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27:王子と軍隊

 工場へ帰ったのは夕方だった。王子と市長がオルランドを待っていた。

 市長は、魔獣騒ぎから軍隊の出動を国に願い出ていたが、サウザンヒルの連隊から軍隊がやってくるという。だが、総勢200人のその兵士たちを受け入れる場所が街にはない。そこで思いついたのがこの工場という訳らしい。


「わかりましたわ。スチュワートの街のため、安全のために私も出来ることで骨を折りたいと存じます」


 兵役経験のあるマーティンによれば、食料をはじめ基本的な補給物資は自前で持ってくる筈だし、野営も出来るが、屋根のある場所に泊まれるならそれは嬉しいに違いないらしい。

 工作機械のまだ入っていない工場建屋に泊まらせよう。工房の男たちは一緒に泊まってもらうか、すずめ寮に泊まらせるしかない。もっとも工場のすぐ近くに工員宿舎はもうすぐ完成する。

 王子は護衛の怪我のお見舞いだった。医療室に行くとエスターが護衛の包帯を替えていた。


「この匂いは何だ」


 王子の問いにオルランドは答える。


「アルコールを消毒に用いています」


「酒か」


「お飲みになると胃が焼けますわよ。ほとんど水を含まない、徹底的に強いアルコールですわ」


 オルランドはエスターに訊く。


「ええ、お二方とも骨折と擦傷で、程度が酷いほかは問題ありません」


 一週間は安静にしていただかないといけません、とエスターは云う。


「改めて礼を言おう、オルランド嬢。貴方のお陰で部下が助かった」


「当たり前のことをしたまでです。私の使用人たちもきっとそう申すでしょう」


 その言葉に合わせてエスターが頭を下げる。


「そうだ、お前の使用人が持っていた銃、あれは何だ」


 ずいぶんと風変わりに見えたぞ、そう言う王子様は最初に見たときほどかけ離れた存在には見えない。いや、今でもまともに見つめると息が詰まりそうになるほどの美男子なのだが、今の王子はちょっと気安く話しかけられる。

 やはり男の子は武器には目が無いようだ。


「私の工房で開発いたしました、新案特許機構を備えた新型銃です。試し撃ちなさいますか?」

「いいのか?」


 その喜色満面の笑みにクラッときてしまった。凄い。やはりこの王子は凄い。


「えっ、ええ、どうぞこちらへ」


「どうしたオルランド、ちょっと変だぞ」




 その後王子は連発カービンを弾倉が空になるまで撃ち、蒸気クロウラーとその上に載る五分の一足砲に夢中になって、まるで虫のようにしがみついて弄り続けた。


「全く凄いな、いや何もかも凄いぞ。この砲の弾、さっきのカービンの銃弾と形が似ているな。これが後装砲の秘密なのか」


「勿論でさぁ。この紙の筒の中にオルランド嬢新案の綿火薬が詰まっているんで。ほらこの後ろに真鍮の皿があるのが秘密そのいち、これが爆発で膨れて砲の後ろの端にぴったり張り付くって寸法だ」


 そして何故か、街の鍛冶屋が得意げに王子に説明をしていた。


「なるほど、これは紙なのか」


 そこに、食事から戻ったらしいエイダとジェイコブがやってきた。ジェイコブは図面とひも尺を持っていた。


「これから何をするの?」


「エイダ嬢とちょっと相談していたのですが、五分の一足砲に自動の照準計算装置を付けられないかと思いまして」


 ジェイコブはそう言うが、技術水準的に無茶ではないだろうか。


「出来るの?」

「出来ます」


 ジェイコブは勢い込んで図面を広げた。

 一枚目は何かの構造図だ。鋼線の網目、銅板をエッチングして作るらしい模様、そしてそれらを垂直に銅の細い棒が様々な部位で貫く。油紙で絶縁するらしい。銅版の上に立体的にコイルが作りこまれていて、電磁気と魔力を使う装置と知れたが、


「電圧で符号化した通りに魔力スイッチが組み合わせ動作を行ないます。エイダ嬢はこちらを論理逆転、こちらを論理足し算と論理掛け算と名づけました。更にこちらでは魔力スイッチの制御で記憶呪体の書き換えと読み出しを行ないます」


 ジェイコブの興奮する言葉の中身を総合すると、


「万能計算機械、作るの?」


 相手はきょとんとした顔で、


「よくお判りで」


 待って欲しい。オルランドは極度の混乱に陥っていた。

 コンピュータには自分の生きているうちには手が届かないだろうと思っていた。少なくとも20年後だと考えていた。それがそんなタイミングで。


 二枚目の図面は論理スイッチ回路の海だった。

 埋め尽くす回路にくらくら来る。コンピュータを構成するには最低どのくらい要るのだったっけ。オルランドは思い出そうとしたが思い出せない。回路を追うと奇妙なことに気がついた。この回路はその動作そのものを変えることができる。これは特定の論理回路というよりFPGAに近い。

 論理回路の書き換えで必要な回路をいつでも作れるなら、コンピュータに必要な回路構成はかなり小規模に出来ることになる。

 三枚目は思ったとおり、論理回路の切り替えパターンだった。このパターンがもしかして自動の照準計算を実現するのだろうか。三枚目の図に添えられた文字から、これはエイダが書いたのだと判る。二枚目も見返すとエイダの字だ。

 天才と天才が出会うとこうなるのか。


 エイダとジェイコブの目論見は痛いほど判った。

 万能計算機械は多分この装置の10倍くらいの規模になる。その規模だと流石にお金がかなりかかる。だから使い道が多分他の誰にもわからない機械ではなく、注目を集める大砲と絡めて誰にでも効果がよくわかる小さな機械を作ろうというのだ。多分その成果で万能計算機械を作る理解を得ようと考えているのだろう。

 だが、オルランドにはその価値がわかる。


「照準計算装置はやめて、最初から完全な万能計算機械を作ったらどうかしら。どうせ砲撃の衝撃に耐えられないわよ。

 うん、万能計算機械にお金がかかるのは分かっています。でも私が許可するわ。だから一緒に汎用入出力装置も作ってね」


「汎用入出力装置ですか?」


 ジェイコブがきょとんとした顔をする。


「まず入力だけど、符号化した電圧が欲しいのでしょ。それ人間が気軽に作れるといいわよね」

「はい勿論」


「以前、一文字づつ印刷できる機械試作したことあったでしょ」


「ああ、あれですね」


 オルランドは以前タイプライターを作ろうとしたのだ。だけど出来上がったのはオルガンの出来損ないのような代物だった。でも今ならもっとちゃんとしたものを作れる気がする。


「印刷する代わりに、その文字に相当する符号を発生するのよ。鍵盤一つ一つに小さなバネでも付けて、5段階くらいかな、順序立てて接点を制御するの」


 オルランドは今、テレタイプ端末を作ろうとしていた。


「その逆で、符号を受け取ったら文字を印刷する機構もあると良いわね」


「……そうですね!」


 オルランドの製鉄所から始まる十年計画はここに放棄された。

 だってだってコンピュータが欲しいから。今の世にコンピュータが一体何の役に立つって言うのよ!脳内の理性が金切り声をあげるが、同じく脳内の欲望が冷静に答える。

 勿論この世界の現状にコンピュータは全くの無用の長物よ!それがどうしたの!!


「必要な資材は言って。全部調達するから」


「あっはい、って本当にいいんですか?」


「レディに二言は無いわ」


「……お嬢様目が怖い」


「失礼な、ってそういえばエイダは?」


 気がつくとエイダは王子に捕まっていた。いわゆる片手壁ドンの構えだ。


「……では本当に剣術の修業はしていないのだな?あれほどの見事な動きが素人の技とは到底信じられん」


「王子、エイダが怯えております」


 オルランドがユライア王子を窘めると、王子は慌てて弁明のような言葉を漏らした。


「いや、そんなつもりは無いのだ、ただ是非とも話がしたいと思ってな、そうしたらどうも避けられているようだったのでな……」


「避けられているとお察しした時点で少しはお考えください」


 王子はふむ、と首をかしげる。


「オルランドはまるでエイダ嬢の保護者のようだな」


「本来ならば王子こそか弱き乙女を庇護するべき立場ではありませんか?」


「耳が痛いな」


 そうして背後のエイダの手をさっと取り、怯えさせてしまってすまなかった、と深く礼をして、そしてその手の甲に口づけた。


「……!!!」


 そしてエイダが声にならない言葉を漏らすなか、王子は身を翻して帰っていった。慌ててオルランドは声を掛けた。


「お待ちください今護衛を付けます!」





 月曜エイダと揃って教室に顔を出すと、メアリ嬢らと挨拶を交わす間もなくユライア王子が詰め掛けてきた。


「今日放課後、護衛たちの見舞いに行きたいのだが、良いだろうか?」


 エイダがさっと私の後ろに隠れる。エイダにはユライア王子のこのイケメンフラッシュが効かないのだろうか。この圧倒的美男子ぶりに心動かされることが無いと云うのだろうか。


 あ。


 いや、ジェイクと仲が良いというのもちょっと変に思っていたのである。

 ジェイクはちょっと顔の造作に問題ある男である。

 オルランドは前世の事情でその辺は全く問題無いのだがエイダは違う、変な事情など無い普通の女の子である。

 あーそれはいけません。オルランドは考える。エイダとジェイクには一言言っておいたほうが良いかも知れない。ジェイクと仲良くしているオルランドではあるが、それは決して異性として評価しているからではない。その点はむしろ全く逆である。


 ジェイコブ・マーレイは決して気配りができるような男ではない。全く出来ないと言ったほうが正確だと思う。

 もしマーティン・チャズルウィットの普段の気配りを100とするなら、ジェイクは決して5を超えることが無いと断言できる。3に達したら褒めるべきだろう。なお普段は0と1の間にそれはある。

 たまにジェイクが何か気配りめいたものをしようとしてくる時があるのだが、正直迷惑である。オルランドが全てやったほうが気楽でいい。彼と仕事をするときはお茶を出すのも掃除をするのもオルランドだった。

 ジェイクはこういう男だったから異性としての評価は無に等しい。決して誰かにお付き合いを推奨できる男性では無い。そのうちマーティンにでもみっちり仕込んでもらえばジェイクも何とかなるのかも知れないが、今は絶対に駄目だ。

 だからもしエイダの趣味嗜好がちょっと変わっていたとしても、ジェイクはお勧めできないと思うのだ。決してエイダの趣味に問題があると云う訳ではない。問題は相手のほうにある。


「工場のほうはいつでも来て頂いて結構です。皆さんもさぞや喜ばれることでしょう」


 そんな事を考えながら、何食わぬ顔でオルランドは王子に応対した。


「そのついで、で、良いのだが、あの五分の一足砲の撃つところを見せてもらえないだろうか。いや都合が付かなければ遠慮するのだが」


 ああ、そっちが本題でしたか。

 確か生徒会長の言うゲームの筋書きでは、王子とエイダが親しくなるのがメインルートだった筈なので、このまま王子と親しくなるというのは生徒会長側も文句の出ない展開に違いない。

 そのまま王子とエイダの仲を取り持てば良かったのだろうが、しかし今、エイダの男性の趣味に赤信号旗が振られてしまった。どうしたらいいの……


 王子に大砲の試射をすることを約束して席に戻ると、案の定メアリ嬢らに食いつかれた。


「オルランド様、王子とは何時からそのようなお付き合いを?」


「あの方が女生徒に声をかけられる事なんて、これまでありませんでしたのに」


「ユライア王子とのお付き合いだなんて、私でしたら息が詰まってきっとその場で失神してしまいますわ。今でも見つめられるだけで脈がおかしくなりそう」


「あら、ローズ様は王子に見つめられたことがおありなので?」

「これはものの喩えですっ!」


 オルランドは咳をひとつする。


「えー、皆様、昨日の事を是非とも思い出して頂きたいのです。わたくし、ユライア王子の護衛の方々を、治療のために私の工場の医療室にお連れいたしましたの」


「わたくし、てっきり病院か学校か何処かだと思っていましたわ」


 マデリン嬢の思い込みももっとなものだろう。


「スチュワートの街の方には病院がまだ無いのです。護衛のお二方の傷はそう重くないのですが、骨が折れてしまっているので暫くは安静にしないといけません。それで王子はお見舞いの申し出をされたのです」


「あの、オルランド様、あの、私もお見舞い差し上げたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

「さぞやあの方々もお喜びになられるでしょう」


 メアリ嬢の言葉を、笑顔で承認する。なるほど、お近づきになりたいですよねー。


「皆様も如何ですか?美しい女性のお見舞いこそ、何時の時代でも勇士を慰めるものです」


「わっ、わたくしも宜しいでしょうか」

「是非ともお願いいたします」



「……あの、わたしも」


 全員が背後に振り向いた。エレクトラ姫だ。

 オルランドは彼女たちの内心の動揺をかなり正確に推測できる。思わぬ強敵の出現に、表情を表に出すまいと必死の努力が三人のお嬢様方の内面で繰り広げられていた。

 強敵と言うより、終わりである。

 ユライア王子にお近づきになり、あわよくば……というはかない願望も、天下の美姫が一緒では、五月に降った雪のように消えること確定である。

 そう、最初からはかない望みだったのだ。三人の内心は痛いほどわかるが、ここを断る訳にはいかない。そもそもどう断るのだ?

 そういう訳で、オルランドは笑顔で答える。


「エレクトラ様、では王子の護衛の方々をお見舞い頂けますか?」



 人数が膨れたので帰りは辻馬車を仕立てた。王子様お姫様が辻馬車とは恐れ多い気もするが、そもそもスチュワートは辻馬車一台がせいぜいという小さな街である。

 オルランドは自分は御者席に陣取る一方、エイダを馬車の中に放り込んだ。6人ならぎりぎり狭くない。ただ王子は美少女5人にみっちり囲まれた席となる。これを本人が天国と取るか煉獄と取るか、ちょっと興味がある。


 平和な道行きの間、御者の横でオルランドはしばし呆けていた。この表情を今人に見られてはまずい、そういう表情である。


 金策が思いつかない。

 スチュワートに製鉄所を作ると決めたとき、金策に持っている特許のあれこれを売れないかと駈けずりまわったが、ほとんど売れなかった事を思い出す。

 どこも新規投資を渋っている、そんな世情である。戦争が近いのだ。


 共和国の護国卿はその地位を終身職にするだけでは飽き足らず、近々皇帝に就任するというのが専らの噂である。元々鼎立王国と共和国は、北方諸国や植民地を巡って衝突を続けており、護国卿が国力を総動員して鼎立王国を攻めるだろうとの予測は前々からあったのだ。

 今回皇帝の地位を得ようとしたのは国政のすべてを掌握するためで、開戦準備の一部だというのが事情通の一致した見方だ。

 大陸との貿易はほぼ途絶えた。東洋との交易も、通商破壊船が出るという噂だけで保険料が高騰し、冷えてしまっている。西方交易が盛んになったのはその反動に過ぎない。大洋を越えるリスクのある西方交易は長期で見れば元々利潤に乏しい。

 文句なしの不景気だった。



 工場には軍隊が来ていた。

 昨日約束しての今日と言うのは驚いたが、魔獣騒ぎという非常事態に対して迅速に動いたのは流石である。工場の入り口に軍隊の関係者も来ていた。なんと連隊長閣下自らお越しになったようだ。

 ただ今は王子様とお姫様の対応が儀礼上も優先されるだろう。連隊長閣下も、辻馬車から王子様お姫様が降りてきて驚いた筈だ。


「オルランドお前逃げたな」


 王子はよろよろと馬車から降りてきた。心外な。


「何を仰るのですか王子。私は王子に寛いでいただくことしか考えておりません。両手に花の境遇、全く羨ましい限りでございます」


「くそっ」


 王子、そんな汚い言葉を使ってはいけません。


 エイダに一行の案内を頼んで、オルランドは連隊長の大佐と話し合う。来るのは歩兵中隊ひとつ200人、まだ工作機械の入っていない工場へと案内して、ここで寝起きしてもらうことで話は付いた。

 そこで連隊長閣下が前線司令部をここに置きたいと仰られ、オルランドはまだ整地もしていない空き地ならと案内し、せっかくだから整地してしまいましょうと蒸気クロウラーの場所へと行くと、大砲が積まれたまま試射の準備をしていた。


「えっ、砲は下ろすんじゃなかったの?」


 オルランドはボイラーの面倒を見ていたデイヴィッドを捕まえて訊く。


「いやこのままで、というかドーザーを使う用事でもありましたか?」


「兵隊さん来たでしょ、馬とかどこに繋ぐのって話」


「ああそうか、空き地みんな藪ですよね、じゃあ下ろしますか」

「……もう遅いわよ」


 ばっちり連隊長閣下の興味をひいてしまいました。


「これは、野砲を蒸気車の上に積んでいるのか?

 凄いな、馬に引かせるのではない訳だ。いや、あれは後装式じゃあるまいね、えらく小さいようだが」


 仕方ない。ここで軍関係者に見られてしまったのも何かの運命だ。


「鋼を使った鉄製砲でございます。見ての通り後装式、砲弾にはこれを使います」


 徹甲弾を一つ渡す。どんぐりのような鉄の後ろに紙の筒がついた変てこな代物に大佐閣下は、おっと危ない。


「閣下、中には敏感な特殊火薬が詰まっております」


 おお、と砲弾を手放すのを受け取る。


「それではこれから試射をお目にかけましょう」



 試射場は敷地内の荒れ果てた空き地から崖までの二千足ほどの距離しかない、ほんの小さなものだった。

 ディヴィッドとオリヴァーに操作された蒸気クローラーは大勢の見物客を引き連れて空き地へと向かう。連隊の将校一山と王子様お姫様とお嬢様まで一緒だ。オルランドはお嬢様お姫様たちに余った耳栓をこっそり手渡した。

 試射場にはいつの間にか大きな板の的が置かれていた。黒い獣が描かれていて、心臓と思しきあたりが白抜きになっている。


「これより、二発連続して打ちます。ですので、耳栓は一発目で外さないように」


 デイヴィッドが説明する間もオリヴァーは照準を微調整する。既に装填は済んでいるようだ。


「撃てぃ!」


 即時に轟音が響き渡った。ディヴィッドとオリヴァーは即座に再装填にかかる。オリヴァーは照準をほんの僅か調整した。


「次射、撃てぃ!」


 再びの轟音のあと、暫くしてまばらな拍手が起きた。将校たちのうち数人は的のほうに向かっていった。


「いや全くすごいな。しかし煙が全然出ないのだな。綿火薬と言ったか」


 的に辿り着いた将校たちが手をふっている。


「あの二発目、見事に心臓を射抜いたようだな」


 ユライア王子が興奮した口調で言う。そうか、一発分しか弾痕が見えないと思ったら、もう一発は白抜きを貫通していたのか。

 一方暫く黙っているなと思った連隊長閣下が、


「100門だ」


「……何と?」


 オルランドに向き直ると、


「100門、ゼーゼル商会に発注する。戦争が始まる前に揃えてもらう。代金は前金で払うから、そのかわり出来たらすぐ、そうだな10門単位で引き取る。とりあえず馬で曳くから車輪を付けろ。いくらになる?」


 一気にまくしたてた。


「一門400タリング、砲弾が一発2タリングになります」


 オルランドが割りと適当に答えると、


「そうか、わずか6万タリングで勝利が買えるのだな」


 そう言うと将校たちのところへと歩いていく。


 6万。


 オルランドの製鉄所から始まる十年計画はここに復活した。

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