第三話
7月14日。この日は、僕が通う高校の無駄に大きい体育館で体育祭が行われた。うちの体育館は三つある。一つは、バスケ部用の場所。二つは、バレー部用。三つは、大きい大会がある日、観戦できるようにと、作ったらしい。さすが私立校と、言いたいところだけど、流石に金かけすぎだろ。僕は、改めて思い、呆れるように凹む。
はぁ〜
「どうしたの?」
「………。」
「え、反抗期?」
僕は、なにも言わずただ黙っている。意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ。どうして僕が意味もなく反抗しないといけないんだ。僕の機嫌は、花咲君の一言で悪くなった。短気なのって治らないのかな?
「………。」
「ちょっ!シカトとかやめてよ!」
花咲君は、僕の方に両手を置いて軽く掴み、雑に揺さぶる。やめろ!目が回る!僕は、余計に機嫌を損ねた。ウザい…
「ねぇ、相手してよ。」
「は………///」
花咲君は突然抱きついて来た。僕は、無意識に顔を赤らめる。そして、顔だけではなく体まで暑くなる。
「な、にしてんだよ!は、離れろ!」
「いーやーだー…本当にミチルは可愛いなぁ。」
「なっ!」
僕は、恥ずかしさのあまり逃げるように視線をそらしてしまった。お、男同士なのにどうしてそんなこと普通に言えんのかな。恥ずかしくないのか?僕が、意識しすぎなだけなのか?僕は、自分の顔が見えないように真下に視線を落とす。なんだこれ。恥ずかしいって言うより…嬉しい?いやいやいや!相手男だぞ?!なのに何で?………これって、僕が花咲君のこと…好きってこと?僕の頭の中は花咲君でいっぱいだ。それは、彼に恋をしているって証拠になるのか。恋をしたことがない僕にはその事がよくわからなかった。そういえば、こいつなにしに来たんだ?
「お前。なにしに来たんだ?」
「あ!そうだった!この前、大事な試合があるって言ったじゃん?」
大事な試合…確かに言ってたな。いつかは忘れたけど。僕は、覚えてるとは言葉にすることはなく、代わりに小さく頷いた。
「ヘェ〜、覚えていてくれたんだ。みに来てくれなかったのに。」
花咲君はちょっと意地悪げにニヤついた顔でそう言った。あの時、僕は「試合みに来てよ」と言われたが、その日は部活があって見にいくことができなかった。その事は、花咲君には言っていない。何故か。そんなことを奴に言ってみろ。「部活と俺、どっちが大事なのお!」とか言って、絶対泣きついてくるに決まってる!花咲君は昔から面倒臭い性格だと分かっている。だから、甘やかす訳にはいかない。あの時、部活があってよかったと僕は思っている。彼をあんまり甘やかすと、すぐ調子に乗るからだ。それで、被害にあうのは勿論、僕だ。だから、花咲君に関することはほとんど、放置!するのが正しい。
だけど、流石に今回は見に行ってやるか。花咲君にはいろいろ助かってるし。僕は、無意識にグラウンドの方に向いていた視線を花咲君の方へ向け、次は、僕から話を始める。
「で?試合は近いのか?」
「なになに?見に来てくれんの?」
彼は、甘えたの子犬のようなキラキラさせた目をして僕を見る。ガキか。
「気が向いたらな。」
僕はそう答えた。ツンデレ…。
「ちぇー、じゃあ、来てくんないんだ。」
花咲君はブーブーとブーイングを僕にかけながら僕から視線をずらし、独り言を始める。ガキ…。
「なんだよ、人がせっかく見に行ってやろうってのに。」
「とか、行って来てくれたことないけどねえ。」
完全に不貞腐れている。まぁ、そうだけど。僕が、花咲君の試合を見に行かなかったのには理由がある。僕は小さなマウンドで活躍する花咲君を見るより、大きな舞台、そう。甲子園だ。そこで、花咲君のチームが買っているところを見たいからだ。ただ、それだけの理由。改めて思うと僕もガキだ。考え方が。これは、ちゃんと本に言うべきことだろうけど、僕は言わない。甘やかして試合を無駄にさせたくはないから…。そんなことを思っていると、
ピンポンパンポーン…
放送が流れた。
『学年リレーに出場する選手は集まってください。』
あ、行かないと。僕は座っていた椅子から腰を上げ入場門的なところへ向かおうとした。すると、花咲君に腕をひかれる。
「何?行かないと。」
「行ってらっしゃい。頑張ってね!」
花咲君はそれだけを言うと僕の腕を離した。その時、何故か少し寂しいような気がした…いや、まさか、な。そして、満面の笑みで何かを期待しているかのような顔で僕を見送った。何考えているのか全くわからん。油断大敵…だな。
僕は、走らず、歩いて集合場所へ向かった。
「よーし、みんな揃ったな?」
選手が揃っているか先生が確認し始める。確認を終えたら、「お前。お前はあそこのコーンの間を…」グラウンドの入り方を一番前の生徒に教える。別に入り方なんでどうでも良くないか?僕は、眉を寄せ不思議そうな顔をしてみせた。そして、また、放送が流れる。
『次は、学年リレーです。さぁ、選手が入場します。拍手で…』
其の後は勿論、「拍手でお迎えください」だ。別に拍手なんていらないだろ?其の前に、する意味がない。無駄に大量消費の元になるに過ぎない。僕は、そう心の中でつぶやきながら前について行く。
学年リレーが今始まった。おー、速いな。正直、私立校は勉強のためだけに生徒が集まっていると思っていた、けど。これは、意外だったな。うちの学校は、強豪校と言われるくらいの運動部はないから、甘く見てた。彼らが走っているのを眺めているうちに、次へ次へと選手がグラウンドの外側へ出て、走り去る。ちなみに僕は、アンカー。どこまでも運が向かない、僕。今日は、嫌な一日になりそうだ。
「おい!幸心!アンカー、アンカー!」
すると、僕に向かって叫ぶ声が聞こえる。え、もう出番来たの?周りを見渡すと、誰もいなく僕一人だけが残されただけ、だったらよかったんだけど。皆、アンカーは走り出していた。あー、もう無理だろ。僕はもう、この勝負を誰よりも諦めの心を顔に出していた。
「全力ではしれよ!恥欠かせんな!」
煩いなあ。分かったよ、全力で走ればいいんだろ?僕は、ちゃんとしたフォームを取らずに走ろうとした。同じクラスの岡田に笑顔で背中を叩かれて、僕はスタートを切った。なんだあの顔。期待してんのか?だったらやめろよ。この距離追いつくわけないだろ。と、心底うんざりしている僕に、岡田は
「お前ならできる!」
何を根拠に言っているのかはわからない。だけど、少し嬉しかった。まあ、ためしてみないとわかんない、よな?僕は、岡田の期待に答えようと全力で走った。
「おー!なんだあいつ!」
「足早!」
「あんなやついたのか?!」
結果、僕のクラスのD組の逆転勝利。なんか、気分いいな。スッキリした!その後も、D組の調子は何故かよく、上位ばかりに残り続けた。皆すごいなあ。楽しそ〜。僕の、その時の気分はサイコーだった。久しぶりに本気で走ったからなあ。疲れたけど、いいことした気分。
「おかえり。すごいねえ!一番じゃん!」
「どうでもいい。」
「また、そんなこと言って。…聞こえた?」
僕は一瞬、彼がなにを言いたいのかわからなかった。聞こえたって、あー。声援のことか?だったら聞こえてない。女も男もうるさいし、周りの音なんて聞こえやしない。そんな中でお前の声だけがちゃんと聞こえるなんて…怖すぎだろ。地獄耳だ、そいつ。僕は、「聞こえていません」と、掌を花咲君の方へ向けヒラヒラさせた。
「あ、そうだ。試合、いつ?」
「そう言うのはちゃんと聞いてくれてるんだね。えっとね…」
花咲君は、自分の話がしたくてしょうがないと、嬉しくてたまらないガキのような顔で話を進める。
花咲君の話によると、試合は明日。帰ったら天気予報、見るか。明日は、休日。僕はその日、特に用事はない。ただ、寝ているだけの一日にしようと思っていたほどだからな。別に試合観戦は嫌いじゃないし。それに、花咲君がでているんなら………って!なに考えてんだよ!なんかめちゃくちゃ嬉しそうってか、僕があいつのことす、好きみたいに………そんなことあるかー‼︎!むしろ、嫌いだ!あんな奴。その時、僕の心に何かが引っかかった。いやいや、気のせい気のせい。僕は気のせいだと言うことにし、花咲君のことを考えるのをやめようと思った。
「……………………。」
「…チル、…………る……ミチル?
…………………寝ちゃたか。」