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カースドール

◆祝・二百話。

 しかし、記念すべき二百話目のお話がこんなお話になってしまうとは……。

 それは魔王様が自宅洞窟に帰った翌日のこと。

 お年玉を大量獲得した元春がニコニコと何を買おうかと気持ち悪いエビス顔を浮かべる一方で、僕が真面目に店番をしていると、そこに一人の女性客が来店してきた。

 一見すると清楚な美女、しかし、隠しきれない妖艶さを滲ませる黒髪の美女だ。


 そんな女性が一人で店にやってきたとなればこの男が黙っていない。

 さっきまでエビス顔はなんだったのか、無駄にキリッと真面目くさった顔をして、カウンター後ろの和室から店舗スペースに出ようとする元春。

 だが、僕はそんな元春の腕を掴んで止める。


「待って」


「なんだよ。ナイスバディの美女がいたら迷わず声を掛ける――、それが紳士の努めだろう」


 女性に近付こうとしてストップをかけられた元春が訳のわからない事を言ってくる。


 はぁ、まったく、この友人ときたら自分だけに都合がいいことばかりをさも平然と常識のように語って――、


 僕は毎度のごとく残念な友人の反応に『だったらさっさとトワさんに同じように声をかけて、さっさと玉砕してしまえばいいのに――』と心の中で毒を吐きながらも、その耳元に口を寄せて、


「彼女はゴーレムだよ。しかも呪いの人形。 もしかしたら、前にマリィさんが言ってたカースドールって人形かもしれないから、不用意に近づかない方がいいと思うよ」


「マ、マジかよ。 危ねーじゃん」


 僕の忠告に慌ててカウンターの奥に引っ込む元春。

 どんな呪いがかけられているかまではわからないが、魔剣を多く取り扱ってきた僕がこの感覚を間違える訳がないのだ。


 ただ問題は、それがわかったところで僕達がどうするかなのだが……、

 彼女が自我のようなものを持って行動しているとなれば、ただ普通に接して状況次第で見送るという手もある。

 だが、呪われた人形と知っていながらそのまま帰して、誰かに被害が及んでしまうとなってしまったらなんとなく後味が悪い。


 まあ、彼女がマリィさんが言っていたような存在なら、被害者は自業自得ということになるのだが、必ずしも彼女がそういう人形であるとは限らないし、もしかすると、ただ単純に彼女が殺戮だけを繰り返す、呪いの人形ということだってあり得るのだが、

 もしも彼女がそうだったとしたら、僕と元春も危ない訳で、彼女は許されざる存在ということになってしまう。

 彼女がそれ以外の理由で呪われている人形なら、彼女をその使命から開放してあげることができればいいのだが、


 しかし、呪いが高じて自我の確立にまで至ってしまった呪いのアイテムには単純な浄化はまず効果がないだろう。

 そうなると、まずはその呪いを解く為に、それ以前に彼女がどういう存在なのかを知ることがこの先の選択肢に繋がるのだ。


 僕はこれまで呪いのアイテムを取り扱ってきた経験から彼女への対処を考え、それを行動に移す。


 取り敢えず、一番にすることは彼女がどういう存在なのかを把握することだ。

 それには〈金龍の眼〉による鑑定が一番手っ取り早いけど。

 問題は素直に鑑定させてくれるかどうかだ。


 彼女に何らかのギミックが備わっていたのだとしたら、それ自体が敵対行為になりかねないし、逆に反撃を受けるなんてことだってありえる。

 だから僕は、彼女が暴れだす危険性を考えて彼女を万屋の外へ連れ出すことにする。


 ベル君に万屋のことを任せると、工房につめるエレイン君の何体かに指示を送ってファローをお願い、

 その上で彼女を万屋に併設している訓練場に連れ出す。

 連れ出す理由は取り繕っても仕方がないので「ちょっとお話が――」という適当なものにした。

 もしかすると、こんな風に連れ出すことが既に彼女にとっては禁則事項にあたるものなのかもしれないが、それならそれで仕方がないと割り切ったのだ。


 そんな風にややも強引に訓練場に移動して、さて、ここならば暴れられても問題ないだろうと本題を切り出そうとするのだが、いざ僕が彼女に本題を切り出そうとしたところ、その声を遮って彼女が言ってくる。


「こんな人気のないところに連れてきて何をするつもりなのかしら」


「別に危害を加えるつもりはありませんよ。

 ただちょっと確かめたいことがありまして――」


「確かめたいこと?

 もしかして私の体とか――かしら」


 この(ひと)は急に何を言い出すのかな。

 いや、彼女が僕の思っている通りの存在ならば、これはもともと定められている問答なのかもしれない。

 僕がそんなことを思いながらもリアクションに困っていると、


「違うの?」


「そうですね。僕が確かめたいことというのはアナタの自身ということになるかもしれませんね」


「ふぅん……分かったわ。だったら死んでくれる」


 と、いきなり襲いかかってきたぞ。

 はてさてこれはどう答えるのが正解だったのかな。

 僕としては選択肢を間違えていないつもりだったが、何かが彼女をこの行動に至らせる引き金だったらしい。


 これが、元春の大好きな恋愛シュミレーションゲームだったら、確実に理不尽と言われるだろう唐突なヤンデレ展開に、僕は心の中でため息をこぼしながらも僕は空切を抜く。


 彼女の動きを見る限り、戦闘は素人みたいだけど、とりあえず動けなくしておくか。


 僕は彼女の振るう禍々しいオーラを放つ包丁を躱しながら、腰から抜いた空切を使い、一つ、二つ、三つ、四つと踊るように彼女の四肢を分断してゆく。


 そして、動けなくしたところでゴーレムコアの回収をしてしまおうと、彼女に歩み寄ろうとするのだが、


「バラバラにするなんて酷いわ」


 おっと、立ち上がってきたぞ。

 さすが呪いの人形(カースドール)。バラバラにしたくらいじゃ止められないみたいだ。

 見えない糸が彼女を支えているかのように切断された四肢をそのままに襲いかかってくる。


 これは空切は役に立たないな。


 僕は空切を腰のホルダーにしまう代わりに魔法銃を抜き出して、襲いかかってくる彼女の手首に魔弾を放つ。


 相手が人形ということで麻痺の魔弾は効果がないかもしれないのではとも思ったのだが、人間のようにリアルな呪いの人形(カースドール)には状態異常の効果があるていど効果があるみたいだ。


 いや、どちらかというと魔弾そのものが当たった衝撃からなのかもしれないな。


 僕は麻痺の魔弾をその腕に受けて落としてしまったおどろおどろしい包丁を奪い取る。


 これで後は彼女を捕えるだけかな。


 しかし、その考えはちょっと早かったみたいだ。


「ああ、私の愛をとりあげるなんて酷い人ね……。

 でも、これでアナタは私のものよ」


 包丁が『私の愛』って――

 彼女が悩ましげに腰をくねらせながらも無造作に距離を詰めてくる。

 おそらくは包丁に何らかの仕掛けがしてあるからの行動だろう。


 けれど、僕に呪いの類は殆ど効かないよ。


 あっさりと攻撃を躱した僕に彼女の動きが止まる。

 思った通り彼女はかなりリアルに作り込まれた人形みたいだ。

 驚いているそのリアクションは本当に人間みたいだ。


 だったら――、


「残念だけど、この手の僕に通じないんだ」


 おそらくこちらの話もきちんと理解していると判断して説得を試みる。

 だが、彼女は無表情のままにバッグから新しい包丁を二本とりだして無表情のままに襲いかかってくる。


 うん。もしも武器を失った場合に備えてサブウェポンを準備しておくのはいい心がけだ。


 でも、こっちの方は普通の包丁になるのかな。


 業物といえば業物なのかもしれないけれど、呪いのアイテムでないのなら対処は空切で充分だ。

 そう思っていたのだが、

 包丁を斬られた彼女が次に取った行動は、斬られた包丁を即座に捨てて、方から下げているポシェットから、また新しい包丁を取り出すという行動だった。


 つまり、あのポシェットはマジックバッグ?


 これは面倒臭い。


 しかし、彼女ほどの人形を壊さず抑え込むのは容易ではない。


 やっぱり武器が尽きるまで戦うしか無いのかな。


 ということで、彼女が取り出した包丁を切り落とすという作業を繰り返すこと何十回、そろそろ足の踏み場もなくなるんじゃないかと思い始めたところで、ようやく彼女の方もネタ切れになったみたいだ。


 こうなってしまえば後は簡単、僕が戦っている間に周囲を取り囲んでくれていたエレイン君に指示を送って、ミストさん特製の粘着糸で行動を封じてもらう。

 できればこれを使わずに終われたら良かったんだけど、彼女ほどの人形を完品のまま鹵獲するなら必要な経費だろう。


 そして、まるで蜘蛛の巣に磔にされたオオムラサキのようなカースドールを前に僕がホッとした息を吐いていると、そこに元春がやってきて、


「終わったみたいだな」


「うん。思ったよりも面倒な相手だったね」


「見てた。……あれはヤバイな」


 包丁を振り回して暴れる彼女の戦いっぷりは元春にとって凄くリアルだったのだろう。青い顔をしている。


「で、その子はどうすんだ?」


「解呪処理をして、後はどうなるかだね」


「どうなるかって?」


「マリーさんから聞いた話からして彼女が作られた目的がアレだからね。解呪した後、彼女がどうなるのかはわからないんだよ」


 僕が〈金龍の眼〉を使って彼女の仕様を調べながら言ったところ、元春が何故か慌てるようにして、


「ちょっと待て、するってーとなんだ。このエッチなアンドロイドって感じってことかよ」


 エッチなアンドロイドって……、


「まあ、身も蓋もない言い方をするとそうかもだね」


 最終的な目的はどうあれ、そこまでの手段として彼女には元春のいうような機能がついているようだ。


「俺にくれ」


 鑑定結果に目を通し、苦笑いをするしかない僕に元春が食いついてくる。

 しかし、この元春からのこのお願いに対して僕はどう答えたらいいものか。

 確かに彼女はものである。

 しかし、話をして見る限り、僕は彼女がちゃんとした自我を持っている存在であると認識した。

 それを、くれと言って渡してしまっていいものか。

 そもそも元春に渡す理由もない上に、渡したらどう使われるかなんて火を見るより明らかだから――、


 うん。取り敢えずここは適当に誤魔化しておこう。


「そうだね。まずは調べてみてから考えるね」


 さて、後はどうやって彼女が元春の手に渡らないようにするかだけど……。

 時間はたっぷりあるんだ。その辺の対応は後々考えればいいことだろう。

 もしかすると忘れてくれるかもしれないしね。


 いや、無理かな。

◆今後、触れる機会があるかわからない設定。


カースドール・アドニア……男に騙され、地位も名誉も失い迫害された宮廷魔導師が失意の中で作り出した呪いの処刑人形。

 優しい言葉で近付いてくる男の本性を引き出し、それに応じた仕置きを執り行うという使命が創造主より与えられている。

 所持するマジックバッグの中には、包丁の他に、鞭やベルト、やっとこ(ペンチ)といったお仕置きに使う道具が入っている。

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