表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/834

ゲームと動画投稿

◆今週の二話目です。

 放課後、アヴァロン=エラに出勤してからしばらく経って、マールさんのところへご奉仕に行っていた元春が万屋に戻ってくる。

 気怠そうに――、だが、いい笑顔を浮かべてカウンターの前までやってきた元春は、僕の肩越しに見える誰もいない和室に「ん?」と疑問符を浮かべて聞いてくる。


「あれ、マリィちゃんとマオっちは?」


「二人ならそっちでゲームしてるよ」


 元春からの問いかけに僕が指を差したのは和室から奥まった場所にある土間。

 普段はポーションの在庫が少し置かれているくらいで、特段これといったお役目が無い空きスペースでゲームをしているという話に、カウンターの奥を覗き込んだ元春が驚きの声を上げる。


「マ、マジかよ。なんて揺れだ」


 元春が見たのは大きなモニターを前に飛んだり跳ねたりを繰り返すマリィさんだった。

 まあ僕も男だ。マリィさんが引き起こすチョモランマ大激震を見て、心奪われてしまうその気持は分からなくもないけど。注目して欲しいのはそこではない。


「そうじゃないでしょ」


「そうだな。ああ、そうだ――、つか、あれなんだよ。筐体だっけ?ゲーセンにあるヤツだろ」


 僕が見て欲しかったのは魔王様やマリィさんがプレイする大型のゲーム筐体。

 そう、万屋の奥にある土間は、さながら地方の駄菓子屋の前にありがちな小さなゲームコーナーのように様変わりしていたのだ。


「でもね。パーツとか基盤とか自分で探して組み立てれば思ったよりも高くはならないんだよ」


 とはいっても、それはあくまで『実機を買うよりも』という意味であって、ゲームマシンを買うという意味ではやはりお高い買い物で、基盤も合わせて十数万円とそこそこ大きな買い物だったのだが……。


「いや、そうはいってもよ。これって完璧普通のゲーセンにあるようなヤツじゃんかよ。こんなのなかなか買えねーだろ」


「そこは我等が誇る工房の職人達に頑張ってもらった訳だよ」


 現物の情報と必要な機材さえ揃えばウチのエレイン君達はだいたいの物を作ることができる。

 それに、組み立て方やら筐体内部の構造なんかは、最近ではインターネットで詳しく解説されてるページがあったりして、きちんとやろうとすれば素人でもやっててやれないものではないのである。

 因みに筐体本体には世界樹の樹脂が使われており、乱暴なお客様が来ても大丈夫なくらいの強度をもたせてある。

 まあ、和室の奥にあるから常連のお客様しか使えないけど……。


「つか、やり過ぎじゃね」


「僕も最初はそうは思ったんだけどね。魔王様に結構な量の金貨を出してもらったからね。あれもこれもってやってる内につい熱が入っちゃって、気がついたら本格的な筐体が完成しちゃってたんだよ」


 以前、魔剣を売って小銭を稼いでいた魔王様だが、今はミストさん達が作る糸や服が売れるようになって、マリィさん並みに潤沢な資金をゲットすることに成功していた。

 魔王様はそんな資金を元手に、以前から気になっていたアーケードゲームにまで手を出したのだ。

 因みにマリィさんがプレイしているリズムに合わせて踊るタイプの音楽ゲーム。

 こちらはさすがに筐体――というかその部品を用意するのが難しくて、家庭用ハードから発売されている専用コントローラーに手を加えて、それっぽく作っているなんちゃって筐体だったりする。

 と、どうやって土間の有り様がどうしてできあがってしまったのかを元春に説明している間に、マリィさんのプレイが終了したようだ。

 あらかじめ用意してあったタオルで薄っすらとかいた汗を拭いながら歩み寄ってきて、


「虎助、これはあの音楽魔法でも利用可能ですの?」


 マリィさんが言っている『あの音楽魔法』というのは、たぶんアクアが愛用するDTMやらなんやらと魔改造に魔改造を重ねた複合魔法のことだろう。


「どうでしょう?

 あの魔法の機能からして、たぶんできるとは思うんですけど、今度ソニアに聞いておきますね。

 でも、著作権とか心配ですから、使う音楽はアクアが作った曲とかでいいですか?」


 徴収相手が異世界の人物となれば著作権などあってないようなものではあるが、それでもあなどれないのが著作権協会の蒐金能力というものだ。万が一――、いや億が一、こちらに手が迫ると面倒だ。

 そんな僕の問いかけにマリィさんは頷いて、


「構いませんの。しかし、どうせならメイド達が演奏してくれた曲などを入れてくれると有難いですの」


「それはもう――、こういうゲームは収録楽曲が多いほど面白いですからね」


 僕とマリィさんが話していたところ、魔王様が興味深げな視線をこちらに向けてくる。

 うん。これは魔王様も僕達が作ろうとしている音楽ゲームに興味津々なんだな。

 一見すると無表情にこちらを見ているだけの魔王様の内心を、僕がそう見抜く一方で、元春が呆れたように肩をすくめて、


「つか、新しいゲームを作るとか、もうお前、なんでもアリだな」


 確かに言葉にすると元春が呆れるのも分かるような気がするけど。


「この場合、先に元になる魔法があったからね。もともとあるゲームを参考にして改造してやればたぶんそこまで難しくは無いと思うんだよ。あれはゲームであっても魔法だからね。ある程度の概念をくっつけてアクアに任せておけば上手く調整してもらえると思うよ」


 そもそもその手のゲームというものは大手メーカーのものだけでなく、普通にパソコン用のフリーソフトとしても開発されていたりする。

 音楽とゲームの融合はそれなりに難しいみたいだが、ある程度、音楽を知っている人ならばやってできないことは無いのだという。

 そして、ゲーム自体も魔法で作ってしまえば大した問題ではないとすると――、


「そういや、お前にはアクアちゃんっていうその道のプロがついてたんだったっけな」


 と、魔法で作るゲームの仕組は理解していないのだろうが、僕が言うからにはそうなんだろうと元春はあっさりと納得。


「つか、お前――、アクアちゃんつったたあの子の歌をネットで流しただろ。あれ、けっこう話題になってんぞ」


「どういうことですの?」


 一度納得してしまえばもう言うことはない。それよりも、話している途中で思い出したことがあると、元春がふってきた話題に首をかしげるのはマリィさんだ。


「実はですね。僕だけが聞くのも勿体無いかなって、動画投稿サイトにアクアの歌をアップしたんですよ」


 僕はそんなマリィさんのリアクションに、実際の動画を魔法窓(ウィンドウ)に表示させ、どういうものか見せてあげる。

 因みに様々な魔法効果を持つセイレーンの歌をそのまま公開してしまうと危険かもしれないということで、動画をアップする前にソニアにアクアの歌が持つ効果を無効化するマイク型魔導器を作ってもらっていたりする。

 だから、アクアの歌はあくまでアクアの実力でそのアクセス数を集めていることになるのだが、


「凄いことっていっても、最後に確認した時にはアクセス数が千を少し超えたくらいだったと思うけど」


 人気の動画となればそれこそ、何万、何億アクセスとかって世界になってくるのではないのか?

 僕の考えに元春は少し難しそうな顔をして、


「お前、始めて一ヶ月も経ってない素人の動画が千アクセスを超えるだけでも結構スゲーんだぞ」


 そういえば、元春も少し前に話題の動画配信者に憧れていくつか動画を公開したとか言ってたっけ?

 前にそんなこともやっていたなと思い出した僕は、元春が動画投稿サイトにアップした俺ウェーイな動画も開いて、改めてその動画の再生回数を確認してみると、それをマリィさんが横から覗き込むようにして、


「成程、これを使えば千人もの人間に自分の活動を知らしめることができるということですのね。

 面白そうですわね。虎助、(わたくし)もその動画配信とやらはできますの?」


 結論から言うとマリィさんでも動画配信は可能である。

 そもそも魔法窓(ウィンドウ)、いや、僕達が使う〈インベントリ〉や〈メモリーカード〉の一機能である動画撮影機能は、地球にある既存の技術を利用したものだからだ。

 なので、動画配信に対応できる形式での録画は可能ではあるのだが、問題はその内容で、


「えと、マリィさんはどんな動画を公開しようとしてるんです?」


 そう聞く僕にマリィさんが返してくれたのは、なんていうか、実にマリィさんらしい答えだった。


「魔獣を倒す勇姿をその動画配信とやらで虎助の世界の人々に知らしめるのです。そうすれば、(わたくし)が英雄だなんて褒め称えられる可能性だってあるのではなくて」


 要するに魔獣を退治するところを録画して全世界に配信するということか。

 確かにマリィさんの容姿やら動画の内容を考えると好意的なコメントを多くいただけるのかもしれないけど。


「でもよ。ここでの戦いをアップしても普通によく出来たCGで終わっちまう話なんじゃねーの」


「逆によく出来すぎたCGってことで話題になると思うんだけど」


 なにしろその動画はまさに本物の命を懸けた戦いが繰り広げられるものになるのだ。

 それが魔法世界でもトップレベルの実力を誇るマリィさんの戦いっぷりとあらば、それはもう凄まじくリアル(・・・)で派手なファンタジー映像になるだろう。

 だがそれは、同時に本当にリアルな映像で、グロテスクという意味で確実にレギュレーションに引っかかってしまう動画になってしまうだろう。


「せめてディストピアでの戦いにしないといけないでしょうね。

 あそこでの戦いならゲーム映像とかでごまかせるレベルですから」


「……ディストピア?」


 せっかく動画しても、すぐに消されてしまったらマリィさんがガッカリするに違いない。

 そうならない為にもと僕が出した対策にコテンと可愛らしく首を倒したのは魔王様だった。


「あれ、魔王様は知りませんでしたっけ?」


 いや、そういえば、あのエルフの剣士に使ったこともあって、魔王様にはディストピアに関する詳しい説明をしていなかったような。

 う~ん。これは話していいものか。

 いや、エルフの剣士がやって来た時の話を伏せておけば問題はないか。

 ということで、エルフの剣士に関わる部分は適当に濁してディストピアに関するアレコレを説明したところ。


「……面白そう」


 ディストピアの仕様はゲーム好きの魔王様の琴線に触れてしまったらしい。

 興味を持った魔王様にディストピアの案内をするついでにと、マリィさん達に押し切られる形でディストピアでの動画撮影会をすることになってしまったのだが、その後、この時にディストピア内で撮影された動画がマリィさんの手によって投稿され、色んな意味で物議をかもすことになるのだが、この時の僕がそれを知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ