表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

206/835

ユリスと小さな占い師※

 三学期の授業が始まったその日、クリスマスの件で部活が忙しいという元春と学校で別れた僕は、帰宅するなりいつものようにアヴァロン=エラの大地に降り立つ。

 そして、魔法窓(ウィンドウ)を開くとベル君からの業務連絡(ほうこく)をチェックしながら万屋へと出勤。

 すると、そこには既にお客様の姿があって――、


「いらっしゃいませ」


 僕の声に振り返るのは、滝のような金髪のストレートヘアが眩しいグラマラスな美女。


「あら、今日は遅かったのですね」


 にこやかにそう語りかけてくれる彼女の名前はユリス=ガルダシア。ルデロック王との戦いで救い出したマリィさんのお母さんである。


「学校が始まったものですから」


 僕が夕方のこの時間に出勤したのを不思議に思ったようで、それを訊ねてくるユリス様に僕がそう答えると、ユリス様は不思議そうな顔をして、


「虎助様は学生なのですか?」


「そうですね。

 というか、なんだと思っていたんです?」


 どこからどうみても普通の男子高校生である僕を捕まえて、ユリス様は何を言っているのやら。

 その返しに人差し指を顎にあてて首を傾げて不思議そうにするユリス様。

 いや、マリィさん達の暮らす魔法世界ではそういう教育機関に通うこと自体が珍しいことなのか。

 人によってはあざとくも見えてしまう仕草で聞いてくるユリス様に、僕はそんなことを思ったりもしたのだが、


「店の経営にマジックアイテムの生成、加えて武器の整備と、虎助様が持っている技術は、おおよそ学生が持つようなものではないと思うのですが」


 確かに、改めて並べ立てられると、ユリス様の言う通り、その技術は学生が持つようなものじゃないかもしれないな。

 だが、その一方で、子供の頃に仕込まれた武器の手入れはともかく、僕の錬金術なんかはあくまで趣味の範疇でしかなく、店の雑事に関しては、基本的の僕は指示なんかを出すだけで、この店のスタッフであるベル君を初めとしたエレイン君軍団が優秀だからこそ成り立っているところがある。


 だから、ユリス様の考えているだろうことは、一部間違っていたりするのだが、これを言ったところでなかなか納得してもらえないだろう。


 ということで、ユリス様の疑問は客商売のお姉様方の必須技術、曖昧な笑顔と「そうは言っても所詮はバイト店長ですから」と定番のセリフで受け流し、話題を変えるように訊ねるのは、


「それで今日はなんのご入用で?」


 ユリス様が一人で来るなんて珍しい――、

 というか、初めてなんじゃないだろうか。

 なにか緊急に必要なものでもできたのだろうかと訊ねてみると。


「特に用事がある訳ではありませんね。ただ時間を持て余していたもので、改めてこのお店を見てみようかと思い来たのですよ」


 なんでもユリス様がもともと捕まっていたベルダード砦の処理が進んでいないようで、その裁定が下るまで、ユリス様は自由に動けないそうなのだ。


 まあ、その裁定の結果、たとえ自由を得られたとしても、ユリス様がおかれる状態にほぼ変わりないそうだが、

 冬休みが終わる前にルデロック王を開放したのに、まだ話が進んでいないとは――、

 やっぱり、高名な錬金術師であるゾシモスの雲を作り出す魔法薬の瓶が騒動のどさくさに紛れてぜんぶ割れてしまったのが痛かったのかな。


 僕は改めてユリス様から聞かされた話に、ルデロック王国において発生したお家騒動(?)の結果と周囲の状況を改めて脳内で整理しながらも、その話がルデロック王に対する愚痴へと及び始めたタイミングで、立ち話もなんだろうとユリス様をカウンター横の応対スペースに誘導。止まらないユリス様のマシンガントークに一旦カウンター奥の簡易キッチンに避難して、ちょうど冷蔵庫の中にあった焼きプリンを持って、ユリス様の元へと戻ってくると。


「これはプティングですわね」


 うん。女性のご機嫌を取るにはスイーツを生贄にするのが一番だからね。

 因みにマリィさんの世界にプリンの原型になったものがすでにあることは知っている。

 けれど、それは僕達が知っている甘いプリンとはまた違っていて、どっちかというとココットとかそういう料理に近いものらしくて。


「食べてみて下さい。美味しいですよ」


 ユリス様は詳しい説明をしない僕に訝しそうな視線を向けながらも、僕が変なものを出さないと信頼してくれているのだろう。

 マリィさん愛用のムーングロウ製のスプーンを手に取り、焦げ目がついた黄色いプルプルをすくい上げ、口に入れる。


「…………。」


 すると次の瞬間、ユリス様の目が見開かれ、「こ、これは――」とスプーンを持つ手を震わせたかと思いきや、パクパクと焼きプリンを忙しなく口の中へ運びながらも、先程までの愚痴とはまた別の「この滑らかさはまるで絹のよう」とか、「もしやこれはハーピィの卵が使われているのでは?」とか、ウンチク系のグルメリポーターかくやと言わんばかりのマシンガントークを垂れ流し。

 最後の別れを惜しむかのようにプリンの一欠片を口の中に、どこからか取り出したハンカチで口元を拭いて、お澄まし顔で言ってくるのは、やはりというかなんというか――、


「素晴らしい食べ物でした。これも例のオトリヨセというものでしょうか?」


「いえ、これはコンビニといって、街に一つはかならずある、そうですね。庶民的な商店で買ってきたものですよ」


「――っ!!

 伺ってはおりましたが、やはり虎助様の世界は素晴らしい」


 これは前回と同じパターンだろうね。ユリス様は金貨を一枚、懐から差し出して「これで買えるだけ買ってきてくださいませんか」とお願いをしてくるユリス様。

 だけど、さすがに金貨一枚分のプリンを買ってくるのはなかなか骨が折れる作業だ。

 なので、プリンは適当にいくつか買ってくるとして、金貨一枚出すのなら、それ以外にも、この店でなにか欲しいものはないかと聞いてみると、ユリス様は「それならば」とカウンターのすぐ前のスペースに並べられていた〈スクナカード〉を指し示して、


「これを使って占いが出来たら面白いと思ったのですが、生み出されるゴーレムが運任せということで悩んでいまして」


 なんでもユリス様のご趣味はカード占いなのだそうだ。

 ユリス様はその占いに〈スクナカード〉を使えないかと考えているようだが、その占いにはいくつかの属性を宿したカードが必要らしく、規定枚数買ったとしてもちゃんと狙った通りの属性を持ったスクナを引き当てることができるかという理由から購入を躊躇っているとのことである。


 う~ん。たしかにそれは悩ましい話だね。


 実際、僕の世界で占いに使われるカードとして有名なタロットカードでも、占いをするなら、最低でも二十二枚の大アルカナカードが必要だと聞くし、ユリス様の世界のカード占いがどのような仕様になるのかは分からないが、それだけの数のカードを〈スクナカード〉で揃えるのは大変だ。


 一番安いブルーのカードで揃えるとしても、相当な数の精霊と契約するとなってしまい、役割が被ってしまうことを考えるとそれなりのお金が必要になってくるだろう。


 まあ、ユリス様に限ってはお金の心配はないだろうが……。


 僕はユリス様の悩み聞いて、う~ん。少し悩むようにして、


「でしたら、逆に占いに特化した精霊を呼び出せばいいのではありませんか?」


 精霊というのはその地で暮らす人の意識を受けて様々な力を司る存在に変貌していく存在だという。

 ならば、現代地球で様々な価値観を持っている僕や元春が長い時間を過ごし、地球のインターネットのみならず、賢者様の世界の情報に、他のお客様が商品などの対価として提供してくれる情報、様々な世界からの情報が集まりつつあるこの場所なら、そういう特異な原始精霊が生まれていてもおかしくはないのではないか。

 そもそも従者創造の際にある程度の指向性は持たせて、占いに特化した、例えば僕達の国では狐の霊を利用したそれに応じた精霊が宿ってくれるんじゃないだろうか。

 だとしたら、数が必要な属性限定の原始精霊は必要なく、ただ一体の精霊のみですべてをこなせる能力を持つスクナが生まれるのではないか。

 僕がそんな助言をしてみたところ、ユリス様は驚きながらも頬に手を添えて、


「そういうことでしたら一度試してみましょうか」


 懐の金貨袋から金貨を追加するユリス様。

 購入したのはムーングロウ製の〈スクナカード〉。

 ユリス様の目的を考えると魔素の伝導率が高い素材をベースにするのは当然の選択である。


 そして意識を集中、魔力を込めて――、


「〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉」


 契約と創造の呪文と共に発生した極大の魔力光の中から現れたのは、ファンタジーな将軍がつけるような肩章付きの青いサーコートを着た金髪碧眼の男の子だった。


 その見た目はあまり占いに関係あるようには見えないけれど。

 驚いたようにしながらも嬉しそうなユリス様を見る限りでは――、


「ご希望に沿ったスクナが来てくれましたか?」


「ええ、ええ――、それは、それは……、もう――」


 良かった。

 まあ、感極まるユリス様の様子を見れば一目瞭然だったんだけどね。

 でも、薦めた側として一応確認しておかないといけないからね。


 それにしてもユリス様の嬉しがりようは過剰なような気がするけど。

 一体どうしたんだろう?


 生まれたばかりのスクナをそっと掬い上げ、感極まるように頬擦りをしているユリス様に、そんな興味を持った僕だったが、


 ユリス様が満足してくれるならそれでいいか。


 その時は、その疑問をユリス様にぶつけることは無かった。


 これは後で聞いた話になるのだが、今は亡きマリィさんのお父さんは、ユリス様と同じく占いを趣味とする人だったそうである。

 彼は幼き頃から兄を支える為に騎士学校へと通っていたそうだ。

 そんな幼きプリンスが騎士学校へ通う際に身に着けたのが、ガルダシア王国内で高貴なる人物しか身につけることが許されないとされる青いサーコート。


 そう、ユリス様が呼び出したスクナ。

 青いサーコートを来た小さな精霊が、その頃のアースレイ様――、マリィさんのお父様を彷彿とさせる姿をしていたのだ。


 ユリス様はもう二度と会えない最愛の夫、その面影を感じさせるスクナの誕生に運命を感じたのだそうだ。

 そして今、ユリス様は幼い頃のマリィさんのお父さんの面影を感じるスクナにスレイという名をつけて、たいそう可愛がっているのだという。

 ◆スクナ紹介※


 スレイ(ユリスのスクナ・小人型)……〈エレメンタルカード〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ