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元春垂涎のお客様

◆いつもより、ちょっと長めのお話になっております。ご注意を――、

 とある休日の午前中、いつもより少し賑やかな万屋店内にこの男の奇声がこだまする。


「うっひょー。まさかこんな日がやってくるだなんて思ってもみなかったぜ」


 動物園の猿のようにはしゃぎまわるのは、もちろん元春である。


「元春、ちょっと落ち着こうよ。ね」


「馬鹿野郎。これが落ち着いてられっかよ」


「虎助、この男は何をそんなに興奮していますの?」


 元春の興奮を抑えるように宥めている僕の横から、マリィさんが飛ばしてくる疑問符に元春が鼻をスピスピかっぴろげ言ってくるのは、なんていうか実に元春らしい理由だった。


「何に興奮しているかって――、そんなの決まってんじゃないっすか、だって猫耳ですよ。犬耳ですよ。リアルウサ耳ですよ。これを興奮しないで何をしろって言うんすか」


 そうなのだ。本日、万屋にはケモ耳獣人の皆さんがお客様として訪れていたのだ。

 しかも、それが女性だけのグループとなればこの男が騒がない訳がない。

 だが、そんな騒ぎを聞きつけて、一人のお客様がカウンターの前までやってくる。


「兄さん。間違えんといて、アタシは狼や」


「関西弁の狼っ娘キター」


 おっと、元春が――僕もであるのだが――犬の獣人だと思っていたスレンダーな彼女は狼の獣人さんだったみたいだ。

 元春が犬耳と叫んだのがいたく気に入らなかったようで、ストレートにクレームをつけてきた。

 だが、元春はそんな事を気にも止めずにバカみたいに騒ぎ立て、


「あの、お耳を触らせてもらってもよろしゅうですか?」


「いやや、アタシの耳は好きな人にしか触らせん」


「なら、狼尻尾をそのフサフサな尻尾でも」


 もはや不審者以外のなにものでもない。

 変な関西弁で耳を触ってもいいかと問い掛ける元春。

 しかし、当然のごとくその希望は却下され、それでも諦めきれないと元春は狼少女の背後に回り込み、ふさふさの尻尾を手を伸ばそうとして罰を下される。


「きゃん。なにしようとしてくれとんねん」


 意外と可愛らしい悲鳴をあげた狼少女が、ボサボサの灰髪を振り乱し、繰り出したのは回し蹴りだ。

 美しい曲線美から繰り出されるしなやかな蹴りを食らった元春が正面ドアの方向にぶっ飛んでいく。

 しかし、元春の体が万屋正面のスライドドアを砕くことはない。

 スライドドアの数センチ手前に展開された結界がガラス戸が壊れるのを防いだのだ。

 結果、元春といえば結界に思いっきりぶち当たり、ガハッと白目を剥いて気絶してしまう。

 すると、これに慌てたのが狼少女のお仲間である猫耳娘だ。


「はうっ、すいません。すいません。ウォルちゃんも謝って」


 元春がぶっ飛ばされるのを呆然と見ていた彼女だが、元春が倒れるとすぐに茶色のショートヘヤーを揺らし駆け寄ると、日本なら小学生と言っても通用するだろうその小さな体を大きく使い、ペコペコと何度も何度も頭を下げる。


 しかし、元春じゃないけど、礼儀正しい猫耳娘というのは少し違和感があるなあ。

 って、そんなくだらないことを考えている場合じゃなかったよ。


 僕は脳裏に過ぎった元春じみた思考を振り払うと、カウンターから飛び出して猫耳娘に近付き努めて爽やかな笑顔で猫耳娘を安心させる言葉を作る。



「こちらのお客様ならいつものことですので大丈夫ですよ」


「そそそ、そうなんですか」


 すると、猫耳娘としては顔面が変形するような打撃をくらって、それをいつものことと片付ける僕に戸惑っているみたいだ。

 オロオロと僕と元春との見比べるようにして困惑の表情を浮かべるのだが、元春の病気(コレ)は本当にいつものこと。


「むしろ常連のお客様が迷惑をかけたということで、僕達の方がお詫びをしなければならないところですよ」


 とはいえ、謝罪の必要があるだろうと思った僕はそこで「そうですね」と考える時間を間に挟み。


「よろしければ一点、商品を半額のお値段で提供させてもらいましょうか」


「半額っ!?」


 謝罪からのサービスに逸早く反応したのは元春のセクハラ被害者であるウォルと呼ばれた狼少女。

 そんなウォルさんの声に、とんがり帽子に黒を基調としたゴシックドレスと、いかにも魔女らしきウサ耳お姉さんが甘ったるい声でこう言ってくる。


「なら店長さん。こっちのも半額ってことですかぁ?」


 だが、それはウォルさんとして看過できないものだったらしい。


「ちょい待ちやゼラ――、この変態に粉かけられたんはアタシやから、好きなん選ぶんはアタシやろ?」


 ゼラさんというらしい白髪ロングのウサ耳お姉さんの妖艶な胸元を指で突っついて反論する。

 しかし、ゼラさんにもゼラさんの言い分があるらしい。


「それはそうかもなんだけど~、こんなチャンスそうそうないわよ。ここは一番お金のかかる私の装備を新調するのがパーティの為なんじゃないかしら」


「いやや、アタシが半額って言われたんや」


 自分が自分がと半額の権利をお互いに主張し合う二人。

 だが、二人の争いは不毛である。

 何故ならば――、


「あの、こちらとしては皆さん一点づつというつもりだったんですが」


 その一言に、二人の――、いや、三人の動きがストップする。

 そして、すぐに輝くような笑顔を浮かべて――、

 しかし、その嬉しそうな表情は長くは続かなかった。

 僕の言葉を受けて、軽く店内を見て回った三人が、それぞれの欲しい物を持ち寄ったところでまたピリッとした空気が復活したのだ。

 たぶん全員が希望のものを買おうとするとお金が足りなくなってしまうのだろう。

 そんな話の流れから、一旦、自分達の拠点に戻ってお金を持ってこようという流れになったみたいなのだが、ちょっと待って欲しい。


「あの、皆さんはどうやってここに来たんですか?」


 目的を持ってこのアヴァロン=エラにやってくる人達は大抵がそれなりのお金を持ってくる。

 あまりお金を持っていないということは、この三人が偶然にこの世界に迷い込んできたお客様なのではないか。

 そう思って訊ねてみると、


「え、ええっと、実は私達にもよく分かっていないんですけど、依頼でとある森の調査をしていたら、気がついたらここに来ていて――、てっきり転移系魔法を利用した秘密のお店とかそういう場所だと思っていたから普通にしてましたけど、何かいけないことでしたか」


 おっと勘違いさせてしまったらしい。

 不安そうな顔で聞き返してくる茶トラの猫耳娘に、斯く斯く然々。僕がアヴァロン=エラへの移動に関するアレコレを教えてあげたところ、さすがはファンタジー世界の住人というべきか、三人ともいまの状況をあるていど把握してくれたみたいで、中でも魔法使いであるゼラさんは、


「ふぅん、次元の歪みを収束する魔法陣ねぇ。

 なら、私達は次元の歪みに飲み込まれてしまったということかしら?」


「ご存知でしたか」


「まあ、私達の世界には実例があってね。こういう話が童話になっていたりするのよ」


 どうやら、ゼラさん達の世界には次元の歪みに落ちてちゃんと生還した人がいるらしい。

 そうなると、彼女達の世界で異世界転移の前例は一人だけじゃないのかな。

 そして、実際に話しが残るくらいに異世界転移が起きているのなら、三人が暮らす世界は相当に魔素が濃い世界ということになるのかもしれない。


 まあ、どちらにしても、これはある意味で丁度いい実験になるのかも。


 僕は一つ思い付いてカウンターの引き出しの中から一枚のカードを取り出す。

 その上で三人の中で一番しっかりしていそうな猫耳娘に差し出しながら説明する。


「これは〈メモリーカード〉といって白紙の魔導書(・・・・・・)と同じように使える魔導器です。このカードには通行証のような機能があって、元の世界に帰っても、お三人がここに来るきっかけを作った次元の歪みがまだ残っていれば、高確率でここに戻ってこられるかと」


 そう、このカードには、ゲートをくぐってこの世界へとやってくるお客様に現地の情報が記録されているのとは逆に、アヴァロン=エラに関する情報が大量に記録されている。

 もしも、それが上手く作用したのなら、偶発的に発生する次元の歪みを利用して、指定した二つの世界を行き来できるようになるのかもしれないと、実験的に作り出した座標指定の魔法式を組み込んだ〈メモリーカード〉を猫耳娘に渡そうとしたところ、それをゼラさんが横から掠め取って――、

 そんなゼラさんの行動に猫耳娘が「私が貰ったのに――」抗議の声を上げるのだが、


「前衛のテスちゃんが魔導書を持っていても意味がないじゃない」


 たしかに魔導書である〈メモリーカード〉の機能を最も効率的に使えるのは魔法使いゼラさんだろう。

 まあ、それぞれが持つ実績の相性というものがあるかもしれないけれど、戦いながら魔法窓(ウィンドウ)を使うには、それなりに慣れというものが必要である。

 だとしたら、落ち着いて魔法窓(ウィンドウ)を操作できる魔法使いらしきゼラさんが、まず扱いを憶えるというのは決して間違った選択ではないと僕は思う。


 ということで、アヴァロン=エラへの鍵となる〈メモリーカード〉がゼラさんの預かりになったところで改めて、


「それでどうしましょう? 一応、元の場所に帰っても、またこの場所に戻ってこられる可能性は確保できた訳ですが、それも確実とは言えません。そうなると買える分は買って帰った方が無難だとは思うんですけど」


 僕がした問いかけにまず発言したのはウォルさんだった。


「そんなん簡単や。アタシのガントレットに決まってるやろ。なんせ、この半額をもぎ取ったのはアタシのおかげやからな」


 しかし、ウォルさんは、最近装備を新調したばかりのようである。


「でも、ウォルはこの前、装備を整えたばかりよね。ここは他に譲るべきじゃないかしら」


 ゼラさんが購入の権利を譲るように言うのだが、


「いやや。このチャンスはゆずらへん」


「アナタねぇ。全体の戦力を考えてよね」


 ウォルさんは駄々っ子のようにそっぽを向いて、ゼラさんがそんなウォルさんの態度に呆れたように腰に手をやる。


 このままでは埒が明きそうにないので、


「あの、万屋(ウチ)は買い取りとかもしていますから、それと相殺という処理もできますけど」


「えっと、下取りって言ってもボク達、ここの装備に釣り合うようないい装備は持っていないんですけど……」


 僕からの提案に申し訳なさそうに首を縮める猫耳娘のテスさん。

 しかし、そこは心配しなくてもいい。


「いえいえ、先程も説明した通り、皆さんは全く違う世界から来たお客様ですから、そちらでは普通のものだったとしても、他の世界では以外と希少な素材が使われていたりする場合があるんですよ。

 それに装備に凝らされる工夫も各世界によって特徴がありますし、みなさんが凡庸だと思ってる装備でも高く買い取ったりできますよ」


 そうなのだ。装備に使われる素材一つにとっても、場合によっては他の世界では入手困難だったりする素材が使われていたりする。

 そして、賢者様の世界のドロップやシェルのように、たまにソニアすらもまったく想定していない技術が使われた装備というものが存在するのだ。


 改めて、何かいい装備はないですか? そう訊ねる僕に、ここでこの男が割り込んでくる。


「ケモ耳っ娘達の使用済み装備だと!? 買い取ろうすぐ買い取ろう。そんで、俺に売ってくれ」


 さすがは【G】の実績を持つ男、復活が早い。

 しかし、元春は買い取ったそれをどう使うのだろうか。

 まあ、なにに使うかなんて予想は簡単にできるんだけど。

 そんなこと言ってると、また――、


 瞬殺。


 鼻息荒く装備の購入を迫る元春がマリィさんの火弾によって焼き払われる。

 そのあまりに容赦のない処断に呆然と立ち尽くしてしまう三人の獣娘達。

 だが、万屋ではこんなことなど日常茶飯事。


「あの、たしかに万屋(ウチ)は装備品の買い取りもしているんですけど、どちらかといえば、魔具や魔導器等のマジックアイテムの方が重要で、そちらならわりと簡単な魔具でも高値で買い取ったりしていますよ」


 燃えカスのようになって床に崩れ落ちる元春を気にすることなく僕がそう言うと、ハッと気付いたウォルさんとテスさんが焼け焦げながらも恍惚とした表情を浮かべる元春を確認、げんなりとしながらも元春が無事であることに安心したのか、半眼になった目のままゼラさんにスライド。肩から下げているバッグに向けられる。

 おそらくはあの中に幾つかのマジックアイテムが入っているのだろう。

 しかし、マジックアイテムといえば魔法使いにとっての商売道具だ。ゼラさんとしては譲り渡したくないというのが本音だろう。

 ゼラさんは他の二人から向けられる視線に、露骨に嫌そうな顔を浮かべる。

 だが、最終的に白紙の魔導書(・・・・・・)と同等の力を持つ〈メモリーカード〉の存在が決め手になったみたいだ。「幾つか売り物を補うような魔法式を入れてあげますよ」とサービスしたところで、嬉しさ半分、渋々半分といった感じでショルダーバッグの中をあさり、その中から幾つかのマジックアイテムを取り出してくれた。


 と、それは、マントとペンダント、そして不思議な装飾が施されたブレスレッドの三点だった。


「では、鑑定させていただきますね」


 僕はカウンターに並べられた魔具を前に、三人に断りを入れると〈金龍の眼〉を取り出して、一つ一つそれがどういうものなのかを鑑定していく。

 結果、その三点が、空を飛べるという〈風のマント〉、魔力を溜めておける〈蓄魔のロケット〉、周囲の雪を媒介に簡易ゴーレムが作成可能な〈スノーマンクリエイト〉というマジックアイテムであると判明する。

 僕はその鑑定結果に『この中では〈蓄魔のロケット〉が一番興味深いかな』と心の中で呟きながらも、魔法窓(ウィンドウ)片手に大体の買取価格をはじき出し、改めて三人が欲している商品を確認すると、


「ボクはあのサラマンダーの革鎧を」


「アタシはさっき言ってたアダマンタイトのガントレットやな」


「私はこの魔法銃が欲しいわね」


 三人がそれぞれに欲しいものを持ってきてくれるのだが、


「それだと少し予算オーバーなりますか――」


 僕がそう言った途端、再び始まる言い争い。


「あの、ウォルさん。ボク、アダマンタイトなんて聞いてないんですけど……」


「ちゃうよ。アタシは最初からちょっと高めのガントレット買うっていうてたやん。

 オーバーしたんはゼラが杖から魔法銃に買うモン変えたからやろ」


「ちょっと、私の魔導器を売りに出してるのよ。多少のグレードアップは文句無いでしょ」


 どうも、思っていたよりも高値と査定されたマジックアイテムに、ウォルさんとゼラさんの二人が自分の買いたいものを少しグレードアップしたみたいだ。

 このままではまた言い争いが激しくなりそうなので、


「あの、ウォルさんのガントレットを万屋(ウチ)で開発した試作品にしていただければ、今ある金額の範囲で収まりますけど、因みにその試作品というのは強度的にはアダマンタイト製とほぼ変わらないガントレットですよ」


「ふぅん。 悪いんやけど試させてもらってええか?」


 僕の出した妥協案に、ウォルさんが手をしゃくるようにしてガントレットを出すように言ってくる。

 僕は空間魔法が付与されているベル君の口の中から一対のシンプルなガントレットを取り出してもらい、ウォルさんにそれを渡す。

 すると、それを受け取ったウォルさんは「ミスリル銀のガントレットか」と、その銀色の(・・・)ガントレットを装着、軽くシャドーボクシングのようなことをして使用感をチェック。

 そうした上で首を捻り、


「悪くはないんやけど、ちょっち軽いかな」


 まあ武器として使うのならそういう評価なるのも当然なのかもしれないけど、


「実はそのガントレットには荷重系の魔法式を刻印されていて、攻撃の瞬間に魔法式を発動させると攻撃力をアップできる仕組みになっているんです」


 それは魔王様のスクナであるシュトラが使う〈重力撃〉を参考にした魔法式。

 試しに作ってみたのはいいものの、思いのほか強力な武器となってしまい、お蔵入りになっていたものだが、ここまでのやり取りを見る限り、意外と乙女で単純なウォルさんなら悪い事には使わないだろう。そう思って持ち出してきたのだが。


「それってどうなん?」


「荷重系っていうと重力魔法よね。ウォルちゃんには扱いが難しいんじゃない」


 餅は餅屋。魔法のことは本職に聞くのが一番と、ウォルさんはすぐ近くで話を聞いていたゼラさんに僕が言った仕様がどうなのかを確かめる。

 しかし、ゼラさんから返ってきたのはウォルさんをちょっと馬鹿にするような言葉だった。

 ウォルさんとしてはそんなゼラさんの発言にカチンときたのだろう。目元をヒクつかせ、鋭い視線を僕に向けてきて、


「なあ、それってどうやって使うん?」


「そうですね。インパクトの瞬間に拳をギュッと握りますよね。その時に自分の拳が鉄や鉛のように重くなったイメージをしながら魔力を流せば、勝手に魔法が発動してくれるようになっていますよ」


 本来なら魔法名の発した方が発動自体は簡単になるのだが、戦闘中にわざわざ必殺とばかりに叫ぶのは恥ずかしいだろうと、あえてその説明は省いて伝えると、ウォルさんはすぐにイメージだけで発動させる〈重力撃〉の練習に入る。

 すると、最初こそイメージ構築が上手くいかなかったみたいだが、そこは獣人としての野生の勘かなにかだろう。数分の試打で一応は(・・・)〈重力撃〉をものにできたみたいだ。

 徐々にスピードをあげていき、最初と同じくらいの滑らかさでシャドーボクシングができるようになった時点でゼラさんをチラリ一瞥、鼻を鳴らして、


「ええやんコレ。アタシ、これに決めたわ」


「では、取引成立ということで、他の皆様もよろしいでしょうか」


「そうやな」


「まあ、一応はね……」


「あ、ありがとうございます」


 一人、若干悔しそうな顔を浮かべるのだが、取り引き自体に文句はないらしい。

 ということで、すぐに精算、全財産を使ってしまったけど、いいものが手に入ったとホクホク顔の三人を見送って、しばらくまったりとした時間を過ごしたところで、目を覚ました元春がキョロキョロと店内を見回して聞いてくる。


「あれ、獣っ娘達は?」


「少し前に自分の世界に帰っていったよ」


「ちょ、なんで俺が気付くまで引き止めとかなかったんだよ」


「一度、気付いたじゃありませんの」


「はっ!? それってどういうことっすか?」


「さあ、自分の胸に聞いてみるといいですの」


 都合がいいことに元春は例の変態発言をした記憶を失っているみたいだ。

 そんな元春の状態に犯人であるマリィさんはしれっと受け流す。

 そして、元春の方もしつこくマリィさんに質問をしたところでまた火弾で炙られるだけだ。本能的にそれが分かっているのだろう。僕の方に突っかかってくるのだが、僕も元春にかかりっきりという訳にもいかない。

 何故なら、元春の文句を聞いている間にも、まだ誰かがゲートに転移してきたみたいだからだ。


「お客様が来たみたいだから、その話はまた後でね」


 言い訳じみたその言葉に、店の外、ゲートから立ち昇る光の柱に鬱陶しげな視線を元春。

 しかし、元春が不機嫌だったのはそこまでだった。

 転移反応が収まって数十秒、小さかった人影が徐々に大きくなるにつれて、死んだ魚のようだった元春の目が輝きを取り戻し始め、ある程度までその詳細が確認できるところまで来たところで、万屋正面のスライドドアにベタっと張り付く。

 どうして元春がそんな行動をとったのか、店の外を見れば一発で分かる。

 そう、ゲートからやって来たのは女性のお客様だった。

 しかも、それが全裸の女性客となれば元春が興奮しない訳がなかった。


「なっ、ありゃあ、彼女、怪我してんじゃねーのか? こりゃいかん。俺が助けにいかねば」


 わざとらしくも声を張り上げて、店を飛び出していく元春。

 とはいえだ。全裸の女性にスケベな元春、これ以上に危険な組み合わせはないだろう。

 慌てて元春の後を追いかけようとする僕。

 だがしかし、店を出ようとした直前になって、背後から感じた僅かな温度変化に元春を追いかけるのを諦める。

 そうなのだ。いまこの万屋には、下劣な行為を許さない高貴なる意思を持つこの御方がいるのである。

 そして、僕はわざとらしくも頭を下げてお願いするのだ。


「マリィ様、よろしくお願いします」


「承知しましたわ」


 状況を鑑みれば細かい打ち合わせなど必要ない。

 斜線を開けるように脇にズレた僕の動きに、マリィさんが泰然と和室でお茶を楽しみながら〈火弾(ファイアーバレット)〉を放つだけだ。

 マリィさんの指先から発射された炎の弾丸は商品棚を縫うように店内を駆け抜け、開いた正面ドアから店の外へ飛び出す。

 そして、万屋から十メートルほど先を走る元春の延髄にジャストミート。

 つんのめるようにして倒れる元春。

 僕はそんな元春に軽く十字を切ると、悠々と店を出て、いつかの大晦日の元スモウレスラーのように前のめりに倒れる元春の横を通り越し、全裸のお客様に持ってきたマントを渡す。

 長い白髪で要所要所は隠れているものの、特に女性でも男性でも重要なあの部分が丸出しになっていて、目に毒な状態であることは変わりないのだ。

 すると、マントを差し出された彼女は自分の状態を気にもせず、赤い瞳で僕を見上げてこう言うのだ。


「マスターを助けてください」


「はい?」

◆一応、ここで四章の終りとなります。


 どうでもいい情報ですがウォル・テス・ゼラの三人は、海外のスーパーマーケットから名前を取っています。名前の由来からも適当に作ったキャラであることが丸分かりですが、なかなかいいキャラをした三人ですので、もしかしたら再登場もあるかもしれません。


◆補足情報


 ミスリル=黒色 ムーングロウ=銀色


◆いつも読んでくださっている読者様へ、感謝を――。

 ありがとうございます。(まだまだ続きますよ)


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