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賢者の研究所と魔法世界

◆いつもより長めです。

 場所は工房の地下に存在する秘密施設。

 ソニアがふだんから、遊びに――、研究にと入り浸る施設の一室に僕達三人はやって来ていた。

 因みにこの場にはもう一人の同席者がいるのだが、それを知っているのは僕だけだ。

 ――そう思っていたのだが、どういうことかマリィさんも気付いているらしい。

 チラチラと僕の斜め上の方を気にするような素振りを見せるマリィさんに、説明をしておいて方がいいのかもとは思うものの、残念ながら今そうしている余裕はない。

 理由は薄暗い部屋の中に浮かぶ無数の魔法窓(ウィンドウ)

 その魔法窓(ウィンドウ)にはバーコードのような縦線の羅列がひっきりなしに流れていて、次々に表示される各種設定の確認を行わなければならなかったからだ。

 そう、ここは今しがたアニマさんと共に送り出した遠隔操作ゴーレム『KE11』を遠隔操作する為のコクピット。

 現在、僕はアニマさんが自らの世界へと連れて行ったKE11の起動準備を行っているところだった。

 まずはゲートとこのコクピットとの間に魔法的な回線つなぎ、そこに記録される転移データからKE11のものを検索、コクピットとKE11が相互に持つ特別な通信魔法式を起動する。

 コクピットが置かれる施設に蓄えられた膨大な魔素を使い、世界間の通信念波を強固なものに構築し直すと、KE11の感覚器を起動させると同時にそのリアクションを表示させる魔法窓(ウィンドウ)を複数枚展開する。

 後は細かな設定を随時表示される小窓(ウィンドウ)で確認しながら、アニマさんの側の準備が整うのを待つだけだ。

 僕はその待ち時間を利用して、この場にいるもう一人の人物であるソニアのことをマリィさんに軽く説明。

 二人の会話が成立できるようにと、専用の通信用小窓(ウィンドウ)を開いたところで、正面に浮かぶ五十インチ程のメインモニターに反応がある。

 映し出されたのは、まるで爆撃でも受けたように半壊する研究室のような場所だった。

 そして、その部屋から覗く別の部屋には、今まさにライフルを構え、レーザーのようなものを放とうとする近未来的なロボット兵士が居て――、


「ええと、これは映画ではありませんのよね?」


「つか、いきなりピンチじゃね」


「いや、これは――」


 いきなりの展開に微妙にズレたことを言うマリィさんに、現状を把握しながらもどうしたらいいのかわからないと声をあげる元春。

 僕がそんな二人の声に答えるべく口を開こうとしたところでレーザーが放たれる。

 しかし、そのレーザー光線は半透明の障壁のようなものに阻まれて、

 次の瞬間、その障壁が霧消したかと思いきや、メインモニターの背後から強力な電撃がまっすぐに(・・・・・)ほとばしり、その直撃を受けたロボット兵士――いや、あれは賢者様が持ってきたゴーレム兵だな――がガックリとその場に崩れ落ちる。

 そして、聞こえてきたのは『制圧完了』という一言だった。

 僕がその声を追いかけてKE11の視界を振ると、そこには黒いライダースーツに魔法銃と、まるでどこぞのセクシー女泥棒のようなお姿のアニマさんがいた。

 元春が「うっひょ――」と上げる奇声を背後に、続くアニマさんの小さな声が僕の耳に届く。


『無事に起動が完了したようですね』


「みたいですね。――えと、こちらの声が届いてますか?」


『はい。ラグもノイズもなく届いています』


「それで、現在の状況なんですが……」


『申し訳ないのですが、見ての通り、KE11の回線構築には成功したのですが、セキュリティシステムの再起動中にはまだ少し時間がかかりそうです。その間、虎助様には唯一の入口の警戒をお願いしたいのですが』


「了解しました。僕達はその時間を稼げばいいんですね」


 快くアニマさんのお願いを受けた僕は、KE11を操り、次元の歪みが存在するこの部屋から繋がる大きな研究室に入口付近まで移動。

 アニマさんは部屋の片隅の設けられた操作盤のような場所でアニマさんが作業を再開させ、僕の後ろ、KE11が警戒を向ける研究所の通路のような場所を映したメインモニターを覗き込んだマリィさんと、いつの間にやらお仕置きをくらったらしい焦げ臭い元春が息を吐くようにこう言う。


「ここがロベルトの暮らす世界ですの」


「師匠の家って話だったからもっと怪しげなトコなんかと思ってたけど、意外と普通なんだな。 なんつーか、最初の部屋はともかく、俺等の世界にも普通にありそうな、学校とかそういう感じの場所みたいだぜ」


 まあ、魔法世界とはいえ、文化的レベルは地球とほぼ同等、もしくは少し上という世界ともなると、似通う部分があってもおかしくはないのではなかろうか。

 そんな二人の一方で、ソニアはソニアで異世界の環境やらなんやらを調べるのに忙しいらしい。


『ふむ。データから見るに、魔素の濃度は地球の五倍程度、魔法が発達している世界としてはやや薄めといったところかな。 原因はなんだろうね。ちょっと調べてみようかな』


 僕は初めて訪れた異世界にそれぞれが興味津々なご様子のメンバーの声を肩越しに聞きながらも、仲間を倒されたのを感知したのだろう。組織立って攻めてくるメタルボディのゴーレム兵をアニマさんから受け取った魔法銃で牽制していく。


 そうして数分、そろそろ魔法銃の牽制だけでは、敵を押しとどめておくのは難しいぞ。

 そう思い始めたタイミングで研究室内に大量の警告ウィンドウが浮かび上がる。

 アニマさんがセキュリティシステムの再構築に成功したようだ。

 すぐに発動した電気ショックやら落とし穴というトラップにゴーレム兵が蹂躙されていく。

 そして、この部屋周辺の敵の排除が一段落したという頃を見計らって、マリィさんが訊ねかけてくる。


「それでここからどうしますの。ロボット――ではなくゴーレム?ですわよね。随分と敵に攻め込まれているようですが」


『それに関しては問題ありません。今しがた研究所のセキュリティシステムの再起動に成功に成功しましたので、後はシステムに任せておけば彼等を排除してくれるハズです』


 賢者様の研究所を守るセキュリティには今まで多くの侵入者を退けてきたという実績がある。

 一度システムを起動させてしまえば後の処理はそのシステムに任せてしまえばいい。

 女性に弱いという賢者様の性質を狙い撃ったような搦手に引っかからない限りは突破されるような事はないのだから。

 アニマさんによって拠点の安全が宣言されたところで、次にすることはといえば、


「では、賢者様に連絡を取ってみましょうか、敵ゴーレムがどんな能力を持っているのか不明ですが、敵を倒してしまった以上、いずれはそれが相手側に伝わるでしょうから、早く助け出さないといけませんし」


 言って僕が手元に自分の魔法窓(ウィンドウ)を開こうとしたところ。


「でもよ。師匠って捕まってんだろ、連絡取れんのかよ」


「それならたぶん大丈夫だと思うよ。賢者様には万屋で改良した〈インベントリ〉と、幾つかの〈メモリーカード〉も渡してあるからね。今はシステム的にこの研究所とアヴァロン=エラは繋がっているから、そのどれかでも手元にあれば繋がると思うけど」


 賢者様のことだ。わざわざ自分から捕まりにいったようなあの状況を考えると、幾つかのマジックアイテムを隠し持っていてもおかしくはない。

 僕は元春の質問に答えながらも、自分の魔法窓(ウィンドウ)からKE11を、そして賢者様の研究所のメインシステムを経由して、世界を跨いだ念話通信(テレパシー)を試みる。


「賢者様、賢者様。応答お願いします。賢者様」


 すると、やや間があってから、クリアな念話が返ってくる。


『ん、念話通信――って、こりゃ、虎助か?』


「良かった。通じましたね」


『おう、聞こえてるぜ。しかし、どうした。急に連絡って――、しかもアヴァロン=エラからだろコレ』


「いや、急にって――、アニマさんを万屋(ウチ)に送り込んできたのは賢者様でしょう。賢者様の救出を依頼されたんですよ」


『あ、そうか――、

 そうか、アニマは無事に逃げられたみたいだな』


 ちょっと混乱気味の賢者様に僕がいかにもな説明台詞で答えてあげると、賢者様は一瞬呆気にとられたようにしながらも、納得と同時に安心したように息を吐く。

 当然といえば当然なのだが、賢者様もアニマさんのことが心配だったみたいだ。

 ホッとしたような感情が声に滲んでいた。


「それで賢者様の方なんですけど、助けに行った方がいいんですよね」


『ああ、面倒かけるけど頼むわ。

 でもよ。こっちの場所とか分かるのか?」


「大丈夫です。このメッセージのやりとりを逆探知してやれば大体の位置は予想できますから」


『はぁ、そんなことまでできるのかよ。 だったらちっと急いでくれるか。いま面倒な奴に絡まれててな。ソイツの話から察するに結構ヤバイ状況らしいんだわ』


 捕まっているだけに尋問みたいなものを受けているのかな?

 僕は念波(テレパシー)ゆえに伝わらない賢者様の背後状況を少ない言葉から推測しながらも、通信状態をそのままに、KE11が装備するアダマンタイト製の鎧に搭載される探知系の機能を起動させる。

 それによると、KE11がいる地点から北北西に約五十キロ、そこに賢者様が居るみたいだ。

 僕はアニマさんに提供してもらったこの世界の地図から賢者様の現在地を確認してみる。


「えと、詳しい場所はそこに行ってみないことには分からないんですけど、メルパって都市にいるみたいですね」


『ああ――、うん。そうだろうな。俺ん()からもわりと近いし、メルパっていうと神秘教会の総本山がある場所だからな』


 神秘教会というのは、たしか賢者様の研究に酷く強行な態度を取っている宗教組織だったかな。

 ホムンクルス製造を理由にいろいろとちょっかいをかけられてるって話だったけど、ついに本格的に動き出したってことになるのかな。

 でも、宗教組織があんな奇抜な作戦するだなんて、ちょっと違和感を感じるかも、

 彼等の宗教観を考えると教義から外れる作戦のような気もするけど、それを押してまで急ぐような理由でもあるのだろうか?


 疑問に思うところは多々あるのだが、宗教組織の行動原理を読み取るのは日本に暮らす僕には難しい――ということで、それは合流してから賢者様に聞くとして、


「では、このまま救出に向かいますね」


 僕は賢者様にそう告げながらも、


「その前に一つ。これから向かうその場所にはどれくらいの戦力があるかわかりますか? こちらとしては遠隔操作のゴーレムが一体なので、その辺りの情報があったら助かるんですけど」


『どうだろうな。定期的に俺の研究室によこしてくるゴーレムの数からして、それなりの戦力はあると見た方がいいとは思うんだが、相手が宗教団体だけにそういう情報は表に出てこないからな』


 成程――、マリィさん達が暮らすようなザ・ファンタジーって感じの世界ならともかく、ある程度、発展した社会では一組織が私兵を持つことは忌避される傾向にある。

 それが宗教団体ともなれば秘密にするのは当然なのかもしれない。


『不安ならプルでも連れて来たらどうだ?』


 僕が賢者様からの情報にそんな理解をしながらも、賢者様の提案をありがたく受け取ろうとしたところ。


「プルというのは何方(どなた)ですの?」


「賢者様のところにいる警備用のゴーレムといったところでしょうか、賢者様の技術提供を受けてオーナー(ソニア)が組み上げた特別製ですよ」


『造形にもこだわるものだから苦労したよ』


 プルというのは賢者様に頼まれて、漫画のキャラクターをモチーフに作り上げたソニア謹製のゴーレムだ。賢者様の拉致映像にも出てきたサーバントなるアンドロイドのようなゴーレムとほぼ同じものだと言えば分かってもらえるだろうか。

 そんな話をしてあげたところ、マリィさんはこんな事を言ってくる。


「いつの間にそんなものを――、

 といいますか、ロベルトにだけ狡くありませんの?」


 だが、いくらマリィさんが優れた魔法使いだとしても、ゴーレムの起動や調整となると錬金術の領域になる。


「そこは賢者様ですので、さすがのマリィさんでもオーナー(ソニア)が制作したゴーレムの起動は難しいでしょう?」


「たしかに――、やってみなければ分かりませんが、おそらくは難しいのでしょうね」


 という訳でオーダーメイドのゴーレムの話はそこで終了。賢者様を救出した後に改めて話し合うとして、使える人員は使わせてもらおうとアニマさんにプルさんのいる部屋への案内を頼み、今いる部屋から二つ横の部屋に移動する。

 そして、たぶん神秘教会のゴーレムが運び出そうとしたのだろう。無理やり動かそうとした痕跡が見受けられる巨大なカプセル型の装置の前までやって来るのだが、


『しかし、このカプセルはマスターでなければ開けることが出来ないと記憶に(・・・)ありますが』


「ああ、それなら問題ないかと、このカプセルを作ったのもウチのオーナーですから、賢者様、このカプセルを改造とかしていませんよね?」


『おう、改造する時間も理由もねぇからな』


 僕はアニマさんの声に答えつつも賢者様に念話を飛ばし、決められた手順でカプセルに施されたロックを解除していく。

 すると、いざ蓋が開こうというその直前になって、何故か賢者様から『ちょっと待った』と焦ったような念話が割って入ってくる。

 でも、すでにロック解除の認証は済ませてしまった後だ。カプセルの蓋が開くのを止められない。

 バシュッと炭酸飲料の蓋を開けた時のような音が聞こえ、金属製の蓋がゆっくりと持ち上がる。

 ふわふわのクッションに包まれたカプセル内に横たわっていたのは、スクール水着の上に上半身だけのセーラー服を着せられた美女だった。

 長いおみ足はニーソックスで覆われていて、更に猫耳まで完備と、どこぞのアニメキャラのようなオプションが付いていた。

 うん。賢者様は開ける直前になって止めたのはプルさんの格好を思い出したからなんだろう。


「さすがは師匠、わかってるぜ」


「ろろろ、ロベルト、貴方は自分のゴーレムにこんな破廉恥な格好をさせて、なにをやろうとしていましたの?」


『いや、これはだな、せっかくだから目の保養にってな。別に変な目的があって着させたんじゃねえぞ』


 カプセルに横たわる美女の姿に納得する僕の後ろで、元春が誰にともなく親指を立て、マリィさんが取り乱し、賢者様が言い訳になっていない言い訳を飛ばしてくる。

 因みにソニアはといえば『ふむ、この装備を上手く使えば面白い魔導器ができるかも』と猫耳カチューシャが気になっているみたいだ。

 正直、僕としては、また変な装備が万屋の新しいラインナップに加わりそうで、あまりいい予感がしないのだが、いま何より優先されるべきは賢者様の救出作戦だ。

 僕はギャーギャーと言い合う皆の声をBGMに、KE11を動かして、カプセルの中に横たわるプルを目覚めさせる。


『おはようございますマネージャー(店長)。なにか御用でしょうか』


「あ、僕がわかるんだ」


『イエス。私の製造に携わった人物の魔力パターンはすべて登録してありますので』


 どうやらKE11を通して僕の魔力の特徴が伝わったらしい。プルさんがわざわざ僕を指定して挨拶をくれる。

 さすがエレイン君達の後継機とでも言うべきか、エレイン君達が持っている機能はプルさんも持っていると考えてもいいだろう。


「で、僕が君を目覚めさせた理由なんだけど、実は数時間前に君のご主人様が神秘教会が操っていると思われるゴーレムに連れ去られてしまってね。今から救出に行くんだけど、よかったら手伝ってくれるかな」


『マスターが連れ去られたとはどういうことでしょう。研究室の警備は万全だったハズですが』


 僕の言葉をしっかり聞いた上で小首を傾げるプルさん。

 ついていくのを断るとか、そういう風ではないのだが、何を言っているのかを理解していないみたいである。


「ええとだね。実は精神的なトラップで施設のセキュリティが無効化されてね。賢者様はその隙に捕まってしまったんだって話だけど」


『理解しました。マスターが精神操作系の魔法で操られてしまったということですか。 成程、その手の魔法はこの世界では廃れているというデータがありましたので見逃していました。盲点でしたね。ならば、マスターを救い出した後、その対策も行わなければなりませんね』


 追加したオブラートに包んだ説明を蓄えられた知識によってそう判断するプルさん。

 たぶんその対策は無駄になると思うけど――、うん。対策は必要だよね。


「そんな訳だから君のご主人様を迎えに行こうと思うんだけど、ついてきてくれるかな」


『了解しました』


 いい返事が聞けて僕としてはありがたい。

 しかし、さすがにこの格好の女の子を外に連れてくのはアレなので、


「でも、まずはお着替えからだね。賢者様、彼女に着せる服とかありますか?」


 僕がそう訊ねると、元春が「ええ、そのまんまでいいんじゃね」と文句を言い、マリィさんが「何を言っているのですか貴方は――」と声を荒らげる。

 だが、そこは賢者様の研究室だと言っておこう。アニマさんが無表情にも頭を下げて、


『すみません。マスターが連れ去られた際に我々の衣装は、ほぼ全て回収されてしまったようで、使える衣服は研究室に残されたこの白衣くらいしかないようです』


 そういえば、賢者様と敵対している神秘教会って組織は厳格な宗教団体だったっけ?

 当然その厳格さは賢者様が所有している他のものにも適応される訳で、研究室にあった殆どの衣装は回収されてしまったみたいだ。

 しかし、そんな困った事態に喜んだ男が一人いる。なんていうか、まあ、元春だ。


「セーラー水着に白衣だと……、完璧じゃねーか。さっすが師匠」


「ロベルト、貴方――」


 過剰なまでに賢者様を褒め称える元春。続いてマリィさんから賢者様を非難するような声が飛び出して、さすがの賢者様も居心地が悪くなったのだろう。


『あー、うん。んじゃま、そういうことで急いで助けに来てくれよ。頼んだぞ少年少女達』


 そういうことってどういうことですか?

 軽い感じでそう言い残した賢者様はそのまま念話通信が切ってしまう。

 かたや、投げっぱなしにされてしまった僕達といえば、いろいろ言いたいことはあるのだが、本人不在の状況で文句を言っても仕方がないと、プルさんにアニマさんの予備としてマジックバッグに入れておいた装備に着替えてもらい、賢者様を救ける為にメルパという都市に向かおうと研究所を出発することにしたのだが、敵のゴーレムは研究所の外にも居たみたいだ。


「囲まれているようですね」


「どうするんですの?」


『我々で行って仕留めてきましょうか?」


 プルさんとしては受け取った装備の性能を確かめておきたいのかもしれない。そう言ってくるのだが、


「ここは僕に任せてくれませんか。本丸に乗り込む前にKE11がどれだけ動けるのかをチェックしておきたいので」


『うん。ボクもそう思うよ』


 さすがにちょっと銃撃戦をしただけではKE11がどれだけ動けるのか分からない。

 製作者本人(ソニア)もこう言っているということで、プルさんには悪いけど、研究所を囲んでいるゴーレム兵は僕だけで倒すことにする。


 因みに遠隔操作ゴーレムの動かし方は、魔法を主軸にした技術だけあって、その全てがイメージによって行われている。

 コクピットとなっている席の肘掛け部分がムーングロウで作られていて、その先にある球体の部分に魔力を通してイメージを伝えると、思うがままに動かせるのだ。

 ソニア曰く、これは相手に憑依して操るような精神支配の魔法を使うのと同じような感覚だというが、僕にはそんな魔法を使えないから、一番感覚が近いだろうVRゲームを動かす感覚でやってみると――、


「あ、うん。しっかりした近接戦闘でも思っていたよりも体がついてくるんですね。でも、動かずに動かすっていうのは結構難しいかもしれませんね」


『その辺りは慣れと調節が必要かな』


 そんな感想を言っている間にも、僕の指示を受け研究所を飛び出したKE11は正面入口を固める二体のゴーレム兵に肉薄。

 装備している鎧(正確にはガントレット)から迸る電撃によって相手を機能停止に追い込むのだが、


『意外とあっさり片付いちゃったね』


 ソニアの言う通り、外を固めるゴーレム兵はそのメカメカしい外見の印象から比べて弱い。

 その原因がソフトにあるのかハードにあるのかは分からないが、まるでゲームのチュートリアルのように気持ちいいまでに殲滅できるくらいの実力しかなかったのだ。


 これじゃあ練習にならないかな。


 そんな僕の戦いっぷりを後ろで見ていた元春とマリィさんが触発されたのか、僕の肩を揺さぶりながらねだってくる。


「つか、ゲームみたいで面白そうだな。俺もやらせてくれよ」


「虎助、(わたくし)――、(わたくし)もやってみたいです」


 正直、状況が状況だけにそんな遊び感覚で戦うのはどうかと思うけど、賢者様救出作戦中にアヴァロン=エラの側で何かがあった場合の事を考えると、二人にも操作に慣れてもらっておいた方がいいのかもしれない。

 仕方がないですね。と僕はマリィさんと席を交代して、横からKE11の動かし方のレクチャーする側に回りつつも、どうせだからさっき戦いと言っていたプルさんにも声をかけて次の獲物を求めて移動。エンカウントしたゴーレムに襲いかかってもらうのだが、


「たしかにこれは少々難しいですね。そもそも(わたくし)の戦闘法とは随分とかけ離れていますから」


 ふむ。マリィさんの場合は近接戦闘は剣術に偏っているから、格闘術という戦闘法ではしっくりこないのか。

 だったら、


「えと、剣も装備にありますよ。試験的にアカボーさんから教わったアイテムバッグ機能をつけてみましたから」


「あら、もしかして宇宙人の二人から教わったアレが完成しましたの?もしかしてアニマに持たせたバッグがそうなのかしら?」


「いえ、あれはもしもの時にとっておいたマジックバッグですよ。KE11に、正確には彼が身に付けている鎧に付与されているマジックバッグ機能はあくまで試験的につけているものですから、まだ売り出すような段階にはないですね」


 マジックバッグと聞いて、マリィさんが期待を込めた目で僕を見てくるのだが、残念ながらアカボーさんから習った空間拡張技術はまだ実験段階だ。

 それを聞いたマリィさんはガッカリと軽く肩を落とすが、今はそれよりもKE11の操作の方が重要なのだろう。気を取り直して、


「それで、どうしましたらその機能は使えますの?」


「ええと、ちょっと失礼しますね」


 僕は手を伸ばし、マリィさんの手の上から制御球に魔力を流すと、呼び出したモニターの一つに表示されたリストの中から、耐久性に特化したアダマンタイト製の片手剣を呼び出す。

 だが、手袋(オペラグローブ)越しとはいえ、なんの断りもなく手を重ねてしまった事がマリィさんを動揺させてしまったらしい。


「こ、虎助。いきなりどうしましたの?」


「あっと、すみません。こうしないと操作できなかったものですから」


「チクショー。ラブコメってんじゃねーよ」


 その後、その理不尽な僻み根性からか、マリィさんから操縦を代わった元春が、プルさんとアニマさんの援護を受けて意外な奮戦ぶりを見せて研究所外のゴーレム兵達を殲滅。

 改めて僕達は賢者様を救出するべくこの研究所を後にするのだった。


   ◆


「隊長、問題が発生しました」


「どうした?」


「異端者の元へと送り込んだ機兵隊の通信が途絶しました」


「魔獣か?」


「あっという間の出来事だったらしく、相手の姿は確認できなかったそうです」


「不意打ちか……、そうなるとフォックス系の魔獣になるのか。あの辺りは森も深いと聞く、管理地域では見られない強力な魔獣もいるのではないか」


「いえ、それが、やられたのが一機、二機ならその可能性もあるやもしれませんが、全機体の通信が途絶えたとなると監視をしていた研究所になにか原因があると考えた方が自然です」


「完全制圧したのではなかったのか?」


「そのハズなのですが……」


「拘置されている異端者はどうしている?」


「幾つか魔法を使って脱出を試みたようですが、いまは大人しくしているようです」


「魔法だと?」


「そうはいっても、発動できたのは小さな魔法ばかりのようでしたが」


「そうか。

 ……いや、もしかしたらそれがきっかけやもしれぬな」


「どういうことでしょう?」


「極小の魔法と言えば思い当たるのは通信魔法だ。お前も初等学校に通い始めた頃に習わなかったか、相手にごく簡単な信号を送れるというアレだ。 それが今回の件のトリガーとなっていたとしたのなら、機兵隊の理由にならないだろうか」


「しかし、あの部屋は魔法的に隔離された状態なのでは? 初等学校で習うような魔法で障壁を抜けるとは思えないのですが」


「それはあくまで我々が知る限りの常識だろう。 あの男は禁忌たる人造人間を作り出すような男だぞ。こういう時の為の措置も準備していたのではないか?それこそ古代魔法の類なら障壁をすり抜けるような通信魔法があってもおかしくないと思うのだが」


「まさか――、

 いえ、彼は大賢者でしたよね。どうしましょう?」


「落ち着け。 やられたのはあくまで機兵隊だ。ヤツの拠点から、いま我々がいるこの場所までどれだけの距離があると思っている。とはいえ対策を打った方がいいには違いない。

 ……わかった。俺は大主教様に連絡を入れてくる」


「大主教様に?」


「ああ、処け――、裁判の時間を早めてもらう。主を亡くしてはゴーレムもただの烏合の衆だ。お前は議長の方に連絡がつけられるように調整しておいてくれ」


「りょ、了解しました」

◆因みにプルが常に起動状態に無いのはロベルトの世界では活動関わる魔素の吸収率が低く、カプセルを利用してそのエネルギーを蓄えている為という設定になっております。

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