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夢くじら※

◆今週の二話目です。

『暑さ寒さも彼岸まで――』

 日本にはそんな言葉があるけれど、アヴァロン=エラも日本と同じように季節が巡っている。

 そんな事を改めて実感してしまう程に空気がひんやりとしてきた秋の休日――、

 僕は減ってきた魔法薬の補充、マリィさんは日課であるエクスカリバーとの語らい、そして、元春がマールさんのところへ顔を出す前にとのんべんだらりんと英気を養っていたところ、ふと日食でも起こったかのように店の外が暗くなる。

 まだ午前中なのに一体何が起こったんだろう?

 僕達がなんだなんだと店の外へ出て空を見上げたところ、そこにはシロナガスクジラの数倍はあるだろうと思われる真っ白なクジラが浮かんでいた。


「なっ、なんじゃこりゃ――っ!!」


「空を飛ぶ巨大な白鯨……、まさか夢クジラですの?」


「知っているんですか?」


 元春の叫び声に続いて、マリィさんが口にした名前に僕が訊ねかけるのだが、それにマリィさんが答えるよりも早く、手元に小さなメッセージウィンドウが一つ立ち上がる。


『夢クジラっていうのは次元を超えて様々な世界を回遊すると言われている伝説の幻獣だね。なんでも影の下で眠ると特別な実績が一つ得られるとか、まさかこんなところでお目にかかれるとは思いもしなかったよ』


 たぶんソニアも工房のどこかで夢クジラの出現を確認したのだろう。ふだん警報なんかを出してくれるベル君やエレイン君に代わって逸早く情報を送ってきてくれたみたいだ。

 と、そんなソニアからのメッセージを横から覗き込んだ元春が興奮気味に言ってくる。


「おいおい。あのデッケークジラの影の下で眠るだけで実績がゲットできるとか、それってスゲーんじゃねえの」


『まあ、伝説の幻獣と呼ばれるくらいだからね。それくらいのことはできるさ』


「因みに《ちな》実績ってどんなのがもらえるんすか?」


『夢の内容にもよるね』


 果たして元春は誰とやり取りをしているのかを理解しているのだろうか。

 矢継ぎ早にくり出される元春からの質問にも淡々と答えるソニア。

 それによると、例えば夢クジラの影の下で見た夢の中で龍を倒したとして、【龍殺し】や【龍退者】といった現実で龍種を倒した時に手に入れられるような実績を獲得することは出来ないものの、それに準ずるような実績が手に入るのだという。

 とはいえ、そこは幻獣という希少な存在から与えられる加護、遭遇することからして既に貴重な体験であり、その際に見る夢にもよるというのだが、場合によっては他で得ることができない力を得られる可能性もあるのだそうだ。

 ソニアの説明により、夢クジラが落とす影の中で眠ることがどういうことなのかをみんなが理解したところで、マリィさんが気炎を上げる。


「結局のところ、全ては運次第ということですのね。分かりました。では、さっそくお昼寝といたしましょう」


 マリィさんとしてはこれを機会に剣士系の貴重な実績が欲しいと考えているのかもしれない。

 早く眠るの準備をしなさいとばかりに急かしてくるのだが、


「ここで寝るのはさすがにちょっと――、それにお昼寝って、まだ午前中ですよ」


 今日は休日、しかもまだ出勤して間もない時間で、お客様を迎える準備をしていたところにこれなのだ。

 なにより場所が場所だけに眠る準備を整えたとしても簡単には眠れるとは思えない。

 だから、


「裏の工房に移動して、眠っている間の安全を確保した上で、魔法を使って強制的に眠るという感じでどうでしょう」


 さまざまな防御魔法が施されている石壁の内側、エレイン君達に守られながらと、万全の警護体勢を整えた上で魔法によって強制的に睡眠状態に入るということでどうかという僕の提案に、マリィさんと元春は細かいことは僕に任せる。だから、夢クジラがいなくなってしまう前に眠る準備をと急かしてくるので、僕はすぐに二人を工房エリアに案内すると、適当にバックヤードから取り出した素材で組み上げたリクライニングチェアに横になってもらい、強制的に二人に眠ってもらうことにするのだが、いざ眠ろうという段階になって元春が怖気づく。

 その理由は――、


「なあ、いまさらだけどよ。ソレ(・・)――、大丈夫なんか?」


 元春がソレ(・・)と指差しているのは僕がかまえる魔法銃。

 強制的に眠ってもらうとは魔法銃の睡眠弾を使って眠ってもうということだ。

 まあ、銃口を向けられて「おやすみ」なんて言われるのは、あんまり気分のいいものじゃないんだろう。

 だけど、普段から僕が魔獣相手に、強盗相手に、使っているところを見ているマリィさんからしてみれば、その安全性は折り紙付きのようなもので、


「情けないですわね。ならば(わたくし)から先に眠らせてもらいますの」


 マリィさんは元春を狙う僕の手から魔法銃をひったくるように奪うと、なんの躊躇もすることなく、バシュッと一発、夢の中へ。

 元春も女の子にそこまでされてしまってはさすがに嫌とはいえないのだろう。覚悟を決めたようにリクライニングに体を預けて腕を組み、男らしく(?)「やってくれ」と言ってくるので、焦らすのもなんだとマリィさんの手から魔法銃を回収してヘッドショット。

 二人が無事に眠っているのを確認した僕は、周りで守りを固めてくれているエレイン君達に「後のことは任せよ」と一言、意図的に(・・・・)自分に宿る異常耐性を弱めた上で自らの頭を撃って夢の世界への旅に出る。


 …………、

 ………………、

 ……………………。


 そして、どれくらい経ったのだろうか、目覚めた時にはすっかり夕方になっていた。

 体にはブランケットがかけられていて、見上げる茜色の空にはもう夢クジラの姿がなかった。

 僕は夢クジラがいなくなった夕焼け空から目を落とし、伸びを一回、「よし」と気合を入れるように体を起こすと、一緒に眠った二人に姿を探して横を見る。

 すると、マリィさんもちょうど睡眠弾の効果が切れたらしい。

 モゾモゾと体を動かして、ゆっくりと目を開いくと「おはようございます」と起き上がる。

 と、そこでようやく今の状況を思い出したようだ。

 カッと大きく目を見開いて、


「ええと、夢を見たという感覚は無いのですが……」


 眠っている間、どんな夢を見ていたのか思い出そうとしているのだろう。ムムムっと両サイドのこめかみに人差し指を当てるマリィさん。

 僕はそんなマリィさんの仕草を微笑ましげに見ながらも、まだ起きる気配のない元春を揺り起こそうとする。

 しかし、元春は「あと五分だけー」だなんてお約束の寝言をほざくので、軽い電気ショックで無理やり覚醒。

 さて、お楽しみのステイタスチェックだ。


「オーナーの話が本当なら、これで実績を獲得できているって話なんですが、誰から調べます?」


 これが何か危険な実験とかだとしたら、まず僕が名乗り出るところなのだが、今回は単に結果を確かめるだけだ。それならば、僕よりも結果を楽しみにしているだろう二人先をに譲るべきだろうと訊ねたところ、マリィさんが自分が自分がとアピールしてくる。


わたくしわたくしからでお願いしますの」


 僕としては別にマリィさんからでも構わないんだけど、一応と元春にそれでいいかと確認してみると、


「真打ちは最後に登場って言うだろ」


 いつも通りというべきか、夢の内容を覚えているのか、元春は妙に自信満々なご様子なので、


「では、マリィさんからステイタスチェックをしてみましょうか」


 そう言って僕はマリィさんにマジックバッグから取り出した〈ステイタスカード〉を渡す。

 と、マリィさんはそこに刻まれた魔法式を発動。空中に浮かび出る文字列に目を通して、


「あら、以前調べたものよりも幾つか増えていますね」


 おそらくそれは、ヴリトラとの戦いを始めとして、アヴァロン=エラで経験した様々な事柄が実績として反映されているのだろう。

 でも、そうなると、どの実績が夢クジラから得られたものなのかわからないのでは?

 そう思っていると、またまたどこからかこちらの様子を覗いていたようなタイミングで、僕の手元に魔法窓(ウィンドウ)が立ち上がり、ソニアからこんなメッセージが送られてくる。


『夢クジラから得られる実績は夢に関連する名前がつけられるハズだから、見ればすぐにわかると思うよ』


 そのメッセージを読んだマリィさんは再び自分のステイタスに視線を落とし、とある項目を指し示す。


「ならばこれですね」


「【夢追人】ですか?」


「う~ん。わかるようなわかんねーような実績だよな」


「権能の方を確認してみましょうか」


 元春の唸り声にマリィさんが空中に浮かび上がった自分のステイタスに表示される【夢追人】の項目をタップする。

 すると、そこには〈夢中祈願〉という項目があって、どうもこの権能は夢中になっている事柄の実績獲得がしやすくなるという権能らしいことが判明する。

 その内容から見るまでもなく、マリィさんは夢の中で剣術修行のような事をやっていたのだろう。

 どこまでいってもマリィさんはマリィさんだったようだ。

 そんな権能の効果に、がっかりしていいのか、喜ぶべきなのか、複雑そうな笑みを浮かべるマリィさん。

 僕個人としてはかなり有用な権能だと思うけど、マリィさんとしては少し不満だったようだ。

 しかし、いつまでも自分だけ実績を確認している訳にはいかないと諦めたように「次は虎助の番ですわね」と〈ステイタスプレート〉を渡してくるので、僕はマリィさんから受け取ったプレートに魔力を流す。

 すると、マリィさんの時と同じく、ズラズラっと表示された実績の中には見覚えのないもの幾つか増えていて、


「さすがいろいろやっているだけあって、虎助も実績が追加されていますね」


「つか、魔力がスゲー増えてねーか?」


 ついに100の大台が見えるところまで上昇した魔力量に元春が驚いたような声をあげる。

 だけど、今回肝心なのは夢クジラから授かった実績の確認だ。

 僕はいろいろと増えている実績の確認を後回しにして、夢クジラから与えられたと(おぼ)しき実績を探し出す。


「ああ、これですね。【ワーカーホリックドリーマー】って……」


 なんていうか、また、不本意にも程がある実績だな。

 どうも僕は夢の中でも万屋のバイトをしていたらしい。

 実績をくれた夢クジラが気を遣ってくれたのか、いや、もともとそういう実績なのかもしれない。【ワーカーホリックドリーマー】という実績には〈疲労軽減〉や〈圧縮睡眠〉なんて権能が付与されていた。

 と、これにはマリィさんと元春も苦笑いで、


「虎助は夢の中でも虎助ですのね」


 若干残念そうにしながらも僕を慰めてくれる。

 もしかするとマリィさんは僕に凄い実績が付いているのでは期待していたのかもしれない。

 しかし、僕もまさかこんな実績がくるなんて思ってもみなかったのだ。

 とはいえ、そこに宿る権能はなかなか役に立ちそうな権能だから僕としては満足だ。

 うん。満足だよ――ということで、


「じゃあ、最後に元春だね」


「おう、二人がちっとガッカリな結果だったからな。期待しとけよ」


 余計なお世話だよ。

 そう言ってステイタスプレートを受け取った元春は魔力を流して、そこに表示された自分のステイタスを覗き込むと、


「「【淫夢に溺れし者】(ですの)?」」


 夢クジラから与えられた実績は実に元春らしい実績だった。

 その実績は、名前の通り【淫夢に溺れし者】に与えられる実績らしく、権能は〈過剰淫夢〉。淫夢を見ることができる確率が上がるだけ(・・)という微妙なものだった。


「元春――、 貴方、夢の中でもそうなんですの?」


 最早、救いようがないとばかりの哀れみの視線で僕に言ったような言葉を繰り返すマリィさん。

 うん。さすがはオチ担当の元春だ。お約束(てんどん)というものが分かっているみたいだね。

 ◆虎助のステイタス


 魔力:91


 獲得実績:【忍者】【学徒】【調停者】【見習い人形師】【豪商】【整備士】【見習い冒険家】【見習いトレジャーハンター】【錬金術士】【魔法使い】【精霊魔道士】【クリエイター】

 【魔獣殺し】【巨獣殺し】【魔動機壊し】【竜殺し】【龍殺し】【龍退者】【精霊の加護】【神獣の加護】


 付与実績:【黒い委員長】【魔王の友】【ワーカーホリックドリーマー】


 ◆マリィのステイタス


 魔力:542


 獲得実績:【爆炎の魔導師】【暴風の魔導師】【魔法使い】【古城の主】【見習い錬金術士】【忍耐者】【ソードクリエイター】【豪腕名士】【探究者】

 【魔獣殺し】【巨獣殺し】【魔動機壊し】【竜殺し】【龍殺し】【精霊の加護】


 付与実績:【黄金騎士愛好家】【じゃじゃ馬姫】【美食家】【魔導蒐集家】【ウルドガルダの五師】【亡国の姫】【古書庫の主】【魔王の友】【夢追人】


 ◆元春のステイタス


 魔力:9


 獲得実績:【助兵衛】【遊戯巧者】【闇商人】【曲芸士】【見習い魔法使い】【情報屋】

 【魔獣殺し】【精霊の下僕】


 付与実績:【G】【赤点王】【変態紳士】【淫夢に溺れしもの】

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