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きぐるみパジャマ

◆今週の二話目です。

「……虎助、今週の分を持ってきた」


 そろそろ日も沈みかけるという頃、お客様のいない店内にそう言って入ってきたのは魔王様だ。

 そして、背中に担いでいた風呂敷包みをカウンターの上に下ろす。

 風呂敷包みの中身は魔王城(?)に住むアラクネさん達が作ってくれた様々な色の布だ。

 汚れもつきにくく、魔獣の革にも劣らぬ丈夫さを持つこの布から作った洋服が、最近、万屋で売れに売れているのだ。

 僕は届けられた布をチェック。工房にいる服飾担当のエレイン君に呼び出しをかけると、『さて、今回はどんなタイプの服を作っていこうか』とインターネットのアパレルサイトを開く。

 基本的には鎧の下に着込めるようなインナータイプの服が人気なのだが、最近ではその防御力に目を付けた迷宮都市のお偉いさんだかが、子飼いの探索者をこのアヴァロン=エラにまで送り込んでくるなんてことがままあったりする。

 そんな需要を考えると、礼服や普段着でも問題ないようなデザインの服もそれなりに用意しておいた方がいいのかもしれない。

 工房からエレイン君が布を受け取りにやってくるまでの間、僕が魔法窓(ウィンドウ)を手元に複数展開、あれやこれやと悩んでいたところ、魔王様がデザインの参考にと開いたアパレルサイトの一つを食い入るように見つめていた。

 僕はそんな魔王様に気付くと、「それが気になるんですか?」と魔王様が見ていた魔法窓(ウインドウ)を覗き込む。

 魔王様が見ていたのは、きぐるみパジャマを着た小さな女の子がたくさん写っているページだった。

 どうやらこのきぐるみパジャマが可愛いもの好きの魔王様の琴線に触れたらしい。


 ふむ。そんなに気になるのだったら――、


「どんな動物がいいですか。リクエストしてくれれば一着作りますけど」


「……いいの?」


 同じような服を作りますよ。そう訊ねる僕に、魔王様が分かる人にしか分からないくらい微妙にテンションを上げて聞いてくる。


「単純なデザインですからね。すぐ作れますから、それにミストさんにもいいお土産になるでしょう?」


 特徴さえ捉えれば多少のデザイン変更などはお手の物。〈インベントリ〉に内蔵されるお絵かきアプリによってある程度のデザイン画なんて簡単に作れてしまう。

 因みに、いまの話の中に出てきたミストさんというの方は、魔王様の城に住む服作りが得意なアラクネさんで、彼女が作った作品の幾つかもこの万屋で売っていたりする。


「……じゃあ、リドラみたいな服できる?」


 魔王様のリクエストは黒龍のリドラさんをモデルにしたきぐるみパジャマだった。

 それなら、よくある恐竜パジャマのデザインを参考に、色やデザインを調整すればいい感じに出来上がるんじゃないかな。

 僕は|インターネットから適当な映像を引っ張ってきて、それを参考に、簡単ではあるがデザイン画を描いていく。

 因みに僕の画力は基本的に可もなく不可もなしといったところである。

 しかし、普段からマリィさんに付き合わされ(・・・・・・)、魔法剣や鎧のデザインなんかをさせられているから、こういった装備品みたいなデザインには多少の自信がある。


「格好いい感じでいきますか?可愛い感じでいきますか?」


「……カッコイイのがリドラらしい」


 たしかにリドラさんもモデルにするなら可愛いよりも格好いい方がその特徴に忠実かもしれない。


「そうなると色は真っ黒――、でも、それだけだと少しのっぺりとした仕上がりになりそうですから、ワンポイントに赤いラインでも入れてみましょうか」


 僕は魔法窓(ウィンドウ)片手に、魔王様と相談しながら、目の形やら色合いなど、細かな修正を施していき、いつもの調子で空を飛べたりなんかしたら楽しいかな。なんて思いついたアイデアをデザインの空白にちょちょっとメモをしながらも、完成したデザイン画を布を回収にきたエレイン君に転送(パス)する。


 因みにこのデザイン画から起こしてもらう型紙は、魔王様経由でアラクネのミストさんに渡しておいてもらうとしよう。

 こうして色々なデータを渡しておけば、僕の世界では思いもよらない服が出来上がるかもしれないという期待をしているのだ。


 そうしてエレイン君にきぐるみパジャマの作成を依頼した僕はお店の仕事に――、魔王様はゲームをプレイすること一時間、完成したきぐるみパジャマが運ばれてくる。

 エレイン君から受け取ったきぐるみパジャマを手に試着室に飛び込んだ魔王様はゴソゴソとお着替え。


「似合う?」


「おお、凄く格好良く決まってますよ」


 試着室から出てきた魔王様は怪獣――もとい、ドラゴン少女に変身していた。

 うん。可愛くなりがちなところをシャープなデザインがそれを引き締めている。

 自画自賛のようではあるが、これをパーカーにでもすれば普通に町中を歩いても違和感が無いくらいの仕上がりだ。

 まあ、すべては僕の下手くそなデザイン画を上手く調整してくれたエレイン君の手柄なんだけどね。


「あと、後ろの羽なんですが、空ガツオを錬金合成した金属糸で魔法式が組み込んであると思いますので、魔力を流すと軽く飛ぶこともできたりしますよ」


 魔王様くらいになるとふつうに空を飛んだりできるかもしれないけど、ネタ装備ということでそこはご容赦願いたいと僕が説明すると、魔王様は背中にちょこんと飛び出たている小さな羽に魔力を通してふわり浮かび上がる。

 そして、他にもいろいろときぐるみパジャマに施したギミックの効果を確かめていたところ、ちょうどマリィさんがやって来て、


「ななな、なんですのその服は――」


「……きぐるみパジャマ」


「わ、(わたくし)もその服が欲しいですの」


 毎度のように欲しがりを発動させてくる。

 なので僕は「お揃いでしたらすぐにでも作れますけど――」と訊ねてみる。

 するとマリィさんは「そうですわね」と、いつものようにその大きな胸を抱えるように腕組みをして「色の指定はできますの?」そう訊ねてくる。

 なんでも、黄金騎士シリーズに出てくる最強のドラゴンが赤い鱗をしたドラゴンなのだという。

 マリィさんはそのドラゴンをモチーフにしたきぐるみパジャマを作って欲しいのだそうだ。

 しかし、黄金の騎士の物語なら、例え倒される敵だとしてもマリィさんにとってはリスペクト対象なのだろうか。

 マニアの心理は難しいなと思いながらも、僕は魔王様とはちょうど逆になったカラーリングのきぐるみパジャマをエレイン君に注文。


 そして待つこと三十分――、


 二着目ということで、思いの外、早く届いた着ぐるみパジャマをマリィさんに手渡し、お色直しタイム。


「どうですの?」


 もじもじと不安げに訊ねてくるマリィさんの姿に唖然としてしまう僕。

 魔王様にしたように褒めようとしても、なんというか、こう――、色っぽさが前面に押し出されていて、何を言っていいのやらと考えが先に立ってしまうのだ。

 多分、こういう衣装は小さな子供とかが着るものであって、マリィさんみたいなナイスバディの人が着る服じゃ無いんだと思う。

 特にマリィさんの場合、体の凹凸が激しいから、魔王様に合わせて作った型紙をただ縦に伸ばしただけのきぐるみパジャマだと、お胸やらお尻の辺りがパッツンパッツンになってしまっていて、ここに元春なんかがいたりなんかしたら、とある怪盗三世のごとくジャンプからの脱衣飛び込みで襲いかかり、撃墜されていたことだろう。

 しかし、本人を目の前にしてそんな本音を言う訳にもいかないので、


「凄く似合っていますよ。でも、やっぱり基本はパジャマですから、それで人前に出るのはちょっと不味いかと」


 やんわりと釘を差しつつも、その使い道を示してあげる。

 するとマリィさんは、右左と体を捻り、試着室の姿見に映る自分の姿を確認して、


「成程、やはりそういうものですか……、ならばこれはジャージと合わせて部屋着にしましょうかね」


 ああ、そういえばジャージもジャージで危険だった。

 マリィさんにこういう体のラインがズバリ出るような服を着せちゃダメということなんだ。

 これならまだ胸元が大きく開いたドレスのようなものの方が逆にエッチじゃないと思えるくらいなのだ。

 隠したことで逆にエロティックに感じられるようになるなんて、まさに魔性のボディの持ち主である。

 いわゆる『恐ろしい子』というヤツである。

 だからという訳ではないのだが、


「普段着るように同じデザインでパーカーでも作りましょうか、それならもうミストさんに型紙も渡してありますし、魔王様もそういうデザインが好きみたいですから」


「いいですわね」


「(コクコク)」


 普段使いが出来る似たようなデザインの服を作ろうと僕が提案すると、そこはやっぱり女子という生き物なのだろう。マリィさん達は前のめりになりながらもパーカーのデザインをアレコレとカスタム。一着だけでは満足できないようで、これもそれもと色々な服を作らんとインターネット経由で服の情報を集め始めてしまい。


「あの、これを応用して黄金の鎧ようなものは作れそうにありませんか」


 マリィさんが魔法窓(ウィンドウ)片手に質問してきたそれは、いわゆる変身ヒーローになりきれるという子供用パジャマだった。


「マリィさん。それは流石にダサいかと――」


 鎧風のデザインの服。デザインによってはスタイリッシュに見えないこともなかったりするのだが、キンキラキンの鎧をモチーフにした服だなんて、それこそ大物演歌歌手くらいでなければ着こなせやしないだろう。


「そうですの」


 僕の指摘に残念そうにしながらも、あきらめきれないのか、チラチラと僕を見てくるマリィさん。

 結局、その視線に負けて、その後すぐに爆死確実の衣装を作ることになるのだが、

 どうせ変になるくらいなら思いっきり鎧風にしてみようとリアル志向に舵を切ったのが功を奏したのか、出来上がったその衣装はゲームキャラが普通に着ていそうな感じのデザインにまとまっていて、

 ちょっとコスプレっぽくもあるのだが、まあ、ファンタジー世界なら普通に受け入れられるだろうと、一応、マリィさんの許可も取って似たような衣装を売りに出してみたところ、アムクラブからやってくる探索者のお客様を中心に爆発的な人気を誇る商品になってしまうのだった。

◆因みに最後に出てきた衣装のイメージは戦国B○S○R○とか、そういうゲームに出てくるキャラが着ている簡略化された鎧みたいな衣装をイメージしてみて下さい。

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