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●名も無き特殊部隊の秘密特訓6

◆祝百話といいながら平常運転です。

 よろしければ、これからもお付き合いの程、お願いいたします。

 夏も終わりに近付いたその日、私こと春日井聡子は戦場にいた。

 赤茶けた荒野に銃弾が飛び交い、真っ赤な液体が舞い散る戦場だ。

 そして、私も赤い液体に染め上げられて――、


『春日井さん。アウトです』


 こんなフキダシと共に退場を余儀なくされる。

 そう、私達はいまサバイバルゲームの真っ最中なのだ。

 お遊びではなく本気のサバイバルゲーム。

 訓練の総仕上げとして虎助君率いるチームと私達『名も無き特殊部隊』が紅白戦を繰り広げているのだ。

 因みに私達の相手をしてくれているのは虎助君が率いる『万屋常連チーム』。

 前に紹介されたマリィさんというナイスプロポーションなお姫様に加えて、坊主頭の男の子に銀髪褐色な女の子と、ちょっと年齢が低めな四人組。

 しかし、その個性的な少年少女という外見とはうらはらに彼等の強さは桁違いだった。

 虎助君がその素早い動きで戦場を翻弄し、マリィさんが魔法を使ったペイント弾の乱れ打ちで敵を蹂躙する。そして、私達の攻撃はマオさんという銀髪色黒少女に完璧に防がれてしまう。

 唯一の弱点は松平元春という仰々しい名前を持つ坊主頭の男の子なんだけど、他の三人が一見役立たずな彼を上手く囮に使って私達を狩りに来るのだ。

 そして、また一人、死亡者(アウト)宣告が積み上げられる。

 倒されたのは私達部隊の隊長――川西隊長だ。

 マリィさんの圧倒的な風魔法によるペイント弾の雨嵐に燻り出されて飛び出したところを虎助君のペイントナイフによって斬殺。ベッタリと赤いバッテンをつけられたみたいだ。

 トボトボと安全地帯(セーフティスペース)まで歩いてきて、私の隣に座った隊長は、やられたとばかりに額に手を当ててこんな言葉を零す。


「まいったね。隊長である僕がまるで新人扱いだ」


「てか、あの動きは反則だろ。虎助の野郎、最初ん時は手加減してやがったな」


 隊長のすぐ後、いつの間にか()られたらしい。戻ってきた八尾さんの言う通り、最初ここに来た時の戦いがまるでお遊びだったかのように虎助君の動きは凄まじい。

 目にも留まらぬ動きで戦場を駆け回り、ペイントナイフで隊員達を瞬殺していく。その姿はまるでアニメや漫画に出てくるような忍者のようである。


「というよりも、私達が訓練をしている間にも虎助君が強くなっていたのではないでしょうか?」


 私達もこのアヴァロン=エラという場所で修行をして強くなった。

 だが、その相手というのは、仮想現実(ヴァーチャル)の世界で戦ったスカルドラゴンと訓練用として整備されたルール内で戦ったゴーレムだけ、

 それに対して虎助君は、この一ヶ月、いや、それよりも前から、この世界で命を懸けた戦いを繰り返している。

 私もその場面を何度か目撃したことがあるけれど、戦う姿は筆舌につくしがたいものがあった。

 恐竜やバケモノとした形容できない生物にナイフ一本で立ち向かっていくのだ。

 まあ、手榴弾のような魔法の道具やその他もろもろの手札は常に持ち歩いているというのだが、基本的には、あの斬っても斬れない不思議なナイフ一本で日々迷い込んでくる魔獣と呼ばれるモンスターに斬り込んでいくのだ。


「これでも訓練は人並み以上に積んできたつもりなのだが、やはり実際に命のやり取り経験している差が出てくるのか」


「実績もたくさん手に入れられるそうですからね」


「あの骨ドラゴンを一匹倒しただけじゃ役に立たねえってか?」


 八尾さんがそう言って場を茶化そうとするのだが、それだけでもないと私は思う。

 私達も実績を手に入れて以来、見違えるように動きが良くなったのだが、それ以上に虎助君の冷静な戦いっぷりは異常なのだ。

 そもそもこの世界では、とある魔女によってかけられた加護(?)によって、保護されているお客様(・・・)は簡単に死ねない状況にあるという。

 けど、それでもあんなバケモノを実際に相手するなんて信じられない。

 私だったら足がすくんでいつもの半分も実力を出せないと思う。

 ならば、どうして虎助君はそれが出来ているのか。

 おそらくそれは教官の教育があってこそなんだと思う。

 これは訓練の合間に何気なく聞いた話なのだが、虎助君は幼い頃から教官に連れられて、クマやイノシシが生息する山中でサバイバル訓練を行っていたそうなのだ。

 小学生くらいの男の子が深い山の中を駆けずり回り、そこに住む全てを糧に|生き延びる。

 そんな体験を持っている人間なんて、この現代においてそうそう居ないだろう。

 少なくとも平和な日本に暮らす私達には想像を絶する環境だ。

 しかし、虎助君はそれを当然の訓練だとして受け入れていた。

 そして、虎助君と共に戦う彼女等もまた別の意味で凄まじい経験を持っている人達なんだろう――、

 というか、素人目(?)で見ても虎助君よりも彼女達の方が危険に見えるんですけど。

 サバイバルゲームという特性上、本来の魔法が使えずに手加減をしていると言いながら、ガトリングをも上回る殲滅力を生み出すお姫様に、その身そのものが戦車と化しているとも言うべき絶対防御を展開するハーフエルフの女の子。

 そんな二人の少女が高機動な虎助君をサポートするのだ。勝負にならないのも当然だといえるだろう。

 そして、残る彼の装備も特殊な魔導器なのだと思う。グリーブといえばいいのか、クロッチブーツのように腿まで覆うくらいの金属ブーツを履いて、戦場をあっちにこっちとアワアワ逃げ回っている少年もなんだかんだで女性隊員を相手にすると強い。

 だた、彼の顔を見るとムカムカしてしまうのはどうしてなんだろう。

 彼を見ていると、なんかこう、ここで叩き潰しておかないと――って気持ちを掻き立てられてしまうのだ。

 そして、彼を深追いすると残る三人に倒されてしまう。

 多分これも虎助君の策略なんだと思う。

 魔法か何かの力で私達の注意を少年に注意を引きつけて、その隙をついて他の三人が攻撃を行う。オンラインゲームなんかでありがちな戦術だ。


「しかし、やられっぱなしというのはなんとも情けない。なんとか一矢報いたいな」


「狙い目はあのお姫様ですか。あの火力は脅威ですけど、近付けばなんとかなると思うんですけど」


「坊主を狙うフリをして虎助じゃねえか?」


「その後に殲滅されるのは確実でしょうが」


「玉砕覚悟の一刺し、面白えじゃねえか」


「じゃあ、次の勝負でちょっと試してみますか」


 やられ待ちの時間、次の戦いに向けた作戦を立てる私達。

 そして、作戦と詳細をつめている間にも隊員は全滅。勝負は仕切り直しとなって戦闘再開。

 まずは邪魔なあの少年を排除にかかる。

 あの高速移動を可能とするグリーブの力は厄介だが、操る彼は大したことない。全方位から一気に攻撃すれば叩き潰せるハズだ。


「なんすか。なんなんすか。なんで俺ばっかりを狙うんすか。しかもおっさんばっか」


「「「誰がおっさんだぁ――っ!!」」」


 囲まれたことにより、軽いパニック状態に陥った元春君の発言に数人の隊員が猛然と突っ込む。

 一見すると、元春君の挑発に思いっきり引っかかったという風に見えるのだが、

 これは私達の作戦――、作戦なんですよね。

 すると、そこへすかさずマリィさんが魔法で飛ばしたペイント弾が嵐のように降り注ぐ。

 一発一発は設定された耐久値を1%も削らない弱い攻撃なのだが、それが弾幕と呼ぶにふさわしい数ともなると話は別、少し立ち止まっただけでも、みるみるうちに耐久力は削られてしまい、あっという間に数名の隊員がリタイアに追い込まれてしまう。

 だが、それと同時に邪魔な元春君の排除も終わっている。

 元春君がアウト宣告を受けた隊員達と場外へ避難する中、虎助君が残存勢力の殲滅に現れる。

 ここまでは予定通りだ。

 後はタイミングを見計らって残った隊員で絶え間ない攻撃を浴びせれば、さすがの虎助君でも耐えられまい。

 と、予定通りのポイントに到着した虎助君に向けて全員の攻撃を集中する。

 マリィさんの魔法にも劣らぬペイント弾が虎助君に殺到し、一気にその姿を赤く塗りつぶしていく。


「やった」


「倒したか」


 こういうやり取りがフラグだということはテンプレであるということは知っている。

 しかし、まさかそれが現実になるとは誰も思わないだろう。


「残念でした」


 後ろからの声に振り向くと、そこには残る隊員からの集中砲火を受けた筈の虎助君が綺麗なままの姿でいた。

 そして、「すいません」と一言、トンと軽くペイントナイフを胸に当てられる。

 残った隊員達も降り注ぐペイント弾の雨嵐に翻弄され、次々とアウト宣告が発令されていく。


「どうして?」


「変わり身です」


 確実に攻撃はヒットしたハズなのに……。ただただ分からないと訊ねる私に、フレンドリファイアを避ける為か、展開された魔法の盾の傘の下、虎助君がちょいちょいと指差す。

 その方向を見ると、真っ赤な絵の具でベチャベチャになった人影が佇んでいて、


「どうして……」


 もう一度、信じられないと口にしたその声に答えをくれたのは、虎助君とはまた違った少年の声だった。


「って虎助、俺を身代わりに使うなよ。つか、いつの間にここに移動したんだっての」


 そう、絵の具でぐちゃぐちゃになった人影はリタイヤしたはずの元春君だったのだ。


「ごめんごめん。こういうこともあろうかと元春の鎧に割り込みをかけておいたんだ」


 よくわからないけど虎助君が元春君のグリーブを何らかの方法で遠隔操作したってこと?

 それなら、普通に避けられるくらいなら元春君を戦場に呼び込む必要は無かったんじゃ。

 違う。元春君に集中砲火を受けてもらうことによって、私達の注目を集めて回り込む時間を稼いだってことなのか。


「どうも、僕達は虎助君に踊らされていたみたいだね」


 そう言って肩を落とす隊長。だが、そこに隊長を励ます声が割り込んでくる。


「でも、虎助に変わり身を使わせるなんて凄いことだと思うわよ」


「だね」


 さも、平然と会話を進めようとする虎助君の一方で、私達はいつの間にか紛れ込んでいた声に驚いた顔を向ける。

 そこには見覚えのある和美人が佇んでいた。私達の教官である間宮イズナ。虎助君のお母さんだ。


「久しぶりね。それで、この催しはなんなのかしら?」


「訓練の総括かな。レクリエーションを兼ねたサバイバルゲームだよ」


 虎助君が現在の状況を教官に話す。


「教官の言う通りでした。我々はまだまだ未熟でした。その事をこの世界で痛感しました」


 と、隙をみて親子の会話に入っていく隊長。その言葉にその後ろで話を聞いていた八尾さんも反論はないようだ。初対面からすると信じられないくらいに大人しくしている。

 そして、


「名残惜しいですがこれで訓練はお終いなんですね」


 教官が顔を見せた意味を図り隊長が続けてこう言うのだが、それを聞いた教官はきょとんとしたような顔を浮かべて、


「なに言ってるのよ。まだ私との修行が残ってるじゃない」


 教官が発したその言葉に唖然とする一同。

 だが、そんな隊員達の反応なんてなんのその、教官はあっけらかんとこう言い放つのだ。


「アナタ達を虎助に任せたのは、最低限のレベルで私の修行についてこられるくらいになるまで鍛えてもらう為だったのよ。今ならたぶん大丈夫だろうし、直々に私が鍛えようってことになっただけよ。そもそも修行を請け負っておいて一度も顔を見せないなんて無責任でしょ」


「つまり我々は特訓を受けるための特訓を受けていたということですか」


 絞り出すような隊長の質問に「そうよ」とあっさりとした様子で答える教官。

 そして、虎助君から夏の間の特訓の結果、誰がどのくらい成長したのかを聞いたりして、


「さ、元の世界に戻って本格的な修行に入るから帰る準備してくれるかしら」


 どうやら私達の修行はこれからが本番らしい。

 虎助君から聞かされた話から、その修業がとても過酷でることは想像に難くない。

 正直、ここのテント暮らしが本当に素晴らしいものだったと改めて思う私達であった。

◆ということでようやくチュートリアルを終えた特殊部隊の皆さんです。


 ここまでの流れ(アクションRPG風)


 ・アヴァロン=エラに到着からの虎助との戦闘(魔法と実績の効果の顔見世)

 ・スカルドラゴンとの戦闘(チュートリアルにありがちな巨大ボスとの魔法戦闘)

 ・ガラハド&マーリンとの戦闘(魔法を交えた対人戦闘の訓練)

 ・万屋常連チームとの戦闘 (ようやくオープニングからのボスバトル)


 そして本編(本番の修行)へ(ルナティックモード)←いまココ。


◆ちょっとした補足。


 今回のサバゲーに使っている塗料は特殊なもので、特殊部隊の皆さんが訓練に使っていたバリアシステムと連動してその耐久値を減らせるという設定です。(マリィやマオが本気で戦ってしまっては危険と判断したが故の処置だったりします)

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