●幕間・とある少年達の秘密会議
◆すみません。少々遅れてしまいました。
ゲームを題材とした小説なんかにありがちな、掲示板回みたいな感じで書きたかったのですが、それぞれの表記に凝ったのが間違いでしたね。
因みに今回は元春を中心とした虎助の友達のお話となっております。
分かり難い部分が多々あると覆いますが、単純に会話劇として楽しんでいただけるとありがたいです。
場所は物見高校の部室棟、その片隅にある小さな部室。
普段なら集団アイドル研究会なるよく分からない同好会が活動する部屋は、その日、暗幕で締め切られていた。
そう、今日の会議は外部に漏らすわけにはいかないのだ。
暗闇の室内を照らすのは、五つの学校用机の上に置かれたタブレットからの光のみ。
机の前にはそれぞれ額に大字を冠した目元だけを隠す白い仮面をかぶる人物が座っていた。
まず口を開いたのは壱と額に仮面をかぶった少年だった。
「それで弐号よ。休みの計画はどうなっているのかな?」
「前々から候補に上がってた女子旅にも人気の温泉付きのスキーリゾートツアーに申し込んでおいたぜ」
答えたのは同じく弐という大字が書かれた仮面をかぶる少年だ。
ここではそれぞれが額に書かれた大字に合わせて壱号弐号と呼び合うことになっているようだ。
「先輩――じゃなくて、零号さんが夏休みに車の免許を取ったとかで、乗せてってもらうんじゃなかったの?」
壱号と弐号の会話に割って入ったのは捌という大字が書かれたファントムマスクをかぶる小柄な少年。
そんな捌号からの問いかけに弐号が「ああ」と間を開けずに、
「さすがに初心者マークで雪山はない危ないって思ってな。クリスマスと年末の中間でちっとばかし安くなってるツアーを見つけて申し込んでおいた。そっちの方が楽だし安心だろ」
弐号からの尤もなご意見に室内にいるメンバーが「確かに」と頷く。
しかし、そんな話の流れから「そういえば――」と気になったように問いかけるのは参号だ。
「そういえば、年末とかクリスマスっていえばイズナさんズキャンプはどうなったんだ?」
参号の口から飛び出たその名前に、つい、いつものクセで緊張してしまったのは壱号と弐号。
だが、すぐに苦笑を躱して緊張を解いた二人はお互いに肩をすくめるようにして、弐号の方が参号の疑問にこう答える。
「今年のキャンプは特殊部隊の訓練が忙しいって無しになったってよ。俺等ももう高校だしな。イズナさんもその辺を気遣ってくれたんじゃないかって虎助が言ってたぜ」
弐号の説明を受けて小さく手を上げたのは捌号だ。
彼としては弐号の説明が全く理解できなかったのだろう。内容が内容だけに、少し不安げにこう訊ねる。
「あの、イズナさんって間宮君のお母さんだよね。特殊部隊の訓練とかってどういうことなの?」
そんな捌号からの質問に弐号が言うのは、
「捌号、世の中には知らない方がいいことも沢山あるんだぜ」
そして、弐号がそう答えたのをきっかけに壱号と参号と壱号が「そうですね」「だな」と口々に同意を示し頷き合い、弐号が捌号に慈愛の視線を送りながらも続けて、
「例えばだ。捌号、貴様は生きたニワトリを屠殺したことがあるか?」
「あ、ある訳ないじゃない――」
弐号からの冗談のような問いかけに緊張気味に否定を返す捌号。
だが、ふざけているように訊ねた弐号の目は物凄く真剣なものだった。
そんな弐号の珍しく真面目な態度に陸号が動揺を隠せない声で聞き返す。
「おいまさか――」
「まあ、俺のはじめてはうさぎちゃんだったけどな」
陸号の問いかけにふっとまるで昔を思い出すように虚空を見つめる弐号。
そして、壱号と参号もそれぞれがそれぞれの方法で達観したリアクションをとって、
「しかし、あれはあれでいい経験になったと思いますね」
「ああ、あれってよ。最初はグロいんだけど、途中から食材にしか見えなくなるんだよな」
「そうですね。鳥などは特に毛をむしってしまえば普通のチキンでしかありませんからね」
「もしも無人島に流れ着いても生き残れる自信があるぜ」
どうやら壱号弐号参号は相当な修羅場をくぐってきたらしい。
陸号も壱号と参号の様子に恐ろしげなものを読み取ったのだろう。話題を代えるように口にしたのは微妙に今の内容と関連がある話題だった。
「そ、そういえば、今回、虎助は誘わないのか?」
「虎助はバイトがあるからな。金は腐るほどあるだろうけど、行く暇がねーだろ」
すると、陸号からの問いかけに答えた弐号が口にした『金は腐るほどある』という言葉が気になったようだ。壱号が軽く手を上げて、
「今更ですが、虎助君はどんなアルバイトをしてるんです? 聞いたことがありませんでしたが」
「そうだな。たとえばRPGでラストダンジョンに隠しショップっていうのがあったりとかするヤツがあるだろ」
「ええ、エリクサーや最強装備を売っていたりする場所ですね」
「虎助はそういう店で武器とか防具とか薬とか食いもんとかを売ったりしてる」
ポカン。弐号の説明に意味がわからないと口を開く壱号。
だが、参号は友達として虎助のことを心配したのだろう。
「それって大丈夫なのかよ。 虎助、捕まったりとかしないよな」
不安そうな声色で聞くのだが、
「そういう店じゃないから大丈夫だ」
「ますます分からなくなってきたぞ」
ぱっと聞くと支離滅裂ともいえる弐号の答え、それは小学校からの友人である参号すらも困惑させるものだった。
「まあ、アイツはアイツで楽しんでるから気にしなくてもいいと思うぞ。俺が遊びに行かねーでもマリィちゃんやマオっちがいるからな。客が来ねーでも退屈はしねーだろ」
「ちょっと待てその名前、虎助がバイトしてる店には女がいるのか」
弐号が落とした爆弾に冷静に聞いていたように見えていた参号が急に前のめりになって聞いてくる。
そんな参号の豹変にっぷりに、弐号はフッと仮面の下に覗く口元に笑みを浮かべて、自慢げにこう告げる。
「金髪巨乳――いや、魔乳かな。規格外の乳を持つ美女に俺はあったことがある」
あえて興味を引く話題をぶら下げて、本命であるメイド女史のことに触れないというところが弐号の小狡いところである。
「フム、僕としてはあまり興味がないタイプの女性だが――」
「因みに、その店には銀髪褐色肌のロリっ子もいるぜ」
「……これは、明らかな裏切りですね」
「俺等もその店に連れてけよ」
あの弐号がここまで自慢をするのだ。それはそれはご立派な美少女たちなのだろう。
さっきまでの友人を心配するような態度はなんだったのか、二人の美少女の独占を阻もうと壱号と参号(と陸号)が声を荒らげる。
しかし、弐号は詰め寄る一同に首を振って、
「素人には危険過ぎる場所だからな。残念ながら連れていけねーよ。それにあそこに行くには虎助の許可がいるからな」
だが、ことが金髪銀髪の美少女たちとお知り合いになれるかもという非現実感漂うものだけに、彼等としては諦めきれない。
「それは本当ことですか」
「っていうか、許可が必要な場所ってどんなとこだっての」
口々に文句を呟き、弐号をどうにか説得できないかと試みる一同。
しかし、
「いや、そうだな。壱号と参号にはこういった方が伝わるかもしんねーな。そこはイズナさんが修行と称して通う場所だ」
「終了――、ですね」
「さあ、みんな、旅行の計画を立てようじゃないか」
弐号がその人の名前を出した瞬間、壱号と参号は『解散解散』とあっさりと態度を代える。
「本当になんなのさ」
二人の態度に捌号が呆れるように文句を言う。
そして、この発言が彼の今後を変えてしまうことになるとは発言した本人も気付いていなかっただろう。
「よし。そうだな――、捌号は随分とイズナさんのことに興味を持ってるみたいだから、こんど虎助に言って鍛えてもらうように頼んでおこう」
「えっ」
「死にましたね」
「安心しろ、もしもの時はお前のハードディスクは俺が処理をしておいてやる」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
壱号弐号のリアクションに焦る捌号。
しかし、そんな彼の態度が更に被害を拡大させる。
「なに、一人じゃ寂しいだと、だったら陸号も一緒に鍛えてもらうか」
「おいおい俺は関係ないだろ」
今までの話を聞く限りでは碌なことにならないのは分かっている。素早く保身に回ろうとする陸号。
たが、最早この流れを止めることは出来なかった。
「しかし、これから雪山に行んです。イズナさんの訓練は受けておいて損はないでしょう」
「ああ、イズナさんに鍛えてもらえば、もしも雪山で遭難しても余裕で帰ってこれるようになんだろ」
「ゼッテー違うだろ。
ってゆうか、ふつうのスノボ旅行で遭難とかしねーし」
「「「そんなの決まっている。俺(僕)達が受けた苦しみをお前(君)達とも分かち合いたいからだっ!!」」」
陸号の反論に声を揃えて身勝手な言い分を唱える三人。
そう、彼等は仲間が欲しかったのだ。自分達が味わった地獄に引き摺り――、もとい、稀有な経験を共に分かち合える真の仲間が。
「因みに無視しようなんて考えねー方がいいと思うぞ。イズナさんはそういうのを一番嫌うからな」
「言わなきゃいいだけだろ」
参号の忠告に声を荒らげる陸号。
「もう、そういう段階じゃねーんだよ。つか、虎助に連絡しちまったし」
「うぉい!?」
だが、弐号は自分の携帯画面を見せて陸号の退路を冷静に断ち切る。
「いや、そうは言ってもな。俺等がこう話していることもイズナさんなら見通せるだろ」
「どんな人だよそれ」
「そういう人です。会えば諦められます。もう一度言いますよ。『会えば諦められます』」
諦めきった瞳を仮面の奥に潜ませて言い間違えではないとあえて繰り返した壱号に「マジかよ」と陸号がうなだれる。
そこまで自身を持って言われてしまえば彼だって信じない訳にはいかないのだ。
「まあ、今回は初回だからな。楽なもんだろ」
「体験訓練みてーな感じだろうぜ」
「そうですね。やるとしたら、せいぜい山中行軍くらいなものでしょう」
「それって、ぜんぜん大丈夫じゃ無さそうなんだけど」
陸号が諦めてうなだれる中、励ましているのか、追い打ちをかけているのか、壱号弐号参号それぞれが投げかけた言葉に捌号がじっとりとした視線で言い返す。
だが、その声が了承されるハズもなく。結局、二人の意見は全てスルーして、
「さて、陸号と捌号の週末の予定が決まったところで、来る旅行の計画の続きを考えようか。今年の冬休みは忙しくなるぞ」
そう、彼等にとって冬休みのイベントはなにより重要なことなのだ。
聞き流された陸号と捌号が恐々とする中、冬休みに向けて計画をつめていく一同であった。
◆
「委員長、文化部の部室棟で怪しい動きがあるそうです」
「怪しい動き?」
「とある部室が暗幕で閉め切られているみたいなんです」
「文化部の部室ならそんなに珍しいことでもないと思うけど、それ、なんて部活なの?」
「集団アイドル研究会だそうです」
「ああ、あの変な踊りばっかしている……、ちょっと待って、その部活って――」
「ハイ、監視対象と交流がある部活です」
「彼の居場所がそこにいるのね」
「ハイ」
「……準備なさい。すぐに乗り込むわよ」
「ハイ!!」
◆因みに弐号が元春です。
壱号と参号が虎助と元春の古くからの友人で、陸号と捌号が高校に入ってからの友人です。
ナンバーからわかるように他にもメンバーはたくさんいます。
因みに虎助はこの会合が開かれていることだけは知っています。