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骨細工

 魔王様とまったりとした時間を過ごした日の夕方、僕は万屋の裏に広がる石造りの工房の一つに陣取り、義父さんが手に入れたワイバーンの骨を加工していた。

 この正月が終わってしまえば義父さんはまた海外に出かけてしまう。義父さんは『別に急いで作らなくても大丈夫』と言っていたが、義父さんは一度冒険に出てしまうと最低でも一ヶ月は家に帰ってこないから、その前に渡した方がいいと、この暇な時間にワイバーンの骨の加工品を作ってしまおうと考えたのだ。

 ということで、僕はエクスカリバーさんにお願いして大まかに切ってもらった骨を取り出し、さっそくアイテムの制作に入ろうと思う。


 今回、僕が作ろうしているのはピスヘルメットこと探検帽とベルトのバックルだ。

 義父さんが冒険に持っていって邪魔にならないものをと考えて、この二つを作ろうと決めた。

 まず作っていくのはベタな探検家ルックにつきものである探検帽。

 これの作り方は単純で、丈夫なワイバーンの骨を薄く湾曲状に削ったパーツを幾つか作り、それを世界樹の樹脂で貼り合わせ、作り出した小さなヘルメットみたいなパーツをベースに帽子の形に整えていけばいいだけだ。

 あらかじめ大まかに切ってもらっておいたワイバーンの肋骨を、義父さんから借りた帽子に合わせてアダマンタイトヘッドを取り付けたハンドグラインダーで削っていく。

 この際に出た削りカスは、ソニア曰く、魔法金属の作成に使えるということなのでしっかりと集めておく。

 そして、だいたいの形が整ったところで、薄く削り出したワイバーンの肋骨に、頭が蒸れないようにと通気口を開けていって、それを世界樹の樹液で張り合わせていく。


 そうして小さなヘルメットに似た被り物が完成したところでエレイン君の出番だ。

 魔王様のところのミストさんが作ってくれたカーキ色の布とツバの芯材としてベヒーモの軟骨を使って帽子の形に仕上げてもらうのだ。もちろん帽子の内側にはクッションとしてのベルトを忘れずにつけてもらう。

 素材がワイバーンの骨ということで飛龍をモチーフにした刺繍をしてもらい、裏側にはいくつかの魔法式を刺繍していってもらう。

 選んだ魔法式は浮遊に光源に解毒と簡単かつ冒険の役に立つ魔法式ばかり。

 義父さんには既に〈メモリーカード〉を渡してあるから、冒険帽に付与する魔法式は緊急性が高いものにしてみたのだ。


 因みに魔力の扱いについて義父さんは始めてアヴァロン=エラを訪れた際に憶えていて、さらに年末年始にかけて真面目に練習を行っていたこともあり、魔法を一つ発動するくらいは難しくなくなっていたりする。


 そんな感じで冒険帽の目処がついたところで次はベルトのバックルをつくることにしよう。

 用意するのはワイバーンの肩甲骨。

 人間の数倍はあるであろう肩甲骨から長方形に平らな骨を、エクスカリバーさんに斬り出してもらったものだ。

 これをベルトのバックルに加工していく。


 作るのは魔法式を刻み込みやすいようにとトップ式バックルを選んでみた。

 この方式だと、ベルトそのもののホールド感がイマイチのような気もしないでもないが、そこは素材や魔法付与によってなんとかしよう。


 さて、作り始める前に考えるのはバックルの本体のデザインだ。

 とはいっても、これは冒険帽と同様にワイバーンの意匠をあしらえばいい感じに出来るんじゃないかと思ってる。


 ということで、僕は切り出し板状の肩甲骨を持って和室に向かう。

 いまだゲームに興じる魔王様達に軽く挨拶をして、和室のパソコンを起動、実際のワイバーンの写真から良さげなアングルをモノクロ化、余計な部分を削り取って、それをバックるに合うサイズまで縮小させる。そうして出来たデザインを中心にパソコンから取り出した魔法式を模様のように施していくのだ。


 完成したデザインを印刷。後はこれに合わせて削っていくだけでベルトの下準備は完了だ。

 戻った石造りの工房にチュィィィィンとハンドグラインダーの音が響き渡る。

 途中で休憩を挟みながらも数時間、納得いく形に彫り上がったバックルを持って、今度は隣の工房に移動する。


 ここは装備の色塗りができるようになっている塗装専用の工房だ。

 僕はその工房に持ち込んだ、世界樹の樹液にムーングロウの粉、インキュバスの砕けた魔石を粉を原材料に作った塗料をエアブラシにセット、吹き付けていく。

 正直、初めての工作だけに、安っぽい仕上がりになるかもと、ちょっと心配もしたのだけれど、さすがに最上級の魔法金属・ムーングロウを使っただけのことはあったかな。龍の骨を削り出しただけのバックルは、もともと骨だったとは思えないメタリックな仕上がりとなっていた。


 さて、思っていたよりもちゃんとした仕上がりになったバックルが乾くまでの間、どうせだから、スクナバトルの勝者である義姉さんに渡す装備を作っていくことにしよう。


 因みに義姉さんがリクエストしてきた装備はオープンフィンガーグローブだ。

 総合格闘技なんかの試合で選手がはめるファイトグローブである。

 とはいっても、その目的は殴った側の相手を保護するような代物ではなく、相手を殴り倒し、自分の拳を守るものだから、手の甲に手首、拳頭から指の第二関節にかけてのガードと、部分部分に切り出した骨を義姉さんから取った拳の型に合わせて削っていく。


 形が整ったところで魔法式を刻み込めば素体の完成だ。

 まずは前に来た狼の獣人であるウォルさんに譲ったガントレットと同じく、魔王様のスクナであるシュトラの〈重力撃〉を参考にした荷重系の魔法式。

 正直こんな魔法を付与した武器を義姉さんに持たせたら、鬼に金棒、普通に武器を渡すよりも危険な事態を引き起こす結果になってしまうかもしれないが、トレジャーハンターは危険なお仕事、義姉さんの武力を思う存分生かせる武器を渡すことは重要だろう。


 でも、それだけだと心配なので回復の魔法式も入れておく。

 回復の魔法というのは、かなりその人が持つ素養に左右されるというものらしく、義姉さんが使えるようなものとなると微々たる効果にしかならないだろうが、ピンチを切り抜けるという意味では役に立ってくれると思う。

 いや、そうじゃない期待するのだ。


 さて、二つの魔法式を刻み込んでもスペースはまだまだ残っている。

 だけど、あんまり沢山の魔法式を刻んだところで義姉さんが使いこなせるとは思えない。

 後は単純に飛び道具のような魔法を入れておけばいいかな。

 そうなると、義姉さんの魔法特性はマリィさんとほぼ同じだから、火か風の魔弾になるだろうか。

 でも、義姉さんに火の魔法を持たせるのはちょっと危ないので、ここは風の魔弾が無難だろう。

 使い勝手のいい風の魔弾となると、やっぱり神獣であるテュポンさんすらも轟沈させた〈息子殺しの貞操帯ジュニアキラーフォールド〉由来の、着弾と同時に衝撃波を撒き散らすタイプの風の魔弾になるだろうか。

 しかし、義姉さんが使うことを前提として考えると、急所を狙って飛んでいくというような鬼畜な機能を付与してはいけない。

 義姉さんに息子殺しの魔弾を使わせた日には、それはもう、おそろしい数の新人類が生み出されかねないからね。

 グレードダウンさせた最悪の風の魔弾を付与して完成としておこう。

 義姉さんに過剰な戦力をもたせてはいけないのだ。


 と、ここまで作ってしまえば、後は義父さんの冒険帽と同じくエレイン君にグローブの形に仕上げてもらえばいいだろう。

 本体のグローブに使う素材はベヒーモレザー。

 柔らかく薄く削ぎやすい腰の革を使って作ってもらう。


 義姉さんのグローブを工房つきのエレイン君に作ってもらう傍らで、僕は義父さんのベルトを完成させよう。

 乾いたバックルにベヒーモレザーで作ってもらったベルト本体をかませるのだ。


「と、できた」


 うん。防御力と魔力の補填を狙って打ったムーングロウを使って作った鋲も、なかなかごつい感じで義父さんに似合いそうな仕上がりになっている。


 さて、これで二人にあげる龍骨装備は完成したんだけど……、

 まだまだワイバーンの骨は残ってるんだよなあ。

 これは義姉さんには内緒で元春用に小物を作ったところで焼け石に水だよね。

 いっその事、これを使ってボーンメイルみたいなのを作っちゃおうか。

 それなら骨以外にも鱗や革が使えるだろうしね。

 取り敢えず、現代地球で作っても不自然にならないように、タクティカルベストなどサバイバルゲームグッズなどを検索にかけていこうか。

 誰に渡すかは決めてないけど、無駄にはならないと思う。タブン。

◆今回制作した装備


〈ドラゴンヘルメット〉……ワイバーンの骨をふんだんに使ったピスヘルメット(ヒトシ君人形が被っている帽子です)。

 素で防御力が高く、光源や浮遊、解毒など、インディな冒険に役に立つ魔法式が刺繍してある。


〈ドラゴンバックル〉……ドラゴンのエンブレムが彫り込まれたベルト。革の部分はベヒーモの革が使われており、子々孫々受け継ぐことが出来る耐久性を備えている。

 インキュバスの魔石を砕き塗布したことにより、装備脱落防止の効果を手に入れた。致命的な攻撃に対して自動的に簡易結界を展開する機能が付与されている。


〈ドラゴンナックル〉……ワイバーンの骨を芯材として使ったグローブ。

 グローブ内部に仕込まれたワイバーンプレートには、重力撃、回復(殴殺防止措置が主な目的)、風の魔弾を発生させる魔法式が刻み込まれていて、意識的に魔力を込めることによってイメージに応じた魔拳を放つことが可能となっている。

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