魔王襲来
◆初投稿です。矛盾や読みにくい箇所、誤字脱字などなどあると思いますが、可能な限り、読みやすいお話をと頑張りたいと思いますので、生温かい目でご容赦お願いします。
雲一つない蒼穹に見渡す限り広がる赤茶けた荒野。ここはアヴァロン=エラと呼ばれる次元の狭間に存在する世界。
高校生にしてこの世界にある〈万屋〉で雇われ店長をする、僕こと間宮虎助は生命の危機に直面していた。
ここ万屋に限らず、おおよそ商店という施設は訪れる者を選べない。
ただ、このアヴァロン=エラに存在する万屋は、その立地の特殊性から危険な生物が訪れる可能性がどうしても高くなってしまうのだ。
その日、訪れたお客様は、頭に伊達政宗の兜を彷彿とさせる大小二本の角を額からにょっきりと生やし、筋骨隆々の上半身とガス状の下半身を持つランプの魔人のような大巨人だった。
「我が名はアダマー・ナイマッド。この世界に住む者共よ。警告するぞ。今すぐ我が前に従え、さもなくば殲滅あるのみだ」
と、本人の言を信じるのならどこぞの魔王様らしい。
その言葉の証明にと、この世界に降り立った大魔王がまず目をつけたのは、長大な石垣の前にポツンと立っている小さな木造商店だった。
大きく息を吸い込み、破壊すべき対象に向けて灼熱の息が吐き出される。
だが、全てを焼きつくすようなその豪炎は、アダマーがいる地点から数十メートル。不可視の壁によって阻まれる。
そう、このアヴァロン=エラと外界とを繋ぐストーンヘンジのような儀式場――通称ゲートには、術者が危険と判断した全てを侵入を防ぐ結界が張り巡らされている。大魔王による攻撃もそれに捕まってしまったのだ。
「しかし、ドラゴンや賢者様。魔王様なんて人がお客様として来ましたけど、まさかその上をゆく大魔王まで来てしまうとは思いもよりませんでしたよ」
「今更ですの虎助。それに賢者と言っても本物なのかどうか分からない人もいますもの」
アダマーの豪炎に狙われた万屋内から、炎で埋め尽くされる大結界を眺め、呑気にも聞こえるセリフを口にする僕。
と、すぐ隣で呆れ混じりに金色の巻き髪を掬うのは、マリィ=ランカークさん。今は亡き王国の息女にして、叔父によってとある古城に軟禁されているということになっている姫君だ。
「って、お嬢。そりゃ酷くねえか」
そして反対側、条件反射的に文句を飛ばしながらも地味に落ち込んでいる顎鬚の男性は、東方の大賢者という肩書を持つロベルト様。一見すると堀の深い外国人の不良中年にしか見えないが、これでいて二十五歳なのだというのだから。いろんな面で人は見かけによらないという言葉のいい例だ。
「どうしましょうか?逃げた方がいいんと思うんですけど……」
「どうもこうもないだろう。相手が魔王と言うのなら俺が出るのが本道だ」
一応、店長という職を任されている僕が、これからどうするべきかと、皆さんの意見を伺おうとしたところ、その質問を無視して一人の青年が万屋から飛び出していく。
赤茶の髪を風になびかせた彼の名はフレア。決して軽くはない赤いスケイルアーマーをものともせずに、大魔王アダマーへと特攻をかける。
「フレアさん。危ないですよ!!」
「大丈夫だ。俺には聖剣がついている!!」
魔王の下まで一直線。万屋を飛び出したフレアさんの背中に制止の声を飛ばすも、返ってきたのは勇ましい言葉だけ。
「むっ、なんだ貴様。我に歯向かうというのか。笑止、かかってくるがいい。見せしめには丁度いいだろう」
万屋からゲートまでの百メートル超にも及ぶ直線を一気に駆け抜けたフレアさんに、アダマーは鼻を鳴らして豪腕を振り下ろす。
その攻撃自体はフレアさんの華麗な身のこなしによって躱されるも、巨岩のような拳は大地とぶつかり地震にも匹敵する振動を周囲に拡散させる。
僕は攻撃の余波で発生した振動を全身で感じながらも、フレアさんを追いかけるように店を飛び出し、その大きな胸を弾ませ、すぐ隣を追いかけてきた聖剣の製作者に声をかける。
「本当に大丈夫なんでしょうか?聖剣と言ってもあれは――」
「ふふん。私が作った剣にかかればあの程度の魔人なんて一発ですの」
「そういえば、あのエクスカリバーは嬢ちゃんの作ったもんだったな」
高らかに告げられたその言葉に、賢者様が思い出すかのような一言を添え、それに応えるようにマリィさんがメロンほどある大きな胸に突き出す。
と、すかさずいつもの破廉恥な視線が落とされる。
「正確にはマリィさん考案でエレイン君達が作ったものなのですが」
半眼に乗せた僕の横槍に、賢者様は視線を戻して咳払い、「だな――」と本来の製作者でありながら、警備という意味で回りを固める赤銅色のゴーレムに賞賛の視線を送る。
そんな評価を後押しするように、遠方、ストーンサークルに展開された破邪の結界の内部では爆炎の花が咲き乱れていた。
マリィが造り出した魔法剣コールブラストには高威力の爆裂魔法が込められている。
攻撃の瞬間に使用者が魔力を込めることによって斬撃に魔力暴走を誘発させる魔法を乗せることが出来、切り口から毒のように浸透したその魔力が相手の魔力と反応して爆発する仕組みとなっている。
外見は本物のエクスカリバーをモチーフにしながらも、様々なジャンルの創作から拝借したアイデアを盛り込んで設計された挑戦的なレプリカなのだが、製作者本人はこれはある意味で本物を超えていると言い切る。
そして、コールブラストはそんな考案者の期待に応える猛攻を展開させるのだが……。
「そんなものなど効かぬわ!」
大魔王アダマーは威厳を感じさせる声を放つと同時に体から大量の魔力が放出。
それによって彼に纏わり付いていた爆炎は吹き飛ばされてしまう。
爆炎が消え去った後に見えたのは傷一つ負っていない鋼の上半身。
どうやらアダマーの強靭な肉体には、コールブラストによる誘爆魔法の効果が薄いようだ。
「どうしてですの!?」
「……たぶん相性が悪い?」
声を震わせるのはマリィさんだ。
自信を持って送り出した魔法剣がほぼ効果無しと見るや、悲鳴じみた声をひび割れさせる。
と、そんなマリィさんの叫びに小さな声を重ねたのは、ストーンサークルへの途中にある秘密の抜け穴から、のっそりと這い出してきた黒ローブ姿の女の子。
ボサボサの髪を軽く整えた女の子がそのウィスパーボイスで自分の考えを口にする。
「……あれは魔力を注入するタイプ魔法剣?だから逆に元気にさせてるのかも。武器を変えた方がいいと思う」
「どこの誰かは知らないが心配無用だ。エクスカリバーを得た俺に切れないものなどない」
驚くべきはその聴力か。これだけ離れているにも関わらずその囁き声を聞き取れたのだろう。黒ローブの女の子からのアドバイスにフレアさんから自信満々な声が飛ぶ。
エクスカリバーに選ばれたと勘違いしているフレアさんの自信に「どうしましょうか?」僕が周囲に意見を求めるが、
「青年がああ言っている以上、俺等にはどうしようもねえだろ。どっちにしても、あのバケモンがゲートにいる時点で俺等には逃げ場はねえんだからよ」
確かに現在の戦場になっているストーンサークルは、このアヴァロン=エラと外界を繋ぐ唯一の出入り口。そこを抑えられている状況下で自分達にできる対抗策は限られてしまっている。
この施設を作ったオーナーの話では、異空間ゲートとも呼ぶべき役目を果たすこのストーンサークルは、アヴァロン=エラに存在するどの施設よりも頑丈に作られており、まず壊れることはないそうなのだが、逆に言えば、そこに強大な敵が閉じ込められている限り、自分達に脱出手段は無いということになってしまうのだ。
つまり、この世界からの脱出にはアダマーの撃退が必須ということだ。
一介の高校生ですらそんな結論に到れるのだから、東方の大賢者たるロベルト様は勿論、大魔王アダマーもその事に気付いているだろう。
結界が強固と見るやいなや、飛び出したフレアさんの接近をアダマーがあえて許したのも、そういった思考が絡んでいるのではないだろうか。
「つか、相手はゲートの上にいるんだし、強制排除とかできねえのかよ」
「どうでしょう。あの大魔王は自力でこの世界までやって来たようですので、排除したところですぐに戻ってきてしまう。オーナーはそう判断しているのではないでしょうか?」
「チックショ、マジかよ。まあどっちにしろ、最悪、こっちには黒い嬢ちゃんが居るからな。それまでは青年に頑張ってもらおうぜ」
不安を紛らわす為か、いや、ただ楽観的な性格をしているだけだろう。地面に座る少女の頭にポンと手を乗せた賢者様は、爆音と轟音がぶつかり合う戦場に向かって声を飛ばし――、
「――ってな訳で青年、こいつを使えや」
毒々しい蛍光色の液体が満載されたガラスの小瓶を結界内に投げ込む。
すると、牽制という意味合いも含まれているのだろう。すかさずアダマーの腹部へ一薙ぎを入れたフレアさんが、直後に発生した爆風を利用して大きくジャンプ。そのままの勢いで顔面を蹴り上げながらの宙返り、投げ込まれた小瓶をキャッチする。
「これはあの時の薬――」
着地の後、受け取った小瓶を見て顔を歪めたのは苦い思い出が蘇ったからだろう。
心なしか疲れたように見えるフレアさんの向こうでは、顔を蹴られれてご立腹なのか。アダマーが大きく息を吸い込み、最初に見せた火炎放射を吐き出そうとしていた。
直後、ゲートを囲う結界内をオレンジ色の光が埋め尽くす。
だが、フレアさんは無事だった。
炎に巻かれ、背中のマントはボロボロに、体の各部に火傷を負いながらも、フレアさんは立っていた。
しかし、そのダメージは決して軽くない。
そして、
こうなってしまっては残る希望は只一つか。
その手に握られる小瓶に、どうしようかと、フレアさんの躊躇いがちな視線が落とされる。
「大丈夫だ青年。そいつは前回と違って完全なる戦闘用。単純に戦闘力を上げるだけの品に仕上がってる筈だ」
その前回が前回だけに、にわかには信じられないのではないのか。
しかし、決め手が欠けているのには違いない――とでも結論したのか。放り込まれる賢者様の声掛けに、フレアさんはまた少し迷った素振りをみせた挙句、結局はその液体を一息に煽り飲んでしまう。
すると次の瞬間、フレアさんの全身から血のように赤い魔力が溢れ出し、まるでバトル漫画で見るようなオーラが爆裂させる。
みるみるうちに全身の火傷が治っていき、しかし次の瞬間、
「ヴォラァァァァギィうぅぅゴォグゥオオォォオオン――――――――っ!!」
フレアさんは凡そ人間が発してはいけない類の咆哮を撒き散らしたかと思いきや、バーサク状態としか形容できない野性的な動きで猛反撃に打って出る。
「えっと、全く大丈夫そうには見えないんですけど……。 あの魔法薬、以前のものより危ないんじゃないですか?」
「俺としては言葉通りの意味だったんだが……失敗だったみたいだな。でもよ、逆にこれならイケんじゃね」
フレアさんの変貌ぶりを目の当たりに、僕がその身を案じて訊ねるが、賢者様はテヘっと舌を出して悪びれず、しかし、言っていることは間違いではなかった。
「ちょっと効いてるかも」
その事実を証明するように、「ぐぬぅ……」魔王アダマーが黒ローブの女の子が指差す先で苦しそな唸り声をあげる。
全身からは瘴気のような煙が立ち登り、心なしかアダマーの体がひと回りサイズが小さくなったように見えなくもない。
もしかするとアダマーはガス状の生物なのか。
ぐらり揺れる上半身だけの筋肉質な体に、これなら本当に倒せるかもしれない。暴走状態で剣を振り回すフレアさんを除く全員がそう思い始めた時だった。
キィン――
石の円環に囲われた戦場の中心で澄んだ金属音が響き、光り輝く破片が天高く舞い上がる。
戦場を遠巻きに見物する四人のすぐ近くの地面にトスッと突き刺さったのは金色の薄羽。
そう、それはコールブラストの半ばから折れた刀身だった。
目前の光景によろよろと震える手を伸ばしたマリィさんが絹を引き裂いたような叫び声をあげる。
「わ、私の剣がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!」
手塩にかけた武器が壊されてしまったマリィさんの心情は察するに余りあるが、それよりも大変なのは戦場の真っ只中に立つフレアさんだ。
聖剣という存在に信仰に近い感情を抱き、苦労の末、ついに入手したかと思いきや、初陣であっさり折れてしまったとなれば、そのショックは計り知れないだろう。
そして、それが戦いの渦中ともなれば、その隙が命取りになりかねない。
「フレアさん止まったらダメです!!」
聖剣破断という衝撃の大きさに、魔法薬による暴走状態がキャンセル。折れた剣を手に茫然自失となる青年に咆哮一声。パンプアップした魔王の上半身から丸太のような豪腕がブチ込まれる。
ドゴォン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
爆発にも似た打音が響いた直後、フレアさんの体がまるで交通事故実験に使われるダミー人形のように吹き飛ぶ。
そこから数十メートル、体の何処かが地面に接触したのか、アクロバティックに七回転半転がったところでようやくその勢いが止まる。
そして、とある映画のワンシーンのように頭から地面に突き刺さったその体はピクリとも動かなくなってしまうフレアさん。
だが、ただの一撃だけでは、バーサク状態のフレアさんにいいようにされていたアダマーの怒りは収まらない。追撃をかけようと倒れるフレアさん目掛けて爆進する。
しかし、その途中でゲートの周囲に張られた結界に接触、進撃は止まるのだが、
「邪魔な結界だ」
巨木のような腕を振り回すアダマーは止まらない。
その腕の回転が鳴らす大音響に「いけない――」と、ようやく我を取り戻した僕が駆け寄ろうとするも、脳裏に響き渡る鈴を転がしたような可愛らしい声がその行動をやんわりと制止する。
『心配いらないよ。ボクの加護を受けている限り、彼が死ぬことはないからね』
「オ、オーナー!? それはそうですが」
『それよりもドンドンドンドン五月蝿い魔人だね。ボクの部屋まで響いてくるよ。確かこういうのを君の世界じゃあ壁ドンとか言うんだっけ?』
「どこでそんな言葉を覚えたんですか?」
『ふふっ分かってるだろ。 とはいえだ。邪魔な勇者クンがいなくなって好都合だよ。後の相手はボクがするから、虎助は皆の避難をお願いね」
「いきなり出てきたと思ったら、仕方ないですね……」
そんな、姿の見えない相手とやり取りを重ねるような僕を見て、マリィさんと賢者様の二人から少し怯えた視線を向けるのだが、
説明してる暇はちょっと無いかな。
僕はそう心の中で呟くと、マリィさんと賢者様、何か聞きたそうにする二人の先手をとって言う。
「皆さん避難をお願いします!」
「避難?どこへですの?」
脈絡もなく出された避難命令に、混乱の只中にあったマリィさんの疑問は少し見当違いなものだった。
「いえ、遠くに逃げる必要はありません。ただ戦いに巻き込まれない程度に離れて下さいという意味です」
まだ分からないという風なマリィさんに微笑みかけた僕は天に向かってこう叫ぶ。
「つまり大魔王を倒すんですよ。オーナーお願いします!」
「えっ!?オーナーって――?」
勝利宣言とも取れる高らかな声に、マリィさん達の背後にある巨大なモニュメントが独特の駆動音を立てて動き出す。
「な、なんですの!?」
「つか、あれも動くのかよ!?」
そういえば、お二人は知らなかったのかもしれないな。だから言う。
「ええ、彼の名はモルドレッド。万屋――いえ、このアヴァロン=エラが誇る最強の番人なんですよ」
訳知らぬ二人に掛けられた自信に満ちた声をきっかけに、巨神兵と魔王による決戦の火蓋が切って落とされる。
そして、その宣言通りの結果が間もなくもたらされる。
大魔王アダマー=ナイマッドの敗因は一つ。この世界の主の不興を買った。ただそれだけのことだった。
◆取り敢えず、ストックのあるところまで週5本(月曜日更新)くらいのペースで、その後は週1・2本あげていきたいと思います。
遅筆ということで、ご指摘のお返事、その他諸々、出来ない場合が多いと思いますが、作品の投稿でお返していきたいと思います。重ねてよろしくお願い致します。
因みに余談ではありますが、アヴァロン=エラのモデルは名作ゲーム『クロノト○ガー』の『時○最果て』をモデルにしております。
◆ブクマ・感想・評価(正直な評価で構いません)などをいただけると、創作のモチベーションにつながります。よろしければ画面を下にスクロールしていただきご要望いただければありがたいです。
続きが読みたい。ガンバレと応援していただける読者様がおられたらブクマを、何卒、何卒お願い致します。
◆因みに「えぇ、ブクマはちょっと――」という読者様には、ポイント評価だけでもしていただけるとありがたいです。
よろしければ下にスクロールさせた場所から、ご協力の方よろしくお願いいたします。
↓↓↓