表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

205/834

アイルの帰還と防具の話

「お世話になりました」


 エルブンナイツの襲撃から一ヶ月と少し、未だスケルトンアデプトのディストピアをクリアしたエルブンナイツは現れず、アイルさんは一旦エルフの里へと戻ることになった。


 因みにアイルさんの里帰りはもっと早い段階でと考えていたのだが、思いの外、アイルさんが修行に熱中してしまい、この時期にずれ込んでしまったのだ。


 もしかして、なかなか帰ってこないアイルさんたちを心配して捜索隊のようなものが結成されているのではと、そんな心配もしたものの、アイルさん曰く、エルフの時間間隔では一ヶ月くらいの時間のズレくらい大したことはないそうだ。


 いや、エルブンナイツなんていう組織が出かけて一ヶ月も戻らないとなると、それはもう捜索隊どころの騒ぎじゃないような気もするけど。

 エルブンナイツにはそれだけの信頼があるのだろうか。

 違うな。これはエルフの時間間隔おそるべしという方が正しいのだろう。

 まあ、そんな種族間ギャップに驚かされながらも、ついにこの日を迎えた訳だ。


「また来てくださいね」


「必ず」


 そう言いながらももう一度頭を下げたアイルさんは魔王様に手を振られてご自分の世界へと帰っていった。

 うん。一緒に遊んだことをきっかけにすっかり打ち解けたみたいだね。

 あの後、ゲーム以外にも魔法の話なんかをしていたみたいだし、帰る前に和解(?)ができて本当によかったと思う。

 もっとも、そもそもからしてアイルさんにハーフエルフへの隔意が殆どなかったというのが良かったのだろう。魔王様もその辺は敏感に感じ取れるみたいで、最初からアイルさんに対しては思うところが無かったみたいだ。


 と、朝一番でアイルさんを見送ったところで、僕はふと気になった違和感を隣で大あくびをしていた元春に向ける。


「そういえば、元春、アイルさんにはあんまりかまっていかなかったね」


 美人だったのに――と、そう問いかける僕に元春が言ったのは、実に元春らしい言い分だった。


「縦にならまだしも、腹筋が横に割れてる女の人はな……、見た目が美人だけについ目がいっちまうんだけどよ。目線がそこでストップするというか、まあ、萎える?」


 その割にはけっこう頻繁にチラチラと見ていたような気もしたけど。

 僕からの質問に答える形で元春が下品なこと言ったその瞬間――、


 チュドン!!


 〈火弾(ファイアバレット)〉が元春のこめかみを直撃する。

 そして、まるで車なんかの衝撃実験に使われるダミー人形かのようにその場でに一回転半、乾燥した赤土の大地にゴシャァと顔面から叩きつけられる。


 悪は滅びた――、


 と、そんないつも通りの一幕がありながらも話は戻り。


「私としてはあの肉体は羨ましい限りですわね」


「そうね。私も鍛えても肉がつかないタイプだから羨ましいわ」


「ホリルさんは魔力マッチョですもんね」


 いや、魔力マッチョって――、

 たしかにホリルさんの体質を表すにはピッタリの言葉なのかもしれないけど、他にもっと言い方はなかったの?


 ――っていうか、復活早いよね。


 元春のユニーク実績である【G】は順調に成長しているようだ。


「そういえばホリルさんのそれって特別な魔法なんすか?」


「さあ、どうなのかしら?

 私のこれは感覚的に使ってる魔法だから分からないの。

 ごめんなさい」


「読み取りはできませんの?」


 マリィさんが言う読み取りというのは、和室のパソコンに繋いである地球産のプリンターを改造した魔導器による魔法式の構築のことだろう。


「どうでしょうね。たぶん読み取ったとしても、普通の身体強化魔法と大して変わらないと思いますよ。単純にホリルさんがその魔法に物凄くマッチしているか、一点特化しちゃってるんだと思います」


 なんていうか、ホリルさんは身体強化に特化した魔法特性を持っているのだと思われる。

 だから、マリィさんの場合、ホリルさんに習うとしたら、比較的、得意である風の補助魔法を身体強化に回した方が肉弾戦闘の強化に繋がるのでは?

 ふとした思いつきからそんなことを言ってみると、


「たしかに純粋な身体強化を学ぶよりもそちらの方が上手く運用できそうですわね」


「作成中の『月数』にそういう魔法を組み込んでみましょうか」


「ですわね」


 アイルさんの肉体美に始まり、身体強化、そして、話が『月数』の強化案に及んだところで、ホリルさんが「月数?」と聞いてくる。


「マリィさんご注文の新しい鎧ですね。オーダーメイドの品ですよ」


「うらやましいわね。私も作ってもらおうかしら」


「ホリルさんがよろしければ是非ご注文を――、

 と、そういえば、ホリルさん達が暮らす世界だとその辺の装備はどうなっているんです?」


 賢者様は普通に軽装、ホリルさんも特別防具のようなものを身に着けていない。

 ここで定番の鎧を作っていいものか、そう思って訊ねてみると、


「ん? ここのお客さんとそんなに変わらないわよ。

 というか、あなたも見ていたんでしょう。神秘協会の騎士達はちゃんと鎧を装備していたじゃない」


 たしかに――、

 思い出してもみれば彼等は無駄に豪華な全身鎧を装備していた。


「あれは儀礼的なものじゃなかったんですね」


 場所が場所だけに、もしかして協会の中だけで装備する、いわば様式美のようなものなのかとも思っていたのだが、実はあれが正式装備だったみたいだ。


 まあ、神秘協会という組織がかなり大きな組織であることを考えると、標準からは少し外れているかもしれないが……、


 僕が以前見た賢者様の世界の神殿騎士の装備を思い出していると、ホリルさんが、


「虎助の世界では違うのかしら?」


「魔法が無い世界ですからね。昔は普通にあった鎧も実弾銃なんかが発展してからは意味がないって廃れちゃったみたいですね。

 だから、いまはこんな感じで必要最小限の場所を守るプロテクターみたいなものが主流ですか」


 そう言って、僕は複数展開させた魔法窓(ウィンドウ)にボディーアーマーやプロテクター、タクティカルベストにヘルメットと現代的な兵士達を映し出してゆく。


 すると、マリィさんにホリルさん、ついでに元春までもが僕の呼び出した魔法窓(ウィンドウ)を覗き込んで、


「これはこれで格好がいいですわね」


「そうね。特にこれなんか付与されてる能力でもあるのかしら。凄そうね」


 おっと、画像の中にアニメやゲームのものも紛れ込んでいたみたいだ。ホリルさんはアーマーでマッスルなスーツに興味があるみたいだ。


 しかし、これも普通に錬金術や魔法式を上手く組み合わせれば普通に作れるんじゃなかな。

 確か元ネタも賢者の石やらオリハルコンがどうとかいう代物だったし。


 僕はホリルさんからが興味を示した画像にそんな考えを浮かべながらも、どうせならと近くにいたエレイン君を呼び寄せて、


「着てみますか?」


「えっ、あるの?」


「普通のものなんですけど、実は魔王様からご注文を受けていまして――」


 どうしてそんなものがあるのかと言えば、最近FPSにハマっている魔王様が自分もこんな服が欲しいとミストさんにリクエストを出したのが始まりで、相談を受けた僕達がいくつかそれらしい装備を製作したからだ。


「……できたの?」


 そう訊ねてくるのは、もちろん魔王様である。


「試作品ですけどね」


 僕はそう言いながらもやってきたエレイン君にお願いして、工房に置いてあるいくつかのボディアーマーを呼び寄せてもらう。


 因みにこのボディーアーマーは、見た目こそ地球のものと変わりないのだが、そこに使われている繊維がアラクネのものだったり、各所に仕込まれたトラウマプレートがドラゴンの鱗製だったり、錬金術によるリキッドアーマーが採用されていたりと、防御力という面では、本家とは全くレベルの違う代物となっていたりする。


「どんな感じですか?」


「そうね。なかなか動きやすいわ」


「しかし、これは後衛ならいいかもしれませんが、前衛の装備としては少し心もとない防御面積ですわね」


 着心地を確認する僕に、普段から近接戦闘が主であるホリルさんはその動きやすさを気に入ってくれたみたいだけれど、剣士や騎士に憧れているマリィさんとしては防具によりカバーできる面積が狭いことが気になるようだ。


 だがそれは――、


「あくまで急所を守る為の防具ですからね。

 でも、その下にミストさんが作ってくれたサバイバルベストを着ればそれなりの防具になるんじゃないかと」


「アラクネの糸で作った服なら下手な鎧よりも防御力がありますものね」


 ということで本格的なお色直し、僕が元春(エロの権化)を抑えている間にすっかりサバイバルゲームでもしそうな様相にチェンジした女性陣が戻ってくる。


「かっこよくね」


「防御力もそれなりにあるしね」


「しかし、機動力などはどうなのでしょう?」


 現代風のサバイバルルックが昔ながらの鎧に対して、動きやすいにしろ、そこはパワーアシスト機能を持つ『盾無(黄金の鎧)』を持つマリィさんだ。その機動性が気になるのだろう。


「そういう時にはこの靴ですね」


 通販番組のような流れで僕が取り出したのはコンバットブーツ。

 ベヒー革を基本にして、靴底は世界樹の樹脂を主成分とした錬金素材が使い、その内部には空歩や高速移動を可能とする魔法式がいくつも組み込まれている高性能なブーツである。


 渡されたそれをさっそく履いてみた女性陣はその使い心地を確かめるように移動術を繰り返して、


「これはいいものですね。トワ達にも正式配備したい装備ですの」


「ちょっとディストピアで試してみたいわね」


「……ん」


 三者三様、それぞれの感想を口にし、喜び勇んでディストピアがある施設の方へと走っていく。

 そして、そんな三人を見送った僕と元春はといえば、


「元春はどうするの?」


「いや、行かねーよ」


 うん、わかってた。元春が喜び勇んで戦いに挑むなんて想像できないからね。


「でも、そのブーツは良さそうだな。前に作った空飛ぶ靴の進化ヴァージョンだろ。アレも部活で結構お世話になったからな。買える値段なら買ってもいいぜ」


「くれぐれも変なことには使わないでよ」


「大丈夫だ。逃げる時に使うだけだからな」


「いや、それもあんまりまっとうな使い方じゃないからね」

◆今回登場したボディーアーマーは防御力に極振りした装備です。

 見た目はSWATのボディアーマーなどをイメージしていただけると良いかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ