんとメルさんのお仕置きモードが待ったなしかと思いきや、ここで救いの女神が現れる。
「ないならば、それを私達で作ってしまえばいいではありませんの」
おお、このセリフは!? まさかのリアルマリィさんのご降臨か。
と、そんな冗談はさておいて、マリィさんのアイデアはフレアさんも納得のものだったようだ。
「ふむ、つまりそれはここのメンバー全員で俺を鍛え直してくれるというのか。
それは面白そうな試みだな」
すぐにでもその詳細を聞かせてくれと言わんばかりにキラキラした目でこっちを見てくるフレアさん。
しかし、今のさっき思いついたばかりのアイデアの詳細を求められても困るというもの。
だから、ここは時間稼ぎとして、
「試練うんぬんは後で考えるとして、それよりも先にフレアさんの装備をどうにかしないといけませんよね」
恩敵とも言うべき魔王との戦いはなかったものの、魔王が住まうと言われる城へ到達するまでに幾多の魔獣との戦いがあったのだろう。数日前、この万屋にやって来たフレアさんの装備はそれはもうボロボロの状態だった。
訓練や試練を受けるのはフレアさんの勝手だが、安全のためにも、まずその前に装備を整えないと。
僕はそう言って、取り敢えず「サラマンダーの鱗皮はまだたくさん残っていますから」と、防具の修理の相談から始めましょうかと訊ねるのだが、そこでフレアさんから『待った』がかかる。
「待て、俺の鎧はレッドドラゴンの鎧だと言っているじゃないか」
「貴方はまだそんなことを言っているんですの?」
おっと、これは迂闊だったか、僕がした防具の修理相談を皮切りに、フレアさんが訂正を求めて、ティマさんが呆れるような声を出す。
それはもう半年ほど前のことになるだろうか、フレアさんとティマさんとの間で、フレアさんが装備する鎧の素材に関してちょっとした言い争いをしたことがあったのだ。
しかし、それはマリィさんの意見の方が正しくて、けれどフレアさんはフレアさんで自分の鎧に自信を持っていてと、なかなか難しい問題だったり訳なのだが。
「だったら、ヴリトラの鱗で作りましょうか。フレアさんもあの戦闘に参加したんですし、鎧を改造する素材くらい万屋から出しますよ」
「なにっ!?」
ヴリトラの素材を餌に強引に話をうやむやにしてしまおうとする僕の提案に、フレアさんの声がワントーンあがる。
もしかすると、フレアさんも、マリィさんからさんざん否定されて、自分の鎧がドラゴンの鱗を使った鎧ではないという疑いがあったのかもしれない。
それが実際に戦ったドラゴンの鱗に変更されるのだから、これほど嬉しいことはないのだろう。
しかし、今度はマリィさんからの『待った』が入る。
その理由は――、
「ちょっと待ってくださいの。それでは私の月数が、この男の鎧とお揃いになってしまうではありませんの。却下ですの」
マリィさんとしてはフレアさんとお揃いの防具を身につけるということは看過できないことらしい。
しかし、『それなら似通ったデザインにしなければいいのでは?』と、僕なんかはそう思ったりもするのだが、そこは武器マニアにして防具マニアであるマリィさんとしてなにか譲れないものがあるのだろう。どうしてもフレアさんと同じ素材を使った鎧作りは避けたいみたいで、
一方のフレアさんはマリィさんが口にした月数そのものが気になったみたいだ。
「月数とは?」
「マリィさんの鎧ですよ」
僕はフレアさんに月数の情報を簡単に伝えると同時に、一つ代替案を出してみる。
「そうですね。マリィさんがそこまで仰るのでしたらワイバーンの鱗を使うのはどうでしょう。
ヴリトラやレッドドラゴンの素材の代わりにというには少しランクは落ちますけど、その分、ふんだんに使えますし、なにより空飛ぶ龍だけに軽い素材になっていますから、フレアさんの戦い方にあった鎧を作れると思いますよ」
正直、有り余っているというのなら、全長が百メートル近くもあるヴリトラの鱗も同じことなのだが、この際だから、ヴリトラ以上に有り余っているワイバーンの素材を少し処分をしてしまおうと思ったのだ。
すると、その提案はフレアさんにとって悪いものではなかったみたいだ。
マリィさんが「ふむ、この男にはそれがお似合いですわね」と皮肉る一方で、フレアさんはマリィさんの皮肉が理解できなかったみたいだ。「わかっているではないか」と頷いているので、僕はまた正直にその内容を伝えて揉めるのもなんだと詳しい説明をしないまま、工房にいるエレイン君達にフレアさんの鎧の補修を頼むメッセージを送る。
因みに、その指示を送る前にフレアさんに「なにか魔法的な付与機能をつけたりしますか」と訊ねてみたのだが、フレアさんは細かい魔力の扱いがあまり得意ではないみたいだ。あくまで補修と素材のグレードアップだけで、余計な能力はつけないということになった。
そもそもベースになるフレアさんの鎧がそこまで上等なものじゃなかったから、魔法を付与したところで大した性能にはならなかっただろうけど、それはそれ――、
どっちにしても魔法を使うだけならば〈メモリーカード〉を買った方が安いということでこういう結論に落ち着いたのだ。
しかし、相手は気分屋のきらいがあるフレアさん。後で気が変わるといけないから、可能な限りミスリルを仕込んでおこうと、僕は工房のエレイン君にそうするようにと注文を追加して、どうせだからこの機会にこっちのイベントも処理してしまおうと、ベル君に頼んでオレンジ色の刀身が眩しい片手剣を持ってきてもらう。
「さて、防具の後は武器の方なんですけど、フレアさんの愛刀も随分へたってきていたみたいですから、そちらは打ち直しということで、その間こちらを使ってみませんか?」
「これは?」
華美な装飾の類は全く無く、質実剛健という言葉がぴったりな剣を見てフレアさんが聞いてくる。
「エクスカリバーの姉妹剣である陽だまりの剣です。幼いですが聖剣になりますかね」
「なんだとっ!!」
聖剣という言葉に驚き叫ぶフレアさん。
しかし、フレアさんは陽だまりの剣にすぐには飛びつかなかった。
たぶん、聖剣といえばエクスカリバーという未練がまだあるのだろう。
だが、僕が意図的に付け加えた『姉妹剣』という言葉がフレアさんの心を大きく揺さぶっているのだろう。ベル君から受け取った黒塗りの鞘に陽だまりの剣を納め「どうぞ」と差し出す僕に対して「いいのか?」「いや、しかし――」と迷うようにしながらも、ジリジリと僕に近付いてきているようなので、ここでもう一押し。
「いいもなにも、その剣はあくまで人工的な聖剣を目指して作った試作品ですから、フレアさんには勇者としてその聖剣がエクスカリバーに届くものか試してもらいたい訳ですよ。だからエクスカリバーに認められる為にこの剣を使いこなせるようになってみるというのはどうでしょう」
マリィさんは少し不満そうではあるのだが、陽だまりの剣はどんな人にでも合わせられる聖剣を作り出そうと作られた一振りだ。既に聖剣との交流がある人に渡しても仕方がない。
だから、いままでエクスカリバーさんに散々拒否され続けていたフレアさんがその使い手になることこそが最も重要な検証材料となっているのだ。
まあ、この陽だまりの剣を使ってもらうのは一時的にということになっているし、何よりも、陽だまりの剣を使いこなせるようになった暁には、本物のエクスカリバーさんも心を開いてくれるかもしれないと、最後に送ったこの言葉がフレアさんには一番効果があったみたいだ。
マリィさんから恨めしげな目で見られていることなど露知らず、フレアさんは何故かその場に跪き、うやうやしくも陽だまりの剣を受け取ってくれる。
「ただし、使用感や不具合があったらすぐに報告してくださいね」
「勿論だとも」
そして、僕の注意を聞きながら立ち上がったフレアさんは、受け取った陽だまりの剣をその鞘から抜いて、その陽光のような輝きを放つ刀身を眺めると、
「それでなのだが、俺への訓練――、いや、試練はどんなものになるのだ。さっそくコイツを試したいのだが」
早く陽だまりの剣の力を試してみたい。ウズウズとした感じで聞いてくる。
僕はそんなフレアさんに対して――、
さて、どうする。
見たところ言い出しっぺの元春はダメそうだ。もう完全傍観者のつもりでアホ面を晒している。
そして、試練を与える言い出したマリィさんはというと、
「そうですわね。まずは虎助に決めてもらうというのはどうですの」
おっと、やっぱりマリィさんも特に考えがあった訳では無かったみたいだ。僕に先を譲る体勢だ。
だが、正直言ってこの後、マリィさんが考える試練とやらは、たぶん英雄への憧れ、そして自らが受けたことがある神の試練も相まって、それはそれは難易度が高いものになってしまうだろう。
だとしたら、僕はまずはフレアさんの力を底上げして、次に続くだろうマリィさんが考える試練への備えをしてあげた方がいいのでは?
そうなるとだ。ここはまず簡単な、しかし、フレアさんの戦力強化に繋がる訓練を提案してあげるのが一番だよね。
とするなら――、
「そうですね。一つ遠距離魔法を覚えてみてはどうでしょうか」
「攻撃魔法を覚えるということか?」
教師然と指を立て、僕がした提案にフレアさんが複雑な顔をして聞き返してくる。
「フレアさんにはフレアさんのこだわりがあるのかもしれませんが、遠くからの攻撃手段が一つあるだけでも戦術の幅が広がりますから」
正直、フレアさんの戦い方は猪突猛進。剣技こそ優れているものの、それ以上の技量を持つ者や魔法など、圧倒的な火力を前にすると押し込まれてしまう。
だから、その弱点を補うように牽制でもいいから遠距離魔法を覚えたら――、そう考えての提案だったのだが、フレアさんの反応はイマイチで、
「フレアは魔法を遠くに飛ばすのが苦手なのよ」
答えてくれたのはティマさんだった。
「魔法を飛ばすのが苦手って、そんなことってあるんですか?」
「ありますわね。おそらくは身体強化に特化したホリル様なども、つい最近まで同じような悩みを抱えていたのではありませんの?」
魔法というのは遠距離攻撃こそが主な使用目的。
魔法を習いはじめて半年以上、初めて聞く話に首を傾げていると、隣にいたマリィさんが教えてくれる。
それによると、それはいわゆる脳筋タイプにありがちな魔法特性みたいだ。
なんでも身体強化や魔法を行動補助にしか使わないタイプに遠距離攻撃を苦手とする人が多いのだそうだ。
たしかにフレアさんなんてまさにそんなタイプの人だけど。
でも、それってちょっとおかしくないかな。
「一つ、フレアさんに試して欲しいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「ちょっとこれを使ってもらえますか?」
ふと思った僕はフレアさんに持っている武器の一つを手渡す。
それは万屋で売っている普通(?)の魔法銃。魔法なんてまったく仕えなかった元春ですらアヴァロン=エラに来た初日から使えた魔導器だ。
それをフレアさんに使ってもらうとだ。
「なんだ。普通に使えてるじゃないですか」
「それはそうだろう。魔法銃なのだからな」
「でも、魔法銃も遠距離魔法の習得を目的とした魔具も基本は同じ魔法式で出来たものなんですよ」
常識じゃないかとでも言わんばかりのフレアさんに、こっちも常識なのではと返す僕。
しかし、この時の僕は勘違いしていた。
実は魔法の習得を目的にした魔具には、魔法を体になじませるようにと、いろいろな工夫が凝らされているそうなのだ。
だが、この時はそれを知らないことが功を奏した。
「そうなのか?」
「そうですよ。実際、その魔法銃を使っていればその魔弾を無詠唱に使えるようになりますからね。これが使えるということはフレアさんも普通に魔弾が使えるということです」
当然とばかりに良い返事をする僕に「そういうものかのか」とフレアさんが思案するように呟いて、
「そういえばフレアさんの魔法特性ってなんになるんですか?」
他人の得意な魔法を聞くのは基本的んマナー違反だ。
しかし、魔法習得には得意な属性の魔法を使うのは一番だと、訊ねる僕にフレアさんは特に秘密にするようなこともないようで。
「魔法特性?
ああ、得意属性のことか――、
それならば水だな。
そのおかげで俺は精霊様の加護を預かることが出来たのだからな」
そういえばフレアさんは水の精霊様から加護を受けているとかなんとか、そう言っているのを前に聞いたことがあったかもしれない。
「へぇ、意外だな。勇者の性格を考えると、火とか風とかの方がしっくりくるんだけどな」
うん。元春の言いたいことは分からないでもないけど、その話はちょっとデリケートな問題を含んでいるから、その辺で黙っておこうか。
そう思って元春の口を塞ごうとしたのだが、既に手遅れだったみたいだ。
「それはどういう意味ですの?」
火と風と言えばまさにマリィさんの魔法特性。それを性格がどうのとか言ったら喧嘩を売っていると言っているようなものなのだ。
睨みを利かせるマリィさんからの圧力を受け、元春がカエルのように身を縮こまらせる。
僕はそんな二人の様子を横目に、苦笑しながらもマジックバッグから魔法銃を取り出して。
「どうぞ、これ水の魔法銃です」
「どうぞって、君はなんでも持っているんだな」
「いえ、これはもともと作ってあったんですよ」
「作ってあった?」
「この魔法銃はアクアの付き合いで水の魔法を練習したときのものですからね」
「そういやアクアちゃん。あのでっけー魚と戦った時にウォーターカッターみたいな魔法を使ってたな」
僕がどうして水属性の魔法銃を持っているのか、その理由をフレアさんに話していると、元春がややも強引に入ってくる。
マリィさんの厳しい視線から逃れようと頑張っているのだろうけど、残念ながら君の期待には答えられないよ。
「アクアっていうのは?」
「僕のスクナですよ」
元春からの声を軽く受け流してフレアさんの質問にアクアを呼び出し答える。
すると、それを見たティマさんが、チラリとマリィさんに流し目を送ってから、僕に詰め寄ってきて、
「ねぇ、それって、さっきあの女も使ってたゴーレムよね。なんなのこれは?」
そういえば、万屋で〈スクナカード〉を売り出したのはフレアさん達がご自分の世界に帰ってからだったような。そう思い出して実物を見せながら商品説明をしたところ。
「ふぅん。それってすぐに買えるものなの?」
「はい。店に行けば普通に売っていますよ」
「だったらすぐに店に行きたいんだけど――」
「そうですね。ずっと臥せっていたフレアさんにも何か栄養があるものを取らせてあげないといけませんし、万屋に戻りましょうか」
「悪いな」
◆装備解説
陽だまりの剣……誰にでも扱える聖剣を目指して作られたソニアの意欲作。オリハルコンをベースにした合金で作成したシンプルで扱いやすいショートソード。現状、剣に宿る陽だまりの精霊とコミュニケーションを取る機能と、見た者の精神を穏やかにする光を放つ以外の機能は備わっていない。
ワイバーンスケイルメイル……ワイバーンの鱗と革で作った鎧。防御力が高く。炎系の攻撃に強い。フレアの趣味に合わせて、今回つくったワイバーンメイルは赤く染められている。
魔法の水鉄砲……見た目は加圧式の水鉄砲。タンクの部分に魔力を注ぐことによって強力なショットを放つことが出来る水鉄砲。一点集中から放射射撃までと様々な運用が可能で、撃ち出す水には魔法による反発力が込められている(ノックバック機能)。