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●一方、その頃の万屋では※

◆今週の二話目です。

 虎助にマリィにマオ(+ホリル)と、それぞれエルブンナイツと対峙していた頃、万屋に残っていた面々は混乱に陥っていた。

 何しろ、ゲート付近から膨大な光が溢れ出したと思いきや、いきなり地面のあちらこちらから植物が芽を出して、あっという間に森を形成してしまったのだ。これを驚かずに何を驚けというのか。


「ホリルさん飛び出していっちゃいましたけど、師匠どうします?」


「取り敢えず武器とか出しておいた方がいいんじゃねーの」


 突如として現れた古代の森を見て、唖然と訊ねる元春にロベルトが適当なアドバイスを返す。

 そして、元春が「ですね」と頷いたところで、ロベルトは店の中に振り返り、声を掛けるのは緑青色の小さなゴーレムだ。


「ベル、どうなってる?」


『現在、念波障害が発生している為、詳細は不明。しかし、その数分前に店長がブラックリスト該当人物との接触を確認。集団戦闘に移行した模様です』


 ベルが出したフキダシに微かに眉をひそめるロベルト。

 そして、気心の知れた友人である元春に何があってもいいようにと振り返ったところでロベルトが驚く。


「おおう。元春少年、なんだよそりゃ!?」


「あれ、師匠はこの鎧を見るの初めてっすか?

 実は結構前に虎助――っていうか万屋(ここ)のオーナーにパワードスーツみたいな鎧を作ってもらってたんすよ」


 驚き、目を丸くするロベルトに元春が自慢の鎧〈ブラットデア〉の詳細を説明する。


「マジかよ。俺もそれ欲しいな」


「虎助に言えば売ってくれると思いますよ。マリィちゃんも自分のを作ってもらってたっすから」


 因みに元春の鎧はテストとして無料(タダ)で貰ったようなものなのだが、あえてその事実を教えないのが元春という少年だろう。


 と、元春とロベルトが眼の前の事態に混乱しながらも鎧に関する話をしていると、店の前の森から数人の美男美女が現れて、


「おっと、お客さんのお出ましみたいだな」


「おほっ、あれ、エルフっすか?」


 おもむろに森の中から現れたギリシャ彫刻のごとき凛とした美しさを持つエルフの美女達に大興奮の元春。

 そんな元春の一方でロベルトは警戒を緩めていなかった。以前、この世界にやって来たエルフがマオと揉め事を起こしていたことを聞いていたからだ。

 ついでにいうと、その話は元春も聞いているのだが、最近になってマオに肯定的なエルフであるホリルが顔を出すようになり、その辺の危機感が薄らいでいるのだろう。

 いつものように下心丸出しで話しかけようとする元春の肩を掴んだロベルトが、まっすぐ万屋に向かって歩いてくるエルフ達に訊ねる。


「お嬢さん。こんな辺鄙な場所になんのご用かな?」


「お前達は?」


 一見すると紳士風にも見えなくもないロベルトの声掛けに答えたのは男性のエルフだった。


「ここの客だけど」


「悪いがこの拠点は我々が接収させてもらう」


「接収ってどういう意味っすか?」


 応じたのが男性だったからだろう。ロベルトがちょっと不満げにそう応えると、男性エルフが当然の事のようにそう言い放ち、『接収』という言葉の意味が分からなかった元春がロベルトに訊ねかける。

 翻訳の魔導器であるバベルは収録されている言葉の中から影響下にある人物に合わせて言葉をチョイス。タイムラグなしにその翻訳結果を脳に認識させる。

 いくらバベルが優れた魔導器であれど元々の言葉の意味を知っていなければ意味がないのだ。


「強盗みたいなもんだな」


「ご、強盗っ!?」


 元春からのおバカな質問に、ロベルトが目の前のエルフに警戒の視線を向けつつもしれっと辛辣な答えを返す。

 すると、これに慌てたのは元春だ。

 万屋にいる限り、強盗に出くわすことはそれほど珍しいことではないのだが、残念ながら今の万屋には、いつも無法者に対処してくれていた虎助がいなかったのだ。


 だが、ロベルトの発言は当然のごとくエルフ達にとっては不本意過ぎるものだったらしい。


「無礼者――、誇り高きエルブンナイツである我々を強盗と呼ぶとは何事か!?」


 はてさて、何の理由もなく店舗である万屋を接収するなどという輩のことを強盗と言わずしてなんと言うか。


 エルフ達が一斉に武器を構える。


 そんなエルフの動きに対して、元春は驚き素早くベルの後ろに隠れながらペン(如意棒)を手に構えて、ロベルトが舌打ち懐から銃型のシェルと抜き取ろうとする。


 だが、その両者の間に割り込むものがいた。ベルだ。

 ベルはその小さくて丸っこい手の平を意味ありげにエルフ達に向けると、黄色と黒のストライプ(警戒色)で縁取られたフキダシを頭上に浮かべる。


『当店敷地での戦闘行為は禁止されております』


 しかし、無駄にプライドの高いエルフ達にはベルの警告は届かない。


「ゴーレム風情が私達に命令をするか!?」


 相手はしょせん小さなゴーレム一体だ。ゲートでの戦いでは苦戦したものの、それは集団戦におけるゴーレムの意思統一が自分達よりも上だったというだけで、相手が一体とあらば倒せるハズ、そう高をくくったエルフの青年が魔力を込めたレイピアでの刺突を繰り出す。


 しかし、いざ彼のレイピアがベルに突き刺さろうとしたその瞬間――、


「なっ!? いまのは風の魔法か」


 エルフの青年の腹部に空気の圧縮弾が打ち込まれ、エルフの青年が大きく吹き飛ばされてしまう。

 と、そんな青年の醜態に誰かが思わず口にしてしまった質問に答えるものはいない。

 その代わりにといってはなんであるが、ベルが頭上に浮かべたのは、未だ戦闘の構えを解かないエルフ達に警告を発するフキダシだった。


『当店敷地での戦闘行為は禁止されております。これ以上の迷惑行為はお控えください』


 再び腕を突き出すベル。これ以上は実力行使になるという意思を示しているのだ。

 対するエルフ達の行動は単純だった。

 剣が駄目なら魔法で打ち取ればいい。

 それが魔力の扱いに長けたエルフならば当然の選択だった。

 ミスリル製のレイピアを突き出したエルフ達が、古式ゆかしい詠唱魔法で色とりどりの魔法を繰り出してゆく。

 だが、たとえほんの数行の詠唱だったとしても、この近距離での詠唱は彼等にとっては大きな隙に繋がった。

 エルフ達が魔法で生み出すよりもベルが防御を構築する速度の方が早かったのだ。


「光の盾だと――」


「ゴーレムが我々の真似事するだと、コケにしてくれる」


 マオがそうであるように、光属性の結界術というのはエルフの得意とする魔法の一つとして知られている。

 エルフ達からしてみたらベルの防御魔法が光属性だったことに腹が立ったのだろう。

 自分達の攻撃魔法が完全に防がれたのにも関わらず――、いや、防がれたこそと言うべきか、逃げるという選択肢は彼等の頭からすっぱり抜け落ち、ただひたすらに眼の前のゴーレムを倒すこと、それだけしか考えられなくなっていた。


 だが、彼等は完全に誤解をしていた。

 ベルが使ったのは魔法ではないのだ。

 これはゲートが使えなくなったのを知ったベルが、バックヤードから取り寄せたディロックという簡易マジックアイテムだったのだ。


 まさか、そんなアイテムが存在するとは露知らず、自分達のプライドに酔い、ベルに襲いかかるエルフ達。


 対するベルは作業的に襲いかかるエルフ達を無効化していき。


「さて、どうする?」


「って、言われてもっすね」


 これぞまさに漁夫の利、万屋を接収するつもりが逆にあっという間に制圧されてしまったエルフ達に、ロベルトが半ば哀れみ視線を向ける。

 それに対して、元春は肩をすくめながらも、チラリ。この光景を作り出したベルを見る。

 すると、ベルはそんな元春からの視線に答えるように、ポンとこんなフキダシを、そのつるりとした頭の上に浮かべるのだ。


『現在、店長および数体のエレインが敵性勢力と交戦していると思われます。しばらくそのままでお待ち下さい』


「よくわからんが、ベルが待ってろって言うんだから、俺等としては従っておいた方がいいだろ」


「マリィちゃんとマオっちも飛び出していきましたからね」


 マオの実力はあまり知らないがマリィとホリルの実力はその身で知っている。元春としては激しい戦いに渦中に飛び込むなんて選択肢はありえない。

 ならばなにをするのかというと……、

 元春は倒れたエルフ達の拘束にとりかかろうとするベルに気付いてロベルトとアイコンタクト。


「俺等はこの嬢ちゃん達から事情を聞くとすっか」


「そっすね。

 俺等は俺等のできることを――、

 ベルばっかに働かせるものあれっすから、ここは俺等で縛っちゃいますか」


 ホムンクルスのアニマというパートナーを手に入れたいま――、ロベルトの生活は潤っていた。

 しかし、偶然にも斬りかかってきたエルフの剣士が、エルフという種族にあるまじき巨乳の持ち主だったとしたら話は別だ。

 ロベルトはいやらしい笑みを浮かべながら「よっしゃ、俺等も手伝うぜ」と、ベルからロープを奪い取るようにしてエルフらしからぬ巨乳を持った女性剣士に歩み寄る。


 だが、ロベルトがいざその巨乳エルフに触れようとしたところでバチリと電撃のようなものが弾ける。

 思わぬ衝撃に怯むロベルト。

 と、次の瞬間、ロベルトのロープを持っていた腕が捻りあげられ、首にナイフを突きつけられていた。

 この巨乳エルフは、一人、やられたフリをしていただけだったようだ。


「チッ、またコレかよ――、

 というか、まさか自分にトラップをかけてるなんてな」


「う、動くな」


 押し付けられる巨乳に僅かに顔を緩めながらも、つい半月ほど前に受けたものの焼き増しのような攻撃に、形だけの舌打ちをするロベルト。


 そんな、ロベルトを脅しつけ、周囲に警戒の目線を送る巨乳エルフ。

 どうにかして、この状況から脱しようと考えるのだが、仲間は殆どが気絶状態、中には気絶していない仲間もいるようだが、みぞおちなどに魔弾を撃ち込まれ、悶絶状態ともなればすぐの援護は期待できないだろう。


 と、巨乳エルフがそんな事を考えている間にも、元春は部分的に鎧を解除した両手をわきわきと虚空にさまよわせ、どうしたらいいのか分からないと戸惑っていた。

 いや、どちらかといえば、世にも珍しい巨乳エルフに組み付かれるロベルトを羨ましいと思っていたと言う方が正しいか。

 そして、ここは戦えない自分がロベルトの代わりに人質役を――と、元春が鎧を解除して手をあげようとしたその時だった。

 店の奥、認識阻害の魔法が発生しているカウンターの向こうから、麻痺の効果を持った魔弾が飛んできて、颯爽と現れた金髪の美女がこう声を荒らげながら、麻痺の魔弾によろめく女エルフの顔面をぶん殴る。


「マスターに触れるな!!」


 ロベルトが巨乳エルフに拘束される少し前、タイミングよくというべきか、彼の事をマスターと呼んで慕うアニマが周囲の異変に錬金術の勉強をしていた工房から万屋に戻ってきていたのだ。

 本来なら素人の狙撃が森の狩人などとも呼ばれるエルフをとらえるのは難しい。

 しかし、ロベルトを羽交い締めにしていた巨乳エルフは、認識外からの一撃により完全に沈黙することとなる。


 一方、救出されたロベルトはといえばダラダラと冷や汗を流して、


「ア、アニマ、これは違うんだ」


 ロベルトが慌てたのは自分がやましい思いで巨乳のエルフに捕まったからだけではない。

 何故か片手に包丁を持っているアニマが、異世界の友人である元春に薦められるがままに読んだ漫画にあったヤンデレ展開というものに酷似していたからだ。


 しかし、それはロベルトの思い過ごしだったようだ。

 アニマは敵が沈黙した事を確認すると、持っていた包丁をその場に放り投げ、ロベルトの下へと駆け寄ると、心配そうな眼差しでこう聞いたのだ。


「マスター。お怪我はありませんでしたか」


 アニマが包丁を手にしていたのは、工房から戻ってきてロベルトが捕まえられているシーンを目撃。彼を助けるべく、キッチンに置いてあった包丁を手にとったからだ。

 まあ、その後で、店の売り物を使わせてもらえばいいじゃないかと気付き、魔法銃を手に取ることになったのだが、

 そんな裏事情を露程も知らないロベルトは、


「あ、ああ、大丈夫。大丈夫だ」


 ついさっき思い浮かべた想像にやや顔をひきつらせながらも自分は無事だとアピールする。

 その傍らで「羨ましいっす」と呟くのは急な展開に置いてけぼりをくらった元春だ。

 そして暫く、落ち着いたロベルトが質問するのは、ともすれば危険な状況に陥ってしまっていただろうこの場を収めたアニマの実力。


「それよりもアニマ、お前、なんか物凄く強くなってね?」


「実は、次にいつマスターが連れ去られてもいいようにとイズナ様に鍛えてもらっているのです」


 アニマにとって生まれてすぐの創造主誘拐事件は大きなものだったのだろう。

 もう二度とロベルトをあんな目に合わせないようにとアニマは戦闘訓練を積んでいたのだ。

 そして、勤勉に修行に励むアニマがイズナの目に止まってしまったのは必然だった。

 単に日常生活の役に立つ技術を教えてもらっていたのだろう。そう思っていたロベルトはアニマから知らされた話に天を仰ぐ。

 ロベルトも虎助や元春からイズナの武勇伝を聞かされていたのだ。

 助けを求めるような視線を元春に送るロベルト。

 しかし、こうなってしまった以上はもはや手遅れだった。

 イズナは教えがいのある人間をとことん可愛がる傾向にある。そのことを知っている元春は、ロベルトからの視線にただただ首を左右に振るしかないのだ。

 そう、一度イズナに目をかけられた以上、アニマがロベルトの及ばない域に達することは決定事項なのだから。

◆アニマのステイタス


 魔力:28

 獲得実績:【造られし者】【従者】【見習い魔法使い】【見習い錬金術師】【見習い忍者】

 【魔獣殺し】【死霊祓い】【精霊の加護】

 付与実績:【禁忌の産物】


(※生後数週間のアニマの魔力が高いのは、元々そういう風に作られているからです)

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