説明、ゲームシナリオ
「わりと最初から手遅れなんだろ?」
「はい」
「ヤンデルくらい好かれてるのか」
「間違いなく」
「......そっかあ」
目の前の男は神妙に表情でそっと窓を見た。
「青春だな」
「目を逸らして言わないでください」
喫茶店でカジュアルな私服姿の麻生と制服姿の舞華は向かい合って座っていた。
麻生は緩慢にコーヒーの入ったカップを手に取る。
ミステリアスだが無愛想で近寄りがたい雰囲気の麻生堂弘と違い明るく社交性のある性格の今の麻生。
外見と中身にギャップを感じることもある彼だが、その姿は絵になるものだった。妙な色気を感じる。
麻生は一服落ち着けると視線をこちらに戻した。
「話だと秋月慧だっけ?割りと普通だったんだろ。案外大丈夫なんじゃないか」
「危険です」
杞憂とか予断を一切考え込まずに言う。
舞華は真剣だった。
「いや断言するならあえて否定しないけど......そもそもなんで攻略対象と絡んでるんだよ」
「そういえば説明してませんでしたね。まあようするに好感度の問題です」
「好感度ねえ......そういえば乙女ゲームだったな」
やはり男性だとそのての内容を敬遠するのだろうか。反応がよくない。
「別に面白い話でもないですよ。好感度はゲームの目安です。人間関係というのは表面上、上手くやっていかないと大抵詰みますから」
「まあ、そうだな」
「好感度が高すぎるのも問題ですが低いのは当然駄目です。バッドエンドより先にゲームオーバーすることになります」
そもそもヤンデレ乙女ゲームがどういったものかというと、選択肢や好感度などの一定の条件を満たしトゥルーエンドを目指すのがゲームの流れだ。
エンディングまでに到達できないケースが俗に言うゲームオーバーであり、更に異なる分岐点によるバッドエンドも用意されている。
「ゲームオーバーになったらどうなる?」
「真相に辿り着けないまま途中で終わりですね。バッドエンドもそう内容は変わりません。シナリオには謎解き要素があってそれを解明するのがトゥルーエンドの道筋です」
マルチエンディング特有の選択肢の自由度は一つ間違えると悲惨な結末に陥りやすい。
慣れたユーザーだと全エンディング到達、イベント制覇、CG全回収などのやり込み要素で遊べるがそれはゲームだった時の話だ。
予備知識もなしで一度でクリアを目指すのは至難のわざである。
「そういうものか?......いや、シナリオが途中で終わるって何だ?謎が解明されないゲームオーバーは現実だとどうなる?」
「突如豹変したヤンデレに襲われておしまいです。監禁エンドやデッドエンド迎えたり盛りだくさん。謎は解けず、真相はわかりません」
「うわぁ」
麻生が嫌そうな声を洩らす。
脈絡なく襲われるのがゲームオーバー。
結末としてのバッドエンド。
違いはそれだけだ。
「だからと言ってトゥルーエンドになれば解決するわけでないですけど」
「はあ?どういうことだよ?」
バッドエンド・ゲームオーバーの回避するのは勿論だが、それだけでどうにかなる問題でもない。
トゥルーエンドとハッピーエンドは違う。
「ゲームのクリアは生存攻略と全く別物です」
現実化した今ではお遊びじゃすまされない。
そしてゲーム感覚でいられない理由は他にもある。
このゲームのトゥルーエンドはハッピーエンドではなく、寧ろバッドエンドそのものなのだ。
真実を知ればより残酷な結末が待ち構えているのが、このヤンデレ乙女ゲームのお約束である。
どう進めてもゲームオーバーまたはバッドエンドと割りとどうしようもない鬼畜仕様。
後味が悪いと知りつつトゥルーエンドを目指すのがゲームの醍醐味である。
つまり最初から正攻法などありはしない。
このまま物語を進めてもいいことないのである。
「何ソレ。詰んでるじゃねーか」
「ええ、絶望的でしたよ」
「認識を改めた。わりと最初から手遅れだ」
「さっきも言ったじゃないですか」
「対処法はあるのか?」
「前も言った通り関わらないのが正解ですね。それができない状態でいるのが秋月慧です」
「そもそもどうして秋月慧と関わることになったんだ」
麻生がごもっともな意見に舞華は過去を思い出した。