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メイドさんのお裾分け

◆今週の二話目です。

 いつものように学校を終えた僕と元春が万屋を訪れると、そこには既にマリィさんの姿があった。


「昨日はごちそうだけでなく、新しい調理器具までいただき、有難う御座いますの。

 それで、そのお礼にとトワがこれを持たせてくれたのですが……」


 そう言って、マリィさんが視線を向けるカウンターの上には小振りな麻袋が置かれていた。

 僕達が来るちょっと前に昨日のお礼としてトワさん達が運んできてくれたらしい。


「えっ!? トワさんが来てたんすか。だったらもっと早く来るんだったぜ」


 元春が毎度のように自分の間の悪さを呪うその横で、僕としては『別にそんな気を使わなくても良かった』とも思ったりもしたのだが、マリィさん達としてはそうもいかないみたいである。

 元春のたわごとをさっぱり流してこう言ってくる。


「あれだけの物をいただいたのです。お礼をするのは当然ですの。それに虎助には早急にベーキングパウダーでしたか、あと、小豆を用意してもらわなければなりませんからね」


 ああ、そういうことですか。

 どうも、昨夜、メイドさん達にもどうぞと、マリィさんに持たせた中華まんが彼女達の心をとらえててしまったみたいだ。このおすそ分けは『中華まんの材料を仕入れて下さい』という催促の意味も含んでいるみたいだ。

 となると、これは早く買ってきてあげないといけないなあ。

 僕は自家製のあんまんを作るという野望に燃えるマリィさんの勢いに苦笑しながらも、マリィさん達はいったい何をくれたんだろうとカウンターの上に置かれた袋の中身を確かめてみる。

 と、袋の中身はちょっと大振りな豆のようだ。

 マリィさんが言うにはひよこ豆なのだという。

 素人でも割りと簡単に育てられ、収穫量も良く保存が効くことから、いざという時の為に城の中庭で育てているのだそうだ。


 成程、ひよこ豆か……。

 たしか、ヨーロッパとか中東とかその辺りで食べられている食材だったよね。

 そんな印象しかないんだけど、どう使ったらいいんだろう。

 とりあえずここは、ふだんから食べ慣れている人に聞くのが一番かな。


 そう思った僕は、マリィさんに普段どんな料理に使っているのかと聞いてみる。

 すると、


「主にスープや煮込み料理などに使われますわね。それと最近では、そのまま食すのではなく、もやしにしたりもしていますわよ」


 そういえば、以前メイドさん達からもやしの作り方とかを聞かれたんだったっけ?

 まさかひよこ豆から作ろうとしているとは思わなかったけど……。

 しかし、ひよこ豆でスープか。

 定番といえば定番という気もするけど、正直、僕は豆を使ったスープなんて一度も作ったことがないからなあ。


「とにかく、なにか良い料理法はないか、探すついでに一回ネットで調べてみましょうか」


 うん。マリィさんに聞いてもいまいちイメージが膨らまない。ここは素直にインターネットで調べてみるべきだろう――ということで、魔法窓(ウィンドウ)から有名レシピサイトを開いた僕は、『ひよこ豆』をキーワードに検索をかけてみる。

 すると、それなりの数のレシピがヒットしたみたいだ。


「スープ以外にもレシピは結構あるみたいだね」


「カレー系の味付けが多いみたいだな――って、このフムスってのはどんな料理なん?」


 大量に開かれた魔法窓(ウィンドウ)に興味を惹かれたのだろう。元春がその一つを覗き込んで聞いてくる。

 僕は元春に言われたページをフムフムと読み込んで、


「なんか茹でたひよこ豆をペースト状にして、野菜やパンなんかにディップして食べるものみたいだね」


「ペースト~? ディップ~? あ゛あん、オサレ料理かよ」


 元春がいかにもな『おしゃれワード』に喉をいがらせる。

 以前、友人の一人が芸能人の真似をして家庭科の授業でおしゃれな料理を作って人気者になってからというもの、元春はおしゃれな料理に憎しみにも近い感情を抱くようになってしまったのだ。


 正直、他人(ひと)の成功を羨むくらいなら、二番煎じになろうとも、自分も料理を憶えようとすればいいのに――と、そんなことも思わないのではないのだが、それができない器の小ささが元春の限界なんだろう。


「んで、結局このフムスってヤツを作るんか?」


「ううん……、これを作っても使い方がいまいちピンとこないからね。

 今日はこっちのファラフェルって料理を作ろうと思うんだけど……どうかな?」


 不機嫌そうに聞いてくる元春に、僕はあえてこれを作って刺激しにいくこともないだろうと、ちょうど目に止まった美味しそうな料理を作ることを提案する。

 因みに、このファラフェルという料理はひよこ豆で作った衣無しのコロッケみたいな料理のようだ。前にB級グルメを集めた物産展で食べたゼリーフライに似ている。

 これなら手軽に食べられるし、作りすぎても気に入った人に持ち帰ってもらえばいい。

 多少おしゃれな雰囲気を醸し出しているところがちょっと心配だったのだが、揚げ物というチョイスが良かったのだろう。

 これなら――と元春も納得してくれたようで、さっそく調理を開始する。


 先ずはもらったひよこ豆を水で戻すところから始める。

 本来ならこの作業だけでも半日くらいの時間が必要となるのだが、錬金釜を使えばあっという間にできあがる。

 僕はマリィさんから受け取ったひよこ豆が入った麻袋を担いで和室の隣りにある簡易キッチンへ。

 料理用の錬金釜にひよこ豆をザラザラと投入すると、そこへ裏の井戸から引き入れている水を入れて、軽く汚れを洗い流したところで、改めて水を注ぎ直す。

 そして、錬金釜に魔力を注ぎ込もうとしたところで、和室に移動して腰を落ち着かせたマリィさんからこんな声が飛んでくる。


「しかし、毎回思うのですが精霊水を料理に使うなんて贅沢ですわね」


「精霊水?」


「水の精霊から染み出した水をそう呼ぶんだよ。

 ほら、万屋(ウチ)の水を供給してくれているのはディーネさんだから」


「ふ~ん。つかさ、精霊から染み出した水なんてちょっとえっちくね」


 さて、余計な一言(いつものパターン)で元春がお仕置きされた(黙った)ところで〈浸透〉の錬金魔法を発動しよう。

 ひよこ豆はものの数分で二倍ていどの大きさに膨らみ、そのまま〈加熱〉。沸騰してきたところで温度を抑えてコトコトと二十分ほど煮たら茹で上がり。

 そこから錬金釜に備わる温度調節機能を使い、釜の内部の温度をじんわりと下げていって、人肌以下の温度になったところで水を捨てると、玉ねぎやらにんにくやらの香味野菜を投入して、釜の内部に無数の風刃を発生させる〈乱刃流〉の錬金釜バージョンを発動させる。

 風の刃で具材をかき混ぜること十数秒、荒くペースト状のものを作ったところで、塩と小麦粉、カレー粉を投下して、更に細かくかき回していく。

 そうして出来た生地をまたまた温度調整機能を使って少し寝かせたところでボール状に成形して、後は百八十度ほどの油できつね色になるまで揚げれば完成だ。


 うん。作りすぎちゃったかな。


 まだ残るタネにそう思いながらも、とりあえず二十個ほどのファラフェルを揚げたところで、お客様が待つ和室に持っていく。

 付け合せはマヨネーズとケチャップを合わせたオーロラソース。

 本当なら、ここはタヒニソースとかいう白ゴマペーストを基本とした伝統的なソースを使うそうなんだが、都合よく冷蔵庫の中にゴマペーストなんてものがハズもなく、ただケチャップをつけるだけというのも味気ないと思って、今回はオーロラソースを作ってみた。


 そして、いざ実食。

 行儀としてはあまり良くないかもしれないが、こういうのは手掴みで食べた方が美味しいだろうと、キッチンに用意してあった新聞紙を二人に渡して好きに包んで食べてもらうことにする。


「見た目から何となく分かってたけどふつうに美味いな。カレー味のコロッケ――っていうか、やわらかいがんもどき? そんな感じだな」


「本当にカリッホクッと面白い食感ですの」


「……ん。美味しい」


 好評なようでなによりだ。

 因みに、魔王様は僕が料理をしている間にやってきたみたいだ。自然に試食の輪に加わっていた。


「でも、本来のレシピとはけっこう違うんですけどね」


「そうなのですか?」


「使うスパイスなんかがちょっと特殊なものでして、自分の世界に帰ればたぶん集められなくもないんですけど、今回は簡単にお店で販売しているカレー粉を使っちゃいました」


「でもよ。外国の料理なんだからそりゃしかたねーだろ」


「まあね」


 それはそうかもしれないけど、僕としては最初はちゃんとしたレシピで作ってみたかったんだよ。

 でも、材料も面倒臭がらなければ集められないものではないし、また今度、本格的なものを作ってもいいかもしれないな。

 そんな事を思いながら、オーロラソースをつけてファラフェルを食べていたところ、マリィさんが自分の手元に折りたたんだ新聞紙の上に一つ二つとファラフェルを確保しながら聞いてくる。


「それで、これは私達の世界でも作れるものですの?」


「基本はひよこ豆と玉ねぎ、にんにく、スパイスで作るものですから、多分いけるかと――、

 今回は油であげましたけど、ちょっと多めの油を使って、ハンバーグみたいに焼いても美味しいみたいですよ」


 個人的には、揚げ物料理を揚げ焼き料理にしてしまうのはちょっと味気なく感じてしまうのだが、料理の手間を考えると揚げ焼きの方が簡単にできるだろう。

 いや、フライヤーの原理を応用した調理魔法みたいなものを作れば、簡単にその手の料理が作れるかも。今度そういう魔法の開発をソニアにお願いしようかな。

 と、僕が脳裏に浮かんだアイデアに気を向けている間にファラフェルは最後の一個になってしまったようだ。

 マリィさんに魔王様、そして元春が手を伸ばしたところでバチリと稲妻のようなものが走る。

 そして始まるジャンケン勝負。

 だがしかし、


「あの、豆はまだ沢山ありますから、取り合いをしなくてもいいですよ」


 その後、僕は、お持ち帰りの分を含めて、三人が求めるままにかなりの数のファラフェルを作らされる羽目になってしまったけど、みんなが喜んでくれるなら『それもまた良し』と納得するしかないかな。

◆時期ネタとしてカボチャ料理を出すべきでしたか。このお話を書いた後にふと思いました。

 ですが、カボチャ料理というと個人的にはカボチャの煮物くらいしか思い浮かびませんでした。

 冬至っていつでしたっけ?

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