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量産型ゴーレム(前編)※

◆タイトルからお分かりかとお思いですが、時間内にまとめきれませんでした。

 続きは次週ということでよろしくお願いします。

 あと、今話はいつもより長めのお話になっておりますので、お気をつけください。


 ある日の放課後、正面のスライドドアから斜めに差し込む西日に照らされる万屋の店内で、マリィさんに魔王様に元春と、常連の三人それぞれが金色や銀色のカードを手にそれを眺めていた。


「これが量産型ゴーレムですか」


「ええ、〈スクナカード〉といいます」


「でもよ。ゴーレムがカードってどーゆーことなんだ?」


 マリィさんの質問に答える僕の声に元春が疑問符を浮かべる。

 魔王様も同じことを思ったみたいだ。「……ん、ん」と頷いて聞きたそうにしているので、


「これはペーパーゴーレムっていうものでして、この金属カードを使ってゴーレムを作り出す魔導器でもあるんですよ。

 元春には式神とかって言った方がイメージしやすいかな」


「ああ、漫画とかでたまに見るあれか。

 でもよ、なんでわざわざそんな面倒なもん作ったんだ?

 ふつうにゴーレム作りゃよかったんじゃねーのか」


 元春からしてみると、ゴーレムをカード化させるような工夫を凝らすより、ふつうに一からゴーレムを作った方が手っ取り早いのではないかと思ったのかもしれない。


「でも、量産型とかいって、みんな同じゴーレムを持ってるとややこしいでしょ。

 それにみんな自分専用のゴーレムを持つとなったら形に拘りたいだろうしね」


「な~る。そういうことか」


「しかし、ペーパーゴーレムと同じとなると、どちらかと言えば召喚獣とかそんなのに近い感じですのね」


「まあ、スクナが小人サイズといってもゴーレムを連れて歩くのは大変ですからね」


「小人? これってそんなにちっせーの?」


 マリィさんの確認に対する切り返しに元春が驚くように聞いてくる。


「うん。スクナって日本の小人――、ほら、一寸法師とかああいう人の事を指す言葉なんだよ。

 式神って術の特性上、触媒に使われる素材の強度とそこから作られる本体の能力はある意味でイコールだからね。核に使われる触媒と戦闘にも耐えられる強度を計算すると、プラモデルとかフィギュアとかそれくらいの大きさが一番バランスがいいんだよ」


「いや、それなら普通にカードじゃなくてもよ。例えば腕輪とか、そんな風に触媒だっけ? それをデカくすりゃいいんじゃねーの」


 たぶん元春としては、自分の思い通りに改造できるのならメイドロボとかそういうゴーレムが作りたかったんだろう。 思いの外、小さかったスクナのサイズに、こうすれば大きいサイズのゴーレムも作れるんじゃないかとアイデアを出してくるのだが、


「元春の言わんとすることも分かるよ。でも、そう単純には行かないんだよね。誰にでも使えるような魔力で人間大の大きさのゴーレムを作るとなると、それこそ十キロとか二十キロとかプロとかそういう人が使うダンベルくらい重い触媒が必要になっちゃうんだよ。それだけの金属を使う装備品ってなるとごっついガントレットとかそういうのになっちゃって、人によっては扱い辛くなっちゃうんだよね」


「ああ、そりゃたしかに微妙だな」


 量産型ゴーレムはその起動に所有者の魔力注入が必要不可欠で、込めた魔力によって触媒を半物質化、それを運用させるとなると、可能な限り元になる触媒とかけ離れていないサイズにしなければ耐久力に問題が出てきてしまうのだ。

 つまり、性能と利便性、あとは触媒そのものに持たせる情報量にエネルギー量、その他諸々のバランスを考えて、僕達の世界で一般的なカードというサイズで落ち着いたという訳なのだ。


オーナー(ソニア)も前に買い取った魔法少女の杖やら、アカボーさんから教えてもらった宇宙船に組み込まれていた技術なんか参考にして、できるだけ役に立つようなサイズのゴーレムを作ろうとしたんだけどね。万屋にやって来るお客様の魔力量を考えるとこのサイズがベターだったんだよ」


「はぁ~、いろいろ考えられてるんだな」


「それで虎助、これはどのようにして使うのです?」


 サイズ選定に関わるバランス感覚に元春が感心する一方で、早く早くとばかりに聞いてくるのはマリィさんだ。

 どうも、これに関しては魔王様も待ちきれないご様子で催促するように僕の腕を揺さぶっている。


「それなんですが、まずはどのカードを触媒にするのかを選んでもらわないといけません」


 そういって僕はみんながそれぞれ持っている〈スクナカード〉を回収。

 右から順番に金色と銀に黒、そして赤銅色に緑青色と五種のカードを並べていって、


「右から、オリハルコン、ムーングロウにミスリル、そして魔鉄鋼ミニオンにブルー(偽ミスリル)です。皆さんはどのカードにします?」


「カードの素材が違うのはわかりました。

 ですが、素材の違いが――スクナでしたか、この量産型ゴーレムにどう影響するのです?」


「カードそのものの耐久性と言うのもありますけど、金属の特性によってゴーレムの性能も違ってくるんですよ」


 例えばオリハルコンで作るゴーレムは、平均的に高い能力を持ったゴーレムが生まれやすく、ムーングロウやミスリルからはその魔法伝導性が高さから俊敏性や魔法に特化したようなゴーレムが、魔鉄鋼(ミリオン)やブルーは廉価版で、価格が低く押さえられている代わりに能力が低いタイプとなっている。

 とはいえ、最終的には主人となる人物の能力に依存する部分も大きく、素材ごとの特性が絶対という訳ではないので、個人個人の趣味に合わせた素材選びが必要である。


「成程――、素材から厳選しなければ理想のスクナは作れないと」


「で、廉価版があるってことは――」


「うん。オリハルコンやムーングロウみたいに龍の血や賢者の石を使って作る魔法金属と、それ以外とでは格段に性能が違うかな」


 魔動機械とも呼ぶべきゴーレムらしく、ロボットなんかを例に出すとしたら、グリーンカラーの量産機とレッドカラーの専用機以上にその能力に差が出てしまうのだ。


因みに(ちな)値段の方はどうなってるんだ?」


今のところ(・・・・・)はブルー製のカードを銀貨五枚、魔鉄鋼(ミリオン)製を銀貨十枚、ミスリルのカードを銀貨三十枚で、残る上位魔法金属で作られてるカードを一律で金貨五十枚にしようかって考えてるよ」


「廉価版以外高すぎね?」


 一番安いブルーからすると約百倍。

 元春ならずとも疑問符をつけたくなるのは尤もなのだが、


「オリハルコンとかムーングロウのカードは、素材の値段に加えてオーナー(ソニア)が自ら作ってる特別製だからね。魔力の通りとかカードに刻まれる魔法式の細やかさなんかがまったく別物になってるから、どうしても高くなっちゃうんだよね」


「なんつーか、ディスカウントストアなんかで売ってる量産品と名人が作った一品物の違いってとこか?」


「う~ん。例えが微妙だけど、そんな感じかな。素材そのものの希少性なんかもあるからね。

 でも、今回はお試しの意味もあるから、ここにいる三人に限っては、最初の一枚はどれでも無料(タダ)でいいよ」


「マジかよ!?」


 さっきまでの疑わしげな視線はなんだったのか、無料(タダ)と言った瞬間、喜びをあらわにする元春。僕はそんな友人の変わりように苦笑しながらも、


「そうだね。マリィさんや魔王様は当然として、元春にもマールさんの件でちょっとはお世話になってるからね。 でも、無料(タダ)なのは最初の一枚だけだから慎重に選んでよ」


「おうっ、任されろだぜ」


 弾むような声で元春がそわそわとどのカードがベストなのか考え始めるその横で、「(わたくし)はこれにしますの」とマリィさんが迷うことなく選んだのは当然オリハルコン製のカードである。

 因みに魔王様が選んだのはムーングロウのカードだった。


「それで、これはどのようにして使いますの?」


「えと、魔具や魔導器と一緒で、魔力を流すと頭の中に魔法名が思い浮かびますから、後はどんなスクナを呼び出したいか、明確にイメージしながらその魔法名を唱えてあげると、カードが自動的にスクナの体を形成してくれますよ」


 カード選びが終わったことで、さっそくとばかりにカードの使い方を聞いてくるマリィさん。

 しかし、マリィさんに使い方をレクチャーしようとしたところで元春がその会話に入ってきて、


「ちょ、ちょっと待った。勝手に始めんなよ」


「うん? 説明なら後でしてあげるし、元春はゆっくりと選んでもいいんだよ」


「いやいや、こーゆーのはよ。みんなで一緒に選んで『どんなゴーレムが出来たー』とかワイワイやるのが楽しいんだろ」


 たしかにそれは一理あるかもしれないな。


因みに(ちな)、参考までに聞くけどよ。虎助はどのカードにすんだ?」


「僕はアクアに宿ってもらう予定だから彼女に選んでもらうよ」


「そういや虎助はあのお姉さん人魚と契約したんだよな。

 ――って、アクアちゃんに宿ってもらうってどういうこった?」


 たぶんアクアと聞いて、以前に見たトップレスの半透明の人魚姿を思い出したのだろう。微妙にニヤケた顔をした元春がふと気付いたように聞いてくる。


「あれ、元春には言ってなかったんだっけ? この世界のゴーレムにはそれぞれ精霊が宿ってるんだよ。だから命令とかしなくてもちゃんと働いてくれるんだけど……言ってなかったっけ?」


 そう、アヴァロン=エラにおけるゴーレムはそのほぼ全てが原始精霊によって動いている。

 その仕様は当然この量産型ゴーレム〈スクナ〉にも適応されているのだ。


「つか、俺等は精霊と契約してねーんだけど」


「ああ、そこは問題ないよ。この〈スクナカード〉には原始精霊を喚起する魔法式が組み込まれているからね。精霊と契約してない人でもちゃんと使えるようになってるよ。

 ただ、一度契約した後はやり直し効かないから、その点は注意してね」


 ソニア曰く、この誰でも精霊喚起が行えるという部分が一番苦労したところなのだという。

 ある程度の実力を備えた魔法使いや錬金術師ならまだしも、戦士やら格闘家やらと、近接戦闘に特化した人達にも精霊が喚起できるように魔法式を組み上げるのはそれ程までに難しいらしいのだ。


「それで、元春はどのカードを使うのさ?」


 マリィさんや魔王様ならその難しさは分かってくれるだろうが、そんな説明を元春に話しても仕方がない。

 問い掛ける僕の声に、元春は「う~ん」と眉を八の字にして、


「形や質感にこだわるならどれがいい?」


 そういうことか。

 形や質感といった言葉に僕は元春がどんなスクナを作ろうとしているのか想像しながらも、その辺りの趣味嗜好は買ったお客様の好き好きだと若干湿り気を帯びた視線を向けて、


「カードを使う人の想像力にもよるんだけど、形とかにこだわるなら、やっぱり魔力との親和性が高いムーングロウが一番じゃないかな」


「じゃあそれで」


 魔力との相性がいいということはそれだけ細かなコントロールが可能だということだ。

 それはスクナの動きに限らず、その質感などにも反映されると僕の説明に、あれだけ迷っていたのにも関わらずあっさりと即答する元春には呆れるものの、元春としては何よりもスクナの出来(・・)にこだわりたいのだろう。


 そんな訳で、全員のカードが決まったところでようやくスクナを呼び出すことになるのだが、完成ヴァージョンの〈スクナカード〉を使うのはこれが初めてである。

 なので、


「取り敢えず僕が見本を見せますね。

 ――とはいっても、僕の場合はアクアがいますから、ちょっとやり方が違いますけど」


 本当はカードに刻まれた精霊喚起の魔法式でカードに精霊を宿らせて、それからスクナ本体を作り出すという手順が正しいのであるのだが、僕の場合、すでに手持ちの精霊がいる訳で、精霊を喚起する必要がないのである。


「ですが、わざわざアクアをスクナに組み込むのはどうしてです? そのまま契約精霊として使役していても特に問題は無いように思えますが」


 契約の指輪を使い、アクアを呼び出しながらの僕の説明に手を上げたのはマリィさんだ。


「それは単純に利便性の問題ですね。アクアに限らず精霊から派生した存在っていうのは、顕現させる肉体が属性そのままの特徴を持っていますから。

 マールさんみたいに木の精霊だったり実態がある属性ならいいみたいなんですけど、アクアの場合、水の精霊ですから、万屋のお手伝いをしてくれる時とか、ちょっと不便な時がありましてね。それならいっそスクナに宿ってみたらどうかとオーナー(ソニア)に言われたんですよ」


 僕と契約して以来、アクアは万屋の仕事なんかにも興味を持ったようで、事ある毎に僕の手伝いをしようと顕現してくれるのだが、残念ながら水の精霊である彼女は半分液体のような状態だ。その体が足を引っ張ってしまう場合も多く、ならばゴーレムでも擬体のようなものがあった方がいいのでは――と、このような処置になった訳だ。


「そういうことでしたか……、たしかに高位の存在でもなければ、水に属する精霊にとって物理的な作業は不便ですわよね」


「それにアクアには完成品になる前のプロトタイプの実験に付き合っていてもらいましたから」


 そう、さすがにぶっつけ本番で〈スクナカード〉を売り出す訳にもいかず、かといって、むやみやたらに原始精霊をスクナに宿らせるのはどうなのいかと、既に僕と契約しているアクアに〈スクナカード〉の実験を手伝ってもらっていたのだ。

 そんな訳で僕とアクアにとって〈スクナカード〉の仕様はこれが初めてのことではない訳で、

 アクアに好きなカードを選び取ってもらった僕は、その銀色のカードに刻まれた魔法式を発動させるべく、カードに魔力を込めて、定められた魔法名(キーワード)を口にする。


「〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉」


 すると、その直後、ムーングロウのカードからやや青みがかった魔力光を帯びた水が溢れ出し、半透明のアクアにその水が絡みついたかと思いきや、カードの中に吸い込まれ、そのカードを触媒とした小さなゴーレム『スクナ』を生み出される。


 それは、左足の付け根から伸びる大きなスリットが特徴的な青いマーメイドドレスを着た手のひらサイズの女性。

 ドレスよりも淡い青のロングヘアーにその小さな体に見合わない扇情的な体のラインと、どこぞのハリウッドセレブかと言わんばかりの美女だった。


「おお、なんだよコレ、完全に美少女フィギュアじゃねーか」


 驚くところはそこなんだ。

 僕は光の中から現れた新生アクアを見て、つばを飛ばして興奮する元春に呆れながらも、アクアの召喚と同時に手元に浮かんだ魔法窓(ウィンドウ)に目を落とす。

 するとそこには、アクアの名前と共に〈ミュージックルーラー〉と〈水繰り〉という二つの項目が明記されていて、

 少し行儀悪くも僕の手元に浮かぶ魔法窓(ウィンドウ)を覗き込んだマリィさんが訊ねてくる。


「ゴーレムにステイタスがありますの?」


「というよりもこれは『特技』みたいなものですかね。ベル君達と同じで魔具や魔導器、魔法式のようなものが本体の内部にセットしているのと同じことですよ。基本的にセットできる特技は四つだけですが、獲得した技術は中の精霊が憶えていますからね。カード状態に戻した時にいつでもセットし直せるようになっていますよ」


 つまり、これは僕達が魔法を覚える為に魔具や魔導器を装備するのと同じように、スクナはこのカードに記された特技を増やして強化されていくのだ。

 因みにセットできる特技の数が四つになっているのは、有名なモンスターテイムゲームを参考にしたとかではなくて、単にスクナの状態で特技を自在に操れる限界がだいたい四つくらいだったと言うだけである。


「ふむ、大体のところはりかいしましたわ。では、私からいかせてもらってもよろしいかしら?」


「魔王様も元春もそれでいいですか?」


「……(コクコク)」


「フッ、真打ちは最後に登場するってもんよ」


 神妙な顔でお客様のトップバッターに名乗りを上げるマリィさんに、僕が残る二人に訊ねると、魔王様は静かに頷き、元春もフッと存在しない前髪をかき上げるようにしてマリィさんに先を譲ってくれるみたいだ。

 しかし、どちらかというと元春の場合、真打ちというよりもオチ要員なような気がしないでもないのだが、本人がこう言っているのだ。あえてツッコむ必要はないだろう。


「ということで、マリィさんお願いします」


 僕の声にマリィさんが金色の〈スクナカード〉を胸の前に構えて魔力を高めていく。

 そして、過剰とも思えるほどの魔力をカードに込めたところで、魔法名を唱えるのかと思いきや、マリィさんは僕の方に振り返り、こう訊ねてくる。


「あの、この魔導器を発動させるには、精霊をイメージした方がいいのかしら。それとも、ゴーレムの出来上がりをイメージした方がいいのかしら。どちらですの?」


 やっぱりマリィさんも一発勝負ということで慎重になっているのだろう。〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉という魔法のイメージを構築する段階になって気になったことを確認してくるのだが、


「それはどっちでも構わないと思いますよ。純粋に精霊をイメージすればその精霊が自分に使いやすいようにスクナの形を整え、ゴーレムの外見をイメージするとそれに合わせた精霊が集まってくるようになっているみたいですから、どちらが正解なのかは一概には言えませんね」


 つまり魔法を発動させようとするその段階で、術者がどんなに繊細なイメージを構築しようとも、最終的には集まってくる原始精霊次第となってしまうのだ。

 なんでもソニアが言うには、あえてイメージを曖昧にした方がむしろ面白いゴーレムが出来るのかもということだ。


「つくづく考えられている魔導器なのですね」


 マリィさんにはこの従者創造の裏に潜む、ソニアの意図が理解できたのだろう。〈スクナカード〉に目を落とし、ほぅっと息を吐くように呟く。

 しかし、それも束の間、すぐに目を閉じて精神を集中させるかのように深呼吸、改めて〈スクナカード〉に魔力を込めると高らかにその魔法名を宣言する。


「いきますの。〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉」


 魔法発動の瞬間、マリィさんの持つ〈スクナカード〉が金色の光を放つ。

 スクナ登場の演出はその使用者ごとに違うのか、放たれた光が衛星のようにマリィさんの持つカードを包み込んでいく。

 そして、光が収まったそこに現れたのは金色の鎧を纏った小さな剣士だった。

 そんなスクナを柔らかそうな量の手の平で受け止めたマリィさんが叫ぶ。


「ふおぉぉぉぉぉぉぉおお。これです。これこそが私が求めた究極の従者です」


 分かってはいたけど、マリィさんがイメージしたのは大好きな童話に出てくる黄金の騎士だったみたいだ。

 おそらく呼び出された原始精霊は光に属する精霊だったのだろう。両者の意識が合致して黄金の騎士を模した姿のスクナを生み出した訳だ。

 因みにそのスクナが身に付けていた特技は〈ブレードチェンジ〉に〈身体強化〉の二つだそうだ。

 ただ、マリィさんにもちょっとした不満点はあるようで、


「しかし、おしむらくは騎獣が一緒に想像できなかったことですわね。これでは騎士ではなく剣士ですの。少し残念ですの」


 騎士というのは馬があってこその騎士である。

 マリィさんはそこを残念だと思っているようなのだが、しかし、それには解決策がある。


「もう一枚カードを作って馬のゴーレムを作ったらいいんじゃありませんか」


 そうそう狙ったゴーレムになるとは限らないが、騎獣にイメージを絞ってやれば、この黄金の騎士が騎乗するゴーレムを作るのは難しくないだろう。

 そんな僕のアイデアに、マリィさんは「そんな手が――」と驚きながらも、さっそく作り出したばかりのスクナをカウンターに降ろし、その上で金貨をカウンターに叩きつけて馬ゴーレムの召喚に取り掛かろうとするが、


「その前にスクナに名前を決めてあげた方がいいと思いますよ」


 僕の場合はすでにアクアという名前があったからいいものの、マリィさんのスクナにはまだ名前がない。

 まあ、すぐに名前をつけてあげる必要はないのだが、スクナとしての外見に性格が引っ張られているのだろう。まるで叙勲されるのを待つように片膝をついて頭を垂れる黄金の騎士の姿を見てしまうと、すぐに名前をつけてあげなければいけないようなそんな気がしたのだ。

 ということで、マリィさんがミニマムな黄金の騎士につけた名前はというと――、


「ならばアーサー。アーサー=オベイロンでお願いしますわ」


 アーサー=オベイロン。それはマリィさんの世界で有名な童話の主人公と同じ名前だった。

 つまり黄金の騎士その人である。

 ということで、マリィさんが決めた名前はすぐに〈スクナカード〉にも記録されたみたいで、マリィさんの手元に浮かぶアーサーのステイタス画面にもアーサー=オベイロンの名前がしっかりと表示されていた。

 そして、すぐに騎獣召喚に取り掛かろうとするマリィさん――は放っておくとして、


「次は魔王様ですね」


「……ん、やってみる」


 僕の声を受けて淡々とカードに魔力を注ぎ込んだ魔王様が〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉の魔法名を唱える。

 そうして生み出されたスクナは魔王様にピッタリというか、可愛らしいスクナだった。

 魔王様が魔力を込めた直後、まるで朝霧のような靄がカードから溢れさしてカウンターに飛び乗ったそれは――、


「子猫?」


「マオ。これは?」


「……虎助をイメージした」


 なんで僕をイメージすると子猫になるのだろう?

 しかも真っ黒な猫って――、

 どう反応したらいいものやら、その子猫に視線を送ったところで気付く。

 真っ黒な子猫だと思っていたスクナには薄っすらと縞模様が存在したのだ。


「あれ、もしかして、この子は虎ですか? 僕が虎助だから黒い虎?」


 いや、それでも黒い理由は説明できないのだが、

 そこは僕が黒い服を好んで着ているとか、魔王様が黒い服が好きだとかいう理由だろう。

 うん。そうだ。きっとそうに違いない。

 因みに、この黒子虎の特技は〈影分身〉と〈重力撃〉という呼んで字の如しものみたいだ。


「それで名前はどうしましょうか?」


「……名前?」


 マリィさんに続いて魔王様にも、スクナの名前はどうしますか?

 僕がそう聞くと、魔王様はカードに目を落として、しかし、特に考える素振りも見せずに、僕を見上げこう言ってくる。


「……虎助が考えて」


「えと、いいんですか?」


「……虎助がお父さんみたいなものだから」


『おとっ!?』


 いや、それはどうなんだろうと、驚き、声を上げる元春やマリィさんに同意を求めようとするのだが、何故か恨みがましい視線を向けられてしまうので、

 ここは仕方がないか――と、僕は少し考えて、


「ならばシュトラというのはどうでしょう」


「……シュトラ?」


「僕達の世界の言葉で守る虎と書いてシュトラ。魔王様を守る虎ってことでどうでしょう」


 とは言っても魔王様の方が数段どころか数億段と強いというのが本当のところなのだが、

 もしも魔王様に何かがあった場合、シュトラが魔王様の助けになって欲しい。

 そんな願いを込めての名前だったりする。


「……うん。それでいい」


 と、ちょっとしたハプニングがありながらも魔王様のスクナの名前も無事に決まったところで、最後はこの男の出番だ。


「じゃあ、元春もちゃっちゃとスクナを作っちゃおうよ」


「なんか適当じゃね?」


「そんなことないよ。それで元春はどんなゴーレムを作るのさ」


「そりゃ勿論、アクアちゃんを超える巨乳美女だぜ。

 ククッ、ゼッテーエロい巨乳のダンサーを呼び出してやっから覚悟しとけよ」


「分かり易く最低ですわね」


 元春の宣言に、ここはツッコミを入れるところだろうかと僕が言葉を選んでいたところ、既に黄金の騎士が乗る騎獣の創造に成功したらしく、金ピカの鱗をもった飛龍を腕にしがみつかせたマリィさんがじっとりとした目線で元春を見ていた。


「馬じゃなくてドラゴンのスクナを呼び出したんですか?

 騎士っていうくらいなので、僕はてっきり馬のスクナを作ると思っていたんですけど」


「そうですね。(わたくし)としてはペガサスを狙っていたのですが、より強力な騎獣をと願ったおかげでしょう。黄金の騎士にふさわしい騎獣を引き当てたみたいですわね」


 そう言いながらもマリィさんは嬉しそうな顔をして黄金の飛龍を見る。

 マリィさんとしてはペガサスをイメージしてスクナを生み出そうと試みたそうなのだが、結果的に飛龍が生まれてしまったらしい。

 でも、それならそれでまた乙なものだとかそんな風に考えているのだろう。


「それで、私のゴーレムにも名前をつけてもらえると嬉しいのですが」


「えと、黄金の騎士の騎馬には名前がなかったんですか」


「残念ながらありませんの」


 マリィさんが言うには騎乗シーンはそれなりに出てくるらしいのだが、肝心の騎馬の名前はどの作者が書いた物語にも出てこないのだという。

 考えてもみれば、ドン・キホーテのように個性的な騎馬(?)でもいない限りは、騎馬の名前なんて出てこない物語が大半なのかもしれない。

 と、そんな思考の流れから、ふとロシナンテなんて名前が思い浮かぶのだが、たしかあれは駄馬とかそういう意味があったような気がする。

 そうなるとだ。

 別の何かを参考になるものといえば――と考えて、まず思い浮かんだのが「ハイヨー。シルバー」という下手をすると一世紀近く前になるラジオドラマから生まれた名台詞。

 しかし、マリィさんが召喚した騎龍は金色の龍ということで、


「そうですね。少しひねってファフナーっていうのはどうでしょう」


 ファフナーというのは伝説に語られる龍の一匹、ファフニールの事である。

 最初はシルバーに習ってゴールドという名前にしようとしたのだが、それだとあんまりに単純すぎるのではと黄金が大好きな龍の名前をいただくことにしたのである。

 因みにどうして僕がそんなにファフニールのことに詳しいのかというと、僕がよく使う〈金龍の眼〉という魔導器が、そのファフニールが持っていた力をモチーフにして作られたと言われている魔導器だからである。

 そんな感じで金の飛龍の名前も決まったところで、やや遠慮がちに声をかけてきたのはこの男、そう元春である。


「ちょっとお二人さん。俺が今からスクナを作ろうとしているんすけど」


「そうですわね。付き合わされる原始精霊もかわいそうですの」


 ファフナーに向ける慈しみの表情から一転、蔑むような視線を元春に送るマリィさん。

 しかし、元春がそんな目線を向けられてしまうのも仕方がないだろう。何しろ元春がこれから生み出そうとしているスクナは、マニアックな元春の欲望をその一身に引き受けなくてはならないのだ。

 だが、元春はあえて言う。


「もう、あくまで観賞用っすよ。そもそもこんなちっちゃいゴーレムじゃ何も出来ないでしょ」


 いや、観賞用ってそれもどうかと思うんだけど……、


「でも、精霊の方から見限るらしいからね。気をつけてよ。

 そうなると、その〈スクナカード〉もただのカードになっちゃうから」


「マジかよ!?」


「まあね。 でも、ちゃんと信頼関係があれば大丈夫だから、そこのところを気をつけておけば大丈夫だと思うよ」


 とはいっても、精霊に見限られたところでカード自体は残るので、作り直せばまた新しいゴーレムを作る事ができるんだけど――と、あえて言う必要のない情報は隠して元春を軽く脅してみたところで、


「どっちにしても、こうしていても仕方が無いから、早く呼び出しちゃいなよ」


 作る前にアレコレ悩んでいても仕方がない。そう言って後押しする僕の声を受けた元春は気合を入れるように両手で顔を叩いて、


「おっしゃ頼むぜ。

 巨乳のダンサー来い来い来い来い来い来い来い来い――、

 行くぜ。〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉ッ!!」


 あまりに欲望丸出しな召喚風景に『これじゃあ精霊じゃなくて悪魔が呼び出されそうだよ』なんて思いながらも見ていると――、


 ばふんっ。


 カードから吹き出したピンク色の煙が元春の手元を覆い、その煙の中からぴょんと一体のスクナがカウンターの上に飛び乗ってくる。

 それはまごうことなき巨乳だった。

 ピンク色の真円の中央にピンと天を突くような突起物。

 柔らかそうに震えるぷるぷるボディ。


「たしかに巨乳だね」


「ええ、巨乳ですの」


「……ん、おっぱい」


 そう、それはどこからどう見ても巨乳そのものだった。

 手に持ったら指の隙間からその柔肉が溢れんばかりの巨乳である。

 しかし、それは本当に巨乳のような何かがそのまま生物になったようなものだった。

 そうなのだ。元春が呼び出したのは巨乳も巨乳、おっぱいスライムだったのだ。


「って、違うだろ。違うだろ――」


 どこか懐かしいセリフで怒りをあらわにする元春。


「でも、巨乳だよね」


「そうですわね。巨乳ですの」


 だが、そのスライムはまごうことなき巨乳なのだ。

 しかも、重力にも潰されず、つんと先っぽが天を衝く、元春が大好きなロケットおっぱいなのだ。

 文句を言う方が罰当たりである。


「おっぱいだけでどうしろってんだよ!?」


 それは元春次第なのではないだろうか。

 だが、これ以上、その事を議論したところで、今度は逆に僕のダメージにもなりかねない。

 それに、これ上、元春から存在を否定されるような言葉が投げかけられるのはおっぱいスライムに宿ってしまった原始精霊が可哀想だ。


「取り敢えず能力を確認してみたらどう?」


 元春の意識を不満を逸らすべくそう提案したところ、元春は「お、おう」と戸惑うようにしながらも手元に浮かんだ小さな魔法窓(ウィンドウ)に注目する。

 すると、そこに記されていた特技は〈シリコンボディ〉に〈乳液噴射〉、そして〈おっぱいダンス〉の三種類だった。

 それを見た元春が叫ぶ。


「って、シリコンかよっ!!」


 やっぱり元春はどこまでいってもオチに使われる運命にあるようだ。

◆そう、そのおっぱいはあくまでスライムなのです。

 だからどれだけ本物に近かったとしても不自然な光で隠されることはないのです。


◆各人スクナの能力


アクア(虎助のスクナ)……〈ミュージックルーラー〉〈水操り〉


アーサー(マリィのスクナ)……〈ブレードチェンジ〉〈身体強化〉


ファフナー(マリィのスクナ)……〈飛翔騎龍〉〈火球〉


シュトラ(マオのスクナ)……〈影分身〉〈重力撃〉


おっぱいスライム?(元春のスクナ)……〈シリコンボディ〉〈乳液噴射〉〈おっぱいダンス〉


◆因みにエルライト(金の下位魔法金属)の〈スクナカード〉がないのは、それによって作られるスクナの能力と売値が釣り合わなくなってしまうからです。原材料が金だけにどうしても値段が高くなってしまうからです。因みに一番採算性が高いのはムーングロウ(銀と生命の果実(龍の血)などを錬金した魔法金属)です。


※読者様のご指摘により、スクナカードの価格の件に『今のところ』という言葉を付け加えました。

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