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余り素材の活用法

 夕方になって元春が帰宅して、夜になりトワさんのお迎えによりマリィさんがお城へと帰った後、僕は工房の一角に立つ建物の地下にある施設にやって来ていた。


 ここは万屋のオーナーであるソニアの為に作られた研究施設。

 僕はその施設の中でも特に大型の素材を取り扱う時に使う大部屋にやって来ていた。


 なぜ僕がそんな部屋を訪れているのかというと、それは、いま僕とソニアの目の前に横たわる超巨大魚の骨を加工する為である。


 差し渡しにして三十メトールはあるだろうこの骨は、昨日の夕飯に使ったボルカラッカの骨である。

 あの後、ソニアに頼まれて、身をすべてそぎ取った上で丸洗い、〈浄化(リフレッシュ)〉の連続照射、入念に魚臭さを消しておいた骨である。


「言われた通りに処理してきたけど。どんなものを作るの?」


「こんなに大きな空魚の骨を入手できたからね。ちょっと飛空艇みたいなものを作ろうかなって思ってね」


 空魚の骨には生来浮かぶ力が備わっている。

 その特性を活かすことで魔法の箒などの空飛ぶ道具が作れるのだ。


 ソニアはそんなボルカラッカの骨を使ってゲームなんかにありがちな飛空艇を作りたいという。


 しかし、売るでもないだろうに飛行船のようなものを作る必要があるのだろうか。


 万屋で使うにしても、空飛ぶ敵への対処なら、前に作った空を駆けることができる靴があるし、ボルカラッカのような強力な空飛ぶ魔獣への対処も、ボルカラッカ戦の後、すぐにソニアに頼んだ兵器(・・)がある。

 だから、別に乗り込むタイプの飛空艇なんて必要ないのでは?

 僕なんかはそう思ったのだが、ソニア曰く。


「でもさ。たとえばベヒーモ級の巨獣とかが迷い込んできた時の緊急避難とかに使えるんじゃない。ここにみたいな地下とか、いろいろ用意してるけど、入り口が限られてるし、なにより、戦いの最中に邪魔とかされたら面倒でしょ」


 成程、飛空艇を作ればそういう使い方もできるのか。


「そういうことなら作ってもいいと思うけど、でも、モノが飛行船ってなるとけっこう時間がかかりそうだね」


 魔法の箒を一つ作るだけでもそれなりに時間がかかる。

 それを大掛かりに、しかも複数の人が乗れるものを作るとなると、結構な時間が必要になるのではないかと、僕がそう聞くと、ソニアはその場でくるっとターン。


「それなんだけど。せっかくだからこのまま使おうと思うんだ」


「このまま?」


 オウム返しの僕の疑問符にソニアは某有名RPGの飛空艇を魔法窓(ウィンドウ)に表示させて、


「ほら、元春達がしているゲームにかっこいい飛空艇があるじゃない。時間短縮にもなるし、あんな感じで骨を使った部分を浮遊装置にして、その下に人が乗る部分を作ろうって思ってるんだ」


 因みに、飛空艇と聞くと、僕のイメージではレトロなRPGにありがちなクラッシックタイプの飛空艇だ。しかし、ソニアが作ろうとしている飛空艇は、未来的でスタイリッシュな、それでいてどことなく生物的なフォルムをした飛空艇みたいだ。


「搭乗部の制作はすでにエレイン達が始めてるから、ボク達は浮袋っていうか動力部分を作らないとね。ボクは骨の加工と飛行に必要な魔法式を仕込むから、虎助は骨を隠すカバーと登場部分を作ってくれるかな」


 そう言いながら、設計図――というか、この場合は型紙かな?

 魔法窓(ウィンドウ)をパスしてくるソニア。

 それを見る限り、飛空艇の浮袋にはヴリトラレザーをメインで使うみたいだ。


 因みに、エレイン君が作っているという人が乗る下の部分はバックヤードに有り余っている古代樹を使うみたいだ。

 まあ、それだけだと耐火性に問題があるということで、外側の面にはヴリトラの鱗を削って貼り付けるのだという。

 ちょっと贅沢に思えるが、ヴリトラの素材はあまりに売るとなると高くつくということで不良在庫になっているし、古代樹の方は量的な問題からかなり余剰在庫を抱えているということで、ここで多少なりとも消費しておこうということなのだろう。


「でもさ。これ、設計図通りに作ると、元のボルカラッカよりも強くなっちゃってない。耐久力だけだけど」


 ヴリトラレザーに古代樹にヴリトラの鱗、これはもう素になっているボルカラッカなんて目じゃない、まさに龍種並の耐久力を持った飛空艇が出来てしまうのではないのか?

 設計図に記された素材の数々に呆れるような声を出す僕にソニアが言うのは、


「空飛ぶ魔動機だからね。攻撃を受けた時のことを考えるとかなり丈夫に作っておかないと」


 それはそうか、名目上はお客様を避難させるのにも使う乗り物だけに、『撃ち落とされたら終わりです』なんて訳にはいかないからね。

 そして、本来、この飛空艇に使うかに思われていたボルカラッカの鱗は普通に防具に加工して売ってしまえばいいとのことである。

 もともとが火を操る魚だけに炎熱耐性の効果を持っていて、強度もミスリルに匹敵するということで、そこそこの価格で売りに出しても数が売れるいい商品になりそうだ。


「ということで、ちゃっちゃと作っちゃおうか」


 まあ、作るものがかなり大掛かりなものだけに、ソニアがいうように『ちゃっちゃと』とはいかないだろうけど、作業しないことには始まらないということで、さっそく骨の加工に入るソニアと別れて、僕はエレイン君が運んできてくれたヴリトラレザーに魔法のチャコペンで設計図を書き込んでいく。

 できるだけ端材が出ないようにと、隙間を潰すように設計図を書き込んだヴリトラレザーの裁断に使うのはソニア特性の解体用ナイフ。

 これさえあればたとえアダマンタイト並とされるドラゴンの革だろうとスパスパ切れるのだ。

 革がたるまないようにエレイン君達に裁断部分の両脇を抑えてもらって、書き込んだ設計図通り慎重に切っていく。

 そして、生地全部を切り抜いたところで、その端材を使い、骨を通すスリーブを作ると、ソニアが作った設計図をよく確認しながら長方形に切り取ったヴリトラレザーを世界樹の樹脂で仮止めして、錬金術を使って接合。

 その際にソニアが作る骨格に被せる時に邪魔にならない上部の継ぎ目も繋いでいく。


 と、そんな感じで作業に集中すること小一時間くらい、『そろそろ家に帰らないと明日に響く』と作業を終えた頃には、ボルカラッカの前身骨格に魔法式を刻み込んでいたソニアの作業もほぼ終了のようで、


「お、そっちも終わったみたいだね。じゃあ、後の作業はエレインに任せて今日はここまでにしようか」


 残りの作業はエレイン君達の頑張りに任せて今日の仕事はここでお終い。

 翌日、学校が終わってから万屋に出勤して、その仕事も一段落というところで再びソニアの研究所に行くと――、

 そこには組み上げられた足場の中央、吊るされるようにしてほぼ完成状態の飛空艇があった。


「しかし、思ったよりも派手な感じに仕上がったね」


「ただの浮袋じゃかっこ悪いからね。いろいろとこだわってみたんだよ」


 なんていうか、それは機械の魚というか、たぶん世界樹の樹脂にムーングロウを融合させた塗料で色を付けたのだろう、メタリックな感じの仕上がりになっていた。


「けど、あの顔の部分は作った憶えが無いんだけど」


 最初の予定ではボルカラッカの骨格に合わせるように、ただ単純にシンプルな魚型の浮袋になる予定だったハズだ。それが一晩経ってみたらドラゴンの顔がついているのだ。


「ああ、アレね。アレはバックヤードに手頃なサイズのドラゴンの顔の革をそのままかぶせただけだよ。最初はボルカラッカそのままのデザインで行こうと思ったんだけど、いざ出来上がってみるとちょっと地味だったからちょっと付け足してみたんだ」


 たぶん、船首像とかそういうノリなのだろう。ヴリトラの頭をそのまま使うとサイズが違いすぎるからと、適当にバックヤードに保管されている素材から、いい感じのものをチョイスして持ってきたのだという。


「さて、見た目の感想はこのくらいでいいかな。ってことで、浮袋の気密性をチェックしちゃおうか」


「気密性のチェック?

 この飛空艇は魔法で浮かぶんじゃなかったっけ」


 安全性を確保するのは大事だが、中に可燃性のガスなどを入れるということでないというのなら、そこまで神経質になる必要はないんじゃないのか。僕がそう訊ねると、ソニアは近くにいたエレイン君に指示を出し完成したばかりの浮袋内部にエレイン君を乗り込ませ、母さんの注文を受けて作った特製の煙玉で大量の煙を発生させる。

 そして、空中へと舞い上がり、煙が抜けていないかをチェックした上で戻ってきて、


「動力として人工の魔石を積み込むからね。中に結界も張ったりするけど、メインの防御はガワになるから、火炎攻撃みたいな攻撃に対する脆弱性は排除したいんだよ」


 可燃性のガスを積まないにしても、少しのほころびから内部にダメージが入って魔導器を動かす魔石にダメージが入ったら困るってところかな。


「でも、人工の魔石って――、魔石は天然物しか無かったんじゃないの?」


 魔石というのは魔獣や巨獣の体内から見つかったり、鉱石のような状態で発見される意外は手に入れられない素材だと聞いていたが、もしかしてソニアは新しく魔石を創る技術を開発したのだろうか?


「ああ、それなんだけど。例の空中要塞もそうなんだけど、前にこの世界に転移してきた山羊の魔動機がいたよね。あれに搭載されていたでっかい魔石が人工魔石――、いや、混合魔石って表現した方が正確かな。小さな魔石を錬金術でくっつけたものだったみたいなんだよ。で、いろいろな方法で分析に掛けてみた結果、似たようなものが出来たから、飛空艇を作るついでに実証実験してみようと思ってね」


「それ、なんか凄い技術のような気がするけど、こんな思いつきで作ったような魔動機に載せちゃって大丈夫なの?」


 今のところ魔石を作るなんて技術は聞いていない。その未知の技術を使って作ったものをこんな適当に、いや、目に見える形で世に出してしまってもいいものか、心配する僕にソニアは腰に手を当てて。


「そうだね。迂闊に外に出せない技術になるけど、中を見られなければ問題ないし、そもそも普通の人間にこの飛空艇は撃ち落とせないから――、それに、アレ(合成魔石)がどんなものなのか一目見るだけで理解できる人なんていないよ」


 たしかに、いつも規格外のマジックアイテムを開発し、〈金龍の眼〉という高度な鑑定魔具を持つソニアがその解析に相当の時間を掛けた代物だ。少し見られたくらいでそれがどんな魔石でどのように作られているのかなどわかるハズもないか。


「でも、『こんな思いつきで作った』ってのはヒドくない。ボクだって適当にやってるんじゃなくて、この飛空艇で取れたデータを元にモルドレッドを強く出来ないかって計算してるんだよ」


「ああ、ごめんごめん」


 成程、魔力の供給源である巨大な魔石を搭載できれば、膨大な魔力によって動くモルドレッドをもっと頻繁に動かすことが出来るようになるのかもしれないのか。

 しかし、その混合魔石とやらが莫大な魔力を消費して動くモルドレッドに耐えられるのか、それを調べるためにこの実験は必要だと。


 うん。物は言いようだね。


「さて、魔石をセットしたら取り敢えず浮遊実験だけしておこうかね」


「あれ、飛ばすんじゃなくて?」


 ソニアのことだからすぐにでも飛行実験をするのかと思っていたのだが、意外と慎重な判断である。


「さすがのボクでも、こんなでっかい魔動機の飛行実験ともなると慎重になるよ。動かしてすぐに墜落なんてなったらかっこ悪いもんね」


 慎重っていうか、すぐに飛ばさないのは失敗を見られたくないって理由ね。

 まあ、これだけでっかい魔動機なんだ。誰にも見られずに試験飛行するなんて無理な話かな。

 だったら浮かぶことだけ確認して、その後で低空で移動させて、どこか離れた荒野で飛行実験を行おうとか、そう考えているのだろう。


「ということで、実験始めるよ」


「了解です」


 はぁ、昨日の今日でこれだけ出来てたから、思ったよりも早く完成するんじゃないかと思ったけど、やっぱりこれだけ大きな魔動機を作るとなると、いろいろとやることがあるんだな。

 僕は魔石の起動実験を始めるソニアの後ろ姿にそう息を吐きながらも、彼女を手伝うべく作りかけの飛空艇に乗り込むのだった。

◆飛空艇といえばフ○イナルフ○ンタジーですが、虎助がイメージする飛空艇はノーチラスとか、ファルコンとか、いわゆる飛行船タイプのもので、ソニアがイメージする飛空艇は8のラグナロクとか、ちょっと未来的なデザインの飛空艇って感じです。

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