第3話 少年と祭り
沙耶はかなり混乱した。
何でこんな状況になってるんだろう。
あ、そういえば車に撥ねられそうになったっけ。
何で助かってるんだろう?
色々思考した挙句、ようやく自分がその少年に助けられたという事実に気が付き、慌ててお礼を言おうとしたときにはすでに遅く、少年が口を開いていた。
「大丈夫ですか?どこか怪我とかはありませんか?」
「えーと、とりあえず大丈夫みたいです。助けていただきありがとうございます。どうお礼をしたらいいのやら・・・」
「いや、お礼とかはいいですよ。車に撥ねられそうになった人見たら普通助けるでしょ?だから君が無事ならそれでいいんです。」
「でも、命を助けてもらったんだし何かお礼はしないと・・・私ができることなら何でもしますので。」
「別にいいんですけど・・・あ、そうだ!」
「何でしょう?」
「一緒に花火大会見に行きませんか?」
「え?」
「花火大会。俺行こうと思ってたんだけど、まだこっち引っ越してきたばっかだからまだ友人がいないです。もしあなたが良ければ、でいいんですけど。」
少年の突然の提案。
そこで、沙耶は相手に気づかれない程度に少年の手に触れてみた。
一応好きな相手は誰もいないことは判明。
本当だったら避けたい相手なのだがこの状況でそうも言ってられない。
「わかりました。では、一緒に見に行きましょう。」
「良かった。一人で見る花火大会ほどつまんないものは無いんですよね〜。あ、軽く自己紹介しとくと、僕の名前は空風銀河で、歳は16です。」
「私は水月沙耶。歳は16。って同い年だったの!?」
「俺も驚きです。てっきりそちらが年上かと。」
「え〜、絶対君の方が年上だと思ってた。」
お互い笑いあいながら祭りの方へと向かっていった。
花火大会は今までで1番楽しかった。
雄二や愛花と行った時とはまた違う楽しさだった。
そもそも男性と二人きりで行ったこと自体初めてではないだろうか?
しかも銀河には好きな人がいない。
ということは自分のことを好きになるかもしれない。
でも、今はそんなことはどうでも良いくらい楽しかった。
花火を見て、お互い感想とか言い合って、笑いあう。
それだけのことなのだが、沙耶にはとても楽しく感じられた。
花火大会が終わった後は二人で出店を回った。
花火大会だけの約束だったことはとっくに忘れていた。
結局祭りが終わるまでずっと銀河と一緒にいた。
楽しいことをやっていると時間は早く感じられるものである。
沙耶はこの祭りでそのことを実感した。
もう少し祭りが長ければいいのに、と思ったのは初めてだった。
そして銀河との別れの時もあっという間にやってきた。
「いやぁ〜、今日は本当に楽しかったよ。ありがとね、付き合ってくれて。沙耶さん。」
「いや、こっちこそすごく楽しかった。今までで一番楽しかったかも。」
「沙耶さんに楽しんでもらえてよかったよ。じゃあ、また明日〜〜」
「うん、サヨナラ〜〜」
え?また明日?
家に帰って気がついた。
明日会えるわけないじゃん、と。
なんで「また明日」なんだろう?
次の日、その答えがわかった。
彼、空風銀河はうちの学校に転校してきた。
しかも、同じクラスに。