調査結果報告
空中要塞の調査から翌日、僕達は万屋の和室に集まっていた。
メンバーは僕に元春にマリィさんだ。
因みにメイドの皆さんは今日、通常業務に励んでいるんだそうだ。
まあ、メイドさんにはメイドさんの仕事があるのだ。ずっと遺跡の調査やらなんやらをしている訳にもいかないのである。
「それで、結局あれらは何だったんですの?」
「おそらくという言葉が括弧つきになりますが、以前アヴァロン=エラにやってきた鋼鉄の山羊に取り付けられていた魔石と同じものみたいですね」
僕達が話しているのは空中要塞で見つけた二つの魔石。
実はあれから空中要塞で発見した魔石の分析を行ってみたのだが、あの魔石は空中要塞の動力源のようなものらしく、抜き取ると空中要塞が落下してしまう危険性があることから、持って帰ることは出来なかったのだ。
しかし、それならばと各種探査魔法や鑑定魔法、それらを使った結果、以前、鋼鉄の山羊を倒して手に入れた山羊座の巨大魔石と今回の魔石がほぼ同じものであるということが判明したのである。
そんな訳で、現在ソニアが山羊座の魔石の詳細な調査をしてくれているところなのだ。
因みに空中要塞に取り付けられていた魔石には天秤座と牡牛座の意匠が施されていた。
「ということは、レイ――でしたかしら。あの空中要塞は彼等が暮らす世界にあるということですの?」
レイというのは鋼鉄の山羊と一緒にこのアヴァロン=エラにやってきて、僕達と共闘して鋼鉄の山羊を打倒したパーティのリーダーの名前である。
山羊座に天秤座に牡牛座と、僕とマリィさんが目撃した三つの魔石がほぼ同じものであるとすると、そのご意見も尤もなのであるが、
「さすがにそこまでは分かりかねますね」
あの後、隠し施設を後にした僕達が空中要塞の周囲数キロを調べてみたのだが、どの方角を調べてみても海ばかりで、人の存在を確認できなかった。
いや、そもそも僕達はレイさん達がどの世界から来たかすら知らないのだから、人が住んでいる陸地を発見したとしても、彼等を見つけない限りはその確証には至れないのだが……。
とはいえ、陸地の調査は必要なことで、
「いま、広範囲の調査もできるようなゴーレムの準備も魔石の調査と並行して行っているのですが、これがなかなかうまくいかなくて」
広範囲の探索任務ということならばカリアを使えばいいと考えがちなのだが、アヴァロン=エラの外での調査となると、カリアのように高機動かつ高性能な探査能力を持った個体はエネルギーを維持することは難しく。
かといって、燃費がよく魔素の回収能力にも長けている『そにあ』のようなタイプのゴーレムでは、周囲数キロが海となっている場所に浮かんでいる空中要塞から探索に出すのは無理なのだ。
だから今は、消費魔力が極小の、スクナの技術を応用した探査ゴーレムが作れないかと検討しているところなのだ。
「つまり、現状、打つ手が無しという認識でよろしいのですの?」
「いえ、ヒントはありましたから、ある程度の予測は立っているみたいですよ」
「ヒント?」
元春がパラリとマンガ雑誌をめくる動きに合わせるように、マリィさんがそのボリューミーな金髪ドリルをわさりと首を傾ける。
「ええ、空中要塞で手に入れたゴーレムがありましたよね。あれと鋼鉄の山羊の内部構造なんかを比べることによって、鋼鉄の山羊とあの空中要塞が関係性を調べることが出来るのではないかって、ソニアが分析してくれたんです」
「そういえば回収していましたわね。素材として回収しているのかと思っていましたが、そういう狙いがあったのですね」
もともとはマリィさんの言った通り、素材や技術の確保だったんですけどね。
でも、こうなってしまうと謎も調べない訳にはいかないだろう――と、調べることになったのだ。
と、そんな裏事情はさておいて、
空中要塞から持ち帰ったゴーレムを調べた結果、前に倒した鋼鉄の山羊との間で素材や使われている部品の企画など、多くの部分で共通点が見られたのだ。
「ということは、あの空中要塞と例の鉄でできた山羊は、同じ場所で作られたもので間違いないということですの?」
「それなんですけど、はっきりとしたことはいえないんですよね」
「どういうことですの?」
再び可愛らしく小首をかしげるマリィさん。
「ソニアがした調査の中に年代測定というものがあるんですが、それによると、あの要塞と鋼鉄の山羊が作られた年代がまったく違うみたいなんですよ」
その差は約千年。鋼鉄の山羊が作られてから千年近く経過しているのに対して、あの空中要塞はまだ百年と経ってないのだというのだ。
「そして――、千年に百年と時間的な差が出てくるとなると技術の違いがあっていいハズなのに、使われている技術にその差が生じてないみたいなんです」
僕の説明にマリィさんは難しい顔をして、
「たしかにそれは妙ですわね」
作られた年代がそもそも違うという可能性もあるのだが、数百年も技術の進歩がないというのはおかしいのだ。
だったら、どうしてそのような年代の差異が生じているのかというと――、
「もともと同じ世界で作られたものが何らかの原因で他の世界へと転移してしまったか、もしくは魔王様のように世界を渡る力を持っている人が製作者の可能性があるってソニアが言ってましたけど」
実際に魔王様は自分の意思で次元の歪みを作ることが出来て、賢者様が使っている次元の歪みは賢者様が行ったとある動力結晶の製作時の失敗によって生み出された次元の歪みだったりするのである。
あれ程の魔動機、空中要塞を生み出せる技術があるのなら、空間移動――もしくは、次元の歪みが発生するような実験を行っていてもおかしくはないのではないかと、ソニアは僕に言ったのだ。
「一筋縄ではいきませんね」
「まあ、その辺の矛盾も調査が進むとわかるようになるのかもしれませんけど、暫くは追加で調査してみないとわからないそうですよ」
「ならばまた今度、都合のいい時に調査の同行をお願いいたしますの」
「そうですね。でも、今度はトワさんは誘わない方がいいでしょうね」
「たしかに、高所恐怖症のトワに何度もあの部屋の調査に同行してもらうのは酷ですものね」
◆そこに居ると明記されていながら元春が一言も発していないのはマンガを読んでいたからです。
あっ、因みにこの話で五章の終了になります。(さらっと)