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人造人間の利用方法

◆今週の二話目。久々のおまけ付きです。

 珍しく常連のお客様の姿すらもない万屋で、整備を終えてピカピカになったエクスカリバーを台座に戻した僕は、こんな質問を何気なく虚空に投げてみる。


「そう言えばホムンクルスの製造が禁忌って話って、やっぱり倫理的な問題が一番大きいんだよね?」


『それこそ世界にもよるだろうね。因みにボクが暮らしていた世界ではそんなに忌避される存在じゃなかったかな』


 僕の質問に答えてくれたのは、この万屋のオーナーたるネグリジェ姿の女の子、ソニアだ。

 いつもならこの時間、工房にこもって自分の研究に没頭している彼女なのだが、今日はあまり気分が乗らなかったみたいだ。

 珍しく出勤した時から万屋にいたソニアの言葉に僕は「そうなの?」と疑問符を浮かべる。

 ホムンクルスという存在はどんな世界でも禁忌として扱われている存在だと思っていたんだけど、どうやら違うみたいだ。


『うん。これはボクが元いた世界の話になるんだけどね。大きな国になるとホムンクルスは普通に製造されていたんだよ。

 とはいっても、ロベルトが使ったみたいに一人の人間として誕生させるのとはちょっと違って、どっちかっていうと体だけ完璧に作って要人のスケープゴートとして操るって感じの使われ方をしていたけどね』


 僕はそんなソニアの説明に「ふぅん」と鼻を鳴らしながらも、最後に出てきた『操る』という話に、ふと賢者様の世界に赴いた際にKE11を操るコツとして聞いた話を思い出す。


「もしかして、それが前に言っていた憑依魔法がどうのこうのとかいうアレ?」


『だね。王族や国の重鎮とか、戦闘能力が低い要人が他国に出かける時とかなんかに使ったりするんだよ』


 僕の質問にソニアが頷く。

 要は遠隔操作が可能な影武者ってところかな。


「でも、それってわざわざホムンクルスを作る必要はないんじゃない?

 賢者様の苦労を考えると、むしろ他の方法の方が安上がりなんじゃないかって思うけど……」


 賢者様がアニマさんを誕生させるまでに使ったお金は、それこそ何十億ってレベルの金額になっている。

 そんなホムンクルスを国王やその周りの人達がポンポン作っていたのなら、すぐにお金が付きてしまうのではないのか?

 そう思ったりもしたのだが、


『ロベルトの場合、自分のパートナーとして作るっていう目的があったからね。生理機能を整えたり、自分に合わせて寿命の延長とか肉体の強化処理を施したりしてたみたいだから、お金がかかっていたんだけど、その辺のオプションを省いて考えると、ホムンクルスの製造は割りとコストパフォーマンスがいいんだよ』


 つまり必要な能力に限ったホムンクルスなら作るのもそう難しくないということか。


『それにホムンクルスの体の方が無茶な強化とかも簡単にできちゃうからね』


『強化人間だな。たしかにあれは厄介な相手だ』


「強化人間?」


 ソニアの発言に続いた声はエクスカリバーのものである。

 僕がエクスカリバーの声にオウム返しに首を傾げると、エクスカリバーは、ふわり。刺さっていた台座から浮かび上がり、僕達がいるカウンターの方へとやってくる。


『早い話が魔法薬漬けの強制強化だな。ホムンクルスならば副作用を考えずに強力な魔法薬を使用できるから急激な強化が可能なのだよ』


 うわぁ。もしかして、その辺りに他の世界でホムンクルスが禁忌とされる原因があったりするのかな。


 エクスカリバーからの追加情報に僕が微妙な顔を浮かべていると、今度はソニアが『あと、ホムンクルスの影武者にはこういう話もあってだね――』と前置いて、地球で言うところのマリーアントワネット状態に陥った王族が自らの死を偽装する為にホムンクルスを使ったり、何者からか刺客を送り込まれた人物がその黒幕を暴く為に自ら死んだフリをする為に利用したりと、薬物による強制強化以外にもホムンクルスには様々な使い道があるというエピソードを語ってくれる。


 正直、それはあまりおもしろくない話であったのだが、


「でも、さすがに死体の偽装は無理だけど、それ以外なら、賢者様の世界にもあったサーヴァント。あれでも十分に代わりができるような気もするけど」


 ある程度の仕事なら、別にホムンクルスを使うまでもないのでは?

 非人道的なその所業を聞いて、そんな疑問を口にする僕にソニアが言うには、


『あれはロベルトの世界の技術力があってこその代物だと思うよ。ふつうの魔法世界だと、質感にまで(・・・・・)こだわった(・・・・・)ゴーレムを量産(・・)するなんてまず無理なことなんだよ』


「そうなんだ?」


『少なくともボクの手持ちの技術じゃ、ホムンクルスを作った方が簡単だろうね』


 ソニアにそこまで言わせるなんて、やっぱり賢者様の世界の技術は凄いんだな。


『でも、それはあくまで現時点の話で、サーヴァントそのものを手に入れられればまた話は違ってくるけどね』


 そう言いながらも期待の眼差しを向けてくるソニア。

 うん。何が言いたいかなんて聞かずもがなだろう。


「賢者様に頼めば手に入れられると思うんだけど、今度きた時に頼んでおこうか?」


『そうだね。研究用に何体か頼んじゃおうか』


「でも、研究した後のサーヴァントはどうするの?」


 基本的にソニアが行う研究というのは、徹底的に解体して、そこから自分で組み直し、興が乗ったら魔改造と、その殆どがバックヤード送りになる程の代物と化す場合が多い。

 しかし、その対象がゴーレムとなると、普通のマジックアイテムなどと同じようにバックヤードに閉じ込めてしまうというのは、なんとなく申し訳なく感じてしまうのだ。

 そんな意味を込めた僕の問いかけに対するソニアの言い分はこうだった。


『普通に万屋(ウチ)の店員として使えばいいんじゃないかな。ほら、ディストピアがあるテント村の方、あっちの管理人にしちゃえばいいんじゃない。

 それに、改造した後は僕の擬体用として使おうと思ってるから、数の多いはあんまり問題にならないと思うけど』


 成程、それで人間に近いゴーレムをか――、


「でも、擬体というなら別に今あるもので十分なんじゃない」


 実際、ソニアが操作可能なゴーレムは、工房にある工作用の擬体に戦闘用のモルドレッド、そして日本に暮らす『そにあ』が居る。

 これ以上増やす意味はないのではないか、僕はそう訊ねるのだが、ソニアはほっぺたを膨らませて、


『リアルな擬体が手に入るってなると欲しくなるのは当然じゃん。そうすればボクも皆の前に出られるかもだし、それに完全憑依ともなると本物の肉体と変わらない方がより上手く動かせるんだよね』


『道理だな。真の攻撃というのは肉体と精神が噛み合ってこそ生まれるものだからな』


 いや、エクスカリバーさんが言っているのは、心技体とか、武術の心得のようなものですよね。

 とはいえ、ゴーレムを操る技術というのも体を動かすことには変わりない。あながち間違いとは言いきれないのかもしれないな。


「だったら賢者様にお願いして、サーヴァントの手配をしてもらうけど、どんな機体にした方がいいとかリクエストがあったりする?」


 魔法的な工業技術が発達している賢者様の世界では、サーヴァントと呼ばれるゴーレムだけでも相当数の種類が存在する。

 賢者様の拉致映像から、その事を知っている僕の問いかけに、ソニアは『う~ん』と腕を組んで、


『お金に糸目はつけなくてもいいからできるだけ高性能なヤツをお願いしようかな。勿論サイズは僕と同じくらいで女性型のヤツ。数はそうだね――、取り敢えず五体くらい?』


「でも、あんまり買い込むと余らせたりして勿体無くないかな?」


『スペアは必要でしょ。それに目的別に幾つかの擬体を作っておくのも悪くないし、さっきも言った通り、万屋の仕事を手伝えるスタンドアローンの個体を作ってもいいだろうし、なんだったら余ったゴーレムはマリィに売っちゃえばいいんだよ。彼女、前々から自分のゴーレムが欲しいとか言ってたじゃん』


 さすがに五体は多過ぎなんじゃないかと言う僕にソニアはいろいろと言い訳のようなことを言うんだけれど。


「ソニアが組み直した後のゴーレムってなると、マリィさんじゃ初期起動させられないって可能性が高いと思うけど」


『ああ、それもあったか――、

 でも、スペックを落としてやればあの子でも起動させられるくらいのゴーレムになるんじゃないかな?』


「できるんですか?」


 こと『ものづくり』に関しては、ソニアが手を抜くなんて事は考えられない。そんな僕の言い分にソニアは微妙に目線を逸しながらもハッと思い付いたように手を叩き。


『だったらいっその事、動かないゴーレムを元春に売っちゃえば、あの子なら買ってくれるでしょ』


 いや、確かに買ってくれそうではあるんですけど。


「倫理的にアウトですから」


 動かない美少女ゴーレムを元春が何に使うのかなんて言わずとも分かることである。いろんな意味で売り渡す訳にはいかないのである。

 ということで、元春に売り渡すことだけはどうにか阻止した後、喧々諤々、買い取った後のサーヴァントをどうするのかを話し合った結果、最終的に『まあ、余ったら余ったで、その時に考えようよ』という事になり、その後、賢者様がこの世界を訪れた際に僕は元春に見つからないようにこっそりとサーヴァントの注文をお願いするのだった。


 ◆◆◆オマケ◆◆◆


「おっと、虎助少年は意外な趣味をしてますな」


「さっきも言いましたけど、これ、オーナーの注文ですからね」


「ま、そういうことにしといてやるよ。特に嬢ちゃんには内緒なんだろ」


「賢者様、本当に分かってます?」


「大丈夫だって、俺はこういうことの口は堅いからな」


「もう、全然わかってないじゃないですか」

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