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幼馴染とスクナバトル※

 万屋から西へ数百メートル進んだ先にある訓練などを目的に作られた廃墟フィールド。

 今ここで幼馴染同士による決闘が行われようとしていた。


「志保姉、手加減は無用だぜ」


「ハン、元春ごときが生意気ね」


 人工的な廃墟の上に陣取る特殊部隊の隊員や魔女の皆さんに見守られる中、言い合いをするのは義姉さんvs元春だ。

 まあ、いつもならここで元春がボコボコにされて終了というのがいつものパターンなのだが、今回に限ってはそうはならないだろう。

 何故なら、これから戦うのはこの二人ではないからだ。

 二人はついさっき手に入れたばかりのスクナを使った代理戦をしようとしているのだ。


 因みにこの戦いに勝った方はにはワイバーンの素材で作られた装備品が一つ進呈されることになっている。

 出資者は義父さんだ。

 義姉さんと福袋を交換することによって手に入れたワイバーンの素材が、なかなかの数にのぼったこちから、義父さんが皆にお年玉代わりとしていろいろなアイテムを作ってあげないかと提案してくれたのだ。


 ただ、だったらどうしてこの二人が闘うことになっているのかというと、義姉さんがどうせだからと、勝った方が義父さんからのお年玉を総取りしないかと元春に勝負を仕掛け、元春がそれに乗っかったからである。


 とはいえ、義姉さんが本気になったら元春に敵う道理はなく、そんなこんなで始まることになった代理戦。

 義姉さんが呼び出すのは義姉さんらしからぬ妖精型のスクナだ。


 なぜ押しも押されぬ乱暴者の義姉さんから、こんな可愛らしいスクナが生まれたかというと、義姉さんが〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉を使う直前に『どんなスクナを作ったほうがいいかしら』とニッコリと圧力を込めて聞いてきたので、僕が『どうせだから義姉さんの仕事に役に立つようなスクナを生み出せばどうか』というアドバイスをしてあげたからだ。


 まあ、そのアドバイスは義姉さんに上手く伝わらなかったみたいで、『だから、どんなのを想像すればいいのよ』と、いつものように(・・・・・・・)胸ぐらを掴んできたので、具体的に索敵に優れた鳥みたいなスクナを作ってみたらどうかとアドバイスをし直してみたのだが、『それじゃあ普通すぎてつまらないでしょ』といつものように(・・・・・・・)また理不尽なことを言い出したので、だったら妖精とかそういう存在をイメージしたら面白いんじゃないかと言ってみた結果、生み出されたのが彼女だったという訳だ。


 ちなみに、彼女の名前はフェア子。単純な義姉さんらしいネーミングセンスである。


 そんなフェア子に対して、元春が呼び出したスクナはおっぱいスライムのライカ――ではなく、ついさっき義父さんから譲り受けたミスリルの〈スクナカード〉から生み出した無駄にグラマラスな小悪魔タイプのスクナである。


 名前はフーカ。

 僕が義姉さんにアドバイスしたのを聞いて「だったら俺は小悪魔にするぜ」と生み出したのが彼女だったのだ。

 なんでも見た目と表情豊かな動きを見るに造形や精密性にイメージを特化させた個体らしい。


 正直、僕としては顕現させたばかりのスクナで、しかも、カードの素材ランクがまったく違う相手に戦闘をするのはどうかと思ったりもするのだが、元春としてはライカ(おっぱいスライム)をこの衆目に晒したくないというのが本音なのかもしれない。


 見学者の中には、美女揃いの魔女さんはもとより、特殊部隊の中にもそれなりの数の女性隊員がいるということで、元春としては彼女達に蔑みの目線を向けられることを回避したかったというのが本当のところなのだろう。


 という訳で、妖精vs小悪魔という対戦カードとなった幼馴染同士のガチバトルがいま始まるのだが。


 まず先手をとったのは義姉さんのスクナであるフェア子だった。


「じゃあ、行くわよ。

 フェア子〈ジェットフレイム〉」


 義姉さんからの命令にフェア子が鳥が羽根を広げるように後ろ向きに手を突き出し、そこから発生させた爆発的な炎を推進力に突進してゆく。

 義姉さんの性格の影響を受けているのだろう。火の原始精霊を宿したフェア子は戦闘特化の個体になってしまったみたいだ。


 はてさて索敵要素はどこに行ったんだろうという疑問もあるにはあるのだが、そこは空が飛べるという一点に注がれているのではないだろうか。


 と、僕がフェア子のピーキーな性能に思いを巡らせた一瞬の内にフェア子とフーカ、二人の距離が縮まる。


「からの〈剛撃〉」


 義姉さんの声に合わせて〈ジェットフレイム〉を解除したフェア子が全身に赤い光を纏う。

〈剛撃〉――それは自分の体を一つの砲弾として、通常、スクナの小さな体では不可能な強撃を放つ特技だそうだ。

 義姉さんはそれに〈ジェットフレイム〉の推進力を上乗せ、まさに一撃必殺の特攻技として使用したのだ。


 うん。ますます索敵要素が薄らいでいるね。


 しかし、フェア子が特攻をかましたそこには既にフーカの姿はなかった。


「ふふん。甘いぜ志保姉」


 フェア子の攻撃をなんなく躱したフーコはチッチッチと指を揺らす元春の肩に止まっていた。

 風の原始精霊が宿っているだけあってスピードは中々のものらしい。


 すると、この結果に文句を言ってきたのは義姉さんだ。


「ちょっと、なんでフェア子のより安いカードから生み出されたその子が早く動けるのよ」


 いや、そんな言い方はフーカが可哀想だよ。

 悪気なく本当のことを言う義姉さんに僕はそう心の中で苦笑しながらも、フーカを慰めるようにちょっと大きな声でその質問に答えていく。


「カードの素材が一番影響するのが耐久力と魔力の保有量だからね。単純な移動速度は宿った精霊の能力の方が優先されるんだよ」


 ゆえに、元春の場合、造形や感触などに多くのリソースを使っている為、フーカ事態の能力は風の精霊特有の素早さ以外はあまり高くはないと思われる。

 僕の解説に後ろで見ていた見学者の皆さんから『成程――』との声が聞こえてきて、その解説のきっかけを作った義姉さんとしても納得できる内容だったのだろう。


「要するに一発当てさえすればこっちの勝ちってことね。

 だったら――、フェア子。前に向けて〈ジェットフレイム〉」


 僕からの情報に満足そうに笑った義姉さんの指示を受け、フェア子が元春の傍へと逃げたフーカに向けて手の平を突き出し、火炎放射のような炎を放出させる。

 フェア子の〈ジェットフレイム〉は、なにも推進力として利用するだけのものではないのだ。

 前方に向けて噴射することで火炎放射のような攻撃としても使えるのだ。


 紡錘形に放射された赤い炎が元春のフーカーに迫る。


 しかし、その炎がフーカに届くことは無かった。


「フーカ〈巨乳防御〉。

 んで、そのまま離脱だ」


 無駄にかっこいいポーズで元春が使うように言ったフーカの特技は〈巨乳防御〉。

 これは貧乳回避と対をなす絶対防御の特技であり、元春が巨乳を求めるあまり辿り着いた極地の一つである。


 ――冗談だ。


 まあ、ぶっちゃけ〈巨乳防御〉というこの特技は、車の風圧がおっぱいの感触に似ているといつも車に乗る度に元春がする行動から反映された特技なのだそうだ。

 単純に風の魔法を使って人間大の大きさのおっぱい型風壁を作り出すという防御技なのだが、

 しかし、そんな元春由来のイメージが義姉さんの逆鱗に触れることになる。


「巨乳、巨乳って、そんな脂肪の塊、何がいいっていうのよ――っ!!」


 フェア子の炎をバインと弾いたフーカのエアおっぱいに義姉さんが叫ぶ。

 たぶん年末に活動していたというアメリカでなにか嫌なことがあったのだろう。

 因みにフーカの〈巨乳防御〉に詰まっているのは脂肪じゃなくて、空気である。


「ふふふのふ。志保姉――、ないものねだりという言葉を知っているかね」


 いや、元春、君は新年早々死ぬ気なのかい?

 いつになく好調な戦いに思わず調子に乗っているようだ。元春が義姉さんを見下すように『ビシィィィ――』と格好つけたポーズを決める。


「アンタ、殺すわ。絶対殺すわ」


 そんな元春の態度に義姉さんが静かに怒りを燃やす。


 うん。あの目は本気だよ。

 元春、言動には気をつけて――、


 だが、調子に乗った元春は止まらない。


「いまの俺なら志保姉から逃げ切ることも可能。

 この世界では身体能力の差がそのまま実力の差とはなりえないのだよ」


 なんだかんだ言って元春も結構多くの魔獣を倒しているからね。

 あながち間違ったことをいってはいないんだろうけど――、


 そして、言い合いをしている二人の一方でスクナ達は健気に戦っている。

 義姉さんの命令通り、火炎放射を使い攻めるフェア子。

 フーカは生来の機動力を武器にフィールドの建物を盾に逃げ回るという展開だ。

 攻めと回避――というか廃墟フィールドをいっぱいに使った鬼ごっこ?

 とにかく、膠着状態の戦いの中、元春が最後のカードを切るようだ。


「フーカ。〈風の悪戯〉だ」


 それは読んで字のごとく〈風の悪戯〉。

 スカートが捲れ上がるほどの上昇気流を発生させるだけ(・・)という、なんとも元春が好みそうな特技である。本当に変な特技ばっか覚えさせられてしまったフーカは泣いていいと思う。


 しかし、元春は何故この冗談としか思えない特技をこのタイミングで使ったのか、それは目の前で起こった結果が全てだった。


 フーカが〈風の悪戯〉を発動させた瞬間、フェア子が吹っ飛んだのだ。

 廃墟の中を逃げ回るフーカに対して無理な体勢で行っていた〈ジェットフレイム〉、その足元を救われた格好だ。

〈ジェットフレイム〉の勢いに飛ばされてしまったフェア子が廃墟フィールドに設けられた建物の壁に突っ込んでしまう。


「ふっ、志保姉とはここが違うのだよ」


 勝ちを確信した元春が嫌味ったらしい表情(かお)でこめかみをつつく。

 しかし、勝ち誇るにはまだ早い。


「元春、まだ勝負はついていないよ」


「はぁ!? どういうこったよ」


「私のフェア子を舐めないでよね」


 義姉さんがそう言って不敵に笑ったその直後、壁を砕いて現れるフェア子。


「なっ!?」


「フェア子。やっちゃいなさい」


 そして、そのまま特攻。

 対するフーカは元春の指示を待たず〈巨乳防御〉を展開させるが、所詮それは前面に偏った防御にすぎない。

 圧倒的なパワーで押し込まれて壁際まで押し込まれてしまえばそれまでなのだ。


「勝負あり」


 フェア子の勝利に飛び上がって喜ぶ義姉さん。

 一方、やられたフーカを慌てて回収する元春。

 元春の敗因はフェア子が義姉さんによって生み出された存在であることをきっちり認識しなかったことだろう。


 そうなのだ。義姉さんによって生み出されたスクナがあの程度の攻撃でへこたれるハズが無いのである。

 加えて、フェア子はオリハルコンの〈スクナカード〉を器にして生み出しているスクナである。その耐久力はまさにオリハルコン級なのだ。


 とはいえ、本格的なスクナによる戦闘がこれが初めてという元春にその辺の事を理解しろという方が難しいだろう。

 なにしろ、フェア子にしろフーカにしろ、見た目は手のひらサイズの女の子でしかないのだから。


 ちなみにこの後、ギャラリーとしてその戦いを見守っていた魔女の方々に特殊部隊の皆さんと〈スクナカード〉が飛ぶように売れたことは言うまでもないだろう。

 オリハルコンの〈スクナカード〉を渡した義姉さんはいいとして、元春には少し悪いことをしたかもだけど、二人の戦いは良い宣伝になってくれたみたいだ。

◆蛇足情報


 元春が契約するライカとフーカの名前は、元春が大好きなセクシー女優にあやかってつけられた名前だったりします。


◆各人スクナのステイタス※


 フェア子(志帆のスクナ・勝ち気な妖精型)……〈ジェットフレイム〉〈剛撃〉

 フーカ(元春のスクナ・妖艶な小悪魔型)……〈巨乳防御〉〈風の悪戯〉


 ついでに、


 林蔵(イズナのスクナ・柴犬型)……〈潜伏〉

 ナスカ(十三のスクナ・ハチドリ型)……〈レーダー〉〈交信〉〈植育〉

 カルマ(静流のスクナ・ビスクドール型)……〈蜘蛛の糸〉〈裁ち鋏〉


◆平成、最後の更新です。

 次話は水曜日に投稿予定です。

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