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鏡の中の7つの世界

◆今週の一話目です。

 残暑厳しい九月の夕方、今日は特に部活も無いようで、僕と一緒に万屋へとやって来て、いつものようにぐてっとしていた元春がエクスカリバーを眺めていたマリィさんにふと声をかける。


「そういえばマリィちゃんってさ、いろんな世界にワープできる魔法の鏡でこの世界に来てるんだよな。その鏡って他にどんな世界に行けるん?」


 以前、何気ない話の流れから、マリィさんがいかにしてこの世界にやって来ているのかを聞いたことがある。元春もその話は知っていて、暇潰しも兼ねて聞いてみようと思ったのだろう。

 そんな元春の質問に、マリィさんはうっと言葉をつまらせながらも、僅かな逡巡を挟みこう答えてくれる。


「吹雪に覆われた山中。灼熱の砂漠。奇妙な野生生物が暮らす無人島。魔獣が蔓延る大迷宮。空に浮かぶ無人の要塞。ただただ真っ白いだけの空間。ここ以外の世界にはあまり楽しめる場所がありませんの」


 なるほど、マリィさんが微妙なリアクションをしてしまってもしょうがないラインナップだ。


「でも、大迷宮や空に浮かぶ要塞などはマリィさんの興味を引きそうなもののような気もしますが――」


 個人的には奇妙な生物が暮らす無人島が気になるところだけれど、マリィさんが興味を抱きそうな世界といったらこの辺りだろう。そう思って訊ねてみると、


「むろん(わたくし)も興味をもって探検しましたの。しかし、空に浮かぶ遺跡にあるものは(わたくし)の理解の範疇外、空からの景色というものもいいのですが、それも毎日毎日見るものでもありませんし、迷宮の方も(わたくし)に許された活動の範囲内ではあまり強い魔獣もおらず、罠の危険を考えますと、(わたくし)では少し手が余る場所ですの。正直、他に移動できる世界があればとは思うのですが、現状、ここ以外の世界への転移は難しいのでしょう?」


「はい。その辺の研究はしているんですが芳しくないのが現状ですね」


 とある理由からこの世界に閉じ込められているソニアは異世界転移の方法を見つけ出すべく、この万屋を隠れ蓑に、日夜さまざまな研究に取り組んでいる。しかし、狙った世界、狙った時空、狙った場所への転移はまだまだ不可能というのが現状なのだ。

 と、残念を滲ませる僕の言葉に触発されたのか、マリィさんがこんなことを聞いてくる。


「そういえば、今更ですが、ソニア様でしたわよね。万屋のオーナーはどうやって虎助の世界へ移動したのです? ゲートを通じては元いた世界にしか移動できないということですが」


「ああ、それは簡単なことですよ。この世界で生まれたゴーレムは異世界転移の基軸がアヴァロン=エラにありますから、個体ごとにゲートを通ってランダムな場所に移動できるんです。で、探索用にオーナーが作ったゴーレムがゲートをくぐった先がたまたま僕達が暮らす世界だったという訳なんですよ」


「つまり、虎助とオーナーの出会いは本当に偶然だったという訳ですの?」


 そんな適当な――、僕の説明を聞いてそう言わんばかりの表情を浮かべるマリィさん。

 しかし、事実そうなのだから仕方がない。

 ただ、付け加えるとしたら――、


「偶然は偶然ですが、何体も何体も遠隔操作のゴーレムを使い捨てにして、トライした結果、僕に出会ったっていうのが本当らしいですよ。オーナー曰く『運命が僕達を引き合わせた』らしいです」


 まあ、運命とかなんとかいう話は大袈裟な話なんだけど、ソニアは自分が求める特性を持つ人材を探していて、僕の特性ともいうべき〈誘引〉の力がその出会いに大きく関わっているらしいことは間違いないらしい。


「そういやーよ。前からちょっと気になってたんだけどよ。お前ん家にいる『そにあ』って俺達の世界だとビッグフットなってんだよな。ってことはさ。お前と会うまで何十年もアメリカだっけ?なんとかって山の中にいたんか?何かを探してんならよ街中に降りた方が早かったんじゃねーか?」


 僕がソニアとの出会いの話をしていたところ、元春がこの機会だから聞いておこうと別の質問を割り込ませてくる。

 しかし、これは元春にしては鋭い質問だ。


「勘違いされがちなんだけどそれは違うんだよ。『そにあ』ゲートの偶然で地球にやってきて、とりあえず付近の捜索をって調べていたら僕を見つけたってだけで、『そにあ』が僕達の世界に来たのは僕と出会うほんの数時間前らしいんだ。だから、実は別にビッグフットがいるかもって可能性もあるみたいだよ」


「さすがにそれは――、いや、ありえるのか」


 もしかするとビッグフットは存在する?そんな含みを持たせた僕の言葉に、一度はその可能性を否定しようとする元春。しかし、異世界転移、そして魔獣という生き物の存在することを知った今ならば、もしかして異世界から魔獣が転移してきてロッキー山脈に住み着いているかもしれない。そんな可能性が脳裏を過ぎったのだろう。


「でもよ。それってヤバくね」


「何が?」


「いやだってさ。もしも、他の世界から俺等の世界に魔獣なんかが転移してきちまったらよ。普通に危ねーんねーかと思ってな」


 何を懸念しているかと思ったら、意外とまっとうなことを心配していたんだね。

 けれど、その心配は殆ど問題がないと言っていいだろう。何故なら――、


「アメリカにも佐藤さんとおんなじ魔女さんがいっぱいいるし、危ない生物が出たってなると、それこそ軍隊の出番になっちゃうだろうからね。弱い魔獣程度だったら狩られちゃうと思うよ。それにもしビッグフットが危険な魔獣だとしたら、とっくの昔に大きな騒動になってたんじゃないかな」


 そう、別に魔法や魔法の武器だけが魔獣に対抗できる武器ではない。現代科学の力を持ってすれば、ある程度の魔獣にも充分対抗できるだけの力はあるのだ。

 それに、もともと魔素が薄い地球において、強い魔獣を引き込むほどの次元の歪みが発生する確率は、それこそ救急に巨大隕石が地球に落下してしまうくらい低い確率なってしまうのだ。

 以上の二点から、もしビッグフットが魔獣と呼ばれる生物だったとしても、現地の人達で対応できるのではないかと思われる。


「たしかにな。でも、そうなると案外、そのビッグフットも捕まえられたりしてな。そういや、お前、エリア51に行ったんだろ。それらしきものとか見てんじゃねーのか」


 因みに元春が言っているエリア51云々という話は、『そにあ』が見つかって、その正体が魔動ゴーレムだと発覚した後に起きた、所有権を巡るゴタゴタに巻き込まれた末の一連の出来事を言っていたりするのだが、それはまた別の話で、


「前にも言ったかもだけど、あの時はそんな余裕なんて無かったから、基地の中に何があったかなんてほとんど覚えてないんだよ」


 ソニアとやらかした秘密基地でのアレコレを思い出し、僕が遠い目をしていたところ、マリィさんが小首をかしげて聞いてくる。


「エリア51とは何ですの?」


「えと、なんていいますか、大国が運営している秘密の研究所――みたいなものですか」


 はてさてこんな適当な説明でちゃんと通じるものだろうか、あまりにも簡単過ぎる説明にちょっと不安を感じていた僕だったが、


「なるほど秘匿工房のような場所ですのね。……しかし、秘密の研究所と聞くだけではどんな研究所なのか、その詳細が掴めませんわね」


 異世界にも似たような施設があるみたいだ。

 まあ、王位簒奪やらなんやらある世界なら普通にそんな施設があってもおかしくはないのかもしれないな。

 とはいえだ。それはあくまでイメージが掴めたという話であって、エリア51がどんな場所なのかを理解したことには繋がらないようだ。

 だったら、ここは「なんだって――」でおなじみの超常現象本の出番だろうか。追加されたマリィさんの呟きに僕がそんなことを考えていたところ、元春が別にそんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかとばかりにこう言ってくる。


「つかさ。エリア51はともかくとして、それっぽい画像をインターネットから引っ張ってくればいいんじゃね」


「そういえば、この機能を使えば色々な情報が得られるんでしたね」


 たしかにインターネットを使えば、そういうオカルトじみた資料映像も色々と入手できる。


「それでさ。いまふと思ったんだけどよ。最初言ってた遺跡?あれも魔法窓(ウィンドウ)のスクショとか使えば普通に調べられんじゃね」


「ああ、それは面白そうですね」


 僕達がそこに行けなくても、マリィさんがその場所に赴いてデータを取ってきてくれさえすれば、空に浮かぶ要塞や謎の大迷宮がどんなものなのかのヒントを見つけられる可能性はある。

 だいたい、〈インベントリ〉や〈メモリーカード〉を作って万屋で販売しているのは、各世界から少しでも情報を集められないかと考えた末の方策だったりする。

 まさか元春にそんな単純なアイデアを指摘されてしまうとは思わなかったな。

 案外僕も間が抜けていたらしい。


「じゃあ、出来る範囲で構いませんので、今度、その空中要塞やら大迷宮やらに行った時、写真を取ってきてもらえますか?」


「面白そうな事になってきましたわね。ふむ、本格的に調べるのならメイド達の装備も整えなければいけませんか」


「それでしたら、装備面のフォローはこちらでしましょうか、僕達としても未知の遺跡から得られる技術なんかは喉から手が出るほど欲しいものですので」


「ダンジョン探索か――、冒険心をくすぐられるな。俺もいけるところにそんな場所があったら普通に行くんだがな。残念だぜ」


 元春の思いつきをきっかけにトントン拍子で進む探索の予定。

 そんな僕達の会話を聞いて元春がダンジョン探索に興味を抱くような発言をするのだが、

 よく言うよ。いざ、ダンジョンが目の前にあったら、なんだかんだ理由をつけて入るのを止めようっていい出すだろうに。


「だったら、義姉さんが同じようなことやってるけど、元春もそれに着いて行ってみたらどう?この前も値打ちものを見付けてきたし、ちょっとした小遣い稼ぎにもなると思うよ」


「いや、志帆姉とお宝探しってどんな罰ゲームだよ。もしもダンジョンみたいな場所があったりしても『罠がありそうだからアンタ試して見なさいよ』なんて言われるのがオチだろ」


 だからと、調子のいいことばかり言う元春をちょっとからかうつもりで、僕がこんなことを言ってみたりすると、


 さもありなん。


 僕は妙に上手いモノマネで義姉さんが言いそうな事を予想する元春に苦笑しながらも、張り切って冒険の計画を立て始めるマリィさんに付き合わされる羽目になってしまった、メイドさん達の装備をどうしようかと考えるのであった。

◆世間はゴールデンウィークに入ったそうですが、こちらは平常運転でお送りしております。

『べ、別に羨ましくなんてないんだからね』

 失礼。つい取り乱して気持ち悪い発言をしてしまいました。

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