第5話 沙耶の新生活
結局、沙耶が銀河と話せたのは帰りの電車の中だった。
学校にいる間は、銀河は男子生徒の輪の中で色々質問等されてたし、沙耶は愛花の質問攻めから逃れるので精一杯だったからだ。
愛花は自分の恋愛には興味無いのに、他人の恋愛話になると途端に目を輝かせるのだ。
だから、自分の幼馴染であり、今や学園のアイドル(沙耶は否定しているが)的存在な沙耶の恋愛話なんて最高だったらしい。
「クラスの人たち、個性豊かな人多いね。」
最初に口を開いたのは銀河だった。
「銀河君、言葉選ぶの上手いね。おそらくあいつらをそこまで美化して言えるの君くらいだと思うよ。」
「ははは・・・」
銀河はそれから色々なことを話した。
銀河が転校前にいた学校のこと。
銀河は前の学校ではほとんど友達を作れなかったこと。
そして、今一人暮らしをしていること。
家事とか大丈夫なのかと尋ねたらメイドさんがすべてやってくれているとのこと。
メイドさんって本当にいたんだ・・・
沙耶は、銀河が話しているのを聞いているだけだったが、とても楽しいかった。
別に特別に面白い話をしているわけではないんだけど、何故か楽しいのだ。
こうしているうちにいつの間にか駅に到着していた。
「じゃあ、銀河君これからよろしくね。」
「うん、こちらこそよろしく。じゃ。」
と言って電車から降りた。二人とも・・・
「って、銀河君ここの駅だったんだ!?」
「沙耶さんこそ!へえ、すごい偶然だね。」
二人で感嘆の声を上げていると後ろから冷やかな声が飛んできた。
「というかそうじゃなかったら夏祭りで一緒になることないと思うけど。」
「あー、そっか〜、なるほどね。って愛花!?」
そう、それは今日部活動で遅くなるはずの愛花だった。
「話は全て聞かしてもらったわ。ついでに録音もね。」
口をパクパクさせている沙耶をよそに、愛花は銀河に声をかけた。
「私は、沙耶の幼馴染の橘愛花。あなたが転校生の空風君ね。沙耶と同じように銀河君って呼んでいいかしら?」
「うん、構わないけど・・・」
愛花はそう言いながら銀河の顔をジッと観察している。
そして、結論を出した。
「ブサイク・・・」
「初対面にいきなりそれ!?」
「まあ、それは冗談。でもそんな特別に格好いいってわけでもないし、変ったところも無い、平凡な顔ね。そんな男になんで沙耶が・・・」
「あの、声小さくてよく聞こえないんだけど・・・・」
「気にしないで、独り言。」
愛花はしばらくブツブツ言っていたが、やがて笑顔でこう言った。
「まあ、何はともあれ沙耶のことをよろしく。」
「はい?」
「あの子、すごい奥手だから、お付き合いとかは慎重に・・・ムガッ」
放心状態だった沙耶は我にかえって愛花の口をふさいだ。
「ごめんね、銀河君。今の話全て忘れてくれる?」
「え?でも・・・」
「忘れてくれる?」
「はい・・・」
沙耶のただならぬオーラを感じ取って、銀河は口をつぐんだ。
「じゃあ、帰ろう。これ以上変なこと言わないでね、愛花。」
「は〜い」
笑顔で答える愛花。
こうして結局、3人で帰ることになった。
時々愛花が変なことを言おうとするのを止めながら、ダラダラと話しながら歩いていたら、早くも沙耶の家の前に着いた。
「へぇ、ここが沙耶さんの家なんだ・・・」
銀河は感心したような口調で言った。
「別に普通の家でしょ?じゃあ、今度こそじゃあね、銀河君。」
沙耶が手を振りながら言った。
「じゃあね、銀河君。明日沙耶のいないところでじっくりと話でも、って痛い!痛いよ、沙耶!!」
愛花が沙耶の振っていないほうの手で腰をつねられて苦痛の表情で言った。
「うん、これからよろしくね、二人とも。」
笑いながら言う銀河。
こうして、3人は別れる・・・はずだった。
「って、銀河君の家そこなの!?」
沙耶が自分の家の真正面の家を指しながら叫んだ。
「うん、そうだよ。だから、「これからよろしく」って言ったんだけど・・・」
銀河が笑いを押し殺したような顔で言った。
「だって祭りのときは違う方向帰ったじゃん!」
「祭りのときはついでにどこかで食べてこうと思って・・・」
「まあまあ、沙耶落ち着きなさい。良かったじゃない、愛しの銀河君と隣同士、って痛い!」
今度は首をつねられた愛花が痛がりながら言った。
はあ、これからどういう生活になるんだろう、沙耶はそう思いながらひたすら愛花の首をつねっていた。
こうして沙耶の新たな生活が始まろうとしていた。