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女子にモテる実績

◆今週の一話目です。次話は一日開けて火曜日に投稿する予定です。

「なあ虎助――、ただそこにいるだけで女子にモテる実績とかってないんか」


 元春がこんなお馬鹿な事を言い出したのは、夢クジラから【淫夢に溺れし者】なんて不名誉な実績をもらった翌日のことだった。

 なんでも、前夜は【淫夢に溺れし者】の効果に預かり、元春としては満足まんぞうの一夜だったらしいのだが、所詮その効果は夢の中でだけ発揮するもので、見た夢が多くの男性にとって幸せだということはなんとなく理解できたのだそうなのだが、どうもその詳細までともなるとハッキリとした記憶は無いみたいで、起きた後で自分が夢の中でどんなスゴイ体験をしたのかとモヤモヤしてしまったことから、やっぱり現実でもモテたいという欲求が逆に強くなってしまったみたいなのだ。


 しかし、女子にモテる実績なんて言われてもね……。


「まあ、なくもないけど、そういう実績って基本的に女の子にモテるからとか、そういう人が獲得できる場合が殆どだから」


 例えば僕達の世界で言うところの【アイドル】を例えに出すと分かりやすいだろうか。

 アイドルは異性に(もしくは同性に)人気があるからこそアイドルであり、おそらく彼等はその実績を持つ前から、他人から好かれたり頼られる素養を持っていたのだろう。

 そして、他の人達に認められることによってその輝きを増し、実績の獲得、もしくは、その実績が確固たるものとなっていく結果につながっていくのだ。

 つまり、元春が欲しがる異性から好かれるという実績を得るには、もともとそういう素養がない限り、そう簡単には手に入れられない類の実績だったりするのだ。

 因みに、元春が持つ【G】なんて実績も、そのきっかけが元春に宿る抑えきれない煩悩が元となり、女の子に批難されるような事件を数々おこしたが故に得たというものなのだから、方向性の違いはあれど、ある意味で似たようなケースに当て嵌まっていたりするのだが、それは知らぬが仏というやつだろう。


「ですわね。実績が伴ってこその実績――、でなければわたくしも既に【剣士】の実績を得ていてもおかしくはないでしょうから」


 普段はのんべんだらりんとエクスカリバーと視線で語らうマリィさんも、見えないところでは相当努力をしているのだと、マリィさんに仕えるメイドさん達からこっそりと聞いたことがある。

 本人は努力の跡を見られるのが嫌なようで、手にできた豆すらもポーションなどの魔法薬によって直してしまうという念の入れようなので、一見するとそうは見えないのだが……。


「とにかく、下地があるからこそ、その分野に関する権能を与えられる。自然とモテる人に与えられるような実績を狙って獲得するのは、かなり努力が必要だと思うんだよね」


 まあ、生まれ持っての才能というものもあるのだろうが、現時点でそれが備わっていないことを考えてもらえばお察しである。


「クソッ!! リア充がリア充を呼びリア充ってくなんてどんな嫌味なんだっての!!」


 何事も努力あるのみとそう諭す僕に、元春はまるで上司からどやされやさぐれるサラリーマンのようにカウンターに拳を振り下ろす。

 しかし、元春は諦めない。

 いや、諦めきれない。

 それでも何か簡単に(・・・)モテる方法がある筈だとブツブツ呟いて、一つこんな質問を飛ばしてくる。


「なあ、魔獣を倒して手に入れられるのって、基本的に能力強化とか技術の補正なんだよな。だったらよ。触手系の敵を倒して〈淫技〉をアップさせるとかできねーのか」


 はて、〈淫技〉の技術を向上させることがどうしてモテることに繋がるのだろうか?

 その技能を使う機会があるのはモテた後なのではないだろうか?

 そんな疑問はともかくとして、


「どうなんだろうね。

 幸いにも今までそういう状態異常を使ってくるような魔獣は見たことがないから――、

 でも、そういう実績をゲットできる可能性はゼロじゃないと思うよ」


「マジでか」


「うん」


 元春の考えを肯定する訳ではないが、サキュバスとか、あからさまに性を想起させる魔獣や魔人を倒した時に、その手の権能を持った実績が手に入れられることは想像に難くない。

 僕と元春がそんなやり取りをしていたところ、マリィさんが白い目を向けてきて根本的な問題を口にする。


「随分と都合のいい話をしているようですが、そもそも貴方にその手の魔獣を討伐することが可能なのですの」


 たしかに戦いと聞けば常に逃げ腰になる元春に積極的に魔獣を狩るといっても上手くいくとは思えない。

 しかし、元春はそんなマリィさんの冷ややかな疑念に対して、胸を張ってこう答えるのだ。


「舐めないでくださいよ。俺だってやる時はやるんすよ」


 女の子とかそういうことが絡むと意外な力を発揮するのが元春だ。戦いの先に女の子にモテるかもしれないという餌がぶら下がっているとなれば、信じられないような力を発揮するなんてことがあるのかもしれない。


「なんにしたって、そういう魔獣がやってこないと意味が無いから、本当に運任せなんだよね」


 ゲートを通ってアヴァロン=エラに迷い込んでくる魔獣はあくまでランダム。狙った相手をここに呼び出すことはほぼ不可能だとなると、元春が望むような魔獣が現れるかどうかは本当に運の世界になってしまうのだ。


「召喚とかはできねーのかよ」


「そんな技術があったらオーナー(ソニア)がもう開発してると思うよ」


 元春が言うのはゲームのような魔獣召喚のことだろう。

 だが、そもそも狙った相手を召喚できるみたいな技術があるのなら、既にソニアがやっていない方がおかしいのだ。

 そんな当たり前の指摘に、どうも目的の魔獣を呼び出すのはどうも難しいみたいだと悟った元春は、また少し考え込むようにして、次に言い出したのは以下のような意見だった。


「つかさ、魔獣ってのは魔素ってヤツの濃い場所に生まれたりすんだろ。だったらよ。ここにミミズを連れきて飼ってりゃ、その内、触手魔獣みたいなのに化けたりとかしねーのかよ」


 よくも、そうくだらないアイデアばかりポンポン出てくるものだ。

 こういうことになると途端に頭の回転が早くなる元春に、僕は関心するやら呆れるやら、溜息ともつかぬ息を零しながらも答える。


「残念だけど、このアヴァロン=エラには生物が魔獣化するのを阻害する魔法が常駐してるから、それこそ動物実験みたく人工的にやらないと難しいと思うよ」


「んじゃあ人工的に作ろうぜ」


「危険を承知でやると思う?」


「だよな」


 そもそも、その生物という括りの中には人間も入っている。魔獣として変質していない生物を人工的に魔獣化させるとなると、その実験をする人間もまた人外の存在に変化してしまうというリスクを抱えることになってしまうのだ。

 それでなくとも、魔獣などの発生の大きな影響を与える魔素がこの世界では自然界ではあり得ない濃度になっているのだ。さらにアヴァロン=エラに常駐する幾つかの余計な(・・・)魔法が悪さをすることを考えると、きちんと管理をしてやったとしても、不足の事態が起こる可能性が高くなってしまうだろう。


「これも駄目かよ。他になんか方法はねーのかよ」


 普段からこういう風に頭を使ってくれると成績とかももっと良くなると思うんだけど――、

 そんな言葉が脳裏を掠めてしまうくらいに頭をフル回転させる元春に、僕が心の中だけで愚痴のようなことを呟いていたところ、


「そういやディストピアにそういう実績が取れる敵はいねーのか? 凶悪な触手魔獣とかよ」


「それって元春がその触手魔獣と戦おうっていうんだよね」


「おう、決まってんじゃねーかよ」


 僕の確認に当然とばかりに親指を立てる元春。

 正直、元春が触手系の魔獣と戦うなんて、目にも精神的にも多大なダメージを喰らいかねないイメージしか思い浮かばないんだけど……。


 しかし、一応は(・・・)お客様のリクエストだ。

 僕は元春に言われるがままにバックヤードを調べてみる。


 そして――、


「取り敢えず触手っていうか、元春のご希望に添えそうなディストピアってなるとこの辺りだね」


 元春の手元にパスした魔法窓(ウィンドウ)で表示されるのは何故か馬上鞭の形を模したディストピア。いわゆるローパーとか、そういう種類に分類される、世界によっては邪神やらその眷属として知られる魔獣の素材を使って作ったディストピアだ。


「んで、このディストピアにいる魔獣は俺にも倒せそうな魔獣なん?」


「さあ、そのリストにあるディストピアはまだ僕も試していないヤツだから、相手の種類はわかるんだけど、それがどの程度の強さなのかはわからないんだよ」


 ディストピアは、万屋のバックヤードに収蔵される素材を元にして、ソニアの気まぐれに作り出す特殊な魔導器である。

 しかし、そうやって作り出されたディストピアの安全性を確かめるのは僕一人、しかも、仕事の合間を縫ってテストプレイとなれば、気まぐれとはいえソニアの生産スピードに追いついていかないのだ。

 だから、相当の数のディストピアが、テストすらもされないままにバックヤードに放置されていたりするのが現状なのだが、


「でも、鎧を改造して、その魔獣に特化した性能にしてやればどうにか勝てるかもしれないよ」


 どんな強者でも相手の出方を調査し、弱点などを探っていけば相応の対処ができる。

 それでも元春の実力を考えると勝率は低いだろうけど、ディストピアならば何度でもやり直せるし、たとえ相手が強大な力を持った敵だとしても、カミカゼ特攻で全力全開のカウンターを叩き込めばどうにかなる場合が多い。

 と、そんな話をしてあげたところ。


「わかった。俺、やるぜ」


 元春は目的が目的なら見開き絵になりそうな真剣な顔でやる気満々のご様子だ。

 そんなこんなで誰もが避けるようなディストピアに挑むことになった元春は、その後、何百回かに渡る死に戻りを繰り返しながらも何度も鎧の改修を行って、ついに炸裂したラッキーパンチにより、18禁の小説に登場しそうな邪神の眷属を討ち倒すことに成功するに至るのだが、

 その結果、得られた恩恵が〈快楽耐性〉というものであったのは、いったい何を暗示してのものだったのだろうか、それは神のみぞ知ることである。

◆ここで松平元春君に朗報。


 夢クジラの回で虎助がしたように、各種耐性は自分の意思で抑えることが可能になっております。

 因みに元春は〈振動粘液(バイブローション)〉を使うことができ、【邪神眷属討伐】の恩恵による〈快楽耐性〉の合わせ技を使うことにより、対人戦では無類の強さを得ることになってしまいました。

 氷魔法や雷魔法に弱いという弱点もありますが、対人戦において嵌まれば強いピーキーな能力を手に入れてしまいました。

 あまり想像したくない絵面ですが、寝技に持ち込めばフレアにすらも勝てるのではないでしょうか。

 因みに虎助の場合は各種耐性で防御するか誘引の魔法を使って振動粘液を集める方法。マリィやマオなら特大魔法による単純火力で対抗できますので元春に勝ち目はありません。

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