小さな従者の育て方
◆今週の二話目です。
前話といい今話といい、一部、お見苦しいイメージを連想させる表現を含んでおりますが、あくまで相手はゴーレムもしくはスライムということでご容赦ねがいます。
もみもみもみ、もみもみもみもみ、もみもみもみ――字余り。
元春が自分のスクナである『ライカ』を揉みしだく。
因みにこのライカという名前は元春が大好きな巨乳タレントから取ったものだそうだ。
そんなライカを手慰みに元春が聞いてくる。
「なあ虎助、これってちゃんと本物の感触を再現してんのかな。
俺ってよ、風圧とか、田村の二の腕とか、シリコンのおもちゃとか、いろいろ試してきたじゃん。なんつーかこれはまたちょっと違う感触なんだよな」
「そんなこと僕に聞かれても知らないよ」
本当に何を聞いちゃってくれているんだよ。
元春がその手の噂を信じ込み、女性の胸の感触をどうにか再現しようとしてきたアレコレは僕も見てきたのだけれど、僕とて本物のお胸を触ったことなんて数えるほどしかないのだ。だから、
「家に帰ってからおばさんにでも聞いてみたら」
「おま、マジで言ってんのか、お袋に聞いてどうすんだよ。萎えるだろ。つか、お袋にライカは見せらんねーし」
呆れながらも適当に答える僕に元春がまくし立てるように反論してくる。
でも、たしかに自分の母親に胸の感触を聞くなんてことどんな罰ゲームだって話である。
とはいえだ。元春の周りでこんなこんなことを聞けるような女性といえば、おばさんくらいしか思い浮かばないというのが正直なところ。
まあ、元春が気軽に相談できる女性というなら義姉さんという選択肢もあるのだが、残念なことに、とある理由から義姉さんにお胸の話題は禁句なのである。いや、地雷といってもいいだろう。もし義姉さんに、見た目は巨乳そのもののライカを持っていって、その感触を確かめてくれなんて言うのは、もはや殺してくれと言っているようなものなのだ。
しかし、元春としてもこの問いかけはたぶんこちらに繋げるワンクッションだったみたいだ。
「そうだ。マリィちゃんかマオっちが確かめてくれよ」
「私がやると思います?」
完全に変出者決定な元春の発言にマリィさんが不快感もあらわに聞き返す。
因みに魔王様はゲームに夢中で聞こえていなかったらしい。
うん。魔王様のことだから聞いていてあえて無視するなんてことはないハズだ。
「別に自分のものと比べなくてもいいんすよ。本物かそうじゃないかを確かめてほしいだけなんす」
切実な問題と言わんばかりに訴える元春の態度に、成程、それなら――と一瞬、元春のアイデアに感心してしまった僕だったが、
「虎助、燃やしてもよろしくて」
ですよね――。
マリィさんが指先に炎を灯して聞いてくる。
まあ、元春が燃やされることなんて、最近ではもう毎日のことになっているので、僕としては構わないのだが、
一方でこうなってしまった元春を止めるのは難しい。
とりあえず一発、また一発、またまた一発と何度か元春に火弾を食らわせていくマリィさん。
しかし、何が元春にそこまでさせるのだろうか。火弾を撃ち込まれる度に倒れながらも、元春はまるでゾンビのように黒焦げになりながらも立ち上がり、「本当に適当でいいですから」とか、「どうしてもしりたいんっす」とか、「マリィさんが教えてくれるまで、俺、諦めないっすよ」とか言ってマリィさんに迫っていく。
すると、いつになく必死な元春の様子にさすがのマリィさんも根負けしたようだ。
いや、どちらかといえば、不気味だとか気持ち悪いといった理由の方がしっくりくるかもしれないのだが……。
ふぅ――と息を吐き出したマリィさんは、「仕方がないですわね。ちょっと貸してみなさい」と元春の手からライカを受け取って、その感触をしっかり確かめるようにライカを揉むと、記憶を探るように一つの結論を導き出す。
「そうですわね。しいて言うならトワのお尻に近い感触ですか」
「マジですか!?」
思わぬ回答に奇声をあげる元春。
そう、マリィさんが例えに出したトワさんという人は、マリィさんの側付きメイドにして、元春の想い人である女性なのだ。
そんな人のお尻の感触を味わえるなんて知ってしまったら、思わずハイテンションになってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
因みに元春から食い気味の質問をされたマリィさんは、若干――ではなく完全に引いた顔をして「え、ええ」と答える。
でも、それ言っちゃっていいんですか?
傍から聞いていた僕なんかはそう思ってしまったのだが後の祭り、その時にはもう元春がマリィさんから取り返したライカに顔を擦り付け、「これがトワさんのお尻の感触かぁ」と蕩けんばかりのえびす顔を浮かべていたのだ。
そして、汚らわしいものを見るように目を細めるマリィさんを目の前に、元春がポツリこんな本音を零してしまうのだ。
「これでライカが尻の形に変身できたら最高だったのにな」
うわぁ……。
これにはさすがに僕もドン引きである。
しかし、一度暴走を始めてしまった変態は止まらない。
「なあ虎助、ライカに変身能力とかないんかよ」
正直言うと、マリィさんの目もあるし答えたくはないんだけど……。
早く言えよ。ん?と言わんばかり熱視線を浴びせてくる元春に何も答えないという選択肢は難しい。
だから僕はあくまで渋々といった雰囲気を醸し出しつつも。
「スライムだけに憶えようと思えばできるんだろうけど――」
「マジで、どうすりゃ憶えられるんだ?」
「魔法とおんなじで練習とかすればいいんじゃないかな」
スクナの中に宿っている精霊がやる気を出して憶えてくれれば、新しい特技としてきちんと覚醒できる。
そんな受け答えに反応したのがマリィさんだった。
しかし、それは元春に対する非難とかではなくて、
「ということはアーサーも鍛えれば様々な剣技を身につけられるということですのね」
うん。マリィさんはそういう人だった。
「そうですね。とはいっても基本的にスクナの特技っていうのは魔法に近いものですからですから、剣技というよりも、たとえば飛ぶ斬撃とか、斬った後に魔法的な追加効果を発生させるとか、そういった技術になるでしょうけどね」
「アーサー。さっそく修行ですの。先ずは素振りを千回ですの」
そう言ってすぐにアーサーを鍛え始めるマリィさん。
だが、ただ素振りをしなさいと言われただけでは、生まれたばかりのアーサーではどう学習していいのか判断つかないだろう。
だから、ここは助け舟を出してみる。
「えと、マリィさんこれを見て真似をすればある程度の練習ができると思うんですけど」
そう言って僕が魔法窓に呼び出したのは武器を手に戦う格闘ゲームの対戦映像だった。
最初は剣道なんかの試合映像を見せてあげようとしたのだが、アーサーが使う剣は西洋の剣。そんな剣の扱い方を分かり易く解説した動画がそうすぐに見つかるとは思えない。だから、どこまで再現が可能なのかはアーサーに宿る精霊次第なのだが、比較的理になかっている剣の扱い方をしているだろうゲーム映像を呼び出してみたのだ。これを真似していけば、剣技という意味でも特技という意味でもプラスになるのではないかとそう考えたのだ。
そして、繰り広げられる華麗なバトルにマリィさん自身も勉強になる部分を見つけたみたいだ。「これは私の魔法窓からも呼び出せますの?」そう聞いてきたかと思いきや、簡単にではあるが動画検索の方法を教えるとすぐに、マリィさんは万屋の片隅にあるドアから修練場へと飛び出していく。
と、そんなマリィさんを見送ったところで、今度は元春が、
「なあ、俺にはなんかアドバイスはないんかよ」
そんなこと言われても――変身の練習なんてどうしたらいいのか僕にもわからないよ。
だから適当に、「取り敢えず変身したいものを見せたらいいんじゃない」と言ってしまったのが失敗だった。
元春は「な~る」と呟きながらもニヤリといやらしい笑みを浮かべて、いわゆるイメージビデオと呼ばれる類の映像だろうか、露出度が高い水着の美女が無意味に飛んだり跳ねたり寝転がったりと様々なポーズを繰り出す動画を魔法窓として大量に展開し出して、むんずと掴んだライカをその映像の前に突き出したかと思いきや、どこぞ山奥に住んでいる仙人かなにかようにこう言うのだ。
「見るのじゃライカ、お前が目指すべき道はここにある。この画像を見て、しっかり女体を学ぶがよい」
いやいやいやいや、女体の勉強とか、目のやり場に困るし、魔王様の教育にも悪いから止めて欲しいんですけど。
しかし、これに関しては別に僕が注意するまでもなかったりする。
何故なら、訓練場に行ったはいいものの何かしらの忘れ物があったのだろう。すぐに戻ってきたマリィさんにその光景を目撃されてしまったのだから。
その後、元春が、たっぷり数十秒間フリーズしてしまったマリィさんに、苛烈で灼熱なお仕置きされたことは言うまでもないだろう。