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UFO墜落

 それはいつもと変わらない休日のお昼過ぎのこと。

 午前中にやってきたお客様もはけ、マリィさんに魔王様に元春と――常連のお客様しか居なくなった店内で、僕がのんびりと商品の補充をしていたところ、ゲートのシステム管理を任されているベル君が唐突に警告を鳴らす。

 次の瞬間、それはやって来た。

 まずあったのは雷が落ちたかのような轟音。それとほぼ同時に大きな縦揺れが店内の商品を揺らし、地面を削るような破砕音が続く。

 その音に店を飛び出した僕達が見たものは、ゲート東の大地に一直線のラインを描き、煙を上げる碁石のような形をした銀色のオブジェだった。

 いや、碁石みたいな――なんてまどろっこしい表現を使わなくとも、一言こう言えば、それが何なのか簡単にイメージできるだろう。

 UFOと――、

 そう、赤茶けたアヴァロン=エラの大地に突き刺さり煙を上げていたのは、誰しもがその存在を知りながら、その正体を知らない未確認飛行物体だったのだ。

 突如として現れたUFOに元春が呟く。


「ファンタジーかと思ってたらまさかのSFかよ」


 元春もすっかりこの理不尽空間に慣れてしまったようだ。ちょっと前までなら驚き慌てふためくような超常の物体を目にしてもあまり動じていないみたいである。

 一方で僕達に少し遅れて外へと出てきたマリィさんと魔王様は、ゲームや漫画、インターネットなどによりその存在そのものは知っているのだろうが、いざそれが目の前に現れたとなるとなかなか理解が追いつかないようだ。聞いてくる。


「虎助達はあれが何か知っていますの?」


「知っているというか知らないというか、僕達の世界では未確認飛行物体と呼んでいる謎の物体ですね。ゲームや漫画で見たことがあるんじゃないですか?一応、宇宙人が乗っているとか言われていますけど、その名前が示す通り、その正体は謎に包まれているものですね」


「宇宙――というと空の更に上にあると言われる虚空のことでしたわね」


「……きれいなところ」


 いささか丁寧過ぎる僕の解説にマリィさんがポツリと呟き、次いで魔王様が零した一言はまるで実際に宇宙に行ったようなことがある人ようなものの言い方なのだが、

 うん。たぶんゲームかなにかで見たイメージだろう。魔王様なら本当に魔法で飛んで行けそうな気もするけど、考えたら負けな気がする。


「それで――、どう致しますの?」


「そうですね。危険かもしれませんから、取り敢えず僕が見てこようと思います」


 突然現れた不可思議物体に目を爛々と興味を示すマリィさんには申し訳ないけれど、ここは万屋およびアヴァロン=エラの管理を任される者として、僕が一番に調べるべきだろう。


「そうだな。マリィちゃん達は俺が見ててやるから行って来い」

 

 無駄に偉そうな元春の声に送り出された僕は、万が一に備えて数体のエレイン君達にマリィさん達の警護についてもらうと、ベル君を引き連れてUFOの調査へと向かう。

 もちろん、その際には何の攻撃力もない小さな魔弾を飛ばし、安全確認をしながらも徐々にではあるのだが……。


 そうしてUFOに近付くこと少し、いざ、目の前にというところまで近付いてみた未確認飛行物体は――、


 意外と小さいな。


 某戦闘民族が乗る個人用宇宙船までとは言わないものの、二人乗りのカヌーを上下に重ねたくらいのサイズしかなかった。


 確かこういうのをアダムスキー型っていうんだっけ?

 あれ?葉巻型だったかな。

 まあどっちでもいいか。


 僕はそんなUFOに関する細かな分類を脳裏に浮かべつつも、ベル君に指示を出し、探知魔法を使ってもらう。

 するとベル君の両手からはSF映画にありがちなビーム状の魔力が照射され、その結果、UFOの中に二つの生命反応あることが判明する。


 しかし、こんな狭そうな場所に二人とは、よく乗り込めるものだな。

 もしかしてマジックバッグみたいな空間系の技術が使われているのだろうか。


 僕は目の前に転がるカヌーサイズの物体と、その調査結果からそんな印象を抱きながらも、まずは乗員がいるのならコンタクトしてみなければ始まらないと、あれだけ派手に墜落(?)したにもかかわらず、船体下部についた小さな裂傷以外、意外と綺麗な状態を保っている外装をコンコンと叩いてみる。


 そして、相手の警戒に配慮してマリィさん達がいるところまで戻って暫く、UFOの中から瞬間移動してきたように現れたのは、ホビットとかそんな絵本の登場人物にありがちな小さなおじさんだった。


 しかし、その手には昔のアニメに出てきそうな光線銃のような武器が握られていて、

 これは、もしや、レッツパーリーとか言って銃撃戦の始まりか、なんて身構えたりもしたのだが、


「我々に危害を加えるつもりはない」


 UFOから出てきた二人は両手を上げて敵対する意思がないことをアピールする。

 どうもこういうボディーランゲージみたいなものはどこの世界でも余り変わらないらしい。

 彼等の行動に僕はそんなどうでもいい感想を抱きながらも、戦わないでいいのならそれに越したことはない。警戒を緩めることはしないが、こちらも敵意がないということを示すように武器を持たずに近付いて、ここに至る事情説明をしてもらうことにする。


 それによると、彼等は地球で言うところJAXAやNASAのようなものになるのかな?宇宙開発に携わる研究者なのだそうだ。

 専攻はエネルギー開発の分野らしく、最近になって拠点とする惑星の近く(とはいっても数万光年離れた場所らしいが)にホワイトホールが出現し、これ幸いにとその調査に赴いたタイミングで原因不明の逆流現象が発生。ホワイトホールに吸い込まれたかと思いきや、この世界に飛ばされていたという。


「ええと虎助――説明をしてもらっても」


 と、二人のおじさんに代わる代わる説明を受ける僕の横から、そう説明を求めてきたのはさり気なく僕についてきていたらしいマリィさんだ。

 因みにその背後には魔王様も控えていて、興味津々と僕の言葉を待っているのだが、

 ただの高校生でしか無いこの僕にホワイトホールやらなんやらの説明を求められても困ります。

 ということで、「後で説明をしますから」とマリィさんからの質問を曖昧な笑顔でスルー。


「つまり『壊れた宇宙船を直したい』と――」


 誤魔化すように足元の彼等に問い掛ける。

 すると、カイゼル髭のリトルダンディのアカボーさんが「うむ」と鷹揚に頷いて、


「しかし、ただ宇宙船を直しても、ここがどこなのかわからないのであれば戻ることも出来ないと思うのですが」


 続けて、アカボーさんの助手という小さなおじさん。グリポンさんがそう答えてくれる。でも、


「それなら、ゲートを通れば元の場所に戻れますよ」


「どういうことじゃな」


「ちょっと信じられない話かもしれませんが、あそこに見えるげゲートという施設は、異世界からの転移現象を制御する代物でして――」


 おそらくはそのホワイトホールを調査するタイミングで魔素が暴走、次元の歪みが発生したのではないかと、僕なりにいまに至る状況を推理して、魔法などの説明を挟みつつも答えていくと、


「なるほど、未知のエネルギーの暴走による空間転移か……。しかし、魔法とは――、にわかに信じられない話であるな」


 アカボーさんはおおよその事情を理解しながらも半信半疑といった様子で眉根を寄せる。


 まあ、科学の世界から来た人からすると、魔法で空間転移現象を収束しているなんて、ふつう信じられないよね。


 でも、こればっかりは信じてもらうしかない――。

 ということで、僕やマリィさん、そして魔王様も含めて、派手にデモンストレーションを見せてあげたところ、アカボーさんは魔法によって制御された超常の現象に驚きながらも、そこは研究者と呼ばれる人種なのだろう。


「未知エネルギーを利用した事象操作の技術――、いや、概念エネルギーを何らかの方法で利用しているのかの……、それでその技術は我々にも習得可能なのかな」


 何やらブツブツと思考に耽っていたのかと思いきや、すぐに顔を上げ、どうにか自分達にも習得できないものかと聞いてくる。


「そうですね。簡単なものなら誰でも覚えられるかと、まあ、得手不得手、練習する場所の魔素濃度によって習熟度が違ったりするなど、細かい条件はいろいろありますが、このアヴァロン=エラで少し鍛えて、入門書などを持ち帰ればアカボーさんの世界でも魔法の習得は難しくないと思いますよ」


 アカボーさんの世界がたとえ地球と同じように魔素が薄い世界であっても、予めアヴァロン=エラで下地を作っておけばある程度はどうとでもなる。

 魔法に関する知識を教えることはやぶさかではないのだが、


「まずはUFOの方をどうにかしちゃいませんか」


「そうじゃな」


 それは先にUFO修理を目処を立ててからと、グリポンさんからUFOの修理に必要な道具や資材などを教えてもらう。

 しかし、そんな物資の中に一つだけ、コットレナスという聞きなれないアイテムが含まれていた。

 前後の並びから金属のようではあるが、ソニアに聞いても心当たりが無いらしい。

 ということは、たぶんアカボーさん達が暮らす世界特有の物質なんだと思うんだけど――、


「あの、このコットレナスというものはないと困りますか?」


「そうじゃのう。コットレナスは宇宙船を守る力場形成装置の一部に使う素材じゃなからの。手に入らないとなると、装置そのものをバラして一から作り直さなければならなくなってしまうかもしれないからの」


 細かいことは僕には分からないが、どうもこのコットレナスという物質は、宇宙を航行する際に有害な光線やスペースデブリといったものから船体を守る防護壁を発生させる装置に使われる素材らしい。

 なるほど、確かにそれは重要な部分だ。

 しかし、そういう対策ってふつう外装なんかで対応するんじゃないだろうか。

 ふとそう思って聞いてみると、通常航行ならばいまある外壁でも充分な強度を有しているということなのだが、何万光年と離れた惑星への移動する速度となると、その装置で作り出す防護壁が必要になるのだという。

 納得だ。たしかに光を超える速さで移動するとなると、小さなチリですら時に凶器となりかねない。

 とはいえ、ないものを注文されても困るのはこちらだ。

 そもそもこんなファンタジー世界に宇宙船の部品を求める方が間違っているのだ。

 それならば普通に剣や鎧の素材を集めてくれと言われた方が簡単なのではないか――と、そこまで考えたところでふと一つの閃きが舞い降りる。

 そうだ。別にアカボーさん達の技術に合わせる必要はないのではないか、要は同じような力場が作れて光速移動が可能になればそれでいいのだ。

 と、そのアイデアが実行可能かソニアに確認してみたところ、ベル君の口を通じて一つの魔導器が送られてきて、それをアカボーさんに見せてみる。

 するとアカボーさんは、たぶんマジックバッグのような空間拡張技術が施されているのだろう。ピッチリとした赤い宇宙服のポケットからテレビのリモコンに似た機器を取り出して、その魔導器にレーザーのような光線を飛ばす。

 そして、その結果を確認したかと思いきや、たまげたとばかりにそのクリクリっとした可愛らしい目を見開いて、


「こ、これは、コットレナスに匹敵するエネルギー伝達性を持った金属じゃな。いや、扱いやすさという点においてはコットレナスを上回っておる。少年、この金属はなんなのじゃ?」


 あれ、素材として出したんじゃなくて結界の発生装置として出してみたんだけど――、

 僕はそう思いながらもアカボーさんの飛びつかんとばかりの勢いに負けて、取り敢えずはとその装置に使われる素材の説明をしていく。


「えと、いま持っている金色の金属がオリハルコンといいまして、銀色の方がムーングロウです。錬金術で作り出した魔法の金属ですね」


「魔法で作れるのか、ふむ、その原動力が概念エネルギーだとしたらありえなくもないのか……。それでこの二種類の金属はどうやって作るんじゃ」


 と、不躾だとわかっていても研究者として聞かずにはいられなかったのだろう。

 アカボーさんの遠慮のない質問にグリポンさんが「博士、間宮さんに失礼ですよ」とやんわりと静止を入れるけど、オリハルコンの製法は特に秘匿されてるものではない。


「ええと、ドラゴンって分かります?」


「うむ。究極生物と呼ばれる存在じゃな。生息している惑星を幾つか知っておる」


 ああ、科学の世界にもドラゴンって普通にいるんですね。


「その血液をですね錬金術という特殊な魔法を使って物質変化させるんですよ。そうして出来た抽出物を金属に融合させると魔法金属になるんです」


「成程の……、おそらくその抽出物とやらはドラゴニウムと呼ばれる今は廃れた燃料じゃな。莫大なエネルギーを持ちながらも、原料入手の難しさとその生成難度から、一般への実用にこぎつけることが出来ず、廃れてしまった物質なのじゃが、そんな利用法が存在していたとはな」


 そのドラゴニウムというのはよく分からないが、アカボーさんの推理はあながち間違っていないようにも思える。

 でも、アカボーさんの呟いていることが真実なら、科学技術でも普通にエリクサーやらなんやらが作れるってことになるのかな?

 ソニアが興味をそそられそうな話題だけに、その辺りの精製法なんかは聞いておきたいところだけど、万屋を預かる身としては商談をまとめるのが先である。


「それでなんですけど、魔導器(ソレ)が使えるのなら、材料はぜんぶ提供できることになるんですけど、その、お会計の方はどう致しましょうか?一応、この店は金貨で払う仕組みになっているのですが――」


「金か。残念ながら持ち合わせておらぬな。われわれの世界の通貨でいいというのならそれで払うのだが」


 普通に考えて、宇宙に飛び出してホワイトホールを研究をするような人達は金貨なんて持ち歩かないか。

 そして、金貨の代わりにとアカボーさんが取り出してくれたのは、フラッシュメモリのような短い棒状の物体〈レジット〉。

 曰く、この〈レジット〉には特殊な製法で抽出された高純度かつ珍しい波長を持ったエレルギーが蓄積されており、アカボーさん達の世界ではそれが通過の代わりになるのだというのだが、


「ちょっと万屋(ウチ)では取り扱っていませんね」


「じゃよな」


 研究のためにサンプルを幾つかというならまだしも、全てを〈レジット〉で支払われても困ってしまう。

 だったら他に対価になるものは――と、僕が訊ねようとしたタイミングで、おそらくはこの状況をどこかで見ていたのだろう。目の前にソニアからのメッセージが表示される。

 それによると、


「えと、これはよかったら――というか、これはお願いなんですけど、実はウチのオーナーがお二人のUFOに興味津々なようでして、ベル君――その、そこにいるロボットみたいな彼にUFOの修理を手伝わせてくれませんか?そうしたらタダで素材を提供してもいいってオーナーが言っているんですが」


「えっ!?そんなものでいいんですか?」


「ええ、ですが、このベル君にはデフォルトで硬度な学習機能と分析能力が備わっていまして、その、調べたりしたらマズい情報とかはあります?」


「ああ、そういうことですか。この宇宙船は特別なものではありませんから問題ありませんよ」


 この場合、特許ということでいいのだろうか、特にUFOに使われている技術なんてものは機密情報の塊なのかもしれない。いくら自分の世界に帰る為とはいえ、それを教えてしまって彼等に不利益があったら困るのではないか。そう思って聞いてみると、グリポンさんはなんら問題ないと言う。

 なんでもあのUFOは大幅な改造がなされているもののベースはかなり古い型のUFOだそうで、いくら分析されて特に困るような技術ではないとのことらしい。

 逆にややも強引にドラゴニウム関連の情報を教えてもらい、こんな研究者なら誰でも知っているような技術でその御礼になるのかと恐縮されてしまったくらいなのだ。

 まあ、科学の世界の人からすると、魔法世界の錬金技術は常識の範疇外、UFOの情報を渡してもお釣りがくるくらいのものなのだろう。

 そして、もともと魔道具技師であるソニアにとっては、UFOまで作れてしまうような科学技術というのは喉から手が出るほど欲しいものだ。

 ということで、UFOの修理にベル君が加わることは快く承諾され、その後、一週間ほどUFOの修理に駆り出されることになるのだが、結局、ソニアもデータだけでは我慢できなくなったのか、ちょくちょく修理の現場に顔を出すようになり、僕のその通訳というか質問役として現場に駆り出される羽目になるのだが、その時の僕はまだそんなことになるとは思いもよらなかったのだ。

◆言うまでもないと思いますが、このお話の元ネタは『ひっこぬかれて――』でおなじみの群体アクションゲームです。


〈コットレナス〉……アカボーが拠点とする第18宇宙に存在する希少金属。性質としては金に非常に近く、ただ電気を通すと頑強になり、自己修復機能を持つという稀有な特製を持っているが為に宇宙船の外装などに使用されることが多い銀色の金属。

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