第29話 海水浴2日目 Part5
宿に帰ると、すでに夕食の支度ができていた。
夕食は鍋のようだった。
いや、たぶん鍋なのだろう。
ただ、スケールが通常と違うのでぱっと見ただけでは分からなかった。
例えて言うなら、バケツという言葉が相応しいだろう。
こんな大きさの鍋を見たのは生まれて初めてだった。
「お代わりの準備も整っております故、もし量が少ない場合はお呼びください。」
そう言って、ホテルの管理人らしき人は隣の部屋へ戻って行った。
「いや、お代わりってなぁ・・・。」
銀河が呟く。
「お代わりっていうかお変わり者だよ、それじゃ。」
「雄二君、つまらない・・・。」
雄二も愛花も呆れた顔で鍋を見ている。
やはり考えることは皆同じのようだ。
「とりあえず食べてみようよ。もしかしたら意外に入るかもしれないし。」
提案してみたものの、沙耶も5人でこの量を食べ切れる自信は無かった。
30分後。
予測に反し、鍋の中身は空になっていた。
「意外に食えちゃうもんなんだな〜。」
寝そべりながら苦しそうに言う雄二。
「ほんと、よく食べれたよね。」
「雄二がすごい勢いで食べてたからね。でも、もうこれ以上は入らないけど。」
そう言いながら寝転がる沙耶と銀河。
「食べ過ぎた時は右側を下にして寝るといいらしいですよ。」
そう言いながら右を下にして寝転がる葵。
「帰ったら少しダイエットが必要ね。これで絶対体重増えた。」
一人体重のことを懸念しながら、ちゃっかり右を下にして寝る愛花。
しばらくの間5人は動けずに鍋を囲んで転がっていた。
「これからどうする?またトランプか?」
相変わらず苦しさのとれない雄二が訊く。
「あ、それならもう考えてあるよ。」
そう言いながら銀河が鞄から何かを取り出した。
それは、花火だった。
「何かここに来る前の夜に、偶然部屋片付けてたら見つけてね。勿体ないから、と思って。」
銀河が説明する。
「いいね。やろうよ。」
「いいんじゃない?連続でトランプじゃ飽きちゃうし。」
「俺はトランプでも良かったんだが・・・まあ、こっちも面白そうだしいいか。」
「良いと思います。」
4人とも口をそろえて賛成の言葉を言った。
「それじゃ、今日の11時あたりにロビーで集合ね。」
そう言って5人が立ち上がろうとしたとき、部屋のドアが開いた。
開けたのはホテルの管理人だった。
「お客さま方、お粥の準備ができました。鍋に入れて5分ほど待てば出来上がります。熱いのでお気をつけて召し上がってください。」
そう言ってバケツのような容器を置いてまた部屋を出て行った。
その容器には・・・ぎっしりと白米が詰まっていた。
5人はただただ顔を見合わせるばかりだった。