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コンビニスイーツ

短いお話です。

 放課後、いつもより少し遅れて万屋へやってきた僕の手には大きなビニール袋が抱えていた。

 片方は休憩所に常備するスナック菓子などの補充、そしてもう片方が今日のメインだ。

 その日は一人ではなかったおかげか、いや、やっぱりVIPルームの設置が功を奏したのだろう。既にまったりタイムを享受していたマリィさんと、ゲームを一時中断して振り返る魔王様に挨拶をした僕は、ガサリガサリと取り出した袋の中身をコタツ机の上に並べていく。

 それはコンビニスイーツと呼ばれる色とりどりのデザート達だった。

 休憩室を完備してからというもの、常連のお客様へのサービス茶菓子としていろいろな駄菓子を買ってきてみたものの、マリィのお口に合う駄菓子が少なく、ならばデザートの質を少し上げてみようと、学校から帰りに数件のコンビニを回っていろいろと買い込んできてみたのだ。

 比較的安価なものから、小さいながらに値が張るもの。更には魔界と呼ばれる僻地に住む魔王様は勿論のこと、西洋文化の中ほどにあるだろうマリィさんには物珍しいと思われる、どら焼きなどの和菓子まで様々な種類を揃えてみた。

 すると、さすが甘いモノは別腹でお馴染みの女子というべきか、マリィさんのみならず、普段あまり感情を表に出さない魔王様までもが興味津々のご様子だ。

 そして、並べられたコンビニスイーツを万屋の新しい商品とでも勘違いしたのだろうか。


「おいくらですの?」


「駄菓子と同じでサービスですよ」


 食べてみたいと詰め寄るマリィさんに僕はそう答える。

 実際、魔王様からは、ゲームの購入費用やこの休憩室の整備費用として、観光地の木刀かの如く叩き売り状態となっている例の魔剣や、その他珍しい魔界グッズの買い取り代金が、マリィさんからもそれ以上の金貨を支払ってもらっている。

 それだけでも、毎日おやつを出して、軽く数十年分くらいはまかなえる資金がこの店に投入されているのだ。その上、お金なんか取った日にはバチが当たるというものだ。

 という訳でお二人には好きに選んでもらったところ、

 物珍しさがあったのだろう。マリィさんが選んだのはちょっとお高いクリームあんみつ。

 一方の魔王様が選んだのは、発売されて以来ロングセラーを続けるクリームたっぷりのロールケーキだった。

 こういうところにも性格の違いが現れるんだな。僕は二人のチョイスを興味深く見ながらも、コンビニのプラスチックスプーンでは味気ないだろうと、用意しておいた銀のスプーンをそれぞれに配り、いざ実食と相成る。


「ふわっ」「ん――――――――」


 すると、女子二人はスプーンたっぷりに乗せたそれぞれの甘味を口に入れた途端、ハートが乱舞しそうな蕩け切った声を溢れ出させる。

 そして、こういうところはお姫様も魔王様も変わらないのか、マリィさんが声をかけたのをきっかけに、二人はお互いのスイーツをシェアし合い、再びほにゃりと頬を緩めて至福の声を響かせる。

 と、一通り手元のスイーツを堪能し終えたマリィさんが、優雅な所作で立ち上がりこう言うのだ。


「虎助。シェフを呼んでくださるかしら?」


 まさかこの台詞を生で聞くことになろうとは……、

 シャランとポーズを決めるマリィさんに見下ろされた僕は微量の感動を味わいながらも。


「ええと、なんて言いますか。これって、たぶん工場で作った大量生産品とか、そういうやつだと思いますよ」


 言うと、普段滅多に驚きを表さない魔王様までもが目を丸くするその隣で、まるで天が割れるところでも目撃したかのように息を詰まらせたマリィさんが、わなわなと体を打ち震わせ、軋む声でこう呟くのだ。


「虎助、貴方の世界ではこれが大量に作られていると言いますの?」


 愕然とするマリィさんが力無く視線を落とすのは、たっぷりのあんこに白玉、さくらんぼと、数々のトッピングの上にクリームがのったあんみつだ。

 これまでに紹介した地球産の品物の中でも一番のリアクションに、そこまでのことなのかと苦笑しながらも、自分でも曖昧だと感じる説明を付け加える。


「あの、コンビニ――じゃなくて、スーパーでも通じないかな……なんていいますか。ここと同じように、どこにでもある小さな店で取り扱っている商品ですよ」


 コンビニなんて存在しないだろう世界に暮らす二人にどう伝えたらいいものか。苦心しながらの説明にマリィさんは思考停止。

 だがすぐに、シュバッと擬音が聞こえてきそうな動きで立ち直り、カップケーキやらなんやらと一つ一つを指し示しながら聞いてくる。


「これも、これも、これもですの!?」


 と、僕が相変わらずの苦笑いで「ですね」と答えると、ガガン。今度は四つん這いにへたり込んだと思いきや、


「漫画といい。ゲームといい。貴方の国はどうなっていますの」


 呆れと賞賛が入り混じったような弱々しい声が零れ落ちる。

 そんなマリィさんの声に僕から返す言葉はなにもない。確かにこういう嗜好品や娯楽にかけて言うのなら、僕の暮らす日本という国が様々な世界から見て群を抜いていると知っているからだ。

 何しろ、今更になってだが一部の娯楽に政府すらも注目しているくらいだ。そこにもまだまだ多くの問題点も存在するものの、異世界にすら誇る技術力を持っていることは間違いないだろう。

 けれど、こんなに喜んでくれるのならもっと早く持ってくればよかったかな。

 今度はおかずパンに挑戦してみるのもいいのかもしれないな。

 むしろお取り寄せグルメなんかを持ってきてしまったらどうなってしまんだろう。

 その時、彼女達がどんな反応をしてくれるのかと、その表情を想像して思わず頬をほころばせてしまう僕だった。

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