●幕間・聖なる夜に鉄槌を
◆今回は、前回の集まりとはまた別で、元春が所属する写真部の会議の様子を会話形式でお送りします。
季節外れのクリスマスネタのつもりで書いていたら、まったく別物になっていました。
まあ、明日はバレンタインデーですから、ある意味でちょうどいいんじゃないかと思います。
これは冬休みに入る直前、とある高校の一部活で行われた会議の記録である。
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「さて、みんな集まってもらって悪い。今日は来るクリスマス恒例行事について話し合おうと思う」
「何をやるんすか、まさか俺達でパーティするとか言うんじゃないんすよね。
俺、嫌っすよ。ドキッ、男だらけのクリスマスパーティなんて――」
「いや、そういうのじゃあないが、まあ、ある意味でパーティではあるかな」
「はっ!? 冗談じゃなくてです?」
「ああ――、とはいっても、それは普通のパーティじゃなくて、聖なる夜の恒例行事、サンタコス写真集の作成とリア充共へ鉄槌を下す、同胞による同胞の為のパーティなんだがな」
「えっと――、それってどういうことですか?」
「一言で言うと調子に乗ったリア充にお仕置きをするって感じだね。
ほら、テレビとかで芸人にハニートラップを仕掛けて落とし穴に嵌めるヤツとかあるでしょ。あれを新聞部とか有志同盟を巻き込んでやるんだよ」
「で、その結果やら、そん時撮れた映像やらを新学期の初日に暴露するってワケだ」
「うわぁ」
「えげつないっすね」
「でも、そんなことを僕達だけで上手くできるんでしょうか。
それにそんなことをやったら風紀委員も黙ってない気がするんですけど」
「ああ、まず、風紀委員の方は大丈夫だ。風紀委員の中にもこの行事に協力してるヤツがいるからな。祭りでゲットした情報を流すって約束で、毎年、適当に誤魔化してもらえるようにしてもらってる」
「それに有志同盟もいるからな。風紀委員の件も含めて、男も女も協力者からいろいろと情報が集まってきてるから、俺等も動きやすいんだ」
「協力者――って、女子にもいるんすか?」
「そうだな」
「女の嫉妬ってのは怖いんだよな。あの女を蹴落として自分が――って考えるクソ○ッチが結構いんだよ」
「でも、それってまた新しくリア充な人を作る手伝いになってません?」
「その辺りは厳選してあるからな。
そもそも、俺達に情報を垂れ込むような女子がまともな女子だと思うか」
「確かに、そうですね――」
「確実に地雷女だよな」
「ということで、今回のターゲットなんだが、田島とその一味、この人達は確実に潰さなければならない」
「そうだな」
「因みに、その他のターゲットはどうなってるんだ? 準備とか進んでる?」
「一年の赤田と西口は順調です。
三年の聖先輩を嵌める仕掛け作りがちょっと手間取ってるみたいですね。
ただ、やっぱり問題なのは田島ですか。
……みんなも例の噂は知っていると思うんだけど、そのマンションっていうのが結構いいところみたいで、オートロックは勿論のこと、警備の人間なんかもいるみたいだから、中の様子は全くわからないみたいなんですよ。
まあ、中学生とか高校生でもマンションの利用者の出入りは結構ザルみたいだから、そっちの方向で攻めたいと思うんですけど」
「――って、中学生まで出入りしてんのかよ!?」
「う~ん。その辺は確実とは言えないかな。もともとそこに住んでるって場合もあるかもだし、別の部屋を訊ねたって可能性もあるからね」
「成程、それもそっか」
「で、例の噂の検証の方はどうなってる?」
「新聞部からの情報提供とマンションから出てくる女の子の反応からいって、多分――」
「例の噂が本当だと――」
「……う、うわぁぁ、リコちゃん」
「ど、どうしちゃったんですか先輩は?」
「ああ、コイツが中学から片思いしてる女子が田島のヤツにベタ惚れでな。調査の結果、週に三回くらいそのマンションに通ってるらしいんだよ」
「それは、ご愁傷さまというか、なんというか――」
「そう言っているお前らも他人事では済まされないぞ」
「えっ?」
「ですね。新聞部からの情報を見る限り、既に一年生にも被害が出ているって話だから」
「マジですか?」
「そうだな。特に同じバスケ部の赤城と魚澄が怪しいらしい」
「なっ、なんですって!?」
「ノリが軽い赤城ちゃんだけならまだしも、バスケ命の魚澄ちゃんまでもがっ!?」
「まあ、あくまで怪しいって噂なんだがな」
「こ、これは、もう、一刻の猶予もならないっすね」
「で、でも、大丈夫なんでしょうか。たしか田島先輩のお母さんって――」
「なんか有名な教育評論家だったっけか?」
「下手したら退学がどうのこうのなんて言い出しかねないよね」
「ああ、面倒臭ぇ。なんであんなヤツがモテんだよ。世の中、ゼッテー間違ってるよな」
「うん。間違ってる」
「でもよ。相手がそういうのの関係者だとすると、面倒だよな」
「下手したら、いや、下手しなくても俺等が処分される可能性もあっからな」
「…………」
「…………」
「…………」
「あの――、それなんすけど。俺に任せてくれないっすか」
「何か策があるのかい?」
「実はこの問題に関してはちょっとしたツテがあってですね、なんかそっちの方でも最近動きがあったみたいで、そこに上手く便乗できれば田島一派そのものを壊滅させることもできるかもしれないっす」
「壊滅、だと?」
「ち、因みにそのツテっていうのを聞いてもいいかな」
「まあ、友達の関係ってとこっすかね」
「おい、お前の友人ってことは――、もしかして『お姉様』のことか?」
「いや、その義弟の方っす」
「そ、そうか。つっても『お姉様』の『義弟君』って言ったら、噂の一年だろ」
「僕、噂で暴走族を壊滅させたって話を聞いたことがあるんだけど……」
「安心して下さい。違法なことをするつもりはないっすよ。
ってゆうか、虎――、俺の友達はそういうことにうるさいっすからね」
「え、ええと、それって答えになってないんだけど……」
「ああ、暴走族の件っすね。あれは正確に言うと志ほ――じゃなくて、その『お姉様』の方がやったことっす。だから、俺の友達はその後処理をしただけっすね」
「後処理って――」
「穏便に警察に通報しただけっすよ。ただし少年課とかそういうところじゃなくて、ちょっと特殊な部署だったみたいですけどね」
「ちょっと特殊な部署って――」
「因みに、そいつ等って、その後どうなったん?」
「聞くとこによりますと、今は着実に更生してるみたいっすよ。何人かは警察官を目指しているみたいっす」
「えっと――、それってどういう展開?」
「つか、そういう奴等も警察官ってなれるもんなん?」
「それは俺も気になって聞いてみたんすけど、ソイツ等は暴走族っていってもそこまではっちゃけた集団じゃなくて、ただ夜中に集まって騒ぐだけの迷惑集団って感じだったみたいっすから、そこまで問題になってないみたいっすよ。そもそもソイツ等がもし犯罪に走ってたら、お姉様とエンカウントした時点で五体満足でいられる訳がないっすから」
「実力行使で五体不満足って洒落にもなんねーぞ」
「さすがはお姉様ってところなのかな」
「てか、そう考えっと俺等ってヤバくね。俺等が任務中にもし先輩とであっちまったら――」
「おおう。恐ろしいこと考えんなよ。背筋がゾクってなっちまったじゃねーか」
「……盛り上がってるとこすいませんけど、俺等ならたぶん大丈夫っすよ。
俺等の場合、お姉様の制裁対象にギリギリのところでなっていませんから。
じゃなかったら、俺なんてもう墓の下っすよ」
「いや、墓の下って――」
「それに、たしか、三年生のお二方はお姉様の制裁を食らったとかなんとか前に聞いたんすけど」
「そうだな。あれはヤバかった」
「ウム。死ぬかと思ったな」
「でも、特に怪我とかしてないっすよね」
「死ぬ程の恐怖は味わったけどな」
「なら大丈夫っすよ。先輩達がもしもお姉様の許容範囲を超えることをしてたなら、肋骨の十本や二十本は覚悟しないといけないっすから」
「それ単位おかしくね」
「なに言ってるんすか、今のお姉様ならパンチ一発でそれっくらいのことできますよ」
「それ、どんなゴリラだよ」
「「あ゛っ」」
「お前――、それは禁句だぞ」
「ああ、終わった……、終わったな」
「えっ、えっ、いや、ここだけの話でしょ。なあ元春」
「いやいや、俺には志保姉への報告義務があるから」
「そんな――」
「まあ、今なら友達のおかげでやられた後の治療体制は万全だから、大人しくやられた方が身の為だぞ」
「…………マジかよ」
「と、ともかく、田島の方はお前に任せてもいいんだな」
「オッケーっす」
「だったら俺等は他のクソリア充共に集中すっか」
「だな」
「よっしゃ、行くぞオラァ!! 気合を入れろっ!!」
『応っ!!』「お、おう……」
「…………そういえば、先輩達は受験勉強とかって大丈夫なんですか?」
「リア充共の悲鳴が明日の糧となるから問題ナッシングだ」
「はぁ」
「ああ見えて先輩たちは頭がいいから大丈夫だと思うよ」
「ああ見えてってのは何だよ」
「いや、そのままですけど」
「ホント、お前等は可愛げのない後輩たちだな」
「ウム」
◆因みに今回の会議は元春が以前していた会議はまた別の集まりです。(壱号と参号はまた別の部活)
最後に失言をしたのは前回と同じく陸号(仮)君です。
彼もあれから順調に常識外の存在に馴染んでいっているようです。
まあ、地球という惑星がある世界に限った非常識ですが……。