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黄金の鎧

◆久しぶりのおまけ付きです。

「つ、つ、ついに、完成しましたのね」


 場所は万屋の裏に広がる工房内の鍛冶場、その一角に鎮座した黄金の鎧を前に狂喜乱舞するのは、もちろんマリィさんである。

 そう、昨日ついに、マリィさん念願の黄金の鎧がついに完成を迎えたのだ。


 完成までかかった期間は構想から合わせて実に四ヶ月。

 通常、鎧をオーダーメイドで仕上げるとなると年単位の時間がかかることを考えれば、おそろしく早く仕上がったということになるのだが、このアヴァロン=エラにおいて製品の完成までに四ヶ月かかることはこれが初めてのことである。


「とはいってもまだ、魔法式とか、改良する余地は結構ありますけどね」


「それでも、ほぼ完璧なできあがりですの」


 因みにこの黄金の鎧を作るのに使った(きん)の出処はマリィさんのポケットマネーである。

 なんでもヴリトラを退治した報酬として渡したヴリトラの血が恐ろしい値段で売れたそうだ。

 その額なんと一万ガルド。金貨一万枚なるという。日本円に直すと十億円という計算になる。

 マリィさんはそんな金貨(・・)の一部をこの鎧の材料(・・)として提供してくれたのだ。

 しかし、ポーションの小瓶に入れたヴリトラの血が百億円って、高過ぎやしないだろうか。

 いや、貨幣価値が違う現代社会とファンタジー世界を比べることができないということもあるし、僕達が暮らす地球でも大き目の宝石なんかに何十億という値段がつくことを考えると、思っているよりも法外な値段という訳でもないのかもしれない。


 そもそもドラゴンというものは、それそのものが天災のような生物で、僕達が倒したあのヴリトラも、特殊な儀式による復活直後であるという状況と、モルドレッドにエクスカリバーと、強力な戦力の助けがなければ、ああもあっさり倒すことはできなかったのだ。

 そのことを考えると実は妥当な値段なのであるのかもしれない。

 というよりも、アヴァロン=エラですら珍しい液状を保ったドラゴンの血という希少性がその価値を高めた可能性も考えられなくはない。


 因みにヴリトラの血を買い取ったのはマリィさんの叔父にして憎き敵であるルデロック王だそうだ。

 マリィさんがヴリトラ討伐の報酬にと手に入れたヴリトラの血を、自分が軟禁される古城の隠し部屋から見つかったものと嘘をついてオークションに出してみたところ、当初、国王がむりやりに奪おうと動いたらしいのだが、奪われるくらいなら中庭の花壇にでも撒いてやると交渉(・・)した結果、素直に買い取りを申し出てくれたそうだ。


 いや、素直にって……、

 それ、完璧脅しですよね。


 正直、アヴァロン=エラで入手したもので――、いや、それ以前に友人として、マリィさんにはあまり危ない橋を渡って欲しくはないのだが、マリィさん曰く、これも権力ゲームの一種らしく、貴族間のパワーバランスを整える為にも必要な処置だったという。


 因みに、ルデロック王がどうしてそこまでしてヴリトラの血を求めたのかというと、なんでも、ヴリトラの血を使って不老不死の妙薬を作ろうと画策しているからなのだとかなんとか。

 地位も名誉も手に入れた人間が考えることなんて、どこの世界でもあまり変わらないとのことだ。

 まあ、魔法なんて技術が殆どの人に知られていない地球でも、それを考える人はいないでもないのだから、魔法なんて技術が一般的に利用されているファンタジー世界の人間ならば、より不老不死を追い求めようとするもの無理はない。


 とはいえ、そんなとんでもアイテムが本当に存在するのだろうか?

 たとえ魔法薬が普通に存在するファンタジーの世界でも、不老不死の妙薬なんてものが簡単に存在するのは思えないのだが、


 そこのところ詳しくソニアに聞いてみると、なんでも龍の逆鱗を使ったアイテムに、一日一回、即死級のダメージの肩代わりをしてくれるアイテムがあり、他にも血液や涙を使った若返りの秘薬やら例の肉体活性を強化したような魔法薬が存在しているらしく、ルデロック王はそれらアイテムの効果と混同しているのではないかということだ。

 そして、不老不死の妙薬を作るには、神獣の血――もしくは神の供物の心臓が必要なのだという。


 ――って、作れるんかい!?


 最後に付け加えられたように教えられた情報は、元春あたりが聞いたのなら、そうツッコミたくなるような話ではあるが、そもそも魔王やら仙人、ヴァンパイアやらエルフなどが普通に存在する世界では、不老や不死の存在は少なからずいるから、同じような存在になれる秘薬があったとしても不思議はないのだそうだ。


 そもそも、魔力を鍛え、一部の実績を獲得すると、人間でもエルフ並の寿命を得られるとか言う話があるからね。

 地球に住む、魔女さんなんかがいい例だ。


 僕はソニアから聞かされた例のいくつかを思い出して納得すると同時に、『あれ、その話からするとバックヤードの素材を使えば普通に不老不死の薬が作れるのでは?』と思ったりもしたのだが、


 うん。作ったところでなんの使い道もないかな――と、不老不死の薬のことはすっぱり忘れることにする。


 と、そんなこんなで結局、ルデロック王のお望みは叶わない事が判明したのはともかくとして、彼のお陰で黄金の鎧は完成したのだ。出来上がった黄金の鎧を前にはしゃぐマリィさんに『まずは着心地を確かめて見るべきでは?』と僕が進言してみようかとしていると、そのすぐ隣、黄金の鎧を前にはしゃぐマリィさんのお尻をニヤニヤと堪能していた元春が何気なくこんなことを言い出すのだ。


「でもよ。これってよ。マリィちゃんが着るんだからよ。普通にドレスアーマーっぽくした方がよかったんじゃね」


「ああ、それは僕も思ったんだけど、マリィさんがこっちの方がいいって言うんだよ」


 うん。元春の意見は確かにその通り。

 だが、クライアントであるマリィさんは物語に出てくる黄金の鎧を再現することにこだわった。

 けれども、それではマリィさんのお胸が入らないと、黄金の騎士の物語の挿絵を参考にして、いろいろと調整した結果、現在の、何ていうか、やや細身で女性らしきフォルムを残しつつも雄々しさをも内包するデザインの鎧に落ち着いたという訳だ。

 とはいえ、それもこれも実際に装備してもらわなければどんな見栄えになるのかは分からない。


「とにかくいったん装備してみませんか。細かい調整もしないといけないかもですし」


「ですわね」


 改めて『装備してみては――』と持ちかける僕に、マリィさんは『フンス』と元お姫様らしからぬ鼻息で気合を入れると、元春の鎧と同じキーワードを叫ぶ。


「〈着装〉っ!!」


 そして、ここから魔法少女アニメにありがちな変身バンク――といきたいところなのだが、余計な仕様を入れては実戦では使えないということで省略(カット)

 元春から「なんで変身バンクを作んなかったんだよ――」と肩を揺さぶられるという茶番を挟みながらも装備完了(へんしんかんりょう)

 黄金の鎧にお色直しをしたマリィさんを見て、元春が「ふぅ」と額の汗を拭うようなアクションをして言ったのは以下のような戯言だった。


「よかったぜ、頭はフルフェイスの兜じゃねーんだな。変身ヒロインが顔を隠れたら終わりだからな」


「マリィさんの場合、髪を甲の中に収めるのが不可能だったからね。結果的にティアラになったんだよ」


 決して無駄とは言い切れない元春のこだわりに、頭部装備が兜ではなくティアラになった裏事情を明かす僕。

 ソニアのとんでも魔法技術でも、頭をすっぽりと覆うタイプの兜の中にマリィさんのボリューミーな御髪(おぐし)だけを収納するのは、現在持つ空間系の技術を駆使しても、さすがに難しかったということで、各種防御結界をオートで発動。頭部を守ることができるティアラでお茶を濁してある。

 しかし、マリィさんは兜がティアラに変更された経緯を聞かされ「言ってくれれば切りましたのに」そう平然と呟く。

 髪は女の命とよく言うが、どうもマリィさんに関してはその言葉は真実ではないようだ。

 だが、金髪ドリルはプリンセスのアイデンティティー。

 既に元がつく立場になってしまったとはいえ、僕達が作ったものでマリィさんの綺麗なドリルが失われてしまうのは避けなければならない。

 でなければ、この髪を毎日きれいにセットしてくれているだろうトワさん達メイド隊にも申し訳が立たないだろう。


「それよりも着心地はどうですか?」


「思ったよりも軽いのですね」


 兜と髪に関するあれこれを誤魔化すようにかけた確認に、マリィさんは軽く剣を振るように動きをとって大丈夫だと言ってくれる。

 だが、その鎧はあくまでオリハルコン製の鎧。その重量はそれなりのものになるから。


「軽いというよりかはアシスト機能がきちんと働いているんだと思いますよ。ある程度は荷重軽減の魔法が効いているんですけど、もともとの重量が重量ですからね。それを感じさせない為に、元春のデータからフィードバックしてスムーズに動くように改良していますから」


 簡単に言ってしまえば、鎧そのものがパワードスーツのようなものになっているのだ。

 そんな僕の解説を聞き、マリィさんは黄金の鎧に込められたパワーアシストを確かめようと、近くに落ちていた大きめの石――というよりも岩を拾い、放り投げる。


 軽々と岩を遠投したマリィさんを見て、唖然と口を開いた元春がポツリとこんなことを呟く。


「つか、俺にくれた鎧ってそういう意味もあったのかよ」


「あれ、言ってなかったっけ?鎧を渡す時に説明したような気もするけど、まあ、いざという時には強制的に装備解除(キャストオフ)されるようになったから、滅多なことにはならないかったと思うよ」


「いやいや、そういう問題じゃないだろ」


 今更ながらに知った鎧の仕様に文句をつけてくる元春。

 しかし、終わってしまった事を言い合ったところで意味はない。


「ああ、そういえば、オーナー(ソニア)が元春の鎧もマリィさんの鎧に合わせてヴァージョンアップするって言ってたから、出しておいてくれるかな」


 それならこれからの話をした方が建設的だろうと、僕が元春の利益になる話題でも出してお茶を濁してやろうとしていたところ、ブツブツと文句を言いながらも鎧のパワーアップは魅力的なのだろう。元春は向こうの世界(地球)でも違和感がないようにと長財布の形にしつらえ直したマジックバッグから鎧を出そうとする。

 すると、そんな元春を見てか、マリィさんが思い出したとばかりに言ってくるのは、


「そういえばあれ以来、元春が鎧を装着しているところを見ませんわね」


「使ってますよ。こっちじゃあんまし出番はないけど、これでも向こうでは女子に追いかけられる身ですからね。隠れ蓑にあの鎧を使ってるんすよ」


 その話を聞く限り、地球では随分とこの鎧のお世話になっているようなのだが、


「でも、よく魔力が切れなかったよね。追いかけられた時に使ってたって話なら、ほとんど向こうで使ってたことになるんでしょ。だったらすぐに魔力切れを起こしそうなものなんだけど」


 僕からしてみると元春がなにかやらかして女子に追いかけられるなんてのは日常茶飯事のこと。

 ならば、鎧に蓄積されている魔力なんかすぐに枯渇してしまうのではないか。不思議そうに訊ねる僕に元春が言ってくる。


「あれ、こいつってバッテリーみたいなモンで動いてんのか? 俺の魔力で動いてんじゃなかったんかよ」


「ある程度は元春の魔力で動いてるよ。でも、元春だけの魔力じゃあ鎧の機能ぜんぶは使えないからね。佐藤さんに作った魔法の箒みたいに鎧を構成する魔法金属をバッテリー代わりに使ってるんだよ。だから、向こうで頻繁に使っていたら、すぐにバッテリーが尽きちゃうと思うんだけど、元春の話を聞くとそうでもないみたいだね。マジックバッグの中に入ってても、アヴァロン=エラにさえ来ていれば、ちゃんと魔力が充填されるのかな」


「使えてるからそうなんじゃね」


 実際に使えてるのだから元春が言う通りなのだろうけど、ただ障害物やら隠れ場所として使ってるだけみたいだから、あまり魔力は消費しなかった可能性もある。

 その辺りは、鎧の制御装置として埋め込んである極小の〈インベントリ〉から抜き出したデータをソニアが分析すればわかることだし、気になるなら後で聞けばいいということだ。


「ですが、そんなことにばかりに使っても宝の持ち腐れではありませんの」


「つっても、あっちじゃ使い所がないっすから」


 元春の鎧の使い方にマリィさんが苦言を呈したくなるのもわからない。

 だが、そもそも現代日本で本格的な戦闘を行うなんて状況がまずあり得ないのだ。

 いや、元春の場合、女の子に追いかけられたり変な不良に絡まれたりと、それなりに危険な場面に出会すのかもしれないが、それでもあの鎧は過剰戦力。

 日々の暮らしにあって役に立つとしたら、鎧によるパワーアシスト機能を利用して重い荷物を運ぶとかくらいなのだが、元春が重い荷物を運ぼうとする場面なんて滅多にない。

 だとするなら、地球での日常生活で使えるような機能を何かつけた方がいいのではないか。

 僕はいつものように考えを明後日の方向へと膨らませて、


「どうせだから飛行機能をつけてみるとかした方がいいのかな」


「てか、ふつうにメッチャ目立つだろ。それ」


 困った時の飛行機能。

 何の気無しに呟いた僕のアイデアに、元春が半眼になってツッコミを入れてくるけど、


「佐藤さんに魔法の箒を作った時にも言ったかもだけど、認識阻害を使えば滅多に見つかることは無いって話だよ」


「そういう問題じゃねーと思うんだけどよ。

 でも、いや、じゃなくて、認識阻害?

 それってまんま光学迷彩みたいなもんじゃね。

 ……つーことはこれで覗きし放題かよ?」


 あ、注目するのはそっちなんだ。

 でも――、


「さすがにそんなに都合のいいものじゃないよ」


 強力な認識阻害なら眼の前にいても気が付かない――、なんてこともあり得るのかもしれないが、元春レベルが利用可能な認識阻害なんてたかが知れている。

 たしか魔法の箒やそれに準ずる認識阻害の魔法は、人が箒に乗って空を飛ぶわけがないという意識を利用して、空を飛んでいるところを見られても、気にされないという状況を作ってるなんて話だったから、たぶん同じ認識阻害魔法を使っても元春がやろうとしているような犯罪行為は成立しないだろう。

 僕がそんな事実で元春をへこませていると、今度はマリィさんが、


「機能といえば、(わたくし)の鎧にはどんな機能が取り付けられていますの?」


「それなら、自己修復機能に自動防御システムに、広範囲に対する浄化機能と、マリィさんに言われた能力はだいたい詰め込んでみましたけど」


 以上、マリィさんのリクエストを受けて、僕()が黄金の鎧に組み込んだ機能は黄金騎士の物語に登場する能力だそうだ。

 マリィさんとしては見た目だけではなく、その機能も理想に近づけていきたいのだという。


「試してみても?」


「はい。

 たぶん魔法窓(ウィンドウ)からリストが確認できるようになってると思いますから、そちらから手動か口頭で発動させてください。

 因みに使い慣れれば魔法みたいに無詠唱でも発動可能ですから」


 成程――と、僕の言う通りに魔法窓(ウィンドウ)を開いたマリィさんが選んだのは、自動防御機能を備えた魔法の盾を作り出す魔法だった。


近衛の盾(ダンシングシールド)


 魔法名を唱えた瞬間、黄金の鎧を装備するマリィさんの周囲に四枚の赤い透明な盾が現れる。


「おお、カッケーじゃん。これって俺の鎧にもついてんのか?」


「ううん、元春の鎧にはついてないよ。欲しいのなら追加してもらうこともできるけど」


 魔法の盾を見て、元春が興奮気味に自分の鎧にも同じ機能が搭載されているのか聞いてくるけど、プロトタイプである元春の鎧には余計な魔法式は刻み込まれていない。

 だから、これを機に新しい魔法式を付与するのか聞いてみると、元春は真面目くさった顔で溜めを作って――、


「よし、やっちまえ」


 いや、なにが「やっちまえ」だよ。

 僕はどこかで聞いたようなセリフでカッコつける元春に心の中でツッコミを入れながらも、元春にはテスターとして協力してもらってるし、新しい魔法の実験台には都合がいいからと、魔法窓(ウィンドウ)からソニアへの改造依頼を出して、


「どのくらいの強度があるのでしょう」


「僕が実験してみたところによると中級の魔法障壁よりもやや劣るといったところでしょうか。相手にもよりますけど初級の魔法は問題なく防げるようです。でも、中級以上の魔法の対処になると相性がありますね」


 横から入ったマリィさんの質問にもよどみなく答えを返す。

 因みにマリィさんの鎧から発動できる〈近衛の盾(ダンシングシールド)〉という魔法は、その使い手の得手不得手に依存する仕様となっている。

 例えばマリィさんが使える〈近衛の盾(ダンシングシールド)〉なら、おそらく上位の氷雪系魔法をも防御できるくらいの強度を持っているだろう。

 だが、そんなこととは知らないマリィさんはややガッカリといった感じで、


「少々物足りないような気もしますが、付属品としての能力ならば仕方がありませんわね」


「まだ余裕がありますから、後で調整しましょうか」


 声のトーンを落として残念そうにするのだが、黄金の鎧にはまだかなり魔法式を書き込めるスペースが残されている。

 細かな調整は使い心地を確かめた後で、そうアドバイスする僕の一方で元春は、


「でもよ。それなら普通に盾とか作った方が早くね」


 それも一つの手ではあるけど。


「あくまで騎士ですから盾を持つのは避けたいのです」


 クライアントがこう言っている以上はそれに答えるのが商売屋というものだ。


「つか、騎士って盾とか装備しないんだっけか?」


 元春のイメージでは――というか、僕達が抱く騎士(・・)とは盾を持っているものが定番である。

 だが、マリィさんの世界で言うところの騎士とは――、

 いや、マリィさんが憧れる黄金の騎士は盾を持っている描写がないらしく。

 だからこそ、この自動防御システムなのだ。


「けどよ。これってさ、なんかゲームとかでありがちなイージーなオートガードみてーだよな」


 元春の意見は言い得て妙だが、そんなことを言っているとまた――、


「元春、さき程から貴方は(わたくし)が設計した鎧に文句がありそうですわね。

 いいでしょう。そこになおりなさい。この鎧の力を頭の髄まで教えてあげますの」


 雉も鳴かずば撃たれまい。毎度のように一言多い元春は、その後、マリィさんの黄金の鎧のスペックを確かめる実験に延々と付き合わされことが決定した。

 まあ、女の子と接触できるチャンスがあるなら、どんな苦痛をも快楽に変えられる元春にとっては、ある意味でご褒美ともいえる時間なのかもしれない。

 その証拠に、元春は表面上嫌そうにしながらも口元だけは少し嬉しそうに歪んでいる。

 僕はそんなリアクションから元春の将来を心配しながらも、困ったような笑顔を浮かべて、ただその摂関を見守るしかなかった。

 一応、この残念な変態の友達をさせてもらっている僕としては、このおかしな友人のおかしな性癖が、これ以上、悪化しないことを祈るばかりである。




  ◆◆◆オマケ◆◆◆




「そういやさ。俺の鎧もそうだけど、この黄金の鎧にも名前とかってねーの。なんかスゲー鎧なのにまんま『黄金の鎧』ってのもさみしいだろ」


「僕は仮の名前として『盾無』って呼んでたんだけど」


「盾無しって……、安直な名前過ぎね」


「自動盾の能力もあるからね。まんまってのはそうなんだけど、もともとは源氏八領っていう日本の有名な鎧の一つから取った名前なんだよ」


「そんなのがあんだ」


「実はね。

 でも、最初はマリィさんに合わせて洋風な名前をつけようとしたんだよ」


「なんでつけなかったんだ」


「いや、伝説の鎧や有名な鎧とか参考にしてみようと思ったんだけど、いい名前が無くてね。そもそも鎧って名前がついているようなものが少ないんだよ」


「ですわね。(わたくし)が知る中でも有名な英雄の名前を関した鎧がいくつかあるくらいですもの。

 そもそも(わたくし)が作ろうとした黄金の鎧もそのまま黄金の鎧なのですし」


「だから僕でも知ってる日本の有名な鎧を参考にしたんだよ」


「なるほどな。

 言われてみりゃ、ゲームなんかでも武器の名前なんかはこったもんがあっけど、鎧はけっこう適当だったりストレートなネーミングが殆どだもんな」


「そうなんだよね。

 ――と、そんな感じでこの名前にしたんですけど、マリィさんが気に入らないのでしたら好きな名前をつけてもらって構いませんよ」


「いえ、このまま『盾無』でいかせてもらいますわ。素敵な名前だと思いますから」


「そうですか。

 で、元春の鎧はどうするの?話を振ってきたってことは、元春も自分の鎧の名前――つけたいんだよね?」


「あ、やっぱ分かっちまったか……、因みに(ちな)その源氏八領ってのには他にどんな鎧があんだ?()ってことは他にもあるんだろ」


「うん。『盾無』『八龍』『薄金』『膝丸』『沢瀉』『月数』『日数』『源太産衣』で源氏八領だね。文献によっては『源太産衣』が『七龍』だったり、『沢瀉』が『小袖』になってたりするみたいだよ」


「ふ~ん。なかなかいい感じじゃねーか。

 つーか――」


「な、な、なんですの。その心躍る鎧の数々は……、

 (わたくし)も八領そろえるべきかしら……」


「アハハ、それで元春はどうするの?」


「そうだな。今の八個の中じゃ『八龍』とかカッコよくね?」


「そうだね。カッコイイはカッコイイんだけど」


「駄目ですの。元春の鎧にその名前は素敵すぎます」


「ええっ!? ダメって、なんでなんだよマリィちゃん。そりゃないぜ」


「駄目ったら駄目ですの。 何故ならその名前は(わたくし)が使うのですから」


「マリィちゃんには盾無があんじゃんかよ~」


(わたくし)が一つ完成させただけで満足すると思います?」


「ああ、そういうことね。

 ……ならどうすっかな。どっかゲームから名前を引っ張ってくるか。それとも――」


「あのさ。だったら、ブラットデアっていうのはどうかな?」


「ん? お、おお、なんかカッケーじゃん。さすが虎助、わかってるじゃねーか。血塗られた鎧? みたいな感じでイカした名前だな。うん。俺の鎧はそれにすんぜ」


「……虎助、少々、元春を甘やかし過ぎなのではありません。そのような名前をあげてしまっては、この男、調子に乗りますわよ」


「……大丈夫ですよマリィさん。実はブラットデアってGの学名――というか種族名? まあ、異名みたいなものですから。響きとしてはカッコイイですけどね。それに、ちょうど茶色い鎧ですから似合ってるかと思いまして……」


「……成程、それはたしかにお似合いの名前ですわね……。

 そういうことならば(わたくし)も異論はありませんわ」


「よっしゃ。こいつの名前はこれからブラットデアな。決定な」

◆伝説級の鎧って本当に名前がないんですよね。参考にするのも難しいです。漫画や小説・ゲームなどからならぱっと思いつく装備が幾つかあるんですが、皆さんは何かいい名前がありますか?因みに○領というのは鎧の数を数える単位だそうです。


◆なんでも昆虫綱ゴキブリ目のことをBlattodea(ブラットデア)というそうです。

 なんとなく響きが格好良くて、こっそり武器の名前に使ってやろうと思っていたのですが、ちょうどいい素材(元春)がいましたのでこういう風な形での登場になりました。


翻訳魔法バベルが発動しているのに、元春にそれが伝わっていないのは元春の知識に学名という概念が無いからです。バベルの効果を得るのにはそれなりの知識で、故に知能が低い相手の場合、言葉が通じにくかったり、通じなかったりする場合が存在します。

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