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●銀の伯父に金の姪

 それは魔法によるものだろうか。

 延々と広がる雪原に突如として現れた土の地面、そこに降下してくる巨大な雲に乗るのはルデロック王国国王ルデロックが率いる魔導兵団。

 兵というよりも、どこぞの魔法学園の生徒とばかりに、お揃いの白い制服(レザージャケット)に身を包んだ五百を超える軍勢が見つめる先には反り立つような炎の壁があり、その手前、炎の壁の前には黄金の鎧を身にまとった美姫が一人、そして、漆黒の革鎧を身にまとった三人の女が待ち構えていた。


 そんな四人から五十メートルほどの位置で、ここまでの移動に使った雲を消し去り、地上に降りたった若き魔導兵たちは金色の豪奢な杖を持つ青年の指揮により、銀色の鎧で身を固めるルデロックを囲むような陣を敷く。

 そして、魔法によって透明の障壁を幾重にも構築。

 その最奥、前もってお立ち台のようなものでも用意していたのだろうか、一段高くなった場所からルデロック王が声を張り上げる。


「久しぶりだなマリィ」


「ごきげんよう伯父様」


 銀と金、お互いに優雅なやり取りを交わす鎧姿の二人は叔父と姪の関係だ。


「しかし、これはどういうことだ。お前にはあの城から出るなと厳命しておいたハズだが」


「それはすみませんですの。実はつい数日前に狼を名乗るネズミがどこからか我が城へ紛れ込んで来たようで、いまちょうど城の内部を大掃除をしているところですの。ご容赦を――」


 ルデロックからの嫌味に慇懃なお辞儀(カーテシー)で応じるマリィ。

 そんなマリィの態度に、伯父である前に一国の王であると自負するルデロックは眉間に深いシワを刻みながらも表面上は余裕ぶった態度でこう切り返す。


「だが、それが外に出ていいという理由にはならんだろう。お前の扱いは王下会議で決められれいるのだぞ。

 である以上、俺は決まりを破ったお前に罰を与えなければならなくなるのだが、そこのところはどうなのだ?」


「あら、伯父様の腰巾着の方々が決めた処罰に(わたくし)が従う必要があると?

 ご冗談も程々に仰ってくださいませ」


「貴様、王に向かってなんたる口のききかたを――」


 ルデロックの問いに対するマリィの受け答え、その態度が気に入らなかったのだろう。一人の若い兵士が魔導兵達が作り出す防御壁の奥から、文字通り飛び出してくる。

 そして、腰から抜いた剣をマリィに突きつけようとするのだが、その兵士はマリィが口にした「〈爆弾(ボム)〉」という囁きによって発生した爆風に巻かれ、倒れてしまう。


 背後に生まれた爆発によって倒れ転がる魔導兵。

 マリィはそれ(・・)を足で受け止めると、自分のすぐ脇の地面に突き刺さしていた黒い片手剣を抜き、魔導兵の額すれすれに切っ先を突き付けるとわざと低めた声でこう告げる。


(わたくし)まだ伯父様と話している途中ですのよ。無礼者はどちらですの?」


 そうして、足蹴にした魔導兵の顔を恐怖で引き攣らせることに成功したマリィは、視線をひび割れた防御壁の向こうで目を見開くルデロックの方へと飛ばし、こう続ける。


「それで、伯父様はこの無礼者をどういたしますの?」


「す、好きにすればいいではないか。

 だが――、だが、お前がそういう態度を取るのならこちらにも考えがあるぞ。

 見よ」


 ただ一発の魔法でルデロック王国が誇る魔導兵団が生み出した防御壁を半壊させる。恐るべき姪の魔法(ちから)の一端を見せられ動揺したルデロックは、装備する鎧に魔力を通しながらもパチョンと微妙に失敗したフィンガースナップで合図を飛ばし、兵団の奥から一人の女性が連れ出させる。


 それは、滝のように流れるストレートの金髪が眩しいグラマラスな美女だった。


「やはりお母様を出してきましたのね」


「お、驚かないのだな」


「伯父様には騙し討ちで王位を簒奪したという前科があるのですよ。

 お母様を盾に(わたくし)を脅そうとするなんてこと、むしろ当然のことではありませんの」


 マリィの魔法を恐れながらもどうにか威厳を保とうとするルデロック。

 そこへ返されたあまりにも辛辣な言葉にルデロックはぶるぶると体を震わせながらも、しかし、マリィの力は恐ろしい。拳を固く握りしめることでどうにか怒りを収め、油断すれば爆発しかねない自分の感情を抑え込むように、ゆっくりとした口調でこう訊ねる。


「それでどうするのだ?

 ……まさか母を見捨てるなどとは言わないだろうな」


「伯父様の目的なんですの?」


 不安げなルデロック。そんなルデロックの問い掛けにマリィは視線も鋭く質問で返す。

 すると、どう見ても恨めしげに見えるマリィの様子に、ルデロックは『人質作戦はうまくいった』そう思ったのだろう。知らず知らずの内に安堵の息を零し、すぐ隣に立つ痩せ過ぎた灰色のローブを着る男に「ゾシモス」と声をかける。


 すると、ルデロックに呼びかけられたローブの男は、その骸骨のように細い手で血のように赤い液体が入った小瓶を差し出し、ルデロックはそれを受け取ると、その中身を見せるように軽く掲げてこう続ける。


「お前にはこの魔法薬を飲んでもらう」


「聞いても?」


 マリィが聞いたのは薬の効果。わざわざ魔法薬というのだから、特別な効果があるだろうと読んで質問だ。

 そして、その質問に対して答えを返したのはルデロック。


「不死の血潮という。生者を生ける屍と変える魔法薬だな」


「生ける屍?」


 しかし、ことが薬の詳細に及ぶとなるとこの男が黙っていられなかった。

 ルデロックの隣、薬の製作者であるローブの男・ゾシモスが、指名されてもいないのに、前へと出てきて饒舌に語り出す。


「ノストフェラトゥ。悠久の美しさを持つ怪物を生み出す伝説の秘薬ですよ。ワタシはその開発に成功したのです。蛍紫陽花の葉の葉を轢き潰し、そこに妖精の森でとれる朝露を少々、そしてサラマンダーの火血と私が独自に開発した特別性の触媒をですね。ゆっくりと色が変わるまで練り合わせまして――ヒヒッ」


 気持ち悪い笑いの後もゾシモスの自慢話のような解説は続くものの、マリィとしてはそれがどんな薬なのかさえ知れれば後はどうでもいい。

 要するに体のいい人形を作り出す魔法薬か――と、ここまでの話でそう理解したマリィは、鬱陶しく未だ説明を続けるゾシモスを完全に無視して、油断なく障壁の構築を続ける魔導兵をジロリと睨みながらも言う。


「なるほど、お母様はその薬の所為でそうなってしまっていますのね」


 目の前に娘がいて自分は囚えられている。普通なら何かしらの反応を見せてもいいこの場面だが、マリィの母であるユリスは登場してから一言もしゃべっていない。

 そんな母の様子から、母がすでにその忘我の秘薬によってリビングデッドにされているのではと、マリィはそう考えたのだが、ルデロックがそれを否定する。


「勘違いをするなよ。ユリスがこうなっているのはコヤツが作った別の薬によるものである」


 別にルデロックの反論は褒める言葉では無かったハズだ。

 だが、それはゾシモスの自己顕示欲を満たすものだったらしい。ルデロックの発言を受けて、ゾシモスがうやうやしくも片手を胸の前に頭を下げる。


 しかし、マリィとしては、それが『人を強制的にリビングデッドに変える薬』だろうと『ただ意識を奪うだけの薬』だろうと自分の母親が変な薬を飲まされたことにはかわりない。ゾシモスの態度に小さく劉備を立てながらも、研究馬鹿の空気の読めなさをいちいち指摘していたらキリがない。この短い時間でゾシモスの性質を理解して、それよりも今は自分の役割(・・・・・)を果たすことが最優先だと内心に渦巻く怒りの感情をぐっと堪える。


「それで、叔父様方はそれをどうやって証明しますの?」


「こればかりは信じてもらうしかないな」


 ユリスが元に戻らないのなら自分が従う意味がない。マリィの問い掛けにわざとらしく鼻を鳴らすルデロック。

 しかし、


「それでは話になりませんわね」


「話にならないとはどういうことだ?」


 わざとらしく(・・・・・・)肩をすくめるマリィにルデロックの目が鋭く尖る。


「どういうことと言われましても、考えてもみてくださいの。もしも、(わたくし)が叔父様の用意した魔法薬を飲んだとして、お母様が確実に戻るという確約がなければ意味がないでしょう」


「マリィ、貴様――、実の母親を見殺しにする気か!?」


「あら、ご自分が王になりたいからといって、お父様とお祖父様を手にかけた伯父様にそれを非難する権利はないと思うのですが」


 マリィの言い分にルデロックの顔が真っ赤に染まる。

 しかし、マリィの言っていることは真実であり、ルデロックに反論の余地などなかった。


 だから――、


「わかった。ならばユリスに使った〈愚者の雫〉を、そこにいるお前の部下に試すがいい」


 悔しそうに奥歯を噛み締めながらもルデロックは、マリィの傍に控えるトワ達を使い、薬の効果を確かめてみればいいと提案する。

 だが、マリィはそんなルデロックからの提案に対して不満げに腕組みをして、


「あら、なぜわたくし達がそれをしなければいけませんの。試すのなら叔父様の手勢で試せばいいではありませんか。たとえばそこの錬金術師に飲ませてみてはどうですの」


 そして、


「出来ないので?

 それは、そこにいる錬金術の技術が信じられないといっているようなものですが」


 あからさまな挑発をルデロック――ではなく、ゾシモスへと向ける。

 すると、さすがは研究馬鹿というべきだろう。


「いいでしょう。私がこの身をもって薬の効果を証明してみましょう」


 空気の読めないゾシモスは単純なマリィの挑発に見事に引っかかり、自らが実験台となることでその効果を証明しようと言い出した。


 すると、これに慌てたのがルデロックだ。


「ゾシモス!?

 何故お前が、薬を試すなら他にもいるではないか」


 なにしろ物は他人の意思を奪うという恐るべき効果を持った魔法薬なのだ。ゾシモスに万が一のことがあってはルデロック陣営の戦力の大幅ダウンどころの騒ぎではない。

 どうにかゾシモスを説得しようと部下を生贄に差し出そうとするルデロック。

 だが、そこは当代一と呼ばれる錬金術士として譲れないプライドがあるのだろう。


「問題ありません。私の薬は完璧なのです。

 ……解毒用の薬もこれこの通り、数本用意しておりますので……」


 飄々としているようでマリィの挑発にカチンときているらしい。

 ゾシモスは自分を侮る発言をしたマリィをチラリ睨みながらも、ローブの中に隠された解毒薬を見せて問題ないことをアピールする。


 ルデロックはそんなゾシモスの幼稚性に頭痛を感じながらも、ここでゾシモスに機嫌を損ねられても面倒だ。ただでさえ厄介な状況で余計なことをしてくれる。そう言わんばかりに小さく歯軋り、マリィがこれを機になにか仕掛けてくるかもしれないと、自分とゾシモスの守りを強化するように指示を出した上でゾシモスの願いを了承する。


 一方、許可を受けたゾシモスは自己顕示欲を満たそうとしてか、いちいちくだらない解説をはさみながらも、まるで『御覧ください」とでも言わんばかりに取り出した問題の魔法薬を煽り飲む。


 すると、ゾシモスの体がドス黒い煙のような魔力光に包み込まれて――、


 しかし、変化はそれだけだった。

 もともとゾンビかスケルトンのようなゾシモスが、魔法薬の効果で亡者のようになってしまったとしても、ただ静かになったというだけで常人にはその違いが判別できないのだ。


「これでいいだろう。戻すぞ」


 そして、一度効果を見せさえすれば、ゾシモスを薬の影響下においておく理由などどこにもない。

 ルデロックがすぐに解毒剤を飲ませようとゾシモスの懐に手をのばすのだが、そこでマリィからの『待った』がかかる。


「それが演技ではないと誰が証明できますの」


「貴様、どこまで――」


 質の悪いクレーマーのようなマリィの言い掛かりに、ルデロックは割れんばかりに解毒剤の瓶を握り込む。

 しかし、マリィは『この交渉がまとまると、これからその薬に身を任せなければならないのだからと、事前にきちんとその効能を把握しておくことは当然である』と主張する。


「ぐっ、では、どうすればいいのだ」


「そうですわね――」


 のらりくらりと会話を引き伸ばすような姪の行動に地団駄を踏む思いのルデロック。

 そんなルデロックを前にして、マリィは優雅に唇に指を添え、わざとらしく悩むフリをすると、


「やはり、その薬を飲むのは止めにしますの」


 突然の心変わり。


「貴様、ユリスがどうなってもいいというのか!?」


 あまりに自分勝手なマリィの言い分に、ルデロックは身を乗り出し、脅しつけるように語気を荒らげる。

 しかし、対するマリィは余裕の構えで、

 そして、マリィが言ったのはルデロックにとって信じられないことだった。


「残念ですがお母様は既に確保させていただきましたの」


 はっ!? この女は何を言っているのだ。

 突拍子もないことを言い出すマリィにルデロックはそう言わんばかりに大口を開ける。


 そう、もしもマリィが言っていることが本当だとしたら、ルデロックはマリィに対する最大のカードが失われたことになってしまうと慌てて振り返るルデロック。

 しかし、そこには変わらずマリィの母であるユリスの姿が存在あって、


「小賢しい真似を――」


 口車に乗せられたと、そう思ったルデロックが、文句を言おうとマリィに視線を戻そうとする。

 だがその瞬間、意思もなくただ佇んでいるだけだったユリスの姿が、ルデロックの目の前からゆらりとかき消える。

 そして、溶けるように消えたユリスの像の下から、全身を銀色の鎧でかためた戦士が現れて、

 しかも、その戦士がルデロックへ向けて妙な形の取っ手がついた大型の魔法銃を構えていたとしたらどうだろう。


 何が起こった? そんな驚きに固まるルデロック。

 それは周囲を固める魔導兵達も同じだった。

 そう、彼等の目には、つい数秒前までユリスがただそこに立っているように見えていた。

 しかし、次の瞬間、それが泡沫の夢だったかのように消えてしまったのだ。

 考えられるとしたら集団幻覚魔法を使われていたことぐらいか。

 この短い時間にそこまで考えつけた人間がどれくらいいただろうか。

 彼等に向けて無数の魔弾がばら撒かれる。


 バララララララ――、


 それは、指先大の小さな魔弾。


 そんな魔弾で何ができる。

 数には驚いたが、これくらいの魔弾ならば弾き返すのは簡単だ。

 発射された魔弾を見て、防御障壁の構築に動く魔導兵達。


 しかし、彼等の一部は障壁を展開するには至らなかった。

 放たれた魔弾の速度が彼等の術式構築を上回ったのだ。

 ばら撒かれる無数の魔弾に蹂躙される魔導兵。


 しかし、一部の防御に特化した魔導兵は障壁の展開に間に合った。

 だが、彼等の努力も無駄に終わる。

 そう、謎の魔法銃より放たれた魔弾は、ルデロックを守る魔導兵達の障壁を、さらにはルデロックが装備する銀の鎧によって発動される防御すらも突き破ったのだ。


「なっ――」


 ルデロックはミスリルと信じて疑わなかった、自慢の鎧が生み出した防御壁がもろくも破砕された事実に驚きの声を上げる。

 そして、訳も分からないまま全身に大量の魔弾を浴び、ルデロックは呆然としたままゆっくりと前のめりに倒れていく。


 それと同時に動いたのはマリィだ。

 彼女は突如として現れた鎧の戦士に皆の視線が集まるのをチャンスと、自分の足元にいる魔導兵を剣で一差しして消し去ると、複数の〈爆弾(ボム)〉の魔法を敵の頭上で炸裂させて、その爆風を持って障壁と邪魔な兵士を吹き飛ばす。

 黄金の鎧のパワーアシスト機能を使い、倒れゆくルデロックに急接近したのだ。


「――と、全速力は思ったよりも扱いが難しいですの。

 ですが、解毒剤はこちらで回収させていただきますわね」


 そして、ルデロックの手からこぼれ落ちようとしていた解毒剤をキャッチ。

 もう片方の腕で倒れるルデロックを支えるようにしてそのまま地面に寝かせた上で、想像もしえなかった展開に唖然呆然の周囲を見回すと。


「しかし、この強化スタン弾ですか? 直接的な攻撃力を引き換えにしているようですが、なかなかに強力な魔弾ですわね」


 そう呟き、


「さて、伯父様たちには少々お仕置きが必要ですわね」


 まるで餌を求める魚のように何かを言おうとするルデロックに向けて、その手に持った黒鱗の剣を振り下ろす――、


 そこでようやく正気を取り戻したのは豪奢な杖を構える魔導兵団のリーダーらしき青年だ。


「皆の者、姫の剣を止めろ。ルデロック様を守るのだ!!」


 檄を飛ばす青年にハッと動き出す周りの兵達。

 手に手に魔力光を煌めかせマリィに向けて魔弾をはなとうとする。


 だが、彼等がその目的を達成することは出来なかった。

 彼等が王を助けようと防御から攻撃に転じたのを見計らい、マリィの背後に控えていた三人の女性が割って入ったのだ。


 それは、マリィのメイドの中でも特に武力が高いトワ・ウル・ルクスの三人だった。

 彼女達は、マリィと今まさに魔弾を放とうとする魔導兵との間に割り込むと、その鎧に魔力を流し、幾つもの魔力障壁を漂わせ、敵の攻撃をシャットアウトする。


 その防御力に驚愕する魔導兵達。

 とはいえだ。本来なら、いくら彼女達の力を持ってしても、この数の魔法戦士を相手取ることは難しかっただろう。


 しかし、彼女達には二つの絶対的優位が存在していた。

 一つは、彼女達が守ろうとするマリィの足元にルデロックがいること。

 これが魔導兵の最大の攻撃手段である火力の高い遠距離攻撃を封じていた。

 そして、もう一つは彼女達が持つ魔導器である。

 彼女達はこの相対を前にして、次元の狭間に存在する恐るべき品揃えの商店『万屋』から、ディストピアと呼ばれる特殊な魔導器を渡されていたのだ。

 それは、触れるだけで、相手をこの世から一時的に別の空間に移動させることができるという恐るべき効果を持ったマジックアイテム。

 魔導兵達は彼女達を捕縛――もしくは殺さなければならないのに対して、トワ達は防御の上からでも一撃与えるだけで十分だったのだ。


 さて、ここまで説明すれば、どちらが勝つのかなんて言うまでもないだろう。

 ただの一撃で魔導兵達を消していくトワ達の戦い(蹂躙)を横目に、マリィの剣がルデロック王に振り下ろされる。


 瞬間、ルデロックの存在がこの世界からかき消えてしまう。

 そう、その剣もまたディストピアの一種だったのだ。


「ルデロック様――」


 跡形もなく消えてしまったルデロックに叫び声を上げるのは、王の危機を受け、最初に動き出した青年だ。

 しかし、彼もまた人の心配をしている余裕などなかった。

 敵は前だけでなく後ろからも迫っていたからだ。

 マリィの母親が消えたその場にいた銀色の兵士が、片手に魔法銃を、片手に何故か馬上鞭(フラジェルム)を持ち、襲いかかってきたのである。


 そして、ここで入るマリィの声。


「安心なさい。伯父様は死んでいませんわ」


 しかし、彼にそれが真実か知る術はなかった。

 いや、何が真実なのかを考える余裕などなかったのかもしれない。


「くそ、接近戦は分が悪い」


「逃げた方がよろしいかと」


「誰が逃げるか!!」


 裂帛の声でマリィの忠告に反発する青年。

 だが、その一言を最後に彼もまた犠牲者となる。

 背後からの馬上鞭が彼を叩いたのだ。


「アッ――――!?」


 パシンと乾いた音と妙に甲高い声、そして黄金の錫杖を残して青年の姿がその場から消える。

 そのことがこの茶番劇を終わらせる決定打となった。

 王を失い、リーダーを失い、こうなってしまうと魔導兵団なんて大仰な名前を持つ彼等もまた烏合の衆でしかなかったのだ。

 そもそも彼等はここ一年の間に急遽集められた新造の部隊なのだ。老練の部隊のような柔軟性など彼等には無かった。


 とはいえ、それでも、こういう時に備えて他にリーダーの代わりを務められる人員はいたハズだ。

 しかし、彼等がこれほど追い詰められる戦いに際したのは、これが初めてであり、指揮系統の交代がされるその間隙をつくように、城の方からも援護射撃が行われたらどうなるだろう。


 言うまでもない。

 大量の降り注ぐ魔弾や催涙兵器の雨あられに、完全に混乱をきたしてしまう魔導兵団。

 彼等はこの圧倒的な物量を前に、戦い、逃げ、その中でディストピアによってその存在をかき消されていく。


 最終的に荒れ地に残ったのはマリィ達の五人だけだった。


「終わりましたわね」


 敵対する者がいなくなった洗浄にそう呟いたマリィは、すぐ傍らにやってきたトワに向かってこう指示を出す。


(わたくし)はお母様のお迎えに行きますの。三人はここの処理をお願いすますの」

◆王位を簒奪して自分の名前を国名にする痛い伯父、それがルデロックという男です。

 名前もルデロック=ガルダシア→ルデロック=ルデロックに変更するという残念っぷり。

 因みにマリィの名前『マリィ=ランカーク』の『ランカーク』は母親の姓になります。

 次回、性格さえまともだったら渋いおっさんキャラになっていただろうルデロックに不幸が降りかかります。


◆『ねるねるね○ね』は発売から三十年以上のロングセラー商品だそうです。

 因みにあの色が変わる仕組みは、紫キャベツに含まれるアントシアニンが、ふくらし粉の重曹やクエン酸を加えることによって化学変化するからだそうです。

 昔はもっと怪しげな粉が入ってると思っていました。

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