目標、トゥルーエンド
小学校四年生くらいの頃だったか。
公園で一人寂しそうにいる少年がいた。
特になにかして遊んでる風でもなく、滑り台の下に蹲っている男の子だ。
同年代くらいであろう少年が悲しげに見えた。
舞華は義務感のようなものに突き動かされた。
正義感と言い換えてもいい。
精神が人より大人びていると自覚している舞華はその少年のことをほっとけなかった。
そうして声をかけ、仲良くなった。切っ掛けさえ覚えていれば後のことなんて些細なことだ。きっとなんでもないことを話して遊び、笑い合ったのだろう。
そして二人はお互いを名前で呼び合うようになった。
舞華はケイ君と呼び、彼はマイちゃんと呼んだ。
その少年は今のように垢抜けてはなかった。
髪も染めてはおらず、黒髪で幼い。
少年の名前は秋月慧といった。
「つまりさ。お前自分でフラグ建てたんだろ。自爆じゃん」
「そんな自業自得の話で納得できるものではありません」
「そりゃあそうかもしれないけどさ」
「それに言ったじゃないですか。気付いたのは四年前。秋月慧に出会ったのは六年前。ほら、どうしようもありません」
「そこで気付けよ」
「無茶言わないでください」
名前を知った段階で気付けなかったのかと言えば、気付かなかった。
名前がキラキラネームとかならまだしも秋月慧なんてありふれてそうな名前だ。
それに幼少の秋月慧はそれこそ普通の少年だった。
ゲームのキャラクターと結び付けるのは難しい。
「じゃあ、本当にどうしようもないのか?」
「ゲームだったらですね。しかし良くも悪くもこれは現実です。ゲームとは比べ物にならないほど自由なアプローチが可能です。ゲームとは違う方法で解決すればいいんですよ」
「やっと前向きな意見が出たな」
気が詰まるばかりの話に漸く明るい話題が出た。
ゲームの自由度なんてシナリオ上の選択肢でしかない。現実はもっと複雑だ。同じ状況でも手段は幾らでも取りようがある。
「で、どうすんだ?」
興が乗ってきたのか麻生が身を乗り出す。
その様子はさながら秘密の作戦会議みたいだ。
そこまで気楽になれない舞華は羨ましく思う。
命懸けで挑まなければならない舞華に余裕はない。
だからこれまで必死に考えてきた。
生き残るために。
舞華は解決の手段を語る。
「トゥルーエンドを目指します」
それが舞華の至った結論だった。
「っておい、いいのか?トゥルーエンドは駄目だって話したじゃん」
「どのみちバッドエンドを回避するにはトゥルーエンドしかありません」
「でもトゥルーエンドのシナリオはバッドエンドと大差ないって言ってただろ」
「もちろんトゥルーエンドを目指すだけが解決策ではありません。しかし、これからやることには」
言葉を区切って一呼吸を入れた。
「真実を明らかにする必要があります」
自分の解決案が最善かなんて誰も保証してくれない。他にも方法はいろいろあるのだろう。ゲームとは違うのだから。でも舞華は逃げに徹する手段より正面から立ち向かうことを選んだ。
舞華はゲームの内容を知っている。
それこそが舞華の持つ武器で最大の切り札だ。