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魔王様とまったりお正月

◆祝・令和。

「ありがとうございました」


 今日は新年二日目、寒稽古が終わって地球側のお客様は全員帰ってしまったが、それ以外の世界からのお客様はまばらながらもやってくる。


 正月くらいダンジョンの探索を休めばいいのに――と、元春なんかは元旦からやってくるお客様を見て、そんなことを言っていたりもしたのだが、異世界では地球で言うところの一月に新年を祝うような習慣はあまり無いそうだ。


 いや、この場合、特に迷宮都市アムクラブを拠点とする探索者の皆さんと限定するべきか。

 かの都市が存在する世界では年の変わり目が秋になるのだそうだ。

 なんでも『秋の実りを喜び、収穫、そして次の年への祈りを神に捧げる』と、そんな理由から秋に行われる大々的なお祭りが新年の行事として扱われているとのことだそうだ。


 収穫祭と新年の行事を合わせると言った感じかな。


 だから、福袋の話をするとちょっと驚かれたりするのだが、ここへやってくるお客様にとっては貴重な素材を大量にゲットするチャンス。

 ということで、福袋の販売を知ったお客様からは『一度、自分達の拠点に戻ってお金をとってくるので残しておいてくれ』と頼まれていたりした。


 まあ、在庫一掃セールみたいなものなのでストックがなくなり次第終了なので、今日までにやってきた彼等が、一度、街まで帰って戻ってくるまで残っているかは運によるだろう。こことアムクラブを往復するのは数日がかりの大仕事だからね。


 しかし、この分だと、マリィさんに譲るってことになってる福袋も無くなってしまうかもしれないな。

 これは後で連絡を取って、もしも福袋が確実に手に入れたいのなら、誰かに買い出しに来てもらうように言っておいた方がいいのかも。


 僕はみくじ筒の中に入っているくじ棒の数をチェックしながら考える。

 因みに今日マリィさんがいないのは、ベルダード砦に残されているユリス様つきのメイドさん達の助ける方法を模索しているからだそうだ。

 救出するだけならマリィさんの魔法によるゴリ押しや、この万屋で買ったアイテムを存分に使った輸送など、いろいろとやりようがあるのだが、国やら貴族やらの諸々が関係してくると場合によっては厄介なことになると、現在、その調整をおこなっているとのことである。

 だから、今日万屋に来ている常連のお客様は魔王様だけ。


 因みに、賢者様の世界では僕達と同じような暦を使っているそうで、今ごろ年末にこの万屋(みせ)で買い込んでいった食料を武器に研究室で食っちゃ寝をしているとのことだろう。


 そして、元旦の朝稽古の後、義姉さんとじゃれ合い(スクナバトル)をしていた元春は、今ごろ実家の方でやってくる親戚の方々にお年玉をせびっているってところかな。


 まったく、いい高校生が何をやっているんだか。


 僕は、正月早々、親戚からお金をせびっているだろう残念な友人を思い浮かべながらも、魔王様やミストさん、妖精のみんなの給仕をしていく。


 ああ、人もいない森で暮らす魔王様には新年とか暦による行事は全く関係ないのだそうだが、冬の到来によって精霊の暮らす森も雪で閉ざされてしまい、ずっと洞窟内で過ごすのも不健康だということで、暇を見ては、この万屋でまったりと過ごしているのだ。


 まあ、こっちに来ていても外に出るのは僅かな時間で、ほとんどゲームをして過ごしているのだから、あまり変わらないような気がするのだが、そこはツッコんでは駄目なところなんだろう。


 因みに魔王様がこのアヴァロン=エラで外遊びをする時は、世界樹がある工房の裏の畑で過ごすことが定番となっている。

 あそこならゲートを介した結界と精霊魔法の融合によって誰にも見られることもないし、魔王様が友好を結ぶ精霊に属するディーネさんやマールさんがいることから、魔王様にとってはホームのようにリラックスできる空間となっているみたいなのだ。

 畑を管理するマンドレイクとも既に顔見知りとなっていて、一緒になって世界樹の下の畑の手入れをしたりしているところも偶に見たりする。


 そうそう、マンドレイクといえば、万屋(ウチ)で引き取ったノーマルなマンドレイクが最近、世界樹の畑で働く変異マンドレイク達に対抗するように、工房の片隅に小さな畑を作り始めた。

 しかし、そこは小柄で力が弱い通常種のマンドレイク。ベランダ菜園のような小規模な畑がせいぜいで、植えられている植物も手間がかからない多肉植物(棘無し)という畑だったりするのだが。


 サボテンの花を代表とする多肉植物の花は、なんでも長い時間をかけて花を咲かすという特殊性から、大量の魔素をその花弁に含むそうで、錬金素材として優秀らしく、ソニアなんかはその採取に期待を寄せているのだという。


 まあ、このアヴァロン=エラなら百年に一度咲くような花でも一ヶ月かそこらで採取できるかもということで、これも万屋のいい商品になるのではないかと密かに期待されていたりもするのだ。


 と、そんなマンドレイクも片隅に置かれた植木鉢でうつらうつらする和室では、魔王様達がミストさんや妖精さんと某すごろくゲームをプレイと、まったりとした時間を過ごしている。


「ええと、皆さん、そろそろお昼ですけどお昼ご飯はどうします?」


「……今日は何?」


 昼食はここで食べていくのかと訊ねる僕に、魔王様はシュトラを頭の上に乗せたまま振り返り、聞いてくる。

 魔王様が万屋(ウチ)でご飯を食べていくことはいつものこと、今日はアラクネのミストさんや妖精の皆もいるのだが、昨日の様子から彼女達もここでお昼ご飯を食べていくのは想定済みなのだ。


「昨日の残りの雑煮をベースにしたきつねうどんにしようと思ってたんですけど」


「……それでいい」


 因みに同じ汁物として用意していたボルカラッカのアラ汁は、特殊部隊の皆さんや魔女の皆さんによって食べつくされてしまった。

 さすが巨獣のアラを使っているだけにかなり美味しかったみたいである。

 何人かの料理女子に『何のお魚を使ったお吸い物なんですか?』と聞かれて、まだ缶詰に加工していない魚肉をいくらか渡しておいた。


 そんな訳で逆に少量作った雑煮の方が余ってしまったので、それをベースにリメイク料理を作ろうというのだ。


 白菜・人参・ネギ・油揚げにメガブロイラーのもも肉と、余った雑煮の中にぶち込んで温め始める。

 因みに具材を入れてから火を入れるのはそっちの方がダシが出て具材に味が馴染みやすいからだ。

 いい感じで煮えてきたところで軽くアクを取って、そこに出勤する前に買ってきたゆでタイプのうどんを投入する。


 実は湯でタイプのうどんを買ってこなくても万屋には常に冷凍うどんがストックされているが、わざわざ湯でタイプを買ってきたのは、茹でタイプのうどんを煮込むことでスープに独特のとろみが生まれるからである。


 どうしてそんな事をするのかといえば、今日つくろうとしているうどんは給食に出てくるようなうどんをと考えているからだ。


 給食のうどんって、作ってから結構時間が経っていて麺が伸びちゃってるハズなのに、何故か美味しいんだよね。


 因みに、ほうとうみたいにそのまま投入できる生麺があれば、そっちの方がしっかりとろみがつくのだが、近所のスーパーで買える生麺には塩が練り込まれていて、そのまま鍋に投入することはできないからと、湯でタイプを買ってきたのだ。


 そんな感じで煮込むこと数分、ちょっと長めに煮込んだうどんを大きな鍋さら和室の方へと持っていく。

 後はうどん用にフォークのようなものがついたお玉で各自好きな量をとってもらって準備完了。

 お好みで七味、すりおろした生姜、ごまなどをトッピングをしてもらって『いただきます』。

 手を合わせた僕達はハフハフと言いながら麺をすすっていく。


 そういえば、麺をすすることができない外国人が多いと聞くが、魔王様達はふつうに麺が啜ることができるみたいだ。

 音を立てて食べてはいけませんなんてマナーは森に暮らす魔王様達には関係なさそうだしね。

 というか、個人的にはうどんなどの麺類は啜って食べた方が美味しそうに見えるんだけど、その辺は育った国の習慣や考え方からくるものなんだろう。

 以前、観光にやってくる外国人の為に麺をすすることをやめたらどうかなんてことを言い出した人がいたそうなのだが、外国に出かけるなら、逆にその土地の慣習やマナーを調べて合わせるというのが真の旅人というものではないだろうか。

 僕としてはそう思うのだが、まあ、そういう意味がないことを言い出すのは何事にも気遣いをしてしまう日本人の悪いクセなのだろう。


「どうですか?」


「……ん、おいしい」


「それはよかったです」


 つい脇道にそれた思考を自分の中で処理しながらかけた声に魔王様が答えてくれる。

 そんな魔王様の一方でミストさんは猫舌みたいだ。フーフーと一生懸命息を吐きかけてうどんを冷まそうとしている。


 しかし、こういう暖かい汁物はどちらかというと妖精のみんなの方が危険な気がするんだけど……。

 こちらは豪快に手づかみでつるつると飲み込んでいっている。

 その姿は、なんていうか、佐賀県だったかな。どこかの地方にあるという伝統芸能『餅すすり』に似ていて危なっかしい感じになっているのだが――、


 うん。妖精という生物は存外丈夫にできているみたいだ。


 窒息するなんてこともなく、チュルチュルとうどんを食べていっている。

 あの小さな体のどこにあれだけのうどんが消えていっているのだろう。

 どう考えたって、その見た目以上の量を胃袋に収めているような気がするんですが……。

 最終的に「もう食べられない」と膨らんだお腹をさする妖精に、僕は大食い女子に抱くような感想を抱きながらも、食後のお茶を用意して戻ってくる。

 すると、魔王様が真剣な目で店の外を見ていて――、


「どうしたんですか?」


「……いま、変な気配を感じた」


 光の柱は発生していない。誰が来た訳でもないと思うんだけど……、

 でも、魔王様が言ったことだ、一応エレイン君に調べてもらうように連絡しておこうかな。


 食器を片付ける片手間に魔法窓(ウィンドウ)を使ってエレイン君に指示を出した僕は、

 さて、午後からは何をしようかな。銀騎士を使ってマリィさん達に差し入れをするのもいいかもしれない。

 いや、それよりも義父さんから頼まれたワイバーンの骨の加工を進めてしまおうか。

 午後の予定を考えながらも、取り敢えず、自分で用意したお茶を啜るのだった。

◆今更になりますが、GWの期間にお正月のお話を投稿するのは不思議な感覚です。

 まあ、今日が『新しい元号の始まりの日』であり『即位の日』ということで、ある意味でお正月のようなものということでご容赦願います。

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