金の斧よりも大切な物があるでしょ!
本当は泣いた赤鬼を題材にしようと
思っていたのですが著作権の関係で
投稿出来ませんでした。
なので、題材を変えて
金と銀の斧にしました。
それでは本編をどうぞ
とある森の湖にて
私は、この大きな森の真ん中にある湖に住んでいる湖の精霊です。名前はエルシーだけど、村の人からは神様って呼ばれているかな。私はね、気づいた時にはもう既に、この湖の中にいたの。どうやら、私はこの湖で生まれたらしい。
ついでに言うと、私はこの湖から出られません。ん?出られないっていう表現はおかしいか。一応、湖中から顔や体は出せるんだけど湖と地面の間に見えない結界的なのが働いているらしく、私の行動範囲は湖だけなの。流石に何百年も湖から出られないのは辛くて、ほらやっぱり外の世界に行ってみたいでしょ?だから、ある夜、湖の中から森の神様に、この結界的なのをなんとか外してくれー!って頼んでみたの。そしたら、神様はなんと言ったと思う?
「それは無理じゃ」
「は?」
あなた、仮にも森の偉大な神様でしょ?村に雨降らせたり、豊作の神様でもあったり、これまでにたくさんの願いを叶えてきたじゃない。なのに、私の願いを叶えてくれないって、しかも即答で答えるだなんてショックだよ。
「ワシにはこの結界的なのを壊す事は出来ないが壊す術は知っている」
「それはなんですか!教えて下さいっ!」
「だか、それは教えられん」
「あなた、教える気はあるの?」
私は苛立って湖の水を神様に掛けてやろうかと思ったけど、森の神様の声は森全体から聞こえるから、ピンポイントで湖の水を掛けることは出来ないのが悔しい。ちっ、どこにいるんだ!
「その縛りを解く術は己自身で見つけなさい」
「えー!」
「大丈夫、いつか必ずその縛りは解けるはず」
それ以来、森の神様は私が何度呼んでも出てきてくれませんでした。それから私はどうしたら外へ出られるか考え、頭を捻り、空を飛ぶ鳥や虫にも聞いてみましたが、結局分からず終い。とうとう、考えている間に何千年と年が過ぎ、いつかしか私は湖の外へ出ることを諦めてしまいました。
考えることを止めて時間を持て余した私は空を飛ぶ鳥を眺めたり湖の中で魚と一緒に泳いだりと暇を潰していましたが、最近では湖のそばで木を切り倒す1人の木こりを発見したので私は彼を毎日、湖の中から観察して暇を潰しています。
「ふぅ」
彼の年は大体10代くらいの青年かな。短く切った赤色が少し混じった茶髪で薄紫色の目、身長は高くて細身なのに切り倒した木を何本も担いで村まで持って帰るという力持ちさん。そして何より、お昼ご飯に持ってきたパンやリンゴを森の動物に分け与えるという優しいお方。着ている服を見たところ、ボロボロなので、家は貧しいのかな。
「よしっ」
今日も彼は木を切ります。カーン、カーン。木を切る音が森に響きいつもの日常が訪れますね。うん、汗水流し働く彼に幸あらんことを〜、湖の中で手を合わせ祈りながら彼を見守っていると。
「あっ」
木から斧を外した弾みで、彼の大事な古びた斧が私の湖の中に落ちてしまいました。私はすぐさま、彼の斧を拾います。湖の外を見てみると、彼が不安そうな表情で湖の中を見つめていました。
「しまった」
確かにこれが無いと彼は仕事が出来ません。早く返してあげないと。そうだ!いつも頑張っているからプレゼントにこの古びた斧じゃなくて金と銀の斧を渡そう。そして私は湖の中から久しぶりに出ました。もちろん出る場所は湖の上ですよ?
「貴方は」
「私は、ここに住む湖の精霊」
彼は驚きのあまり突っ立ったままです。そりゃそうだよね。突然、精霊が出てきたら驚くわな。それに、私も人とは生まれて始めて話すので少し緊張しています。噛んじゃったらどうしよう。落ち着け、落ち着け。
「貴方が落としたのは、この金の斧ですか?」
あっ、違う。セリフを噛むどころかセリフ自体を間違えた!ただ、私はいつも頑張っているからこの金の斧をどうぞって言いたかったのに、緊張して言い間違えちゃった。でも、彼がこの斧を受け取ってくれたら万々歳だよね。
「いや、オレが落としたのは金の斧じゃなくて、もっと古いボロボロの斧です」
あら?金の斧は要らないと、それなら。
「で、では、こ、この銀の斧をどうしょ」
うっそ嫌だ、噛んだー!今度はセリフを間違えないように気を付けたら噛んでしまったぁ!恥っずかしい、顔が熱いよ。うわー。絶対変人扱いされる。私はコミュ障か!
「ははっ」
ほら、笑われたぁ。穴があったら入りたいよ。でも、笑った顔も爽やかで素敵だな。そんな風に思ってしまう自分がいて。
「銀の斧はありがたいですけどオレには要りません」
「ん?」
「オレには、あの古びた斧で充分ですから」
笑顔で爽やかに言ってのけた。優しくて謙虚な彼に私はいつも彼が使っている古びた斧を手渡しました。
「ありがとうございます!」
「それと、金と銀の斧も持っていきなさい」
「えっ」
「いつも頑張って仕事をしているから。これからも、見守っていますよ」
やっと、本命が言えた。しかもセリフを噛まず、間違えずに尚且つ彼と同じく笑顔でね。でも、これ以上話しているとボロが出てしまうので素早く彼に金と銀の斧を渡し、湖の中に戻りました。そして彼はもう一度湖の中に向けて頭を下げ、せっせと古びた斧で木を切り倒し始めました。彼と話してわかったこと、それは謙虚な人ということだった。これは彼と話さないと分からないことだったね。
* * *
そして次の日
今日も彼が来るのを楽しみにしていると、あれ?赤色が混じった茶髪ではなく金髪碧眼の男がやって来ました。新しい木こりかな、初めて見るかも、手には古びた斧、耳にはたくさんのピアスで見た目から軟派でチャラいな。でも、人は見かけによらずって言うから、しばらく観察してみよう。
ザッザッ
金髪碧眼の男は湖に近づくと、木を切らず、そのまま手に持っていた古びた斧を湖に投げ入れました。しかも、ドヤ顔で。
ポチャン、ブクブク
はい?一体、何が起こった。なぜこの人は木を切らずに古びた斧を湖に投げ入れる。一応、拾ってあげよう。それから、湖の上を見てみると金髪碧眼の男は地面に膝末いてわんわんと泣いていました。
「うっかり落としてしまった!あれが無いと仕事が出来ない!どうしよう、オレには妻と子供がいるのに借金だってあるのに!」
うっかりって何だよ。さっき絶対、意図的に落としたでしょ、それに嘘くさい芝居ときた。あっ、この人の目的分かったかも。もしかして、この人は金と銀の斧が狙いなんじゃないかな。だからわざと古びた斧を湖の中に落として猿芝居しているんだ。でも、なんで金と銀の斧の事を知っているんだろう。考えられる事は昨日の謙虚な彼が教えたとか?
「古い斧を落とせば金と銀の斧が貰えるぜ」
「まじか」
いや、違うな。あの真っ直ぐな目と謙虚な態度を見たらその考えはおかしいか。とりあえずここは、この人が立ち去るまで湖の中にいよう。
「斧さえあれば、仕事が出来るのに」
だの
「木を売らないと婆さんの治療代が払えない」
とか
「妻と子供に飯が」
猿芝居はまだまだ続きます。というかこの男には立ち去るという言葉は無いようですね。仕方が無い、出てやるか。
「おお!湖の精霊様」
「どうして泣いているのですか?」
「実は、この湖に斧を落としてしまい」
意図的だろ?
「あの斧が無いと仕事が出来ないのです」
そもそも、お前は仕事する気があるのか?
「そうですか」
「はい」
「では、あなたが落とした斧はこの古びた斧ですか?」
私は金髪碧眼の男が落とした斧を差し出しました。すると彼は、とんでもないとこを言ったのです。
「違います、オレが落としたのは金の斧で」
「ほーらね、やっぱりそう来たか!」
「は?」
私の考えは外れませんでした。案の定、この男は金と銀の斧が目当てだったらしい。
「あなた、最初から金と銀の斧目当てだったんでしょ?」
「違います」
「違くない!あの猿芝居も嘘くさいし、私知っているのよ、あの涙は目薬でしょ?そんな嘘つきには、金と銀の斧は渡さないからね」
「ちっ!」
図星のようだね。私の観察力舐めるなよ、この男は素早く目薬を差して泣いた振りしていたの、そこまでして金と銀の斧が欲しかったのかってツッコミたかったけど、その前にこの男の態度に腹が立ってツッコミどころじゃなかったんだ。
「精霊を甘く見るな」
「見てねーし」
「口悪っ!」
「それはお前もだろこのクソババァ」
「はぁ⁉︎」
「見た目は少女だけど何千年も生きてるんだろ?」
「ふん、精霊だからな」
「精霊とか、ただの湖から出られねぇ化け物じゃないか」
化け物、その言葉に何も言えなくなりました。
「シリルが言ってたとのは全く違う印象だな」
「シリル?」
「昨日、お前が金と銀の斧を渡した男だよ」
おぉ、何と言うことでしょうか、まさかこんな場面であの謙虚で優しい彼の名前を知るだなんで、知るなら直接彼の口から聞きたかったなぁ。
「昨日あいつが森から帰ったらさ手には金と銀の斧があってよ。それどこで貰ったのかって聞いてみたら」
あぁ、教えちゃったんだ。
「事細かく教えてくれたぜ。そして最後に、『可愛い湖の精霊が助けてくれたんだ』とか言ってよ。全くオレにはどこが可愛いんだがさっぱり分からん」
彼は悪気があってこの金髪碧眼男に教えたんじゃなかったんだ。良かった、やっぱり彼は良い人なんだ、それに可愛い湖の精霊ってちょと恥ずかしいな。
「精霊も神様も所詮、化け物だろ」
金と銀の斧を貰えなかった腹いせだろうか、さっきからやたら化け物という言葉を連呼して来ます。
「あいつはこんな化け物を可愛いとか言って、頭おかしくねぇか?」
「おい」
「なんだよ」
地を這うような低い声を出した私に金髪碧眼の男は一歩後ずさりします。
「私を化け物扱いするのはいい」
「ん?」
「でもな、彼をバカにするのは許せない!」
「は?ちょっ、なんだこれは」
私は精霊のチートスキルで湖の水を大きな波のように動かし金髪碧眼の男を村まで押し戻しました。きっと今頃、あの男は気絶しているでしょうね。
「ふん、あの男が悪いんだ。この私を怒らせた事に悔しろ。」
湖の水を大量に使ってしまったので、精霊のチートスキルで湖に水を戻しますが、どうやらさっきので力を大幅に使ったらしく湖には半分以下しか水が溜まりません。まぁ、2〜3日もすれば力は溜まるのでその時に湖の水を戻すか。
「でも、これは盛大にやらかしたな」
湖の淵でふわふわと浮いていると足音が聞こえました。なんだ、またあいつが来たのかと思って振り返るとそこには、昨日の謙虚で優しい彼、もといシリルが濡れた髪を掻きあげながらやって来ました。
「一体、どうしたの?」
「きゃっ」
おぉ、髪を掻きあげる姿もなかなか良いですな〜って変なことを思うな。
「えーと、これはですね。その…」
「うん」
「あの…」
私が話している間にもシリルは私との距離を詰めて行き、気付いた時には目の前にいて真っ直ぐに私を見ていました。うぅ、そんなに見ないでくれ、これじゃぁ、まともに話せないよ。
「ごめんなさい〜」
負けです。完全に私の負けです。何の勝ち負けか分かりませんが、とにかくこの場を離れたい。シリルと話すと上手く言葉が出てこなくて、変なことを言いそうになる。だから私は、半分以下しかない湖の水の中潜ろうとシリルから背を向けましたが、その前に右手を掴まれてしまいました。
「手、手がぁ」
1人パニック状態の私。だって、これまでの人生、人間に触れたことすらないんだよ。そりゃパニックの1つや2つなるもんでしょ?
「は、離して下さい」
「離さない」
手をぶんぶん縦に振ってもダメです。流石、木こりさん力強いですね。ではなくて、ただ単に私が非力なだけなのかな。
するる〜と私の体はシリルの掴む手によって引っ張られました。そして
「よしっ!」
「はわわわわ」
シリルの胸の中で捕まえられてしまいました。逃げようにも逃げられません、だって背中に手を回されて動こうにも動けないのですから。それに、私の真上にはシリルの顔があって、とても近い。
「今度は話してくれるかな?」
優しい声色で言われたら断れないじゃないですか!うぅ、なんだから涙が出てきた、何でだろう。あれ、止まらないや。
「ごめん!嫌だったかな」
泣いて言葉が出ない代わりに私は首を横に振ります。そのまま暫く、泣き止まなさそうなので、私はシリルの胸の中で泣いていました。なんだか安心するな。
* * *
涙が止まった頃、シリルはちょうど近場にあった大きな木の下に私を連れて行ってくれました。
「これ、どうぞ」
「ありがとうございます」
貸して貰ったハンカチでまだ少し残っている涙を拭きます。
「ハンカチまですいません」
「謝らなくていいよ」
シリルの言葉に頷くだけです。どうしよう会話が続かない。えーと、ここはとにかくなんでも良いから話してみよう。
「「あの」」
あっ、被った。
「お先にどうぞ」
「いえいえ、私の方は大した事では無いので」
そんなやりとりが暫く続き、長く話し合った後シリルから話すことになりました。まさか最後はじゃんけんで決めるとは思わなかった。
「えーと、泣いた後にこんな話をするのはどうかと思うけど良いかな?」
「はい」
「さっきは一体何があったの?」
「それは」
「言えなかったら言わな」
「お話いたします」
シリルが良い終わらないうちに答えを言いました。それから私は、先ほど起こった事件を事細かく言いましたよ。もちろん、私が怒って湖の水を大量に流したところと金髪碧眼の男との会話はお互いに口が悪かったのでオブラートに包んで話しましたけど。
「ごめん、オレがあいつに教えたせいで」
「違います!シリルは悪くありません」
「オレの名前知ってたんだ」
「あの金髪碧眼の男が言ってたから」
「そう言えば、君の名前は?」
「私の名前はエルシー。でも、村の人からは神様と呼ばれています」
「エルシーか」
シリルは私に微笑んでから湖の方を見ました。釣られて私も湖を見ます。ん?あれ、湖を見るとな。それから私は自分のいる場所を確認、なんと、地面に足が着いている。
「ええー!」
「どうしたの!?」
「私、湖の外に出られてる」
なぜ、どうして湖から出られたんだ。何かきっかけがあるはずだ。よく考えろ、確か私が湖から出られた時はシリルに手を引っ張ってもらって出たんだよね。それじゃぁ、湖から出られる方法って人間の手で引っ張ってもらえば良かったのかな。
「もしかして、今まで湖の外に出たことなかったの?」
「うん」
「それならさ」
シリルは私の手を取って言いました。
「オレと一緒に外の世界へ行ってみない?」
「行きたい!」
即答だよ。やったあ湖から出られたおかげでシリルと一緒に外の世界へ行けるんだ。
「オレの村も紹介するし、他の国も行こうよ」
「他の国?」
「船に乗って、ここじゃない遠い国に行くんだ」
「うわー」
楽しみです。きっと今の私は目がキラキラしているはずですよ。
「そしたら、そこで一緒に暮らそう」
「えっ」
これはつまり、その、告白というやつですか。
「君と話すと普段の自分を上手く出せなくて緊張してさ。今も胸の奥が熱いんだ」
「それ、私も同じです」
それからお互いに笑いあって、シリルに手を引かれながら村へと降りて行きました。
「あっ、私さっきの人流しちゃったけど、またどこかで会ったらどうしよう。やっぱり何か言われるかな」
「その時は、オレが君を守るよ」
「シリル、ありがとう」
私とシリルの笑い声は大きな森の響きました。
* * *
2人が村へ行った後、湖には水が満ちて森の動物や魚が住み始めました。そして、とある小鳥が森の神様に話しかけます。
「神様、湖の精霊はなぜ湖の外に出られたのですか?」
「それはだな、『愛の力』じゃよ。だか、湖の精霊は人間の手で引っ張ってもらったから出られたと勘違いしとるみたいじゃがな」
2人が森を出るまで森の神様は暖かく2人を見守っていました。
「これからの2人に幸あらんことをっ!」
素敵な童話パロ企画に参加させて頂き
ありがとうございました
そして
〜読んで下さりありがとうございます〜